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エンタープライズの未来はプライベートにある――、VMware、買収後初のカンファレンスで「VMware Cloud Foundation 9」を発表
2024年8月29日 11:44
VMwareは8月27日(米国時間)、Broadcomによる買収完了後の初の年次プライベートカンファレンスとなる「VMware Explore 2024 Las Vegas」(8月26日~29日)において、次世代プライベートクラウドプラットフォーム「VMware Cloud Foundation(VCF) 9」などの発表を行った。
27日の基調講演に登壇したBroadcomのホック・タン(Hock Tan) CEOは「企業の未来はプライベートにある。プライベートクラウド、そしてプライベートデータを利用するプライベートAIだ」と明言、プライベートクラウドプラットフォームとしての優位性を強く内外にアピールしている。
基調講演の時間の多くは、VMwareの新たな主力製品となったVCF 9の説明に費やされた。Broadcomは、2023年11月にVMwareの買収を完了させた後、翌12月に製品ポートフォリオの統廃合とライセンスの大幅改訂(永久ライセンスの終了含む)を行っている。
中でも主力製品のVCFに関しては、vSphere/vSAN/NSX/Ariaという4つのユニットのもとで160以上展開されていたプロダクトやエディションを、エンタープライズ向けの「VMware Cloud Foundation」と中堅/中小向けの「VMware vSphere Foundation」の2つに集約し、vSphereやvCenterなど主要なコンポーネントを統合したプライベートクラウドプラットフォームをサブスクリプション契約で提供するスタイルに変わっている(ファイアウォールやディザスタリカバリ機能などはアドオンとして提供)。
この変更は結果として、多くの顧客やパートナーに対して混乱をもたらすことになったが、今回のカンファレンスではVCF 9のリリースを通して、単一プラットフォームとしてのVCFの価値、およびプライベートクラウド/オンプレミスを前面に出したBroadcom/VMwareの新たな方針を、あらためて顧客/パートナーに伝えようとしている姿勢がうかがえる。
現在のVCFは「インフラのモダナイズ」「統合されたクラウドエクスペリエンス」「セキュリティとレジリエンス」という3つのテーマに沿った進化がコミットされているが、今回発表されたVCF 9でもっとも象徴的な変更点は、10個以上あった管理インターフェイスが単一コンソール(運用と自動化の2つのコンソール)に統合され、これらの2つのコンソール間の移動が容易になったことだろう。
買収前のVMwareでは、VCFを構成する各コンポーネント(vSphereやvSANなど)の存在感が強く、それゆえにシングルサインオン(SSO)のない状態が長く続いており、コンポーネント間の“統合”は重視されていなかった。BroadcomのVCF部門で製品担当バイスプレジデントを務めるポール・ターナー(Paul Turner)氏は基調講演で「我々の製品はこれまで、それぞれが独立した製品ライフサイクルを展開してきており、統合されたプラットフォームとしてうまく連携できていたとはいえない部分があった。それが結果的に企業内でサイロを生み出す要因となり、イノベーションの遅れにつながっていたかもしれない」と語っており、これらの課題をVCF 9で大きく解決できると強調する。
VCF 9における、そのほかの主な変更点は以下の通り。
・VCF Importの拡張 … NSX、vDefend、Aviロードバランサーなどを既存のVCF環境にインポート
・NVMeによる高度なメモリ階層化 … AI/データベース/リアルタイム分析などデータ集約型アプリケーションのニーズに適した調整、メモリ効率の向上
・VCFマルチテナント機能の統合 … 「VMware Cloud Director」派生のツールを統合、特定の要件にもとづいてインフラをセグメント化
・ネイティブVPC(仮想プライベートクラウド)の提供
・VMware Private AI Foundation with NVIDIAのアドオン提供
・VCFフリート全体のセキュリティ統合管理
・vSANリモートスナップショットレプリケーション
・vDefendの機能拡張による高度なサイバー攻撃対策と生成AIを利用したアシスト機能「Project Cypress」
また、VCFベースのプライベートクラウドを強化するツールやサービスを網羅した「VMware Cloud Foundation Advanced Services」も同時にリリースしており、パブリッククラウドで得られるような豊富なサービスカタログとそこから得られるエクスペリエンスをプライベートクラウドでも提供していくとしている。
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本カンファレンスではVCF 9のほかにも、クラウドネイティブアプリケーションプラットフォーム「VMware Tanzu Platform 10」のリリース、1年前に発表した「VMware Private AI」のアップデート、エッジコンピューティングの取り組み強化などを発表している。これらのサービスもすべてVCFをベースとしており、まさにVMwareのポートフォリオは「はじめにVCFありき」な製品群として再構築された感がある。
タンCEOは基調講演で「10年前、多くの企業のCEOたちがパブリッククラウドに夢中になり、ITチームにその採用を指示した。結果、パブリッククラウドによるコスト(Cost)、複雑性(Complexity)、コンプライアンス(Compliance)の3つのCがIT部門にトラウマを誘発させるほどのPTSDをもたらした」という強い言葉で、パブリッククラウドの負の側面を指摘する。
そしてその課題を解決できるのがオンプレミス/プライベートクラウドであり、プライベートクラウドを実現するソリューションとしてもっとも信頼されているプラットフォームが、VCFだとしている。今回リリースされたVCF 9はコンポーネントの統合を進めたことで「パブリッククラウドよりも低コストで、安全、さらにレジリエンスを備えたプラットフォームとなる」(タンCEO)とされているが、そのフレーズが正しかったかどうかの答えが出るのは、VCFが提供される来年以降となる。
買収前のVMwareとはまったく異なる、オンプレ回帰とも受け取れる“プライベート”へのフォーカスを宣言したBroadcom/VMwareだが、一方でパーペチュアルライセンスの終了やポートフォリオの集約(スタンドアロン製品の提供終了)といった変更についていけず、VMwareから離れた顧客、あるいは離れようとしている顧客も存在する。また買収後には、すでにグローバルで数千人を超える従業員が同社を離れたともいわれている。これらの“痛み”をともなって進めようとしている同社の変革が1年後にどのような成果を出しているのか、引き続き注目していきたい。