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コンポーネントはもう売らない――、Broadcom、モダンプライベートクラウド基盤の新版「VMware Cloud Foundation 9.0」をリリース

 ヴイエムウェア株式会社は6月20日、親会社である米Broadcomが6月17日付けで一般提供を開始したプライベートクラウドプラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0(以下、VCF 9)」を国内市場に向けてローンチした。

6月17日付けでグローバルで一般提供開始となったモダンプライベートクラウドプラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0」

 発表を行ったヴイエムウェア カントリーマネージャ 山内光氏は「VCF 9はクラウドと従来のデータセンターというそれぞれの環境の長所を兼ね備えたプロダクト。エンタープライズITにおけるさまざまなニーズを分析し、ITインフラをいまの時代にあわせて再定義した。国内の顧客やパートナーにも受け入れてもらえるモダンプライベートクラウドプラットフォームだと感じている」と語る。

ITインフラを“再定義”して誕生したモダンプライベートクラウドは「パブリッククラウドとデータセンターのそれぞれの長所をあわせもつ」(山内氏)
ヴイエムウェア カントリーマネージャ 山内光氏

 VCF 9は、2024年8月に米ラスベガスで開催された年次カンファレンス「VMware Explore 2024」で発表されたプライベートクラウド向けのプラットフォームであり、BroadcomによるVMware買収後初となるフラグシップ製品だ。

 周知の通り、Broadcomは2023年11月にVMwareの買収を完了して以来、VMware製品のライセンス体系を大幅に変更し、エンタープライズの顧客は事実上、vSphereやvSAN、NSX、vCenterなどがすべて統合されたVCFを選択することを迫られた。

 そして今回、一般提供が開始されたVCF 9は「もうVMware製品をコンポーネントで売ることはない」(Broadcom VCF部門 製品担当バイスプレジデント ポール・ターナー(Paul Turner)氏)というBroadcomの強いメッセージを、あらためて市場に向けて発したリリースであり、今後のエンタープライズIT市場におけるBroadcom/VMwareの大勢を占ううえでも最大の鍵となる製品であることは間違いない。

 説明会に米国からオンラインで登壇したターナー氏はVCF 9の特徴として以下を挙げている。

VCF 9の5つの特徴

単一のインターフェイスによるプライベートクラウドの運用

「VCF Operations」コンソールでクラウド管理者の環境を一元化

単一のインターフェイスによるパブリッククラウドの利用

「VCF Automation」コンソールでパブリッククラウドの利用環境を統合

仮想マシン(VM)とコンテナ/Kubernetesを同一プラットフォームでネイティブ実行

単一のプラットフォームでレガシーアプリにもAIにも例外なく対応

主権と安全性を備えたプラットフォーム

レジリエンスとガバナンス/コンプライアンスを同時に実現し、SecOpsダッシュボードでセキュリティを管理

プライベートクラウドのコスト管理の透明化

リソース使用率や消費量を可視化し、「What-if」モデルを通してコスト最適化を実現、マルチテナント環境全体のコスト配分も

VCF 9はITコストの透明化/最適化にもフォーカスしており、リソース使用率の可視化やキャパシティ管理、マルチテナント環境のコスト配分など細やかなコスト管理が可能。What-ifモデルを採用し、ワークロード配置に関連したコストの推奨値をもとにリソースの最適化を実現する

 また、VCF 9を前提としたアドバンスドサービス(Advanced Services for VCF)に含まれる主なソリューションとして以下が提供される。

VMware Private AI Foundation with NVIDIA

NVIDIA GPUを実装したハードウェア上で稼働するエアギャップ対応のプライベートクラウド向けAIプラットフォーム

VMware Live Recovery

vSANストレージクラスタを活用し、オンプレミスのVCF上に隔離したクリーンルーム(IRE:Isolated Recovery Environment)にサイバーリカバリ/ディザスタリカバリ機能を拡張

VMware vDefend

VCF環境全体に脅威検出機能とその対応を組み込み、VCF全体でゼロトラストを実施

 VCF 9の説明でターナー氏がもっとも強調していたのが、単一のインターフェイス(VCF Operations)でIT環境全体をコントロールできるという点だ。ターナー氏は2024年のVMware Exploreで「これまでのVMware製品はコンポーネント間の連携が必要であり、結果としてそれがIT環境のサイロ化やコスト増を助長していた」とVCFとして統合することの意義を語っていたが、VCF 9のリリースはプライベートクラウド基盤としてVMwareが抱えていた弱点をカバーし、単一インターフェイスでもってレガシーとモダン、オンプレミスとクラウドのシームレスでセキュアな共存を実現したことをあらためて強調している。

VCF 9の最大のポイントは「単一のインターフェイス(one interface)」だとターナー氏。新しいVCF Operationsコンソールがプライベートクラウド環境を一元的に管理する

 「VCFとして統合されたことで、セキュリティ、プライバシー/コンプライアンス、ソブリンティ(主権)、TCO削減、レガシー/モダンアプリの開発、コスト透明化などすべてを単一のインターフェイスでコントロール可能になり、IT環境のサイロ化の回避を実現できるようになった。これまでVMwareは“仮想化サーバー”環境を提供する製品だといわれることが多かったが、我々が提供するのは“仮想化されたIT環境(virtualized IT environmnet)”だ。コンポーネントではもう売らない」(ターナー氏)。

 なお、ターナー氏はVCF 9によりエンタープライズにおけるイノベーションと効率性が大幅に向上した実例としてBroadcom自身の事例(Broadcom runs on Broadcom) を紹介、「セルフサービスプロビジョニングによるアプリケーションデリバリの高速化(週単位→分単位)」「41カ所あったデータセンターを7カ所に統合(89%削減)」「開発/テスト環境の設定時間が90%以上短縮」といった効果を挙げている。

VCF 9をコアプラットフォームに採用することで得られるイノベーションと効率性。ターナー氏はメモリ/サーバーやストレージのTCO低減率を強調している
Broadcomの自社基盤としてVCF 9を採用した導入効果

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 「(VCF 9の一般提供開始で)ようやく我々が作りたかったもの、提供したかったものを出せたという気がする。Broadcom/VMwareとしてやっと新しいスタートが切れたと実感している」――。ヴイエムウェア 執行役員 パートナー技術本部 本部長 名倉丈雄氏は、説明会の最後でこうコメントしている。

ヴイエムウェア 執行役員 パートナー技術本部 本部長 名倉丈雄氏

 BroadcomによるVMware買収と、その後のライセンス体系の変更に伴う価格の値上げは日本を含めた世界中のVMwareの顧客/パートナーに混乱をもたらした。なかにはすでにVMwareからパブリッククラウドや競合他社のインフラに移行した大規模ユーザーも少なくない。

 2年近くに及んだ混乱の間、日本法人のヴイエムウェアがパブリックな場で状況を説明できる機会はごく限られており、今回のVCF 9のリリースで「やっと新しいスタートが切れた」という名倉氏の言葉には、Broadcomの傘下としてVMware製品を提供していく体制が約2年越しで国内でも整ったことをあらわしている。

 「VCF 9のリリースを受けて、国内でもすでに多くの顧客から問い合わせをいただいている。もちろん、どの段階でモダンプライベートクラウドに移行するのかについては顧客自身が判断することだが、我々のコンセプトに共感してくれている顧客は多い。ITインフラのあり方はグローバルで変わり始めており、そのニーズをとらえながらITインフラの再定義を図ったのがVCF 9だ。統合されたプラットフォームだからこそ得られるメリットをVCF 9で実感してもらいたい」(山内氏)。

 ヴイエムウェアは今後、製造、金融、通信、公共といった分野を中心に国内市場におけるVCF 9の導入を進めていく方針で、10月29日には2年ぶりに東京で「VMware Explore on Tour」も開催する。”新生VMware”を象徴するVCF 9を日本のユーザー企業がどう受けとめていくのか、今後の動向が注目される。

日本企業のVCF導入事例。今後は新しくなったモダンプライベートクラウドプラットフォームとしてのVCF 9のメリットを継続的に顧客に伝えていく