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Google Cloud Next Tokyo '24 基調講演で紹介された事例を一挙に紹介 LINEヤフー、星野リゾート、トヨタなど

 Google Cloudは、日本での年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」を8月1日~2日に神奈川県のパシフィコ横浜ノースで開催した。

 2日間それぞれで行われた基調講演では、Google Cloudの利用企業が登壇し、自社の取り組みを紹介した。ここではその内容をレポートする。

Google Cloud Next Tokyo '24

LINEヤフー:Vertex AIとGeminiで自社サービス生成AIを導入

 LINEヤフー株式会社の宮澤弦氏(上級執行役員 生成AI統括本部長)は、業務効率化から自社サービスでの生成AIの活用について紹介した。

 LINEヤフーでは、2023年から合計で24件、自社サービスに生成AI機能を導入しているという。

 そのときに問題となるのが情報の正確性だ。そのために、Google Cloudのテクノロジーを活用してると宮澤弦氏は語った。例えば、当初はRAG(検索拡張生成AI。検索と生成AIを組み合わせる手法)を自社開発していたが、Vertex AI Agent Builder Searchを利用して迅速かつ高度なハルシネーションの課題を解決しようと考えたという。

 具体的なユースケースとして、まずコマース領域では「Yahoo!フリマ」において、Vertex AI Gemini APIを用いて、出品時の商品説明文の自動生成を開発した。6月に利用検証を実施した結果、従来利用していた言語モデルより文章生成速度が平均20秒から4秒に高速化し、出品完了率が3%向上したという。

 また、検索領域では、Vertex AIとGeminiを利用して、ハルシネーションの少ない回答を提供することに取り組んでいる。

 社内業務サポートの領域では、Vertex AI Agent Builderによるチャット型応答システムの開発を進めており、サポート業務での利用も検討しているという。

 宮澤氏は生成AIによって「より快適なユーザー体験を作りたい」と語った。将来については、コマースでは出品時の利便性をより強化することやトラベルやショッピングでチャット形式の購買体験を提供することを予定していると説明した。

LINEヤフー株式会社の宮澤弦氏(上級執行役員 生成AI統括本部長)
LINEヤフーでは、2023年から合計で24件、自社サービスに生成AI機能を導入
「Yahoo!フリマ」で出品時の商品説明文を自動生成
従来より文章生成速度が5倍になり出品完了率が3%向上
検索でもVertex AIとGeminiを利用
社内業務サポートでもチャット型応答システムを開発

星野リゾート:生成AIを積極利用する4つの理由

 星野リゾート 代表の星野佳路氏は、Gemini in Google Workspaceを早くから導入した企業として紹介されて登場した。

 星野氏は、これまでの観光産業の3つの変化として、団体旅行から個人旅行滞在型への変化、インバウンド、情報収集や予約などがすべてスマートフォン上でできるようになったことを挙げた。そして、生成AI導入が4つ目の変化になると思っていると述べた。

 そして「星野リゾートが経営者はよくかっていないのに生成AIを積極利用する4つの理由」と題して、業務での生成AIの可能性について語った。

 1つめは「言語対応」。これまでWebサイトは日本語を含めて5言語で展開しているが、Googleの機能によって69言語に対応し、全世界の人に対応できるようになるだろうとする。

 2つめは「正確性」。ここにスタッフが相当な時間を費やしており、生成AIを入れることでプラスになると思っているという。

 3つめは「固定観念から脱却」。大きな意思決定では市場調査を入れるが小さな意思決定では自分の感覚に頼ることになり、そこがボトルネックになると星野氏は思っていると述べた。例えば、60歳以上はあまりスマートフォンやWebを使ってないんじゃないかと考えがちだが、実は25%が星野リゾートのサイトで情報を得ており、InstagramやYouTube中心の20代より多かったという例を氏は挙げ、そこに生成AIに期待していると語った。

 4つめは「創造性の刺激」。ブレインストーミングを生成AIによって効率化につながると思っていると氏は語った。

 一方で、生成AIで削減された時間で人間のやることとして、各言語対応はAIにまかせられることから「国語の表現力」や、自分のオリジナリティーを出すための「発想をひねる」こと、AIが出す選択肢から何をとるかという「選択肢を外す」、ブランディングだる「個性の表現」の4つを挙げた。

 そして、これまでは、生成AIに期待するようなことを社員が、人間だけがやるべきことを経営者が担当していたが、生成AIによって社員一人一人が経営の仕事をできるようになると指摘。「それによって私がもっとスキーに行けるようになる、というのが生成AIをパートナーにする最も大事な理由」とジョークで締めくくった。

星野リゾート 代表の星野佳路氏
「星野リゾートが経営者はよくかっていないのに生成AIを積極利用する4つの理由」
生成AIに期待すること4つと、人間がやること4つ

JR東日本:Geminiを取り入れた訪日外国人向け旅行計画支援サービス「JR East Travel Concierge」

 東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の伊勢勝巳氏(代表取締役副社長 イノベーション戦略本部長 CTO・CDO・CIO)は、GoogleおよびGoogle Cloudの支援のもとで開発した訪日外国人向け旅行計画支援サービス「JR East Travel Concierge」について紹介した。

 JR東日本では、グループビジョン「変革2027」の一環としてDX組織「DICe(Digital & Dataイノベーションセンター)」を設立した。「JR East Travel Concierge」は、このDICeとGoogle、Google Cloudの協力で開発されたものだ。

 伊勢氏は、日本へのインバウンド旅行者が計画時に直面する課題として、言葉の壁、文化の違い、地方の情報不足の3つを指摘。そのため、旅行者が大都市周辺に集中しやすくなっているという。

 そこで「JR East Travel Concierge」では、Gemini 1.5 Proを活用し、多言語での「情報提供機能」、興味に合わせた「スポット提案機能」、パーソナライズされた「旅程生成機能」を提供する。生成AIとのチャット形式の対話からそのコンテキストをくみ取り、ニーズに即した旅行を提案するものだ。7月29日より実証実験を開始した。

 伊勢氏は、「JR East Travel Concierge」により、日本での旅行体験の幅を広げ、旅行者に安心を届け、地方の魅力を発見してもらえるようになると語った。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の伊勢勝巳氏(代表取締役副社長 イノベーション戦略本部長 CTO・CDO・CIO)
GoogleおよびGoogle Cloudの支援のもとで開発した訪日外国人向け旅行計画支援サービス「JR East Travel Concierge」
情報提供機能
スポット提案機能
旅程生成機能
7月29日より実証実験を開始

日本テレビ:GeminiやGoogle Cloudを使ってコンテクスチュアル広告のためのコンテンツ分析とAIエージェントを開発

 日本テレビ放送網株式会社の辻理奈氏(DX推進局 データ戦略部 主任)は、コンテンツ(動画)の内容に則した広告を配信するコンテクスチュアル広告を、GeminiなどGoogle Cloudの技術を使って強化した事例を紹介した。

 新しく開発したシステムでは、Google Cloud Storageにある動画からGeminiによって物体や音声、シーンを抽出する。さらに、Geminiを使ってカテゴリ分類を行う。アウトプットとしては、広告配信に使うほか、Vertex AI Agent Builderで作成した対話チャットを用意している。

 技術的なポイントとしては、まずキーワード抽出の部分を辻氏は説明した。Langchain on Vertex AIによってタスク全体をマネージドサービスで実装してAPI化した。また、Geminiによって人物や服装など6回の抽出を行うため、コンテキストキャッシングによって精度とコストとを最適化した。

 続いて、対話チャットの部分も辻氏は説明した。対話形式によりBigQueryからデータを取得できるもので、GeminiからAPIを呼び出すFunction Callingなどの機能を使っている。

 辻氏は、Agent Builderでエージェントを作成し試すところや、実際にGoogleチャットからエージェントに問い合わせるところをデモ動画で見せた。

 氏は、開発をとおして感じたGoogle Cloudのメリットとして、開発スピードの向上や、一般にトレードオフとなりがちなコストとクオリティの担保、選択肢の豊富さを挙げた。そして、生成AIはPoCから実用化のフェーズになってきており、そこに追従していくための力がGoogle Cloudにはあると語った。

日本テレビ放送網株式会社の辻理奈氏(DX推進局 データ戦略部 主任)
コンテクスチュアル広告をGeminiなどを使って強化
システム構成
キーワード抽出の部分
対話チャットの部分
デモ:Agent Builderでエージェントをテスト
デモ:PythonからAPIを呼び出す
デモ:Googleチャットでエージェントに問い合わせる。問い合わせ結果にはLookerへのリンクも

ヤマト運輸:運送業のオペレーション最適化を、Googleとのアジャイル開発で開発

 ヤマト運輸株式会社の秦野芳宏氏(執行役員 輸配送オペレーション システム統括)は、物流のデジタルによる変革について紹介した。

 物流業界では、ECの成長にともない、大都市と地方との往復のバランスやピーク時刻などの変化が起きている。また、労働力人口の減少などの社会課題にも直面しているという。

 これに対応するために、ヤマト運輸ではデジタル技術を活用したオペレーションの改革を推進していると秦野氏は説明し、「圧倒的なデータ量とAI技術を誇るGoogle Cloudが、われわれが課題を解決するうえで最適なパートナー」と語った。

 採用技術の例としては、フロントエンドではGoogle Map PlatformやGoogle Cloudを採用して効率的な物流システムを構築。バックエンドではAlloyDBを採用して、将来的なデータ量の増加にも対応できる体制を整えているという。

 これにより、日々の荷物量の変動に合わせて担当エリアの割り当てや配送ルートを最適化する仕組みを導入した。加えて、ドライバーの知見をこのシステムに取り込むことで、よりきめ細かなサービスを実現しているとのことだった。

 成果としては、仕事を平準化するとともに、1人あたりの配送可能量も10%増える可能性が見えてきたという。

 これらは「オペレーションの輪郭が明確だったことから、アジャイルで開発している」と秦野氏。Google Cloudのアメリカ、フランス、シンガポール、東京のメンバーがワンメンバーになり、数週間~1カ月の短いサイクルでリリースを続けているという。さらに、最前線で働くドライバーもプロジェクトメンバーとして参画し、Google Cloudのメンバーも来日して現場を見て同じ感度で推進できていると思う、と秦野氏は語った。

ヤマト運輸株式会社の秦野芳宏氏(執行役員 輸配送オペレーション システム統括)
物流業界の変化
Google Map PlatformやGoogle Cloudを採用して効率的な物流システムを構築
AlloyDBを採用して、将来的なデータ量の増加にも対応できる体制を整える
日々の荷物量の変動に合わせて担当エリアの割り当てや配送ルートを最適化する仕組みを導入
ドライバーの知見も取り込む
仕事を平準化するとともに、1人あたりの配送可能量も10%増加
アメリカ、フランス、シンガポール、東京のメンバーでアジャイル開発

トヨタ自動車:製造現場のためのAIプラットフォームをGKEで構築、開発にはCloud Workstationsも導入

 トヨタ自動車株式会社の後藤広大氏(生産デジタル変革室 AIグループ長)は、製造現場のAI利用のためのプラットフォーム構築について紹介した。

 背景として、少子高齢化による労働人口の低下が深刻となっており、AIやデジタルは必須だと後藤氏は言う。そこで2022年初頭に、AIの専門知識を持たない製造業の現場でも必要なAIを構築できるプラットフォームを、Google Kubernetes Engine(GKE)上に構築した。

 課題となることとして、GPUなどのリソースの効率化や、AIの進化に追随し活動範囲を拡大するための開発の加速と開発者体験の向上があった。

 そこで前者のプラットフォームのコスト最適化には、クラスタ構成の面倒をGoogleが見るGKE Autopilotや、コンテナイメージをダウンロードしながら起動するイメージストリーミングを採用した。これにより、Podの起動時間を75%短縮し、AIの学習にかかるコストを20%低減。現在では、年1万時間以上の現場の工数低減に成功しているという。

 また、後者の新技術のキャッチアップと開発の加速のために、クラウド上でIDEを含む開発環境を提供するCloud Workstationsを導入。環境構築の早さに加え、維持管理やセキュリティ対策を効率化した。GPUの検証やミドルウェアのバージョンアップなどでも、並列して複数の環境を準備できるため、開発体験を高められたという。

 そのほか取り組みにあたり、Google Cloudのアクセラレーションプログラム「TAP(Tech Acceleration Program)」に参加し、導入などについてスペシャリストに伴走してもらったとのことだった。

 さらに、より開発体験を向上させるために、生成AIがコーディングを支援する「Gemini Code Assist」を試していることも後藤氏は紹介した。デモ動画では、CSSの編集で「幅を50%-10pxにしてください」というコメントを入力すると、該当する1行がサジェストされるところなどが示された。

 今後については、モノづくりにおけるAIの適用範囲が拡大していくだろうと後藤氏は語った。そして、AIのマルチモーダルな活用の可能性や、製造現場の知見をデータベースに蓄積してGeminiでRAG化し効率的にドメイン知識を共有する例などを挙げた。

トヨタ自動車株式会社の後藤広大氏(生産デジタル変革室 AIグループ長)
製造業の現場でも必要なAIを構築できるプラットフォームをGKE上に構築
プラットフォームのコスト最適化の課題への対応
コスト最適化の効果
年1万時間以上の現場の工数低減に成功
開発の加速の課題にCloud Workstationsを採用
TAPによりGoogle Cloudのスペシャリストに伴走してもらった
Gemini Code Assistを試している
Gemini Code Assistでコメントからコードをサジェスト
今後、製造現場の知見をデータベース化しGeminiでRAG化したい

三井住友フィナンシャルグループ:米国のデジタルバンク事業でGoogle CloudのDWHを採用、デジタルワークプレースのレジリエンス強化も

 株式会社三井住友フィナンシャルグループの高松英生氏(常務執行役員(Chief Data and Analytics Officer))は、Google Cloudの上野由美氏(執行役員 グローバル スペシャリティセールス Google Workspace 事業本部)との対談形式で、三井住友銀行(SMBC)などの金融事業でのデジタル化への取り組みを紹介した。

 三井住友フィナンシャルグループでは、デジタル推進のための意思決定会議として、「CDIOミーティング」を毎月のように開催し、そこから新事業や社内スタートアップが生まれているという。

 CDIOミーティングから生まれた事例として、銀行口座やクレジットカードなどを1箇所で管理できる総合金融サービス「Olive」を高松氏は紹介した。現在300万人超が利用しているという。

 またアメリカの個人向けデジタルバンク事業「Jenius Bank」の事例も高松氏は紹介した。IT開発については全米から経験者を約120名採用。複数のクラウドサービスを採用して、2年間というバンキングとしては短期間で構築した。特にデータウェアハウスでGoogle Cloudを活用しているという。

 投資計画としては、IT投資を1000億円増額して1.4倍にするとともに、リスク分析やレジリエンス強化のための守りの投資もしていくと高松氏は説明した。

 レジリエンス強化としては、いつでもどこでも安心して働けるように、デジタルワークプレースもバンキングの基幹システムと同じようにレジリエンス強化が必要と考えて強化。Microsoft 365とGoogle WorkspaceでIDを連携して両現用化していく。「この環境の構築にはGoogleに最大限ご協力いただいた」と高松氏は語った。

 今後については、クラウドサービスを有効に使いながら、攻めも守りも強固にしていくことや、攻めのひとつとして生成AIなども活用していきたいと高松氏は述べた。

株式会社三井住友フィナンシャルグループの高松英生氏(常務執行役員(Chief Data and Analytics Officer)、右)と、Google Cloudの上野由美氏(執行役員 グローバル スペシャリティセールス Google Workspace 事業本部、左)
デジタルへの取り組み:総合金融サービス「Olive」
デジタルへの取り組み:アメリカの個人向けデジタルバンク事業「Jenius Bank」
Microsoft 365とGoogle Workspaceを両現用化してレジリエンス強化