イベント

Adobe、生成AIやCreative Cloudとの高度な統合など、より高度な顧客体験を可能にする「Experience Cloud」の強化を発表

Adobe Experience Cloudユーザー向け年次イベント「Adobe Summit」が開幕

 Adobeは、3月22日~24日(米国時間、日本時間3月23日~25日)に、同社のデジタルマーケティング向けクラウドソリューション「Adobe Experience Cloud」ユーザー向けの年次イベント「Adobe Summit」(アドビ・サミット)を、米国ネバダ州ラスベガス市の会場で開催する。

 それに先だって3月22日早朝(米国時間、日本時間3月22日深夜)に報道発表を行い、同社がAdobe Summitにて発表やデモを予定している新製品などを明らかにした。

 発表は多岐にわたっているが、企業向けの生成AIソリューション「Firefly」、「Adobe Experience Cloud」のツール群のアップデート、さらにはCreative Cloudと連携した包括的なコンテンツ・サプライチェーンを構築するための業界初のソリューション、コンテンツをWebやデスクトップアプリを利用して手軽に編集できるAdobe Expressのエンタープライズ版などが発表された。

Adobe Summitのイメージ

基調講演、Sneaksなど注目のイベントがめじろ押しのAdobe Summitは日本時間3月23日未明から開催

 Adobeのプライベート年次イベントは2つあり、1つは毎年秋に計画されている「Adobe MAX」(アドビ・マックス)で、もう1つが毎年3月に開催される「Adobe Summit」になる。前者はクリエイター向けのサブスクリプション型クリエイターツール「Adobe Creative Cloud」ユーザー向けのイベントで、毎年Creative Cloud関連の新しい発表が行われるイベントとなる。

 それに対してAdobe Summitは、同社のデジタルマーケティングツール「Adobe Experience Cloud」のユーザー向けイベントで、クラウドベースでデジタルマーケティングの環境を構築したい大企業などが、主なターゲットとなっている。

 Adobe Summitは2019年3月にリアルイベントとして開催された後、2020年はパンデミックが始まったことでバーチャルイベントに移行し、そこから3年間(20年、21年、22年)はバーチャルイベントとして開催されてきた。今回は4年ぶりにリアルイベントとして開催され、基調講演や一部セッションなどはバーチャルでも提供される、ハイブリッドイベントとして開催される予定だ。

 そのAdobe Summitには同社 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏、Adobe Experience Cloud事業の事業部長であるアニール・チャクラヴァーシー氏による基調講演が初日(3月22日、日本時間3月23日)に計画されているほか、同社の顧客など多彩なゲストを呼んで講演が行われる。会期2日目(3月23日、日本時間3月24日)の基調講演にはアカデミー賞受賞作家・監督・脚本家アーロン・ソーキン氏、AMD 会長 兼 CEOのリサ・スー氏など豪華なゲストを招いて、Adobe Experience Cloudを利用したデジタルマーケティングの実例などが紹介される予定だ。

Adobe Summitに登壇する予定のスピーカー

 また今回のSummitでは、「Innovation Super Session」と名付けられたブレークアウトセッションが用意されており、基調講演では説明しきれなかった発表の詳細などが語られる。より詳細を知りたい場合には、Innovation Super Sessionsに参加するのがいいだろう。

 会期2日目の夕方には、Adobeの研究開発部門が開発中の技術をチラ見せする恒例のイベント「Sneaks」(スニークス)が用意されている。Adobe MAXでも行われているSneaksは、ノリとしては大学文化祭での研究室発表というものだが、もう少しカジュアルに、参加者はビールを片手に“ヤンヤ”の歓声を浴びせながら見るという人気のイベントだ。ノリは軽いが、このSneaksの発表から巣立ってCreative CloudやExperience Cloudの新機能として登場した研究もあるので、Adobeの将来を予想したい人には見逃せないセッションとなる。

 なお、基調講演、Innovation Super Sessions、Sneaksはバーチャルイベントでも視聴可能。ただし、視聴するにはAdobe SummitにAdobe IDを利用して参加登録する必要がある(Adobe IDを持っていない場合には無料で作成できる)。

Adobe Summitは対面とバーチャルのハイブリッド形式で開催

企業も安心して使える生成AIのFireflyのベータ提供を本日より開始、Adobe Senseiに生成AIの機能を付加したAdobe Sensei Gen AI Serviceも

 Adobeは、「Firefly」(ファイヤーフライ)と呼ばれる生成AIサービスのベータ版提供を開始する。Webツールでテキストを指定するとその画像を生成するサービスと、テキストを元に、エフェクトをかけた画像を生成する機能、さらに、画像を生成するときにスタイルを指定する機能が、ベータ版として提供開始されている(利用するには登録してアカウントがアクティベーションされる必要がある)。

Adobe Firefly

 Adobeが提供するFireflyの特徴は、エンタープライズでも安心して利用できるように、学習時のデータに関しても適切に著作権と商標などの処理がされたデータが利用されている点にある。生成AIのモデル(アルゴリズムのこと)はAdobeが自社開発しており、そのモデルの学習にはAdobeがストック・フォト・サービスとしてCreative Cloud向けに提供している「Adobe Stock」のデータを利用している。

 一般消費者向けとして提供されている生成AIでは、そうしたモデルの学習に、著作権などの処理があいまいなインターネット上のデータが利用されており、法的な問題があるのかないのかが、エンタープライズの大きな懸念材料になっている。このため、利用するのにためらいがあるエンタープライズがほとんどだ。

 しかしFireflyの場合には、学習データとして、権利関係がきちんと処理されているAdobe Stockのデータを利用しているため、著作権的な取り扱いにセンシティブな企業でも、安心して生成AIサービスを利用できることができる。

 FireflyはまずはWebサービスとして提供されるが、将来的にはPhotoshop、Illustrator、Premiere Pro、ExpressといったAdobeのデスクトップアプリにも機能として搭載される計画で、順次実装されていくことになる。

 また、AdobeのAI基盤である「Adobe Sensei」にも拡張が行われ、「Adobe Sensei GenAI Service」という、GenAIの拡張を加えたAdobe Senseiの拡張版が、Adobe Experience Cloud向けに提供される。

Adobe Sensei GenAI

AEMの強化や、Creative Cloud、Experience Cloudにまたがってコンテンツ作成、流通を一気通貫に行う仕組みが導入される

 Adobeは、Adobe Summitのメインテーマであるデジタルマーケティングツール「Adobe Experience Cloud」の新機能など複数の発表を行っている。Adobe Experience CloudのビジネスはAdobeにとって成長市場になっており、フォーチュン500のうち74%の企業が、またフォーチュン100では87%の企業が、何らかの形でAdobe Experience Cloudを既に導入済みで、2021年の関連ビジネス売上が38億6700万ドルだったのに対して、2022年は42億2200万ドルと約16%の成長を見せており、引き続き2桁成長を続けている。

Adobe Experience CloudはAdobeにとっての成長市場でもある

 そのAdobe Experience Cloudは、クラウドサービスの下部に位置し、データ分析やコンテンツ管理、そしてAI機能を提供するAdobe Senseiなどから構成されている基盤となるAdobe Experience Platformと、Adobe Analytics、Adobe Customer Journey Analytics、Adobe Real-Time CDP、Adobe Experience Manager、Adobe Target、Adobe Marketo EngageなどのSaaSアプリケーション群という2層構造で構成されており、Adobe Summitでは毎回、Adobe Experience Platformの新機能、アプリケーション群の新機能などが紹介されている。

Adobe Experience Cloudのアーキテクチャ

 今回のSummitでは、アプリケーションの強化としては、Web上で顧客に提供するWeb/モバイルアプリのコンテンツを管理するためのツールであるAdobe Experience Manager(AEM)の強化と、新しいコンテンツ流通の仕組みが導入される。

 AEMの強化では、Microsoft WordやGoogle Docsなど従業員が使い慣れたツールを利用して、AEM経由で、カスタマーに提供するWeb/モバイルアプリ向けなどのコンテンツを編集可能になる。これにより、CMSのような専用ツールの知識がない従業員でも容易にコンテンツを編集し、それを顧客向けに公開するまでのプロセスを一貫してAEM経由で行えるようになる。またAEM Formsも拡張され、申請書の提出といった、これまで紙に頼っていたプロセスを簡単にデジタルに置きかえられるようになる。

 また、Adobeの生成AIであるFireflyとの連携に加え、Adobe Creative Cloudのコンテンツ作成ツールとして、ツールに知識がないようなユーザーでも直感的に操作することで人気を博しているAdobe Expressのエンタープライズ版「Adobe Express for Enterprise」を利用して、AEMのコンテンツを編集可能になる。それにより、静止画ならPhotoshop、動画ならPremiere Proといったプロ向けのクリエイターツールを使いこなすスキルがなくても、ある程度であればAdobe Expressで編集して、AEMを通じて顧客に提供するといったことが可能になる。

 一方、Adobeは同社が「包括的なコンテンツ・サプライチェーンを構築するための業界初のソリューション」と呼んでいる新しいコンテンツ流通の仕組みを、Adobe Creative CloudとAdobe Experience Cloudにまたがる形で導入する。

 コンテンツを作成するクリエイターはCreative Cloudを、デジタルマーケティングを担当する担当者はExperience Cloudをそれぞれ利用するというのが一般的だ。これまではそれぞれ別々に作業したものを、最後にExperience Cloud上で1つにして流通を行うという形で作業してきたが、今後はCreative CloudとExperience Cloudをまたがって共同作業することが可能になる。

 Adobeによれば、Creative Cloud for Enterprise、Workfront、Adobe Experience Manager(AEM)、Adobe Express for Enterprise、Frame.ioなどが統合的にサービスとして利用できるようになるという。

 クリエイターツールとデジタルマーケティングツールの両方のサービスを展開しているのは業界でもAdobeだけで、Creative CloudとExperience Cloudの高度な統合により、高効率で、迅速なコンテンツ作成から、管理、そして展開までを一気通貫に行えるようになると、Adobeは説明している。

コンテンツ流通の新しい仕組みの導入

Customer Journey Analytics for product teamsで商品企画の担当者が自社製品の動向などを把握できるようになる

 Customer Journey Analytics for product teamsは、顧客が利用しているWebサービスやモバイルアプリのデータを分析して、顧客が自社の製品やサービスをどのように使っているかを、商品企画の担当者が理解するためのツール。そうしたデータを活用することで、将来の自社製品のロードマップによりよいユーザー体験を反映できる。

Customer Journey Analytics for product teams