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サントリー、グローバルのITインフラ基盤ベンダーにAWSを採用へ

まず国内のサーバー1000台を移行しインフラ費用を大幅に削減

 アマゾンウェブサービスジャパン株式会社は10月27日、サントリーのグループ企業のシステムを稼働させるメインITインフラ基盤のベンダーとして、Amazon Web Services(AWS)を採用したことを発表した。

 酒類や清涼飲料などを中心に幅広い事業を展開するサントリーは、“ONE SUNTORY”としてDXを加速してビジネス拡大するため、世界中に300社以上あるグループ企業のシステムを稼働させるメインITインフラ基盤を見直すプロジェクトを開始した。

 現段階では日本における受発注、売り上げ予測、コンシューマ向けサイト、顧客データ管理などに関連する1000台以上のサーバーを含むシステムをAWSに移行し、シンガポールと日本のデータセンターをシャットダウンしたことで、運営コストを含めたインフラ費用の25%削減を実現している。

 “Suntory Island2”と呼ばれる今回のプロジェクトでは、グローバルに5つのリージョンを配置し、AWSおよびプライベートクラウドによるハイブリッドクラウドの環境を構築している。

グローバルに5つのリージョンにハイブリッドデータセンターを展開。各社は最寄りのリージョンに接続する

 グローバルでIT戦略を担当しているサントリーホールディングス株式会社 経営企画・財経本部 BPR・IT推進部部長 城後匠氏は、「クラウドのメリットを最大限に生かすため、クラウドに移行できるものはすべてAWSに、移行不可能なものはプライベートクラウドへと移設した」と説明する。

サントリーホールディングス 経営企画・財経本部 BPR・IT推進部部長 城後匠氏

 もともとサントリーは、ヨーロッパ、アジア、日本、オセアニア、アメリカの5つのリージョンを展開していたが、それぞれが独自のIT運営組織を持っていた。データセンターやネットワークも、それぞれの組織によって運営されており、オペレーションも標準化されていなかった。

 そこで、コストを削減、品質・セキュリティの底上げ、M&A時の対応の早期化を実現するため、ITインフラを統合して共通化することにしたという。また、ITインフラ統合と並行して、オペレーションの標準化と統合のためのグローバルオペレーションセンターも開設している。

 「グローバルでITインフラを統合することで、コスト削減、セキュリティの向上、ネットワーク接続性の向上、オペレーションの統一を実現し、グローバルで効率の良いITインフラの提供を目指す。新規ビジネスへ向けたデータプラットフォームもAWSで構築を進めている」(城後氏)。

グローバルインフラ統合概要。ITインフラの統合および運営組織の集約が行われている

 Suntory Island2プロジェクトは、日本の組織が独断的に推進するのではなく、グループ全体のIT運営組織を巻き込んでいることがポイントであるという。サントリーグループは、年に2回グローバル各社のCIOを集めた会議を開催している。今回のプロジェクトにしても議論を重ねた結果、2017年末に方針が決定した。各社のIT人材がプロジェクトチームにアサインされており、1つのサントリーとして次世代のITインフラに取り組み、統合プロジェクトを推進することになったという。

 その後、2018年から2019年の第1四半期までの間に実行計画を策定し、まずは一番大きな日本から先陣を切って移行し、そのノウハウを持ってその他の地域を移行していく方針となった。

2019年4月1日より日本・国内グループ会社からインフラ移行がスタート

 メインITインフラ基盤のベンダーとしてAWSを採用した理由について、以前よりAWSを利用しており、ほかのベンダーのサービスよりも知見があったことや、すでに大規模なITインフラ基盤としての運用実績が豊富であることが挙げられている。

 サントリーシステムテクノロジー 取締役 基盤サービス部長 加藤芳彦氏は、AWSによるクラウドジャーニーについて、「AWSへの本格的な取り組みは2015年から開始している。技術調査や、ワークショップの開催、PoCなど入念な調査と準備を行っている」と説明する。

 早い時期からクラウドファーストの取り組みを進めており、可能な限り新規の仕組みはクラウドネイティブとし、既存の仕組みについてはリフト&シフトで移行するという方針を掲げていたという。

サントリーシステムテクノロジー 取締役 基盤サービス部長 加藤芳彦氏
サントリーグループでは、早い時期からクラウドファーストの取り組みを進めており、2015年から本格的なAWSの実証実験を開始している

 入念に計画されている今回のプロジェクトにおいて、先陣を切る形となった国内ITインフラ基盤の移行は、2019年4月にスタートした。最初の3カ月は準備フェーズとして、現行アセスメントの確認、移行後のリソースタイプの決定、スケジュール策定などの準備期間を設けている。

 本格的な移行が開始した7月から11月にかけての移行前期フェーズでは、移行リスクの高い大量データ処理が必要なシステム、外部システム連携を網羅しているシステムを移行させている。12月にはここまでの作業を振り返り、課題対応や改善活動を実施している。

 「移行前期フェーズの段階で想定以上の課題が発生したため、10月以降は移行のペースをゆるめつつ課題解決のフェーズを設け、12月には設計や移行方法を見直している。また、この見直しのフローを繰り返し、継続的な改善につなげている。1000台を超えるサーバーを実質1年で移行できたのは、この継続的な改善ができていたことが大きい」(加藤氏)。

 翌2020年4月にかけては、年次締めや繁忙期を考慮して移行時期を決定したシステムの移行を実施し、5月からはサードパーティー製品や外部システムとの調整が必要となる仕組み、および最後に移行せざるを得ないDNSやProxyなどのシステムを移行させている。8月までにはこれらすべての移行が完了し、2か所のオンプレミスのデータセンターをシャットダウンしている。

先行する日本のインフラ移行プロジェクトは、2019年4月~翌8月にかけて実施されている

 サントリーでは、移行後の構成、移行方法、移行対象などを策定する準備段階から、AWSプロフェッショナルサービスを活用してプロジェクト推進中のさまざまな課題を解決していったという。また、前述したように2015年からAWSの検証作業などを実施してきた同社は、AWSの知見を持ったエンジニア育成にも力を入れており、今回の移行プロジェクト実施時には十分な人材を確保できていたとのこと。

 メインITインフラ基盤がAWS環境へと移行したことによって、ITインフラ基盤の稼働率がAWSのサービスレベルまで向上したほか、提供リードタイムの短縮、グローバルへのサービス提供のスピードも向上しているという。さらに、リセラーとしてクラスメソッド社を通じたパートナープログラムのボリュームディスカウントを活用し、ITインフラコストを削減している。

 加えて、加藤氏は移行時に発生した課題をいくつか紹介している。例えばデータの移行作業は、最初はデータ量を考慮してAWSのSnowballを試してみたが、想定以上にダウンタイムが大きくなることが判明したため、Direct Connectサービスのネットワーク帯域を増やす、移行先のインスタンスタイプを上げるなどの対応を行っている。ほかにも、ストレージのパフォーマンスチューニングや、BCPの仕組みの設計などに苦慮したことを上げている。

 今後の取り組みとしては、セキュリティ対策強化、AWS環境における運用の継続的改善、構成・資産管理の強化、コスト管理、障害復旧業務の自動化や効率化などを進めていくとともに、AWSの知見を持つエンジニアを育成するため、社内勉強会などを頻繁に開催していく。

 なお、サントリーはデータレークとしてAmazon Simple Storage Services(Amazon S3)を採用し、AWS上に新たなデータ分析基盤を構築して、DXを推進していく予定であるという。

サントリーは新たなデータ分析基盤を構築し、DXを推進する