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NTTデータの鈴木新社長が会見、「国内4分野での実績を活用し社会課題の解決を図る」

 NTTデータグループの国内事業会社である株式会社NTTデータの社長に、2025年6月9日付けで就任した鈴木正範氏が26日、初めて会見を行った。会見には、NTTデータの前社長であり、株式会社NTTデータグループの社長を務める佐々木裕氏も同席し、新体制における方針などについて説明した。

 鈴木社長は、「企業、そして社会の『変革パートナー』になりたい」と述べ、「これまでの基本方針を踏襲し、佐々木前社長が打ち出した『提言・実装・成果』モデルを継続する。成果を意識した提言を行い、提言したものはしっかりと実装する」との基本姿勢を示した。

 その上で、「私が経営面で強く意識したいのは、NTTデータグループのなかでの日本という点である。グローバル50カ国で活躍している約20万人のNTTデータグループ社員がいる。これを、国内事業会社に在籍している4万数千人の力を発揮するために活用したい。お客さまから、『NTTデータグループが、海外で活動していてよかった』と言われることが理想である。NTTグループとの連携、NTT DATA Inc.との連携、国内4分野(公共・社会基盤分野、金融分野、法人分野、テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野)での実績を最大限活用して、社会課題の解決に役立たせる」と抱負を語った。

NTTデータ 代表取締役社長の鈴木正範氏

 鈴木社長は、1965年生まれ。1988年4月に日本電信電話に入社。同年7月にNTTデータが発足にしたのにあわせて転籍した。

 「当時の学生には、NTTの人気が高かったが、私はひねくれもので、NTTには就職したくなかった。だが、データ通信事業に関心があり、そこが面白いと思った。最初からNTTデータに転籍することが決まっていた。NTTデータの企業の歴史と、私のキャリアはオーバーラップしている。社内では、昭和の最後の生き残りと言っている」と笑う。

 2008年4月にNTTデータのリージョナルバンキングシステム事業本部総合バンキングビジネスユニットBeSTA企画統括部長に就き、2016年6月には執行役員 第二金融事業本部長、2019年6月に事業戦略室長に就いた。2020年6月に取締役常務執行役員 事業戦略室長となり、同年7月には戦略統括本部長、2021年6月にバンキング統括本部長に就いた。
 金融分野での経験が長く、事業戦略室では、NTTデータグループの前社長である本間洋氏のもとで戦略立案にも関わったという。

 2023年7月に国内事業会社であるNTTデータの取締役副社長執行役員となり、公共分野を担当。2025年6月に代表取締役社長に就任した。社長就任後も、公共・社会基盤分野を直接担当することになる。「公共・社会基盤分野は、最も事業規模が大きく、成長率が高い。社会課題解決の起点になる分野でもあり、当面は直接担当をすることにした」という。また、社長の立場から、社員とのコミュニケーションを重視する考えも示した。

鈴木社長の経歴

「提言・実装・成果」モデルの徹底実行を図る

 鈴木社長は、「デジタル技術の進展により事業機会が増加しており、2015年以降は、海外事業の成長とともに日本事業も大きく成長している。この路線を継続していきたい」とした。

 2025年3月期の日本事業の売上高は1兆9332億円となっており、これをさらに成長させる姿勢を見せながらも、「2023年度に国内ITサービスではシェアナンバーワンになった。それを維持することにこだわるつもりはない。いまある市場のなかで、トップシェアにこだわると、結果としては価格競争などが起き、日本のためにはならないといったことが起こる。日本のデジタル市場をさらに拡大することが大切である。日本が抱えている社会課題をしっかりと解決することで、市場を広げ、新たな市場を創出し、提供価値を高めることができれば、収益性もあがる。これはナンバーワン企業としての責任でもある。また、AIを活用することで自らの生産性を向上させ、質を伴った成長につなげたい」と語った。

 「提言・実装・成果」モデルは、徹底実行フェーズに入ると位置づけた上で、「提言」においては、さまざまな専門性を持つ国内約2700人のコンサルタントを活用したコンサルティング力をさらに強化。「実装」においては、「言ったことを実現するのが、NTTデータの真骨頂」とし、アーキテクチャー構築力、品質保証プロセス構築力を中心に、エンジニアリングの強化を進めていくとした。

「提言・実装・成果」モデルの徹底実行フェーズへ

 加えて、AI技術の最大活用が重要になることを指摘。「2024年10月に発表したSmart AI Agentは重要な役割を果たす。各業界の特性にあわせながら、業界横断で展開するとともに、さまざまな業務シーンでAIを活用するための提案を行える。これが今後のビジネスのキーになる。Smart AI Agentは、すでに517件の引き合いがあり、45件の受注を得ている」という。

 Smart AI Agentを活用した事例も紹介。JALカードでは、「AI バーチャル顧客」の会話から、JALカード会員への効果的なマーケティング施策を導出することで、商品の購買率を3.0%向上させたほか、東京ガスでは、生成AIを活用したマーケティング施策支援アプリによる業務効率化を実現しているという。また、みずほフィナンシャルグループでは、NTTの生成AIであるtsuzumiを基盤とした「〈みずほ〉特化型モデル」の開発に向け、共同研究契約を結び、生成AI技術を活用した法人営業の効率化と高度化を目指しているという。

Smart AI Agent
日本国内 AIエージェント(Smart AI Agent)の提供状況

NTTデータの位置づけは?

 鈴木社長は、NTTデータの位置づけについてもあらためて定義した。

 NTTデータグループのなかの位置づけでは、「Quality Growth」を打ち出し、「NTTデータグループの稼ぎ頭として、持続的に質を伴った成長を続けていく」と宣言した。また、日本の顧客に対しては、「グローバル水準のバリュープロポジション」を特徴とし、海外事業で獲得した知見やノウハウを日本の顧客に提供するという。

 「日系マルチナショナルカンパニー(JMNC)のグローバル展開を、20万人の体制で支援する。そのための組織をNTT DATA, Inc.のなかに新設した。欧州・南米、アジア、米国で合計130人の体制で、海外進出している日本の企業を支援していく」。

 さらに、「日本のお客さまに対して、テクノロジーやデジタル活用におけるグローバルでのベストプラクティスを提供していくことになる。デジタル化においては、グローバルに追いついていない部分がある。グローバル水準のデジタルを日本に持ち込む媒介役を果たしたい」と述べ、「金融分野では、たすき渡しから命名した『Tasuki』と呼ぶグローバル連携チームを2年前に設置し、海外での活動の成果を共有しながら、ケイパビリティを日本にどう輸入するかといったことを検討してきた。この仕組みは、バンキング、保険、テレコム、公共にも効果があるだろう。グローバルインダストリー連携チームを設置したいと考えている」とも語った。

 さらに、日本の社会に対する位置づけでは、「デジタルの力で、日本を元気にする」と語り、国内のさまざまな社会課題をデジタルが解決していくことを支援する。
「これまで足りなかった分野間連携も推進する。ほかの分野を巻き込んだり、お互いに意見を出したりできる風土をつくりたい」としたほか、SIにとどまらずに、新たな価値を実現するITサービスの提供にも乗り出す考えを示した。

NTTデータの位置づけについて説明する鈴木社長

 NTTによる完全子会社化による影響については、「大規模法人顧客に対しては、NTT Comなどとの連携により、付加価値を高めることができる。成長が期待できる地域市場に対しても、NTTグループとの連携によるビジネス拡大が考えられる。お客さまからは価値提供範囲が相当広がることに対しての期待が寄せられている。一方で、NTTデータの良さが希薄化するのではないかとの懸念の声も聞いている。大切なのは、NTTデータ流の事業展開のやり方を継続しなくてはならないという点である。それをベースに、NTTグループなどとのシナジーを生み出したい」と語った。

デジタルとインフラの2つの領域をAIによってしっかりと成長させる

 一方、NTTデータグループの佐々木社長は、これまでのNTTデータ社長としての2年間を振り返るとともに、今後の方向性について示した。

NTTデータグループ 代表取締役社長の佐々木裕氏

 2023年7月に、持株会社のNTTデータグループ、国内事業会社のNTTデータ、海外事業会社のNTT DATA, Inc.による3社体制となり、日本国内で1000億円規模のM&A投資を発表して注目を集めるなか、佐々木氏は、2024年6月に、NTTデータの社長に就任。「Smart AI Agent」のコンセプトを発表し、2027年度に売上高3000億円を目指す計画を打ち出したほか、2025年4月にはOpenAIとのグローバルでの戦略的な提携を発表した。一方、2024年11月に、NTTの完全子会社に向けた検討を開始する通知を受けて、同年12月には特別委員会を発足し、2025年5月にNTTによる株式の公開買い付けにも賛同した。

 佐々木氏は、「M&A投資は、現時点で800億円まで完了している。また、この2年間は社員との対話を重視してきた。2023年10月から、『#YUTAKAと語ろう』と題して、社員との対話会を40回ほど開催したほか、海外ではタウンホールミーティングを8回に渡って開催した」と振り返った。

佐々木社長の就任からの主な動き

 また、「今後は、NTTデータグループ全体の戦略の立案、浸透、実践に注力する」と述べ、Consulting、IT Services、DC & Connectivity、Technology Solutionsの4つの主力事業の展開とともに、Digital & Experiences、Next-Gen Infra、Agentic AIへの取り組みを強化することを示した。「デジタルとインフラの2つの領域を、AIによってしっかりと成長させる」と語った。

Quality Growthを実現するための注力領域

 OpenAIとの戦略的提携についてもあらためて説明。「生成AIを活用する文化をお客さまのなかに醸成するために、専門体制を構築した。また、日本初の販売代理店として日本の大手企業に向けてアクセラレーションプログラムを提供する。すでに、NTTデータグループの日本の本社部門にはOpenAIのライセンスを配布しており、私も使い始めている。非常に便利である」などとした。

OpenAIとの業務提携

 佐々木氏は、今後の3社体制の維持についても言及。「NTTデータグループ全体で見たとき、海外事業は、収益性を高めることが課題であり、変革の最中である。グローバルの事業展開や海外で先行しているAIへの向き合い方、海外ビッグテックとの向き合い方も重要になってきた。本社は、国内外を含めたスケールをどう見せるのか、どうレバレッジを聞かせるのかが重要であり、やるべき機能がある」とした。

6NTTデータ 代表取締役社長の鈴木正範氏(右)、NTTデータグループ 代表取締役社長の佐々木裕氏。後ろの新ロゴは2025年7月から使用することになる