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2025年度は次の5年の成長を作るための土台を検証する1年に――、NEC・森田隆之社長
2025年6月13日 06:00
日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOは、合同取材に応じ、今年度が最終年度となる「2025中期経営計画」の達成について、「大きなサプライズがなければ、射程距離のなかに入っている」との手応えを示したほか、「2025年度は、次の5年の成長を作るための土台を検証する1年になる」と位置づけた。また、2026年度からスタートする次期中経営計画については、2030年度までの5カ年を想定し、そのなかで、Non-GAAP営業利益率で15%を目指す考えを明らかにした。
NECは、2025年度に、2025中期経営計画の最終年度を迎えている。
2025年4月の会見では、「2025中期経営計画は、次の中期経営計画の発射台を、どこまでしっかりと作れるかがポイントになってきた。2026年度以降の方向性と姿をにらみながら、2025年度の事業を遂行することになる」と発言。次期中期経営計画の策定を踏まえた経営に取り組む姿勢を明らかにしている。
今回の合同取材で森田社長兼CEOは、「2024年度には、経営指標の一部を前倒しで達成している。2020年度の計画策定当初は、こんな数字ができるのかと言われたが、大きなサプライズがなければ、達成は射程距離のなかに入っている」とし、「仮に、次期中期経営計画を5年という期間でとらえれば、まずは、その方向性について、経営チームが共通認識を持つことが大切になる。また、グループの力を集め、気持ちをひとつにすることが重要になる。これに向けた準備の1年であり、次の5年の成長を作るための土台を検証する1年になる」と位置づけた。
NECは、NECネッツエスアイを100%子会社化したほか、NECネクサソリューションズを含めた事業再編を実施。NECの消防防災事業、中堅・中小企業向け事業の部門を統合した中間持ち株会社を、2025年7月に発足し、一定期間内に事業体制の最適化に取り組んでいる。「新たな組織体制による将来に向けた青写真は、2025年度中に描くことになる」とした。
さらに、アビームコンサルティングとの連携をさらに加速するほか、2025年夏には、KMD、Avaloq、NEC Software Solutions UKの欧州3社が推進しているDGDF(デジタルガバメント/デジタルファイナンス)事業のグローバル本社を、東京からスイス・チューリヒに移転させる。「これをしっかりと機能させ、グローバルレベルで、グループガバナンスの新しい形を実証していく」と述べた。
また、次期中期経営計画については、「Non-GAAP営業利益率15%が目線となる。この1年で、足づけができるかどうかを考えていく」としたほか、「売上収益については、市場全体の成長を上回る伸びは必要だが、その拡大に逃げてはいけないと考えている。M&Aを行えば、それで数字は大きく変わってしまう。トップラインを目標に掲げることは適切ではない。売上収益先行型になると、先行投資型になり、リスク許容型になる。これは、過去のNECが間違えた道でもある。売上収益は市場競争力があれば自然と伸びていく。利益規模をどけだけ拡大させるかが重要である」と語った。
森田社長は、これまでの取り組みを振り返り、「2021年度に中期経営計画を策定した際には、ようやく普通の会社並みになったという感触だった。現在の時価総額は約5兆円だが、市場全体として株価が上昇しているので少し割り引く必要がある。また、いまは中期経営計画の達成が見込まれており、将来への期待感が込められていると謙虚にとらえている。次の目線としては、時価総額10兆円となるが、それを実現する上で、尖(とが)ったITの強さを持つ日本国籍の企業になっていきたいと考えている。企業には国籍がある。NECは、日本のデジタルインフラを支える企業として、日本と一緒に、もう一度成長をしていきたい」と述べた。
BluStellarは“サイエンス”を持っている点が他社との差別化になっている
価値創造モデルと位置づけるBluStellarについては、「NECが持つエンジニアリングだけでなく、サイエンスを持っている点が他社との差別化になっている。顔認証技術や、AIをスクラッチから作る技術、広帯域の光通信伝送技術など、自社が持つ科学技術領域の知見を生かし、価値に転換できる点が強みである」としたほか、「防衛・宇宙をはじめとして、社会インフラを担い、ミッションクリティカル性が高く、失敗が許されない領域でのシステム構築や運用に携わっていきた経験がある。これをBluStellarに織り込むことで、圧倒的な差別化ができる」とも述べた。
また森田社長は、「2026年度から、BluStellarが中心的な役割を果たす」と述べ、「いまのNECは、海外におけるプレゼンスが十分ではない。グローバルレベルでサステナブルな企業になるためには、DGDFをはじめとして、海外において認知されるサービスやソリューション、誇れる領域を3つほど持つ必要がある。海外においては、IT全体で強くなる必要はなく、特定の領域で強い会社になる。それを、この1年で見定め、尖ったITの強さを発揮したい」と述べた。
NECでは、2025年度から、BluStellarをグローバルに本格展開する計画を打ち出しており、北米でのNetcrackerおよびアビームコンサルティングとの連携、欧州のAvaloq、KMD、NEC Software Solutionsとの連携、インドでのNEC Corporation Indiaとの連携などにより、日本で型化(シナリオ)したものを海外に展開するだけでなく、海外でシナリオ化したものを日本にも展開する考えを示している。
NECは、2019年にDX専任組織を発足し、プラットフォーム構築とDXオファリングの提供を開始。その経験をもとに、2024年5月に新たなブランドとしてBluStellarを立ち上げた。森田社長は、「BluStellarの発表以降、社外からの関心が高まり、社内では、自分たちが何を提供できるのかといったことを、より深く考えるようになった」と発言してきた。
今回の説明では、「BluStellarは、マインドセットの変革を促している」とコメント。「かつてのNECのマーケティング手法は、ブランドを知ってもらい、そのブランドに好意を持ってもらうというように、B2Cのやり方に近いものであった。私自身、しっくりとこないところがあった。だが、10年以上前にNetcrackerを買収した際に、同社が毎年のように、Netcracker 2.0、3.0、4.0と進化させながら、新しいITシステムの提案を、CIOや経営幹部に示していることを知った。お客さまの業務の流れを理解し、そこに新たな切り口で、新たな提案を行い、どんな価値が生むのかを訴求していた。構成しているテクノロジーや製品は二の次であり、お客さまに対して、どんな価値が実現できるかが一番の訴求ポイントである。お客さまが変革していくときに、新しい価値をどれだけ先行して提案できるか、新たな切り口で提供ができるか、エッジのきいた提案ができているか。これがB2Bのマーケティングであると感じた」と述べた。
また、「BluStellarも同様であり、モノを売るのではなく、お客さまの売上や利益の増加につながったり、コストダウンにつながったりするソリューションや商材を売る。B2Bにおけるマーケティングを、どこまで徹底できるのかが勝負である」とした。
なお、BluStellarの2024年度の売上収益は前年比44.3%増の5424億円となり、調整後営業利益は162億円増の825億円。調整後営業利益率は12.2%となった。国内ITサービスに占める構成比は32%に達している。また、2025年度の売上収益は前年比15.0%増の6240億円、調整後営業利益は前年から162億円増の825億円、調整後営業利益率は13.2%と、引き続き高い成長を計画している。国内ITサービス事業に占める構成比は37%にまで引き上げる予定だ。
M&Aについても言及した。森田社長は、「中期経営計画を達成すると、約5000億円の投資余力が生まれると想定している。NECネッツエスアイのTOBを行った結果、現在の格付けや財務健全性を損なわずに、4000億円の投資余力はある。M&Aの対象は、ITの領域。具体的には、DGDF領域やNutcrackerの領域、アビームコンサルティングの拡大のほか、国内ITサービスも対象になる可能性がある」とした。また、「M&Aにおけるノウハウやナレッジの蓄積と継承が必要だと考えてえり、そのための組織づくりにも取り組んでいる」とした。
NECでは、新たにM&A案件に対するキャッシュROIC評価を適用することを発表。買収検討や買収後の評価に適用し、買収後5年以内にROICがWACCを超過することを原則とする規律を明確化している。
好調な防衛事業に取り組みについては、「宇宙と防衛をあわせたANS(Aerospace and National Security)領域での受注規模は5000億円を超えている。NECは、センサーや電波領域など、情報通信のなかでもユニークな分野で防衛領域に貢献している。これらの領域についてしっかり対応していく」と述べた。
NECでは、2024年度のANSの売上収益が前年比34.0%増の3700億円、調整後営業利益は136億円増の415億円。2025年度も引き続き好調な伸びをみせ、売上収益は前年比16.2%増の4300億円、調整後営業利益は25億円増の440億円を見込んでいる。
すでに、約1200人の人員を、通信事業部門などから防衛部門に人材を異動させ、リソース強化を図っている。
「それでもまだ人員ニーズはある。施設とリソースの増強は継続的に必要だと感じている。あと数百人は、社内リソースのシフトで対応できるが、それ以上の人員か必要になった場合には社外からのリソース強化が必要になる。リスキリングも考える必要がある。専門性が必要な領域もあり、継続的なリソース強化を図る」と述べた。
また、「防衛領域における研究開発では、デュアル技術が多い。衛星間光通信やソフトウェア無線などは、防衛技術ではないが防衛でも使われている。通信や量子暗号などの基礎技術の研究は継続的に行う。また、防衛関連技術の受託開発も進めていく。場合によっては、買収や資本参加もある」などとした。
森田社長兼CEOは、「防衛という言葉でとらえる範囲が広がり、宇宙やサイバーも対象となっている。NECが力を発揮し、貢献できる領域が増えている」としながら、「サイバーセキュリティに関しては、攻撃する側も、守る側も、AIが絡むことになる。また、セキュリティの領域は日進月歩であり、自分たちが開発していくことも必要である。他社に依存するリスクは常に感じている。経済安全保障に関わる領域であればあるほど、自ら守るという点が重要になる」とコメント。
「自分の国は、自分で守ることは、海外では当たり前のことである。クラウドやデータセンターなどにおいて、国に関連する情報を扱う場合には、経歴も含めて、その国の国籍を持つ人間にしか許されないのが諸外国の常識である。この点で日本は遅れており、ルーズでもある。そのため、日本はセキュリティに弱いと言われてきた。これは早急に対応しなければならない」と警鐘を鳴らした。
NECでは、2025年5月から、「.JP(日本のサイバー空間)を守る」をスローガンに掲げ、日本政府や重要インフラ事業者、海外で事業展開する日本企業などを対象に、デジタルインフラにおけるサイバーセキュリティを強化する「Cyber Intelligence & Operation Center」を神奈川県川崎市に新設し、2025年10月から本格稼働させることを発表している。
海底ケーブル事業については強気の姿勢をみせた。
海底ケーブルの世界市場は、NECと米サブコム、仏アルカテルの3社で、85~90%の市場シェアを持つ。総務省では、「DX・イノベーション加速化プラン2030」のなかで、デジタルインフラ整備基金を活用した補助を行いながら、2030年には世界シェアを35%にする目標を掲げている。
これに対して、森田社長兼CEOは、「現在でも25%のシェアがある。35%はリーズナブルなターゲット。達成すべき目標である。もしかしたら40%を取ってもおかしくない」と発言。「海底ケーブルはデジタルインフラを支える神経網であり、経済安全保障の観点からも、中国企業はシェアを伸ばすことはないだろう。また、海底ケーブル事業には地の利があり、太平洋とアジア地域に関しては、日本に拠点があるNECに強みがある。海底ケーブルでは、通信機とケーブルと傭船が三種の神器とされているが、傭船において、国から一定のサポートを得られれば、ほかの企業と競争できるポジションに立てる」などとした。
先ごろ、富士通はATM事業からの撤退を発表したが、NECは事業継続の姿勢を示している。
「金融機関にとってATMは、サービスの一環として提供してきたが、いまはコストになっている。今後は、セブン銀行のように、ATMを共同利用していく形が増えていくだろう。だが、キャッシュレス時代とはいえ、日本でATMをゼロにするのには時間がかかる。また、マイナンバーカードなどと連動するなど、複合機能を持ったキオスク端末として使われることも想定され、キャッシュレスのためのチャージ機としての用途もある」とした。
その上で、「セキュリティに関わる部分は、経済安全保障の観点から、製造に対する重要性は絶対に無くならない。設計から製造までのすべてをやるかどうかは別にして、少なくともアセンブリを含めたところは、自分たちでコントロールしていくことは絶対に必要である。それにあわせて効率性を追求していくことも大切である」とした。
NECでは、2025年度から従業員を対象とした株式報酬制度「NEC Value Shares」を開始。約7%の賃上げを行うだけでなく、戦略的ポジションには株式報酬を含む思い切った総報酬の引き上げを実施している。
「新鮮味を持って受け入れられている。従業員全員が会社の価値を意識してもらいたい。社員全員が会社に関心や興味を持ってもらうことが大事である」とコメントした。