大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

情報ガバナンスはメリットを得るための投資だと考えて――、米Boxの専門家が訴え

 企業における「情報ガバナンス」に対する関心が高まっている。情報量が日々拡大するなかで、情報をいかに管理し、制御するかは、情報漏えいなどのリスクを低減するだけでなく、情報を効率的に、そして有効に活用することにつながり、企業の成長に直結させることができるともいえる。

 情報ガバナンスの分野で約30年の経験を持つ米BoxのInformation Governance Specialistであるジョン・フロスト(John Frost)氏に、情報ガバナンスの重要性、そして、Boxの情報ガバナンスに対する考え方などについて聞いた。

米BoxのInformation Governance Specialist、ジョン・フロスト氏

クラウド上のコンテンツに対するガバナンスが注目を集めている

 今回取材に応じてくれたフロス氏は、グローバル企業や外国政府、フォーチュン500の企業などにおいて、エンタープライズコンテンツマネジメント(ECM)と、情報ガバナンスのプロジェクトをけん引してきた経験を持つ人物であり、情報管理にかかわる非営利団体であるARMA Internationalのプレジデント兼フェローも務めていた経験者だ。米Boxには、2018年7月に、Information Governance Specialistとして入社。情報ガバナンス分野では約30年の経験を持つ。

 そのフロスト氏は、「もともとは、紙に書かれた情報に対するガバナンスであったものが、デジタル化とともにデジタルデータに関するガバナンスが重視され、ここ数年は、クラウド上に蓄積されるコンテンツに対するガバナンスが注目を集めている」との現状を紹介。

 「クラウドの進展やIoTの広がりなど、新たなテクノロジーの浸透によって、情報量そのものが肥大化しており、管理が複雑になっていることに加えて、それぞれの国の規制に準拠した形での、情報の管理および活用が求められていること、情報が漏えいした場合などの訴訟費用や賠償費用が高まっていること、情報漏えいによるブランド棄損の可能性が高まっていることなども、情報ガバナンスに対する関心を高めることにつながっている」とする。

 企業が持っている個人情報が流出した場合に、ブランド価値が棄損し、顧客が離れてしまうという事象が起こることはもちろん、ひとつのインシデントによって、顧客1人あたり151ドルの損害が生まれるという調査結果もあるという。

 仮に、20万人の顧客情報が漏えいした場合には、それだけで約3000万ドル(約32億円)もの損害が発生することになるというわけだ。また、情報漏えいなどに関する訴訟においては、さまざまなデータを提出する必要があるが、ここでも、1GBのデータを提出するのに1万8000ドルもの費用がかかるという試算もある。「コスト面で、企業に与えるダメージは小さくない」(フロスト氏)というわけだ。

情報ガバナンスはオペレーションの効率化につながってくる

 また、情報ガバナンスを効かせることは、オペレーションの効率化を図ることにつながるとメリットについても強調する。「情報ガバナンスがしっかりとしていれば、ECMシステムを、いつまでも複数稼働させて、管理を複雑なままにするということは起こらない。情報ガバナンスを切り口にして、システム運用の効率化、コスト削減も実現できる」とする。

 情報ガバナンスのひとつとして、レコード(記録)管理があるが、すべての情報を蓄積したままにするのではなく、情報をタイムリーに破棄することができれば、情報の蓄積量を2~3割削減でき、結果としてもITコストの削減につなげることができる。「不要な情報があふれたなかを、社員がデータを検索するといった無駄もなくなり、仕事の効率化にもつながる」というわけだ。

 このように、情報ガバナンスは、リスク回避という守りの側面だけでなく、効率化や生産性向上という攻めの部分でも効果を発揮することになる。

 だが、その一方で、「世界中の多くの企業が、自分たちはどんな風に、情報ガバナンスを行うべきかという点について、手探り状態であることも事実だ。そして、情報ガバナンスの重要性に気がついていない企業経営者も少なくない」と前置き。

 「社内において情報ガバナンスが必要であるという意識を高め、それに対する投資予算をつけること、場合によっては、コンサルタントを採用して、どう取り組めばいいのかを知ることも大切である。また、情報ガバナンスは、業務の効率性を高めることができる。経営者自らが、前向きの投資であるという点に気がつき、マインドを変えることも大切である」と提言する。

 情報ガバナンスの実現においては、フレームワークを活用することが大切だという。

 フロスト氏は、「組織において情報ガバナンスを実現するには、ポリシー、プロセス、テクノロジーによって構成されるフレームワークを活用して、情報のライフサイクルを管理。オペレーションを改善するとともに、リスクを低減することを目指すことが大切である」と指摘する。

 具体的には、「企業や政府、自治体は、それぞれの特徴や目的にあわせて、フレームワークを選択することになる。情報ガバナンスのフレームワークは、情報の記録管理や情報セキュリティのほか、構造データや非構造データに最適化したガバナンスの仕組み、e-Discovery(電子証拠開示制度)に対応するといったように、情報のライフサイクル全般に渡って、多くのものを内包しており、それぞれの企業が、それぞれのニーズにあわせて最適化したコンポーネントを組み合わせるものになる」という。

 また、「非営利団体であるARMAインターナショナルでは、現在、標準化したフレームワークを構築しようと考えているところであり、米国の企業や政府は、それをもとに、それぞれのニーズに必要なものを盛り込んで、必要な情報ガバナンスを定義していくことになる」と説明した。

 フレームワークの標準化の動きは、情報ガバナンスの実現においてハードルを下げる役割を果たすことになる。

情報ガバナンスに関する統合プラットフォーム「Box Governance」

 一方、Boxでは、情報ガバナンスに向けたテクノロジープラットフォームとして、「Box Governance」を提供している。

 Box Governanceでは、Boxが提供するコラボレーション、セキュリティ、コンテンツ管理機能をさらに強化でき、Office 365やSalesforce.comといった他社のアプリケーションを利用しながら、ユーザーが業務を行う能力に影響を与えることなく、クラウドコンテンツを効果的に管理するために必要な機能を提供できるとする。

 ドキュメント保持と廃棄ポリシーの管理により効率的な情報管理が行えるほか、コンテンツごとにポリシーを設定しておくことで、データ漏えいのリスクを最小化したり、不適切なコンテンツがアップロードやダウンロード、共有されることを防いだりできる。

 また、削除してもいいコンテンツだけが削除されるように設定したり、適切な人だけがコンテンツを完全に削除できるようにしたりといった機能のほか、安全だと確認された顧客やパートナーだけとやり取りをするための「ドメインホワイトリスト管理」機能、訴訟に関連するコンテンツを、無期限に、検索、監査、保持し、eDiscoveryシステムやそのプロセスに統合することができる機能も備えている。

 フロスト氏は、「Box Governanceは、情報ガバナンスに関する統合プラットフォームとして提供できること、パワフルな機能をシンプルな仕組みで提供できること、モビリティが高いことが特徴であり、さらに、ベストオブブリードのパートナーと連携して、Box Governanceを顧客に提供したり、コンサルタント企業とタッグを組んで、適切な企業に、適切な形で情報ガバナンスに関するプログラムを構築して、提供するといったことができる点も強みのひとつである」とする。

情報ガバナンス分野でのBoxの活用事例

 フロスト氏は、いくつかの事例を紹介してみせた。

 米保険会社のFarmers Insuranceでは、コンテンツマネジメントプラットフォームにBoxを採用。オンプレミスからの移行に際して、ポリシーやプロセスを刷新し、情報ガバナンスを強化。同時にOffice 365とBoxを統合し、より生産性を高めることができたという。

 「コンテンツが拡大し、複数のシステムが稼働し、管理も煩雑化していた。必要なコンテンツをシステム間で何度もコピーし、それが情報を増幅させたり、複雑化させたりする原因にもなっていた。クラウド移行によって、システムを刷新し、こうした課題を解決する狙いからBoxを採用した。単一のソースでコンテンツを管理できるようになっただけでなく、保険金の請求処理の際には、モビリティを活用することで、リアルタイムに保険金を請求できるようになった」という。

 2つめは、米国の金融機関であるRaymond Jamesである。ブローカーとディーラーとのやり取りなどの情報管理を行う際に、従来のオンプレミスでは限界があると判断。セキュリティが強固なクラウドシステムへの移行において、Boxを選定したという。

 「Boxが、Write Once Read Many(WORM)の機能を持っている唯一のテクノロジーであると判断して、採用を決めた。コンプライアンス要件を満たした形でのアプリケーションの入手と、しっかりとした情報管理ができるようになった」という。

 また国際的な金融機関では、米証券取引委員会(SEC)の厳しい要件を満たすために、Box Governanceを採用。コンプライスを満たすことができるクラウドストレージサービスとしてBoxの有効性を評価したという。「ここでは、GoogleのG Suiteを使用しており、そのコンテンツ管理ができる唯一のプラットフォームとしてBoxを評価。Box Governanceを通じて、G Suiteのコンテンツ管理を行えるようにしているのが特徴」だとした。

 さらに米国のある製造業では、機密度合いが高い製品設計において、パートナーと協業する際にBoxを採用。そのなかで緊密なコラボレーションを行いながら、製品設計を進める環境を整えたという。「ガバナンスが効いた形で、情報をタイムリーに、正しく届けることができるようになった。さらに、M&Aに関連する情報も、セキュリティの高い環境に格納。意思決定の判断に活用するといった使い方も行っているほか、米連邦政府との取引においても、Boxを利用してビジネスを行っている」という。

情報ガバナンスはメリットを得るための投資

 フロスト氏は、こうした事例を示しながら、「日本の企業は、これまで、あまり情報ガバナンスを意識する環境になかったといえる。また、米国ほどコスト削減に対する意識が高くはないため、米国企業の先進事例のようなものがなかったともいえる。米国では、さまざまな情報が侵害される事件が発生し、それを解決するために情報ガバナンスに積極的に取り組んできた。もちろん、米国でビジネスを行っている日本の企業は情報ガバナンスに対しては高い認識を持って取り組んでいる。こうした事例を参考にすることで、日本国内においても情報ガバナンスの重要性や、それがもたらすメリットを知ってもらいたい」とする。

 さらに続けて、「情報ガバナンスは、いまや大手企業だけの話ではなく、そして、海外展開をしている企業だけの話でもない。企業の規模や、海外展開のあるなしにかかわらず、すべての企業が取り組まなくてはならない課題である。どの企業であってもリスクは低減させたいと考えており、効率性を向上させたいと考えている。その点では、情報ガバナンスが効果を発揮する。またGDPRをはじめとして、さまざまな国において、情報に関する規制が強化されており、あらゆる企業がそれに準拠する必要がある。問題は、どの水準までやるのかということである。個々の企業が置かれた立場をとらえ、リスクを判断して、最適な水準で情報ガバナンスに取り組むべきである」と語る。

 だが企業によっては、情報ガバナンスを情報を守るための後ろ向きの投資ととらえがちなのも事実だ。特に中小企業の場合には、そうした発想になりがちだ。

 「情報ガバナンスは、メリットを得るための投資だと考えてほしい。小さい企業は、大企業ほどの大規模投資は必要ないかもしれないが、情報保持に対するポリシーなどの基本要件は必要になる。Boxのテクノロジーを活用することで、小さな企業においても、こうした基本的な部分を網羅でき、リスクを下げるだけでなく、生産性向上や効率化といったメリットも生まれることを理解してほしい」と呼びかける。

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 Boxは、大手企業から中小企業まで幅広く利用できるコンテンツマネジメントツールであり、情報ガバナンスのプラットフォームになると、フロスト氏は強調する。

 「情報ガバナンスは、やるべきかどうかを検討する時期は過ぎている。いまのいつやるのかということがテーマである。どの企業であっても、いつかはやらなくてはならないものになっている。情報を取り巻く規制が厳しくなっていること、ブランド棄損のリスクがこれまで以上に高まっていることも、そうした気運を高めることにつながっている。情報ガバナンスは、段階を踏んで取り組むこともできる。まずは情報ガバナンスの重要性に気がつき、マインドを変えてほしい。Boxは、そのためのお手伝いをすることができる」とする。

 情報ガバナンスに向き合うための第一歩として、Boxを活用してみるというのもひとつの手といえそうだ。