大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Oracle Global Media Dayで見た、クラウド時代の“成長戦略”

PaaS領域における自律機能の拡張、新たなサポートなどを発表

成長戦略の鍵は自律型データベース

 Oracleの成長戦略に鍵になるのが、Hurd CEOが今後の主軸に位置付ける自律型データベースである。

 Oracle Open World 2017(2017年10月開催)で発表した「Oracle Autonomous Database」は、自動稼働(Self-Driving)、自動保護(Self-Securing)、自動修復(Self-Repairing)機能を持つ、世界初の自律型データベースに位置付けられる。

 データベース開発を担当しているMendelsohnエグゼクティブバイスプレジデントは、「Oracle Autonomous Databaseで提供する自律機能は、クルマの自動運転のようなものである。パフォーマンスを最適化したEXADATEの技術、最新のデータベースであるOracle Database 18cの機能を基盤とし、そこに、AIの技術を活用して、自律化を実現した。AIによって、データベースの更新、最適化、パッチの適用、チューニングを自動的に行うことになる自律型データベースは、Oracleにとってだけでなく、業界にとっても、顧客にとっても、重要なマイルストーンになる」と胸を張った。

データベース開発担当エグゼクティブバイスプレジデントのAndy Mendelsohn氏

 ソフトウェア開発を担当するKurianプレジデントも、「一般的なITシステムでは、1ドルのソフトウェアに対して、3ドルの運用コストがかかると言われている。また、専門家がいないとソフトウェアを動かすことができないという問題もある。こうしたITシステムの根本的課題を解決できるのが自律型データベースになる」とした。

ソフトウェア開発担当プレジデントのThomas Kurian氏

 同社では2018年3月から、自律型データベースに基づくものとしては初めてのサービス、Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudの提供を開始している。

 これについて、プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのPenny Avril(ペニー・アヴリル)氏は、「Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudを活用することで、より早くデータにアクセスでき、セキュリティも向上し、さらに、コスト削減も可能になる」と、ユーザーのベネフィットを強調する。

プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのPenny Avril氏

 コスト削減とパフォーマンスの効果については、AWSと比較してみせる。

 「Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudは、AWSに比べて、同じ費用で、14倍以上の性能が発揮できる。しかもまったく手間がかからないため、管理コストを大幅に引き下げることができる。さらに、拡張性においても優れているほか、使用した分だけを支払う仕組みになっているために、これもコスト削減につながる」とした。

 また、データウェアハウス&ビッグデータテクノロジー担当シニアバイスプレジデントのCetin Ozbutun(チェティン・オズブトン)氏は、Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudのデモンストレーションを行いながら、「Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudは、シンプルであり、プロビジョニングの際にも5つの項目だけを入力すればいい。そのうちの2つはパスワードの設定である」と話す。

 「専門性が必要なく、誰もが利用できる。そして、稼働すれば自動管理され、セキュリティも保証される。また、データベースに関する長年の経験をもとに、最も高速に稼働するように設計されている。さらに、柔軟性と伸縮性を持つ点も特徴であり、CPUの数やストレージの数を自由に選定でき、スケールアップやスケールダウン、データベースの停止も瞬時に行える。データベースの領域で、これだけの弾力性を提供しているのはOracleだけである」(Ozbutunシニアバイスプレジデント)。

データウェアハウス&ビッグデータテクノロジー担当シニアバイスプレジデントのCetin Qzbutun氏
Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudは5つの項目だけを入力すれば利用できる

 AWSでは、プロビジョニングの際に、固定したビルディングブロックから選択しなくてはならないこと、実際にユーザーが利用しているワークロードで比較すると、AWSに比べて18倍ものパフォーマンスを発揮している例があること、AWSでは、常にチューニングをし続けなくてはならないのに対して、Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudでは、まったくチューニングをせずに、自動化によってパフォーマンスを維持できるといったメリットを強調。

 さらに、「AWSでスケールアップする際には、新たなクラスタを作らなくてはならず、データのすべてを既存のクラスタから、新たなクラスタに移行しなくてはならない。それらの大量のデータをコピーする作業の手間が発生する」と指摘し、自律化によって、AWSにはない多くのメリットを生んでいることを示した。

 Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudの特徴のなかでも、特に強調されたのがセキュリティだ。

 企業システムを襲う脅威の85%が、1年前に提供されていたパッチを当てるだけで回避できたというデータを示しながら、「すでに提供されているパッチを当てない企業が多いのは、パッチを当てるためにアーキテクチャを書き直したり、アプリケーションをオフラインにするなど、多くの手間がかかることが原因である。だが、Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudでは、自動的にパッチを当てることができるようになり、アプリケーションもオフラインにする必要がない」(Avrilバイスプレジデント)とアピールする。

 さらに、「Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudでは、バックアップ時も、リストア時も、データを暗号化しており、高いセキュリティを実現している。エッジにおいては、マルウェア対策もできるようになっている。パッチ、暗号化、エッジの管理という3つの観点からセキュリティを高めている」と説明した。

 Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudは、3月の提供開始以来、規模や地域を問わずに、あらゆる企業で導入が進んでいるという。欧米やアジアのほか、すでに日本でも採用されていることが明らかにされた。

 「Oracleとは関係を持っていなかったユーザー企業からの問い合わせが多いのも特徴」(同)だという。

 Oracle Autonomous Data Warehouse Cloudを導入したレンタカーのHertzでは、管理コストの低減とともに、高速性を利用して顧客に対するサービス向上でベネフィットがあったと説明。

 ミネソタ州立大学では、オンプレミスからの移行により、パフォーマンスを向上させる一方、生徒に関する情報を分析することで、退学防止など、生徒に対する指導にも生かしているという。

 今回のOracle Global Media Dayには、いくつかの導入企業も参加していたが、ラスベガス市のIT担当ディレクターであるMichael Sherwood氏は、「これまではハードウェアのメンテナンスだけで数億円の費用がかかっていたが、これを削減できた。また、職員がデータをより活用できる環境が実現できるとともに、顧客サービスに時間を割くことができるようになり、職員の仕事の仕方がプロアクティブになった。費用よりも、時間を創出できたことが重要であり、ラスベガスの街の競争力をあげることができた」と述べた。