デルが目指すソリューションプロバイダーへの道のりとは?~郡信一郎社長


 「デルが目指すソリューションプロバイダーへの道のりは、まだ半ば。これからも真のソリューションプロバイダーに向けた進化が続くことになる」――。

 デルが、ソリューションプロバイダーへの転換を掲げてから数年が経過した。だが、その取り組みを振り返り、デルの郡信一郎社長は、まだこれからが本番だと位置づける。積極的な買収戦略が続き、今年もクエスト・ソフトウェアをはじめとして6社の買収を発表。それらはいずれもソリューションプロバイダーとしての体制強化につながるものといえる。

 また、パートナー販売にも注力。以前から残る、直販型のイメージからの名実ともに脱却を目指す。一方で、日本経団連への加盟など、日本市場に根付いた展開もデルの変革のひとつと見て取ることができよう。デルの郡社長に、同社のソリューションプロバイダーへの取り組み、そしてクラウド事業への取り組みなどについて話を聞いた。

 

“ソリューションベンダーへの変化”に高い関心

――先ごろ、大阪で「Dell Solutions Roadshow 2012 大阪」を開催しましたね。7月に開催した東京での同イベントを含めて、どんな手応えを感じていますか。

デルの郡信一郎社長

郡社長:大阪でのイベント開催には大きな手応えを感じています。参加者数は昨年より2割増加していますし、非常に高い関心を寄せていただいていることがわかります。

 約4年前に西日本支社を大阪市内に設置したことで、西日本地区における成長は着実なものとなり、いい結果につながっているとは思っています。ただ、より高い成長を求める会社ですから(笑)、まだまだ成長をさせていきたい。

 東京のイベントでも感じたのですが、デルが従来のハードウェアベンダーからどうやってソリューションベンダーに変化するのかといったことへの興味が高まり、その内容をもっと知りたいというお客さまやパートナーが増えていることを感じます。デルへの関心が高まっていることの裏返しではないでしょうか。


10月12日に大阪市内で開催された「Dell Solutions Roadshow 2012 大阪」の様子

 

――デルは数年前からソリューションプロバイダーへの転換を掲げています。これはどの程度進んでいるととらえていますか。

郡社長:ソリューションプロバイダーを目指すデルが提案する「ソリューション」とはなにか。

 それは、ひとことでいえば、オープンソリューションです。すべてのレイヤーにおいて、他社製品との接続が可能であり、柔軟性を実現している。これが競合他社との大きな差別化のポイントです。

 もうひとつの特徴は、ミッドマーケットにフォーカスしたソリューションであるという点です。従業員数であれば100人~5000人の企業に対して、最も適したソリューションを用意していく。

 実は、そのようなソリューションはまだまだ少ないのが実態です。これまでのソリューションの多くは大規模企業向けのものであり、カスタマイゼーションの要素が高く、システム投資も大きくなり、運用面でも多くのIT予算を費やさなければならなかった。しかも、システム変更にも多くの費用がかかる。これらのソリューションはミッドマーケットのユーザーには最適なものではありません。

 デルが提供するのは、導入から運用、操作性などにおいても、シンプルであり、自動化されたものであり、そして運用コストも削減できるものです。そして、だからといって性能が低いわけではない。x86サーバーやストレージも、スケーラビリティを持った高い性能の製品を提供できるのがデルの特徴です。

 イコールロジックは、iSCSIの国内シェアにおいて、16四半期連続で首位となり、ますますシェアは拡大傾向にある。2012年7月には39.9%のシェアを獲得しています。このように市場から評価を得ている高い性能を有した「パーツ」同士を組み合わせて、ソリューションとして提供できるのがデルの強みです。

 ただ、それが満足できる水準にあるかというと決してそうとはいえません。例えば、企業においてITに関する課題が発生した場合に、「デルに相談してみよう」という認知度はまだまだ低い。半年前、1年前に比べると高まってはいるが十分ではない。では、その認知度をあげるにはどうするか。

 「デルはソリューションプロバイダーです」という漠然としたメッセージよりも、「デルはこの分野に強い」、「この分野が得意である」という認知の積み重ねが大切だといえます。

――得意分野はどこにフォーカスしますか。

郡社長:例えば、グローバル企業においては、世界中に散らばっているクライアントPCに対するヘルプデスク機能を一括して引き受けるといったことや、どの拠点に対しても同じ製品を同一のサービス環境で提供するといった、デルならではのグローバルインフラを活用したサービスは、ひとつの切り口だといえます。

 もちろんここでは、結果として、製造業のお客さまが多い、あるいはサービス事業者が多いということになるかもしれません。しかし、目指しているのは、業種や製品、技術というような特定の切り口から、あるいは限定した取り組みによって認知度を高めるというのではなく、こうした数々のソリューションにおける評価の積み重ねによって、デルはソリューションプロバイダーであるという認知度を高めていくことだと考えています。

 

“導入することがゴール”にならないために

――最近、郡社長の発言を聞いていますと、「デルは、お客さまと一緒に問題を解決していく」という言い方をしていますね。これはどういう意味ですか。

郡社長:これもデルのひとつの特徴だといえますが、もともとデルは、直販からスタートした会社だということもあり、多くのお客さまと直接お話しする機会を持っています。

 ただ、その一方で、お客さまが多くのITベンダーに対して持っていた印象は、どちらかというと、「ITベンダーがその解決の答えを持っているのだから、それを聞かせてほしい」というものでした。そして、ITベンダーの立場からすれば、ITベンダー側の提案はひとつであり、「これでやりましょう」という提案でしかなかったともいえます。それがベンダーロックインにもつながっていたわけです。

 しかし、いまは、ひとつの回答が万能ではなく、それはお客さま側も気がついている。企業が求める優先順位や実現したい希望も違うわけで、企業ごとに最適な回答を用意する必要があります。災害対策への関心が高まるなか、ディザスタリカバリのサイト構築でも、本社と同じものがそっくり必要なのか、それとも半分のキャパシティがあればいいのか。お客さまの優先度やニーズにあわせて柔軟に対応することも必要です。

 そうしたことを実現するために最も適した手段は、われわれがお客さまと一緒になって、なにを実現したいか、それにはどうしたらいいのかといったことを考えることだといえます。過去のように、PCが20台欲しいといわれれば、20台のPCを安く届けるだけでなく、お客さまとの話し合いを通じて、20台のPCよりも、20台のタブレットの方がいいのではないか、あるいはワークステーションを導入した方が効果が高いのではないか、といったことを提案していくことができる。これこそがソリューションプロバイダーの役割です。

 また、導入することがゴールではなくて、導入したのちによかったと感じていただけるように、継続的にサポートをしなくてはならない。これもお客さまと話をしながらでないと進まないことです。ここにデルが目指すソリューションプロバイダーの価値があります。

 先ほど、ソリューションプロバイダーとしての進ちょくはどの程度かという質問がありましたが、私はメニューの品ぞろえとしても、認知度としても、まだ道半ばであると考えています。当社のCEOのマイケル・デルも言っていますが、ソリューションプロバイダーへの道のりは長いものであり、半年や1年で終わるものではありません。

 ソリューションプロバイダーへの転換を宣言してから3~4年を経過していますが、今年1月にもマイケル・デルは、買収戦略は今後4~5年間続けていくと語っていますし、また4年を経過したら、そこでやめるとも言っていません。そうなると、道のりは、まだ5合目までいっていないかもしれませんね(笑)。

 

ほかの製品・サービスへの優先度を下げてまではクラウドに投資しない

――クラウド・コンピューティングへの取り組みが遅れているように感じます。あらためて、デルのクラウド・コンピューティングへの取り組み姿勢について教えてください。

郡社長:デルが考えるクラウド・コンピューティングへのスタンスは、他社のスタンスとは大きく異なるともいえます。

 デルとお客さまとが、ITインフラに関する最善の形を話し合うなかで、一部または多くの部分をクラウド化したいといった場合に、われわれがそれを支援できる体制を整えています。

 ここでの基本的な姿勢は、デルがクラウドサービスを直接提供することで圧倒的な差別化ができるものについては積極的にやるが、それ以外の部分については、クラウドサービスプロバイダーのインフラやサービスを活用することで解決していくことになります。

 むやみに、ほかのプロダクトやサービスに対する優先順位を下げ、リソースをクラウドに投資するということは考えてはいません。新たなクラウドサービスへの取り組みを含めて、なにが最適な投資であるかということについて、慎重に検討しています。

――デルの日本法人のなかに、クラウドの専任組織はあるのですか。

郡社長:それはありません。将来的にも設置しないというわけではありませんが、パブリッククラウドがすべての会社にとって、正しい回答ではないと思っていますし、クラウドありきの提案は行いません。

 プライベートクラウドのお客さまに対しては、さまざまなツールの組み合わせによる提案が可能ですし、デルがこれまでにも得意としてきたクラウドプロバイダーを支援するためのビジネスも従来通りに推進していきます。ただ、クラウド領域でもデルが特徴を出せる分野があります。日本への参入が遅れれば遅れるほど、強みが減っていくのは明らかですから、その点では速やかに導入しなくてはならないですね。

――すでに米国で発表され、サービスが開始されているいくつかのクラウドサービスがあります。例えば、オンデマンド仮想デスクトップのvDaaSや、モジュラー型のパブリッククラウドサービスなどですが、これらの日本での展開はどうなりますか。

郡社長:ご指摘のように、vDaaSに関しては、すでに米国ではサービスを開始していますが、現時点では明確に、いつから日本でやりますということはお答えできる段階にはありません。しかし、お客さまからご要望があれば、今後具体化していきたいと考えています。また、モジュラー型のクラウドサービスについても検討段階です。

――日本で展開するかどうかの基準はどんなところにありますか。

郡社長:どんな形のクラウドが、デルがご支援したいお客さまに当てはまるのかということに尽きると思います。もともとクラウド・コンピューティングという意味では、パブリッククラウドが注目を集め、当初は「パブリッククラウド=クラウド・コンピューティング」と言われた時期さえありました。

 しかし、デルがお客さまのお役に立てる形で提供できるクラウドはなにかということを考えると、それは、パブリッククラウドというよりも、プライベートクラウド寄りなのではないかともいえます。なんでもかんでもそろえるというのではなく、デルがターゲットとする日本のお客さまに対して、適正なサービス、適正な料金体系を提案し、どこまで現状のITシステムを補完できるかといった観点から展開していくことになります。

 いずれにしろ、こうした新たなクラウドサービスを開始する時期については、今年度中というものはありません。デルの来年度以降(2013年2月からの同社新年度)での話になります。

――来年度以降は、クラウド環境において、具体的にはどんなソリューションを提供することになりますか。

郡社長:まずはITセキュアの分野での強化を図っていきたいということになります。ここはなるべく早く、サービスとしてご提案していきたいと考えています。

 

買収企業のソリューションではSecureWorksに期待

――デルでは、ここ数年、積極的な買収を進めています。いまこのなかで最も早く日本で展開したいものはなんですか。

郡社長:セキュリティ監視ツールの「SecureWorks」ですね。これは、お客さまからのご要望が非常に高いソリューションです。まだまだ新しい分野ですし、これから注目を集める領域です。

 この分野において、米本社が持つケーパビリティは競合他社と比べても非常に高い水準にあると判断しています。ぜひ、これは早いタイミングで日本の市場に投入していきたいと考えています。

――デルの買収戦略はいまどんなフェーズにあるのですか。

郡社長:この3、4年の買収戦略を見てみると、整理されたステップを踏んでいることがご理解いただけるのではないでしょうか。

 まず、買収の対象としていたのは、データの保管、保護を行うためのストレージの領域です。EqualLogicやCompellentといったストレージベンダーを買収し、世の中で爆発的に膨れ上がるデータ量の拡大に対応できる地盤を構築しました。

 次に取り組んでいるのがクラウド・コンピューティングです。ここでは、クラウドサービスプロバイダーに対して、プラットフォームの構築支援を行う体制の強化や、デルがクラウドサービスを提供する際のインフラ強化、そして、クラウドを活用したいとする際に、お客さまが持つセキュリティに対する課題を解決するソリューションなどをそろえてきました。

 今年に入ってからの買収は、これらの取り組みをさらに一歩進めたものになります。いま、お客さまがオンプレミスからクラウド環境に移行したいという場合に、それらが標準技術に対応していないために、クラウドに移行できないという課題が発生しています。そうした悩みを解決するための、いわゆるアプリケーションモダナイゼーションを提供する体制の強化などが対象となっています。

 クラウドとオンプレミスとのつなぎ目、あるいはクラウドの運用といった観点が、買収のフォーカスポイントとなっています。ここ数年は、積極的な企業買収が相次ぎましたから、脈絡なく買収しているように見えるかもしれません。しかし、ひとつの流れ、方向性の上で買収戦略を推進していることになります。

――日本で生かすことができる買収と、そうではない買収とがありますね。

郡社長:買収のなかでもヒューマンリソースを中心として取得したものは、日本に拠点があるのか、ないのかによって、影響度は大きく変化しますね。例えば、Perot SystemsやSecureWorksは、そうした傾向が強いです。

 また、ハードウェアやソフトウェアは順次、日本語化対応を図りながら、日本市場に向けて製品を投入したり、それに必要とされるサポート人員を育成したりしていくということを、同時並行的に行っています。

 大切なのは、日本の市場にそれを提供することで、日本のお客さまにどれだけ価値を提供できるのか、また、デルにとってみれば、どれだけの差別化ができるのか、ビジネスとして早期に拡張できるのかという点です。広く浅く展開しても、競争力は発揮できません。強いイメージも醸成できない。

 デルの日本法人が、リソースを大きく割けるものでなくては、成功するものも成功しないと考えています。本社の全社戦略をもとに、それが日本にどれだけ当てはまるのかをとらえるとともに、日本における競合関係を踏まえ、その上で、日本に製品、サービスを投入していきたいと考えています。


戦略的な企業買収を実施してきたデルの製品ポートフォリオ

 

経団連への加盟の理由は?

――ところで、デルは、2012年9月に日本経済団体連合会(経団連)に加盟しましたね。現在、業界団体であるJEITA(電子情報産業協会)にも加盟していないデルが、経団連に加盟した理由はなんですか。

郡社長:これは、前任のジム・メリットのときから検討をしていたものでした。しかし、経団連の社長出席の会合などが、すべて日本語で行われるといったこともあり、検討止まりだった経緯がありました。

 昨年7月に、私が社長に就任し、経団連加盟について引き続き検討を行い、その結果、入会を目指すべきであると決め、入会審査を受け、今回の入会に至った次第です。

 デルの日本法人は、来年で創業20周年を迎えます。そして2000人の正社員が日本にいます。これからも、日本の社会に根ざし、貢献していく役割を果たしていきたい。そうした姿勢を社内外に示すという意味もあります。委員会活動を通じて当社がなにか貢献ができたり、その一方で当社が得られるものがあったりするのではないか、という期待もあります。

 それと、これは、先ほどお話ししたように、私の性格でもあるのですが、幅広く多くの団体に加盟するのではなく、絞り込んでそこで効果を最大限に発揮するというのがいいと考えています。団体への加盟を経団連に絞り込んでいるのもそのためです。

 

コンシューマライゼーションのトレンドが日本にやってくる

――Windows 8が発売されましたが、Windows 8時代におけるデルの強みはどこに発揮されますか。

郡社長:Windows 8の発売によって、大きな変化が起こるのではないでしょうか。特にWindows 8の発売とともに、コンシューマライゼーションのトレンドが日本にやってくるのは明白です。そうしたなかにおいて、コンシューマ視点で開発したエンドユーザーデバイスと、法人環境においてITを管理する立場を知るという両方の視点を持った数少ない会社のひとつがデルだといえます。その経験と視点が、コンシューマライゼーションの世界において強みになると考えています。

 また、Windows 8は、コンシューマ向けタブレットで先行した形状やタッチ入力が、PCユーザーの大半を占めるWindows環境でも利用されるようになるという点でも大きなインパクトがあると考えています。

――この下期は、デルの日本法人にとって、どんな点が重点ポイントになりますか。

郡社長:もちろん、四半期ごとの売り上げ、利益の目標達成に向けては確実に実行していくことになります。

 一方でPCなどのハードウェアを軸とした事業に加え、ソリューション領域への投資を増やしていきたい。繰り返しになりますが、短期的にはソリューションプロバイダーとしての認知を高めていく上で、漠然とした認知ではなく、絞られた分野での認知を高めたいと考えています。

 一方で、チャネルパートナーを通じた販路を、直販との両輪として強化していきたい。お客さまの立場からすれば、いまお付き合いをしているチャネルパートナーの方が、デルよりも気心が知れていて、相談しやすいという場合もある。こうしたお客さまに対しては、デルが直販をしないという選択肢もあります。

 また、買収した会社が日本で事業を展開している場合、その多くが間接販売を行っています。買収した企業を通じて、新たなチャネルパートナーシップを得られる利点もあります。買収戦略は、ソリューションを拡充し、パートナーシップを拡充する意味でもプラスになってくると考えています。

 ここ数年の数多くの買収によって得た製品のなかには、デルのロゴが定着しはじめたものもあるが、まだ旧来のロゴの方が、認知度が高いものもあります。幅広い製品に対して、デルの製品であるということを定着させていくことも、今後の重要な取り組みのひとつだととらえています。

関連情報
(大河原 克行)
2012/11/22 06:00