「クラウドを特別なものでなくしたい」~アマゾンデータサービスジャパン・長崎忠雄社長


 「バズワードとしてのクラウドから、リアルとしてのクラウドへと進化していることを実感している」と切り出すのは、アマゾンデータサービスジャパンの長崎忠雄社長。続けて、「大企業から中堅・中小企業、スタートアップ企業に至るまで、さまざまな企業がAWSに高い関心を寄せている」と語る。

 2011年3月に稼働をはじめた東京リージョンのデータセンターも最速の勢いで成長しており、日本においてAWS(Amazon Web Services)の活用がさらに促進されていることを裏付ける。「より多くの選択肢を提供し、お客さまの成長を支援する企業を目指す」とする長崎社長に話を聞いた。

 

バズワードを脱したクラウド

――昨今のクラウドに対するユーザー意識の変化を、どうとらえていますか。

アマゾンデータサービスジャパン株式会社 長崎忠雄社長

長崎社長:クラウドは、さまざまなお客さまにとって、ますます無視できないものになっています。その背景にあるのは、クラウドの価値が、いままでとは大きく変化してきているからだといえます。

 初期投資が不要であるとか、使った分だけ支払えばいいといったコスト面のメリットだけでなく、開発スピードや、製品およびサービスの発表やビジネスそのものを加速できること、さまざまなひらめきを実験できるといったことが多くの人に理解されはじめてきています。

 そして、これが大手企業だけの話ではなく、小さな企業に至るまで無視できないものになっている。これまでは大きなコンピューティングパワーを利用できるのは大手企業だけに限られていた。これがクラウドによって敷居が取り払われ、企業規模に限らず、必要なリソースを調達できるようになりました。これは社会にとって大きな変化であり、画期的なことです。

 昨年までのクラウドは、バズワードとしての側面が強く、導入にはまだ様子見といった企業が多かったと思いますが、昨年後半に入ってから、クラウドをリアルに活用していこうという動きが、実感としてとらえられるようになってきました。依然として、先進的なCIOやCTOがいる企業、現場で使い始めてボトムアップであがっていくという、どちらかのケースが多いのは確かです。

 しかし、元気のある会社も、残念ながらいまは元気がなくて改革を起こさなくてはならない会社も、クラウドは武器になる。そうしたことが世の中に理解されてきたといえます。

――なにかきっかけがあったのでしょうか。

長崎社長:われわれのサービスという観点からみると、昨年3月に東京リージョンと呼ぶデータセンター群が日本に設置され、AWSに興味を持つお客さまが増加したということがあげられます。

 どの企業も持っているすべての資産を、一気にAWSに持ってくるというのは現実的ではありません。最初はどんなものかという手探りの状態からはじまり、使っているうちに、こんなこともできる、あんなこともできるということになってくる。お客さま自身が理解を深め、一歩踏み出すお手伝いをしたことで、日本における利用が増加していると感じています。

 その裏付けのひとつとして、こんなデータがあります。当社は世界で8カ所にリージョンを持っていますが、東京リージョンにおける初年度の成長は最速なのです。これは飛躍的ともいえる速度です。それだけ、日本のお客さまに受け入れられているといえるのではないでしょうか。

 一部のお客さまからは、「本当にクラウドって利用されているの?」と聞かれることもあるのですが、私から言えることは、「すさまじい勢いで利用されていますよ」ということですね(笑)。

 当社では、データセンターを東京につくり、お客さまにおけるレイテンシを縮め、さらに会社の姿勢として、お客さまの声を聞きながら、サービスをどんどん追加していくというところに注力している。これが、お客さまに受け入れられている背景だといえるのではないでしょうか。

 

DRやバックアップ用途での利用は増加している

――日本では、東日本大震災以降、ディザスタリカバリやBCPの観点からもクラウドに注目が集まっているという声も聞きますが。

長崎社長:当社の場合、数字の観点からはそれが判断しにくいところがあります。というのも2011年3月に東京リージョンをスタートしており、東日本大震災以降の影響が算出しにくいからです。

 ただ、ディザスタリカバリ(DR:災害対策)やデータバックアップという観点で活用するお客さまが増えているのは事実です。当社の世界8拠点のリージョンを利用して、あえてブラジルにバックアップを置きたいというような使い方も出ていますし、またその一方で、海外のお客さまが東京にデータを置きたいという場合もあります。

 われわれは一切、データには触りませんから、お客さま自身でどこに置きたいといったことを指定できる。こうした柔軟性もAWSの特徴のひとつだといえます。

 

セキュリティとコスト、タイム・トゥ・マーケットなどがメリット

――日本での先進的な導入事例にはどんなものがありますか。

長崎社長:例えば、東芝メディカルシステムズでは、医療機関で撮影したエックス線やCT、MRIなどの画像データの保存を、Amazon S3で行っています。

 これはセキュリティという観点でAWSが評価されている事例のひとつだといえます。AWSでは、セキュリティ確保を最優先課題とし、こここそが「命綱」だと考えています。セキュリティに関してはお客さまの要望が異なりますから、それを突き合わせながら実現しています。東芝メディカルシステムズの医療情報は個人情報の最たるものですから、それに耐えうるサービスとしてAWSが選択されたというわけです。

 一方、東京証券取引所では、Oracleの開発をわれわれのサービス上で行い、コストを10分の1に削減したり、アンリツではSAPのアップグレードをAWS上で行い、開発期間を6カ月に短縮するとともに、コストも削減できたといった例があります。

 コストメリットに加えて、タイム・トゥ・マーケットという観点でも劇的に短縮できるメリットがあります。一方で、ソーシャルアプリケーションプロバイダーのgumiのように、急成長している企業のインフラとしてAmazon EC2が活用されているという例も出てきています。

――SAPがAWS上での実装がベンダーによって認証されるなど、基幹システムの活用においても、AWSが注目を集めていますね。

長崎社長:こうした動きによって、AWSに対するお客さまの認識が変化してきているのではないでしょうか。

 そして、クラウドそのものに対する認識も変化していると感じます。エンタープライズアプリケーションを実装するお客さまは確実に増加しています。もちろん、お客さまにおいては、徹底した検証が必要ですからどうしても時間がかかります。しかし、着実にプロジェクトは進行しています。

 パートナーエコシステムにおいては、SAPやOracle、Microsoftといったグローバルのソフトウェアベンダーとタイトな関係を構築していますし、日本においては、国産ソフトウェアを実装するといった取り組みも行っています。例えば、国産ERPのワークスアプリケーションズとの連携によって、AWSで開発環境を構築できるようにしています。

 

かゆいところに手が届くサービスを提供する

――日本のユーザーならではの要望というのは感じますか。

長崎社長:それはあまりないですね。当社のDNAは、顧客フォーカスであり、そして、イノベーションに対してもフォーカスしているという点です。お客さまの声を聞いて、お客さまが求めているものをいち早くサービスとして提供することに力を注いでいます。

 これが当社の強みひとつです。実際、昨年1年間だけで82もの新たなサービス提供およびサービスの拡張を発表しています。2012年もすでに61の新サービスおよびサービス拡張を実現しています。そうしたものを出した場合にお客さまから言われるのは、「かゆいところに手が届くサービス」(笑)、あるいは「こういうものが欲しかったんだ」という言葉なのです。

 AWSでは、先を読みながらどんどん新たなものを出していく。これを実現できるのは、世界中で展開し、世界中のお客さまからの声を聞いているからだといえます。

 このなかには、日本のお客さまの声を反映したものもありますが、日本だけの固有サービスというものは存在しません。ただ、サポートについては、品質に対する日本のお客さまの要求レベルが高いですから、24時間365日の日本語によるサポートを開始しています。この体制は英語圏以外では日本だけです。日本のお客さまにサービスを使っていただき、サービスに対する満足度を高めていただくという点で、こうした体制を構築しています。

 また、細かいご要望に対しては、パートナーによるエコシステムによって対応することも行っています。パートナーに補完していただくことで、お客さまに対してよりよい形でサービスを展開できるという点も当社の強みのひとつです。

 これによって、われわれが直接できない領域にも踏み出していける。オンプレミスからクラウドへのマイグレーションの部分は、当社は単独では行いません。そこにSIerとの連携の意味があります。こうした案件に対して、お手伝いしていただけるパートナーの数も増加傾向にあり、現在、約80社のソリューションパートナーが日本にあります。この1年で2倍以上に増加している計算です。クラウドを専業で展開しているパートナーや、大手SIer、ISVも増加しています。

 特に、ここ1年ほど、国産ソフトウェアベンダーからもパートナーシップに関して、多くの引き合いをいただいています。その点ではうれしい悲鳴だといえます。

 

AWSならではの3つの強み

――あらためてAWSの強みをあげていただくとすると、それはどんな点になりますか。

長崎社長:大きく3つあります。

 ひとつは、いま申し上げたイノベーションと顧客フォーカスの姿勢です。お客さまの声を聞いて、それをサービスに生かしていくという点ですね。イノベーションなくして、われわれの未来はない。そうした姿勢でサービスメニューの強化、拡充に取り組んでいます。

 2つめが、効率性です。トラディショナルなITベンダーとは、ビジネスモデルが決定的に違います。AWSは、もともとは(大規模なネット通販の)Amazon.comから派生していますから、ローマージン、ハイボリュームという姿勢が前提となっている。少ないマージンで、お客さまに還元していくという姿勢を、クラウドサービスにもそのまま持ち込んでいるのが当社のやり方です。

 それを維持するために、あらゆる面で、ほかの企業とは違うやり方をしていかなくてはなりません。サプライチェーン、調達の仕方、運用の仕方などがまったく異なる。規模の追求という点でも、われわれが拡張し続けることで、価格が下がり、お客さまに還元できる。これは当社ならではのものです。

 そして、3つめには柔軟性です。あらゆるアプリケーション、プログラム言語を持ち込んで活用していただけるのがAWSの特徴であり、いまお使いのアプリケーションをすぐにAWS上で展開できる。いままで活用しているエンジニアの技術をそのまま活用できる点は、大きなメリットだといえます。

 調査会社のIDCが、10社以上のユーザー企業を調査したところ、AWSを導入することによって、ROIが626%に達したという結果が出ました。また、使えば使うほど、コストメリットが享受できるという結果も出ています。36カ月間使用した際には、1ドルの投資に対して、3.5ドルのリターンがあるが、60カ月間利用した場合には8.4ドルのリターンがあると。

 ただ、IDCが指摘しているのは、単にコストメリットがあるということだけでなく、期間を短縮できるという速さのメリットがある点であり、ここにもAWSの強みがあります。開発に2年も3年もかけていては、国際競争のなかで勝つことができない。AWSでは、それに対するお手伝いができる環境が整っているといえます。

――AWSというと、どうしてもAmazon EC2が前面に出てきますが、それ以外にもさまざまなサービスを展開しています。この点ではどんな強みが発揮されていますか。

長崎社長:ここでは2つの観点でお話しできます。ひとつは、規模の観点からの強みですね。もうひとつは選択肢の広がりという観点からの強みです。

 お客さまに申し上げているのは、「必要なサービスを使ってください。そのためにわれわれはサービスを拡張し続けます」ということなんです。いま、30近いサービスメニューがあります。もちろん、これらのすべてをお使いいただくことが理想ですが(笑)、なかなかそうはいかない。

 しかし、お客さまが必要なものをブロックのような形で組み合わせていただけるような環境をわれわれは提供しています。当社のロゴを見ていただくとわかるのですが、ブロックのように積み重なった図柄が描かれています。まさにブロックのように自由に積み重ねてくださいということなのです。

 

もっとも伸びているのはストレージサービス

――いま、AWSにおいて、最も成長しているサービスはなんでしょうか。

長崎社長:ストレージサービスは非常に伸びています。そこでは堅牢性の高さが評価されています。ストレージサービスであるAmazon S3の標準ストレージは、99.999999999%の堅牢性と、99.99%の可用性を提供できるように設計されており、また、世界中に広がるネットワークを活用し、2つの施設における同時データ喪失を防げるように設計されています。

 実際、グローバルレベルでファイル共有を提供している企業のサービスインフラにもS3が採用されており、この実績もお客さまの安心感につながっています。また、データベースサービスも注目を集めており、No SQLのAmazon DynamoDBも成長していますし、クラウドフロントと呼ばれるコンテンツ配信サービスに対する関心も高まっています。

――最近では、新たなサービスとしてAmazon Glacierを発表していますね。

長崎社長:Glacier(氷河)という名称を付けたこのサービスは、Amazon S3で提供している堅牢、安全、低価格というコンセプトを維持したまま、新たに提供するアーカイブ・ストレージソリューションです。

 アクセスをほとんどしないが、保管しておかなくてはならないデータというものが多くの企業に存在します。デジタルメディアアーカイブや財務情報、医療記録、ヒトゲノムデータなど、長期間のバックアップや法規制の順守のために保管しなければならないデータなどがそれに当たります。しかも、そのデータは年々増加する傾向にある。それを高価なストレージにとどめておくというのは効率的ではありません。

 また、これまではテープによるバックアップをとっていたが、時間も、工数もかかるという課題があった。こうした企業に対して、圧倒的に安い価格でご利用いただくのがこのサービスの狙いです。

 発表後、多くのお客さまから問い合わせをいただいています。Amazon S3をお使いいただいているお客さまからも、こうしたサービスが欲しかったという要望が出ていましたし、新規でAWSの導入を検討しているお客さまからも要望がありました。

 既存のお客さまに対する満足度の向上やサービスの拡張といった観点とともに、新たな顧客層を開拓するという点でも有効なサービスだといえます。サービスの幅が広がりますし、エンタープライズユーザーにミートするサービスだと考えています。

 

心理的バリアをいかに取り除くかが課題

――AWSにおける課題とはなんでしょうか。

長崎社長:これはクラウド全体にいえることですが、お客さまにおける心理的バリアをいかに取り除くかということです。これまで積み上げてきた経験と、何100ものアプリケーションが稼働しているなかで、それらをクラウドに移行するのはそう簡単なものではありません。しかし、その心理的バリアを取り除く材料はいくつもあります。強固なセキュリティやいくつかの接続形態を提供していることもそのひとつです。

 また、これまで開発されてきたアプリケーションは、クラウドのようなホリゾンタルスケールで作られたものではありませんので、スムーズに移行しにくいという点も課題でしょう。しかし、一度クラウドを活用していただき、サーバーが数分で調達できる経験をしただけでも、これまでの情報システムの常識を覆すものになります。そうしたことも、クラウドへの理解を高めることにつながるのではないでしょうか。

 AWSに関して、悩みをひとつあげるとすれば、あまりにも短期間に数多くのサービスの提供、拡張するものですから、認知度を高める点が追いついていかない。これは大きな反省事項です。

 お客さまのところにお邪魔すると、「そんなことまでやっていたのか。なんで早く言ってくれないんだ」とおしかりを受ける。1年前、2年前からAWSをお使いいただいているお客さまが、当時はなかったサービスが、今年になって提供されているということもあるのです。

 ひとつひとつのサービスを、お客さまのところに浸透させていくということに力を注がなくてはなりません。お客さまのところにお邪魔した際には、とにかくあらゆるサービスをご紹介しようと(笑)。いまは、知っていただく努力をしています。

 現在、アマゾンデータサービスジャパンでは、急速な勢いで社員を増やしています。営業、ビジネスデベロップメント、アライアンス、マーケティング、サポートとあらゆる部門において増員を図っています。ようやく、日本のお客さまとお話ができる土台ができ、パートナーとの連携をより強化するための体制が整いつつあるといえます。

 いま数1000社のお客さまにサービスをお使いいただいていますが、リソースの関係もあり、まだカバレッジの範囲が関東圏内に限られています。今後は、西日本エリアへの展開が鍵になると思います。こればぜひやっていきたいですね。

 リアルに人がいることで伝わることもありますし、クラウドのメリットを正確に知っていただく努力も必要です。現時点で、西日本地域に拠点を設置するという具体的なプランはありませんが、視野には入れなくてはならないものだと考えています。これもお客さまの声に応じて対応していきたい。

 

クラウドという言葉を特別なものでなくしたい

長崎社長:私は、最終的には、クラウドという言葉が特別なものではなくなるという世界の実現を目指したいんです。

――それはどういう世界ですか。

長崎社長:いまは、パブリッククラウドとか、プライベートクラウドというような言い方をされていますが、いまのわれわれのサービスメニューを見てもわかるように、だんだんそうした敷居がなくなってくると考えています。

 Amazon VPCのようなダイレクトコネクトサービスでは、お客さまのデータセンターとシームレスに接続するといったことが可能ですから、パブリッククラウドとプライベートクラウドとが融合していくことになる。中長期で物事を見た場合には、こうしたことが当たり前になってくるでしょう。

――ここにおいて、アマゾンデータサービスジャパンはどんなポジションを担うことになりますか。

長崎社長:それは、お客さまの代わりにイノベーションを続ける会社であり、結果として、それがお客さまのコスト削減につながる、開発スピードの向上につながる、そして、これまでできなかったようなことができるようになる。

 AWSを使うことによって成功できるようになり、1年かかっていた新規事業の立ち上げが、半年でできるようになるといった点でも貢献したい。そうした事例をどんどん生み出したい。業界のリーダーになるということよりも、お客さまのお役に立つということが最大の目標です。

 世の中のスピードはこれからますます速くなるでしょう。これまでのビジネスのやり方や、システム構築のやり方のままでは通用しない部分も出てくるでしょう。ここにAWSを適用してもらいたいと考えています。

 

優秀な人材の採用を通じてお客さまの声を聞いてきた

――長崎社長は、2011年8月にアマゾンデータサービスジャパンに入社し、2012年2月から代表取締役社長に就任しました。社長就任から約半年を経過し、どんなことに力を注いできましたか。

長崎社長:フォーカスしてきたのは、優秀な人材の採用ですね。組織をしっかりと作るという部分に、かなりの力を注いできました。

 AWSをあらゆる層のお客さまに使っていただくためにどうするかといったことに、社員と一緒になって取り組んでいます。

 そのためには、お客さまの声を聞かなくてはいけない。社員が増えたことにより、お客さまとのタッチポイントが増え、お客さまがなにを望んでいて、どんな点に悩んでいるのか、ということがより深く理解できるようになったことは大きいですね。

 これが東京リージョンの成長が最速であったという実績にもつながっていると思います。中堅・中小企業から大企業に至るまで、AWSに対する認知度が明らかに高まっているという実感もありますし、こうした体制強化によって、安心感を提供することにもつながっているのではないでしょうか。組織の強化にはこれからも継続的に取り組んでいきます。

 この1年でエンタープライズのお客さまへのフォーカスが強まったことも、取り組みの成果のひとつといえるのではないでしょうか。多くのエンタープライズユーザーにお邪魔し、お客さまが持つセキュリティ、信頼性と同等、あるいはそれ以上のものを提供できるといったように、開発フェーズから運用までの広がりに加え、セキュリティや信頼性に対するわれわれの考え方、グローバルに展開する強みをお伝えできたと思っています。それが担保できなくては、われわれはビジネスができません。これからも、「もちはもち屋」ということをあらためて訴えていきたいと考えています。

 このビジネスにかかわっていて面白いと感じるのは、日本の企業の国際競争力を高めるお手伝いができることだといえます。われわれが提供しているITインフラを活用していただくことで、お客さまには、コアコンピタンスの部分にフォーカスしてもらえるようになる。手間がかかり、お金がかかる部分を、「もちはもち屋」としてお任せいただき、お客さまには、アプリケーションの作り込みや、タイム・トゥ・マーケットにフォーカスしてもらいたい。

 実験を繰り返してもらうことで、スピードを高め、チャンスをつかむ頻度を高めることができるという活用も見逃せません。そして、これらを、企業規模を問わずに提供できる。私は、閉塞(へいそく)感が漂う日本の社会のなかで、日本人として、その下支えができないかということを常に考えています。世界規模のインフラは、日本企業が世界進出する際にお手伝いができますし、そうした提案をもっと加速していきたいですね。

 

これまでもこれからも顧客フォーカスにこだわる

――長崎社長が経営者としてこだわっていきたい部分はどこですか。

長崎社長:ひとことでいえば、顧客フォーカスです。お客さまの声があって、初めてわれわれのサービスはよくなります。お客さまはどう考えているのか、それに対して社員はどう考えているのかということを見極めていく必要がある。

 エンドユーザーやSIer、ISVに使っていただくためには、机上だけで作られたものでは無理です。お客さまと直接話すことで、われわれが気がつかなかった「気づき」というものが出てくる。

 AWSで発表したサービスも、お客さまの声をもとに開始し、それを知ったお客さまから「いいものを出してくれた」という声をいただき、間違っていなかったということが理解できる。それによって、また次につなげることができる。お客さまに教えられ、勉強してきた結果だといえます。当社には、顧客中心主義というものがあります。これを実践していくことが必要です。

――長崎社長が社員に対して言っていることはどんなことですか。

長崎社長:AWSのビジネスはスタートしたばかりですし、クラウドも新たな分野です。そうしたなかで、われわれが歴史を作って行こうということを社員に言っています。道なき道に、道を作っていきたい。会社のモットーは、「Work Hard, Have Fun, Make History!」です。その点では、AWSは、入社前から私が感じていたことと、くしくも同じことを言っていたわけですが(笑)。

 AWSは、新たな先進的なテクノロジーを創造しながら成長をしている。われわれがお客さまの代わりにInventしながら、お客さまを支援していく体制が確立されている。そして、あらゆるお客さまに使っていただけるサービスが用意されている。それをお届けするためになにをすべきか、ということを社員一同が考え、努力することが必要だといえます。

――アマゾンデータサービスジャパンはどんな雰囲気の会社なのですか(笑)

長崎社長:ひとことでいうと非常に明るい会社ですね(笑)。そして、本当にWork Hardですね。みんな一生懸命働いている。結果にこだわり、歴史を作るという思いが強い人が集まっている。もともとAmazon.comという会社は、ほかの会社とは文化が違うところがあります。例えば、ローマージン、ハイボリュームの会社であるということ、そして、スピードの速さも違う。しかもお客さまの幅が多岐にわたる。私にとってはやりがいがあり、面白い仕事ですよ。

 AWSでは、これからも革新的なサービスを数々提供していくつもりです。つまり、お客さまにとっての選択肢も広げていきたい。「ブロック(=サービスメニュー)」の数を増やして、チョイスの幅を広げ、AWSを活用する敷居を下げたいというのが私の思いです。

 9月13日、14日には、東京において、「AWS SUMMIT TOKYO 2012」を日本で初めて開催します。ここでは、2日間で約2000人の来場者を見込んでおり、今後のAWSの方向性を示すことになります。1日目は「GO Global」をテーマにセッションを行い、2日目は「Go Enterprise」として、われわれが提供しているサービスはエンタープライズレディであることを訴求します。このイベントは今後も日本で継続的に実施するつもりです。

 また、11月27日からは、米ラスベガスにおいて、初のワールドワイド・カンファレンス「AWS re:Invent」を開催する予定です。こちらへの参加申し込みも日々増え続けている状況です。

 今年はクラウドがリアルに使われ始める年であり、エンタープライズユーザーでも活用が広がってきた。この動きをますます加速させていきたいと考えています。

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