大河原克行のキーマンウォッチ

なぜデルは成長を遂げているのか、そして、クラウド戦略はどうなるのか?~デル・郡信一郎社長に聞く

 デルが日本のIT市場において存在感を増している。ガートナージャパンの調べによると、2013年の日本におけるデルのPCシェアは10.3%となり、4位に浮上。市場全体の成長を大きく上回る伸びをみせている。また、エンタープライズ領域においても、サーバー、ストレージなどのハードウェア製品に加えて、デルソフトウェアによるソフトウェア製品の強化によって、ソリューションプロバイダーとしての位置づけをさらに強固なものにした。

 非上場化したことでデルはどう変化したのか、そして、2月から始まった同社新年度の取り組みはどうなるのか。クラウドへの取り組みを含めて、デルの郡信一郎社長に話を聞いた。

「逆襲」の成果をみせた2014年度

デル・郡信一郎社長

――2014年1月で終了したデルの2014年度(2013年2月~2014年1月)は、デル日本法人にとって20周年という節目の1年でもありました。振り返るとどんな1年だったのでしょうか。

 デルは、2014年度にクライアント、エンタープライズ、サービス、ソフトウェアという4つの事業体制に変更しました。その体制をベースとして、我々が、意図した通りの戦略を遂行できたのでないかと考えています。慢心するつもりも、100%満足するつもりもありませんが、アグレッシブに行きたい、逆襲したいという姿勢は、掛け声だけで終わらなかったと自己評価しています。

 PC市場はWindows XPからの買い替えという追い風はありますが、シェアを伸ばすという形で、結果を出せたのは、我々が目指しているものが、市場の流れに合致したのではないかと考えています。

――郡社長は、2014年度がスタートする時点で「逆襲」という言葉を掲げましたね。その成果は?

 逆襲しつくしたかどうかはわかりません(笑)。しかし、逆襲しつつあるとは実感しています。ひとつのバロメータは、シェアですね。国内でのシェアは着実に上昇しています。私は、お客様から「デルは守りに入っている」とは見られたくない。ITにしろ、ほかの製品にしろ、あまり元気がない会社からは製品を購入したくないですよね(笑)。2014年度は、デルは「攻めている」、「前のめりに取り組んでいる」という印象を持ってもらうことができたのではないでしょうか。

 革新的な製品を出し、ソリューションの幅を広げ、そしてシェアを高めている。例えば、2014年度から日本でスタートしたSecureWorksの国内売上高は、すでに事業計画を上回っています。具体的な数字はいえませんが、これまで米国外で最も高い成長を遂げていたのが英国なのですが、日本はその3倍のスピードで成長しています。新たな組織体制の中では、SecureWorksは日本の市場においてどう差別化ができて、そのためにはどう投資をするのかということがより明確になり、この体制の成果が数字につながっているのは確かです。

 とはいえ、デルはITセキュリティコンサルティングが強い、あるいはこの分野でトップであるというイメージは、日本ではまだ定着していない。これは課題のひとつです。デルは、5年前から大規模な変革に取り組んでいます。社内では、その変革に対して、前向きに捉え、社員満足度の高い水準を維持していましたが、シェアが下がっているのに「デルは元気だ」とはなかなか認めてもらえなかった。革新的な製品が登場し、シェアが高まったことで、外部の方々からも「デルは元気だ」ということをご理解いただけた1年だったのではないでしょうか。

――5年前からデルが掲げていたのは、「ソリューションプロバイダーへの変革」です。これが、製品面からみて、かなり揃ってきたというのも、2014年度のポイントのように見えますが。

 SecureWorksによって、いままでにないサービスを提供し、また、いままでにはなかったデルブランドのソフトウェア製品群をラインアップできたという点では、ソリューションプロバイダーとしての「ブロック」は埋まってきたといえるでしょう。いままで以上に製品開発に投資をしていますし、それが統合インフラのPowerEdge VRTXを投入するなどの動きにもつながっています。

 しかし、ソリューションプロバイダーへの変革はまだまだ道半ばです。日本の市場をみても、サービス事業はさらに拡大できる、ソフトウェア事業もさらに広げることができる。スターティングブロックが揃ったのが2014年度だとすれば、事業を率いる立場から見て、これからはさらに面白くなるのが2015年度であると考えています。

 また、4つの事業を、いかに融合した形でソリューションとして提供できるのかといったことをもっと推進していかなくてはならないと考えています。この観点では、VDIソリューションはうまく行っている例のひとつでしょう。お客様にとってのメリットを提供できる組み合わせといったものを、もっともっと提案したい。それが2月から始まった2015年度のポイントだといえます。

ソフトウェア事業で幅を広げたデルのビジネス

――デルソフトウェアとしてブランドを統一し、管理ソフトウェア、セキュリティソフトウェアのラインアップも揃ってきましたね。

 デルソフトウェアとして、大企業から中堅、中小企業までカバーできる、多岐に渡るポートフォリオを用意しています。ソフトウェアによって、デルの特徴を打ち出すという姿勢も明らかになってきました。これらの製品群によって、日本のお客様の環境にあわせ、どのお客様にはどのような製品が一番受け入れられやすいかというような、スイートスポットを捉えた提案をしたい。業種向け提案や、企業規模に最適化した提案にも踏み出したい。2015年度は、このメリハリをつけていく考えです。

 デルソフトウェアとして、デルの直接営業部門が販売した期間は、まだ、わずか半年です。2015年度は、ソフトウェア製品で大きな成長を遂げたいと考えていますから、それに向けた体制づくりにも力を注いでいきたいですね。

 また、これまでソフトウェアは販売していたが、デルのハードウェアは販売したことがないというパートナー会社も少なくない。これは、ソフトウェア事業の買収によって、新たなパートナーが増えていることが背景にあります。また、ハードウェアは扱っていたが、これからはデルソフトウェアをぜひ扱いたいと、手をあげていただいているパートナーもいる。パートナーとの関係をさらに強固にするという動きもこれから重要な取り組みです。

 さらにデルソフトウェアはマルチベンダー対応ですから、なにかしらの理由があって、デルのハードウェアは導入していないというお客様も、デルのソフトウェアは導入したいという動きもでています。ソフトウェアから、デルとのお付き合いがはじまるきっかけになるともいえます。

 デルにとってソフトウェアビジネスは始まったばかりですから、成長力は未知数な部分があります。一気に何10倍売れるかもしれませんし、販売およびサポートする体制を整えるために時間がかかってしまう可能性もある。また、お客様がベネフィットを理解していただくのに時間がかかる可能性もある。単年度の社内の計画はありますが、3年後、5年後にソフトウェア事業をどうしていくかという視点で捉えながら、課題を解決し、計画を上回るような体制をつくり、継続的な投資を進めていく考えです。

 デルにとって、ソフトウェア事業は、3~5年後には重要なビジネスになっているはずです。売り上げ規模という点では、ハードウェアに匹敵するという状況にはなりませんが、収益性での貢献は大きいと考えています。

非上場化でデルはどう変わったのか?

Venue 8 Proタブレットを手に持つ郡社長

――そして、2014年度においては、非上場化も大きな変化でしたね。

 非上場化することの最大の目的は、中長期的に視点で事業を推進できる体制を整え、それによって、お客様に貢献していくということです。これは、我々の選択が正しかったということが、すでに明確化していると思います。非上場化は2013年10月末に完了しましたが、マイケル・デルがこれを発表したのは2013年2月のことであり、非上場化は必ず実現するという確信のもとに、2014年度の事業を推進してきた。

 その結果、この四半期の業績がこうだったから、株価がこう動いて、それに向けて方針を変えなくてはいけない、というような超短期的なディシジョンをしなくてすむようになっています。それが第1四半期以降の好業績に表れているのではないでしょうか。また、エンド・トゥ・エンドでソリューションを提供する唯一の企業とし、お客様に評価されはじめている点も変化のひとつです。社内でも、中長期的な視点での議論が間違いなく増えていますね。当然、日本の事業を預かる立場としては、短期的な業績成果を求められることはあります。しかし、中長期的な視点でどうするかといったことを、もうひとつの軸としてしっかりと捉えて、事業の方向性を考えていくことも重要な仕事になっています。

 そして、もうひとつの変化は、スピードが上がっているという点です。グローバルでの意思決定も速くなっていますし、スピードを高めるための組織づくりも始まっています。また、日本だけで決められる部分も増えています。大きな投資がかかる、あるいは戦略的案件をどう攻めるかといった場合に、これまでは米国本社に確認を取らなくてはいけなかったものが、アジアパシフィックの拠点であるシンガポールの判断で済んだり、日本だけの意思決定で済んだりといったことが出てきています。

――非上場化は、エンドユーザーに対して、どんなメリットがありますか。

 開発費ひとつをとっても、中長期的な観点で投資を進めることができますから、お客様にとって最適なソリューション、革新的なソリューションを提供しつづけることができる体制が整ったといえます。例えば、ソフトウェアにおいては、買収前はその会社の規模に応じた投資しかできなかったため、日本のお客様にとっては、素晴らしいソフトウェアであっても日本語対応ができていないというものもありました。

 しかし、デルという規模のなかで投資をし、デルのグローバル戦略のなかで日本のお客様に対して、優れたソリューションを提供できるようになるというのも、メリットのひとつだといえます。非上場化によって、中長期的な投資ができるようになり、グローバル戦略を積極化でき、その結果、日本のお客様にメリットが生まれるというわけです。

デルのクラウド戦略はどうなるのか?

――その一方で、デルのクラウド戦略は迷走しているように感じます。パブリッククラウドについても、撤退する方針を打ち出しました。デルのクラウド戦略はどうなるのでしょうか。

 まず全世界の戦略という点でお話しすると、従来からお話しているようなパブリッククラウドサービスを提供する体制は継続します。そして、プライベートクラウドに関しては、お客様のクラウド環境の構築をお手伝いするという体制も持ち続けます。それに加えて、マルチクラウド環境をいかに効率的に管理するか、という提案を行うことになります。クラウド事業においては、この3つの柱で推進する姿勢は変わりません。

 一方で、日本においては、パブリッククラウドサービスで十分なサービスを提供するサービスプロバイダーが多数存在しています。そこにデルが参入するメリットはないと判断しました。1年以上前にクラウドビジネスを検討した際には、すでに米国などでサービスを開始していた「Dell Cloud Dedicated(DCD)」を展開することで、デルの経験が生き、お客様にとってのメリットを提案できると考えました。しかし、2014年度に入ってまわりを見てみると、多くのサービスプロバイダーがこれと同様のものを提供でき、コモディティ化してきた部分もある。これを捉えて、デルとしてはクラウド戦略を見直す必要があると判断したのです。デルが参入することで、違う付加価値が提供できるのかどうかというところに疑問符がついたわけです。

――パブリッククラウドサービスは、どこかと組んでいくということになりますか。

 デルは、多数のクラウドサービスプロバイダーに製品を納めていますから、そうした意味でも何社かに限定したパートナーシップでビジネスをやるというわけではありません。中堅企業や大企業に対しては、複数あるクラウドサービスプロバイダーの中から、回線の種類、サービスの内容により、お客様の求めるものに合わせて、提案するような仕組みを考えています。ですから、メニュー化して、そこから選択できるようなものではありません。お客様がこのサービスを活用したい、その際にデルがフロントに立ってほしいというのであれば、それに対応できる体制があります。

 これは、中小企業に関しても同じです。中小企業のお客様がパブリッククラウドサービスを活用したいといった場合に、その際には、デルのメニューから選べるのかというとそういう仕組みは用意しません。インフラとしてのクラウドサービスに関しては、デル以外が提供していくということになりますし、パブリッククラウドサービスプロバイダーに代わって、デルが営業活動をするということはありません。デルのソリューションに、クラウドサービスを加えた提案ということになります。

――クラウドにおけるピースがひとつ足りない感じがします。

 確かに、デルがパブリッククラウドサービスをやるのではあれば採用したいというお客様がいます。しかし、その一方で、すべてのITシステムをデルだけでカバーしているというお客様は皆無だというのも事実です。デルがパブリッククラウドサービスを持っていれば買うが、なければ他から買うというのが今の時代の考え方です。もちろん、選択肢を用意できないところのマイナス面はある。しかし、それ以外のところでお手伝いできるところがある。

 デルの営業部門が取り扱う製品数は、この5年で3倍以上になっているといえます。パブリッククラウドのメニューが揃えられないということでのマイナスよりも、我々が差別化できるところに力を注いでいくという方が、お客様に対してメリットを享受できると考えています。

――デルがクラウドの領域で強みを発揮できるのはどういう点になりますか。

 デルは以前から、クラウド事業を行うサービスプロバイダーに対して、様々な製品を納入しており、この領域では高い評価を得ています。サーバー、ストレージ、ネットワークスイッチなどを提供することでの付加価値は提供することはできます。

 また、プライベートクラウドの需要は、今後も拡大すると見ていますから、ここに対してもデルはお手伝いができると考えています。一部のお客様のなかには、一度、パブリッククラウドを活用したものの、結果として違うなと思い、プライベートクラウドに戻っている例もありますし、この領域はまだまだ成長する分野です。

 そして、プライベートクラウドを活用しているお客様においても、いつかはパブリッククラウドを活用したい、あるいは特定の業務に関してはパブリッククラウドを活用したいというニーズがかなり出てきています。つまり、ハイブリッド型でやっていきたいというニーズが生まれている。ここではマルチクラウド環境において、いかに効率的に管理するかとしいうことが大きな課題となる。そうした環境において、デルがお手伝いすることができる。それぞれのクラウドごとに管理者を置くのではなく、ひとりの管理者で、マルチクラウドを管理するといったソリューションも、デルならば提供できる。

 まだ日本には提供できていませんが、Boomiのようなマルチクラウド環境でデータを同期するツール、Enstratiusのようにマルチクラウド環境を一元管理するツール、ディザスタリカバリの要素を持ったAppAssureといった製品群がデルソフトウェアのなかにあります。これらを段階的に日本で提供することで、デルの強みを発揮することにつながると考えています。これら製品の日本への投入は、今年の取り組みになるであろうと考えています。

2015年度の取り組みはどうなるのか?

デルの新たな提案であるPowerEdge VRTX

――2015年度においては、デル日本法人は、どんな点をポイントにして取り組みますか。

 ひとつは、4つの事業を、クロスした形でのソリューション提案を加速するということです。また、個々の事業部におけるコアとなる製品にも力を注ぎたい。

 例えば、エンタープライズ領域においては、ストレージ製品は戦略的な位置づけを担います。EqualLogicによるiSCSI領域における圧倒的な強みや、Compellentによるケーパビリティの高い製品の提供が鍵となりますが、とくにCompellentのオールフラッシュストレージは、競合他社に比べて、GBあたりの単価が3分の1から5分の1という圧倒的な競争力を実現している。

 これは単に安いということだけではありません。オールフラッシュストレージのマルチレイヤーセル方式は、多数回書き込む際に速度の面で弱点を持っていますが、我々のストレージアーキテクチャーは、シングルレイヤで書き込み、マルチレイヤーで読み出すというマルチレイヤーの弱点を補完することができる仕組みとなっている。

 I/Oスピードで困っているお客様に対して、圧倒的といえるソリューションを提供できる。しかも、低コストで導入し、集積度を高めることもできる。これは、デルの技術が優れていることを背景にしたITツールとしての強みだけでなく、お客様の事業に貢献できるソリューションとして提供できることにつながります。日本国内におけるストレージ事業は、ほぼ毎四半期で過去最高を記録している状況にあります。これをさらに加速させたいですね。

 また、ワークステーションであるDell Precision T1700は、最もフットプリントが小さい製品として投入したものですが、中堅・中小企業市場でもシェアが上昇していますし、PowerEdge VRTXも、小規模企業から、拠点数が多いお客様まで、幅広いお客様から引き合いをいただいています。今年はこの動きがさらに活発になると期待しています。

直販のデルから間接販売のデルへ

SonicWALLは中核製品のひとつに成長した

――デルは、パートナー戦略の強化に取り組んでいますね。日本では、50%以上をパートナー経由で販売していきたいという方針を掲げていますし、グローバルでも同様の戦略を打ち出しています。この狙いはなんですか。

 パートナー販売に力を注いでいるのは事実ですが、これはいまに始まったことではありません。数年前から取り組みを開始し、現時点でもパートナー経由の販売比率は30%を超えてきました。デルは、直販というイメージが強いのですが、直販とパートナー販売は両輪であるといえます。

 ハードウェア、ソフトウェア、サービスを組み合わせて、お客様に最適なものを提供するということが、デルが目指している「ソリューションプロバイダー」のひとつの定義だといえます。その際に、ある分野においては、デルの経験が足りないところもあるでしょう。そこにパートナーとの連携によって、提案するといったことができます。また、お客様によっては、エンド・トゥ・エンドのソリューションではなく、ある部分においてのソリューションが欲しいという場合もある。これはその分野に特化した力を持つパートナーが展開するといった動き方もできる。

 一方で、日本全国を幅広くカバーするという点でパートナーとの連携は重要です。ITに関する複雑な問題を抱えているのは、首都圏のお客様だけではありませんからね(笑)。また、あるお客様にとっては、長年に渡り、特定のシステムインテグレーターと協力関係を持っており、お客様について深い理解があるというケースも存在します。ここはデルが入っていくよりも、パートナーにお願いしたほうが最適です。パートナーにもメリットがあり、それによって、我々にもメリットがあるといえる仕組みはいくらでもあります。様々な形でパートナーシップを組むことができるといえます。

――2月からスタートした2015年度はどんな1年になりますか。

 デルにとっては、楽しみな1年です。非上場化の作業が終わり、そのなかでデルの事業が推進されることになります。一部には、デルは非上場化によって、ある領域の製品をやめるのではないかといった声もあるようですが、それはまったくありません。エンドユーザーデバイスにも継続的に投資を続けていきますし、コンシューマ領域にも様々な製品を提供していきます。8型のVenue 8 Proタブレットはその象徴的な製品といえますし、BYODあるいは、コンシューマライゼーションという流れにも応えられる製品を投入していきます。これからもサプライズを感じてもらえる製品を投入していくことになります。

 一方で、デルがソリューションプロバイダーとしてのポジションを高めていくという上では、ITセキュリティプロバイダーとして認知度をいまの3~5倍高めていくことが必要だと感じています。SecureWorks、SonicWALLといった製品がその核になりますし、デルのクライアントPCに搭載しているDDP(デルデータプロテクション)についてももっと認知度を高めたい。これにより、デルのPCは最もセキュアであるというイメージもつくりたいですね。ソリューションプロバイダーとして、さらに一歩、大きな歩みを進める1年にしたいと考えています。

大河原 克行