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米Oracle シシリアCEOが初来日で語った「AI戦略」 Oracle AI World Tour Tokyo基調講演レポート
2026年4月17日 06:15
日本オラクル株式会社は16日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京で、「Oracle AI World Tour Tokyo」を開催した。
同イベントは世界14都市で開催しており、基調講演やブレイクアウトセッション、シアターセッション、パネルディスカッションなどを通じて、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)によるクラウドインフラのほか、データベース、アプリケーションなどにおける最新AIテクノロジー、業界横断のAI活用事例などを紹介。併設したAI World Tour Hubでは、エキスパートと交流ができるデモ展示やミニセッションなどが行われた。
米OracleシシリアCEOが初来日、「AIは人の役割を高度化させる」と強調
午前9時30分から行われたオープニング基調講演には、2025年9月にCEOに就任して以来、初来日となった米Oracleのマイク・シシリアCEOが登壇。「Oracle AI:ビジネスとともに進化するAIの最前線」をテーマに、同社のAI戦略などについて言及した。
シシリアCEOは、「お客さまは、経済環境の不確実性、規制強化をはじめとして、大きなビジネス課題に直面すると、Oracleのテクノロジーを求めるようになる。レジリエントなインフラと、信頼できるデータ、ビジネスを支援する安全でスピードを持ったシステムを提供できるのはOracleの強みである。いまは、そこにAIのテクノロジーを組み合わせ、新たなインパクトを生み出している。だが、それは、Oracleへの期待値が上がったのではない。期待値はリセットされている。数カ月前にはできないと思っていたことが、当たり前にできるようになっている。日本のお客さまは、そうした激しい環境変化の中で、Oracleのテクノロジーを活用している」と切り出した。
野村総合研究所(NRI)は、Oracle Alloyを使い、金融サービスの顧客を対象に、国内データセンターにある機密データを保護しながら、AI分析を行えるプラットフォームを立ち上げたほか、ホンダでは、Oracle Procurementを利用してグループ会社4社の購買プロセスを統合し、年間40万時間の工数を削減。KDDIでは、OCIに移行することで、社内で標準化したクラウド開発環境を構築し、社内のインフラコストを半減したという。
「Oracleは、お客さまのAIの未来を決めるために存在するのではない。決定権を持つのはお客さまであり、Oracleは、お客さまの未来を作る、アイデアを現実にするために必要なツールを提供する。ビジネス成長を阻害しているものを取り除くために存在している」と述べた。
ここでシシリアCEOは、「AI change everything」という言葉をスクリーンに映し出しながら、飛行機の技術進化を例に挙げて、AIのインパクトを説明した。
「飛行機は、プロペラ機からジェット機に技術が大きく進歩したタイミングがあった。だが、人やモノを運ぶという航空会社の役割は変わっていない。変わったのは能力である。より速く、より長い距離を飛ぶことができ、新たな市場が創出された。AIも同様であり、業務を置き換えたり、専門領域を置き換えたりするのではなく、複雑な分析、予測などの作業を軽減することで、人は戦略的な判断や意思決定に時間を割くことができ、人の仕事や役割を高度化できるようになる」とした。
その上で、「AIは、もはや実験の段階ではない。AIによって財務リスクを早期に把握し、サプライチェーンの混乱を防ぎ、問題をリアルタイムで解決することができる。AIは仕事のやり方を変え始め、未来を作る力となっている」と位置づけた。
さらに、「最高のAIは、信頼できる最高のデータによって支えられている。Oracleは、50年間にわたり、世界中の重要なデータの管理者であった。AIに活用できるデータを持ち、それを処理できる膨大な演算力と拡張性を提供できるのがOracleである。いまでは、お客さまのニーズに合わせたクラウド環境を提供し、お客さまが選択したAIモデルに柔軟にアクセスができるようにし、さまざまな形式のデータを使えるようにしている。Oracleは世界最大のAIクラウドを構築している企業であり、財務、人事といった部門のほか、製造、小売、医療、金融サービスなどのあらゆる分野でもAIを使えるようにし、劇的な変化をもたらすことができる。お客さまを未到達の領域に連れていくことができる」と自信を見せた。
また、シシリアCEOは、「Oracleは、日本法人を設立してから41年目を迎えた。日本は極めて重要な市場である。精度、品質、長期的な視野でとらえることが求められる市場である。AIの普及においても、品質やプロセスは重要であり、日本での経験によって、それらを学ぶことができた。日本にはこれからも投資をしていく」などと語った。
なお、シシリアCEOは、今回の来日に合わせて、高市早苗首相と面談し、日本への投資を継続していく考えなどを示した。米Oracleは、2024年4月に開催したOracle Cloud World Tour Tokyoで、日本のクラウドコンピューティングおよびAIに対して、2033年までに80億ドル超(約1兆3000億円)を投資することを発表している。
AIの力を引き出す「ユニファイドデータ」を提供できる
基調講演の中では、米Oracle マーケティング担当シニアバイスプレジデントのデイブ・ローゼンバーグ氏がモデレータとなり、米OracleのシシリアCEOのほか、米Oracle OCIカスタマーエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのベン・スカボロー氏、米Oracle Fusion ERPM開発担当エグゼクティブバイスプレジデントのロンディ・エン氏が同席して、Oracleのクラウドインフラやアプリケーションの最新動向について言及した。
スカボロー氏は、「AI活用という点では、GPUの効果をいかに最大化するかが重要であるが、OCIは、世界最大規模のAIスーパークラスターを提供し、LLMの学習に利用しているという実績がある。また、さまざまなデータにアクセスできる環境も整えている。AI活用において、データは要になる。Oracle Database上であれば、どこにデータがあっても、集約してシンプルに活用できる。また、Oracle Data Securityによって、セキュリティとガバナンスをデータベース層に埋め込み、デフォルトで提供できる。ソブリン戦略も明確に打ち出している」などと語った。
また、エン氏は、「AIをしっかりと機能させるには、ユニファイドデータであることが必須条件である。OracleはAI Data Platformを提供し、社内外のさまざまなデータを活用できるようにしている。これがAIのファブリックになり、その上にAIの能力を構築でき、AIワークフローを実現できる。そして、独自のAIエージェントを確立することができる」としたほか、「新たにFusion Agentic Applicationsを発表した。これは、エージェントに対して、ビジネスの目的を伝え、コンテキストに安全にアクセスし、業務プロセス内で意思決定を行い、その決定を実行できるようになる。OCIで稼働しているアプリケーションがさらに進化することになる」と語った。
「分散クラウド戦略」を積極的に展開、Oracle Alloy採用企業が拡大
一方、日本オラクルは、同社2026年度の重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」、「お客さまのためのAIを推進」を掲げており、今回の基調講演では、日本オラクルの三澤智光社長が、その進捗として、日本におけるOracle Alloyの採用が進展していることなどを強調。分散クラウド戦略が功を奏していることを示した。
三澤社長は、「クラウドの一極集中によるリスクを回避するため、日本における分散クラウド戦略を積極的に展開している。それを実現するのがOracle Alloyとマルチクラウドである。データ主権やソブリン性に対応したクラウドとして、Oracle Alloyを日本のパートナーに活用してもらっており、NRI、富士通、NTTデータが自社のクラウドサービスとして活用している。今回、新たにソフトバンク、日鉄ソリューションズがOracle Alloyを採用した」と述べた。
ソフトバンクの東日本データセンターで稼働しているほか、日鉄ソリューションズは西日本データセンターとして初めて九州に設置することになる。また、NTT東日本およびNTT西日本が持つミッションクリティカルシステムを、NTTデータのOracle Alloyにクラウドリフトすることも発表した。
「日本オラクルは、Oracle Alloyパートナーのために、ジャパン・オペレーション・センターを設立し、日本国内から、24時間365日でクラウドサポートおよびオペレーションを行える体制を構築。より充実したソブリン体制を実現している。日本ではソブリンに対する規制はないが、今後、ニーズが高まれば規制ができあがるだろう。外資系クラウドベンダーとして、国内からクラウドオペレーションを提供しているのは日本オラクルだけであり、ここに多くの投資をした」と胸を張った。
OCIは、国内15リージョンで展開しており、今後、5つのリージョンに拡張する予定だ。分散クラウド戦略に、Oracle Alloyが大きく貢献していることを示している。
また、マルチクラウドに関しては、Oracle AI Database@Azure、Oracle AI Database@Google、Oracle AI Database@AWSにより、データベースサービスを提供。「マルチクラウド環境でのサービスを大幅に拡充することができた」と語った。みずほ銀行が、銀行内共通データベース基盤として、OCIおよびOracle Autonomous AI Databaseを採用したことも紹介した。
こうした実績に触れながら、三澤社長は、「ミッションクリティカルシステムのモダナイゼーションといえば、OCIという実績を積み上げてきた」と自信を見せた。
また、AIネイティブなSaaSと位置づけるOracle Fusion ApplicationsやNetSuiteの導入が増加していることにも言及。「デンソーでは、グローバルでの競争力を高めるために、AIネイティブな次世代型サプライチェーンマネジメントプロジェクトを開始する。日本を代表する製造業が本格的にAIを実装していくことで、次世代の製造業のあり方を示すものになると確信している」と述べた。
ソフトバンクの国産LLM連携と、JTBが構築したOracle Fusion Cloudベースの経営基盤
基調講演では、2人のゲストが登壇した。1人目はソフトバンク 常務執行役員の丹波廣寅氏である。
日本オラクルとソフトバンクは、この日、Oracle Alloyを採用したクラウドサービス「Cloud PF Type A」において、SB Intuitionsの国産LLM「Sarashina(さらしな)」を活用した生成AIサービスを提供。2026年6月から順次開始すると発表した。ベースとなる「Cloud PF Type A」は、東日本のデータセンターでは、2026年4月から提供を開始しているが、今回、西日本のデータセンターでは2026年10月から提供を開始することも発表した。
顧客が保有する機密情報やデータなどを、国内のデータセンターの中で連携させ、高精度な生成AIサービスを実現。データ主権を備えた環境下で利用することができるのが特徴だ。
ソフトバンクの丹波氏は、「日本全国にデジタルサービスを届けたい。そのために共通部分を用意することを目指している。これはAIの時代においても同様の考え方でサービスを提供する。自分たちに適したAIを選り分けるための機能を用意するとともに、AIをより使いやすくするためのデータ活用プラットフォームも用意する。ただし、ここではソブリン性が大切になる。データ主権を持ち、自分たちで運用し、意思決定ができる仕組みが求められる。ソブリン性を担保した上で、プラットフォームを提供することになる。ソフトバンクは、AIを活用できるソブリン環境を、『公共インフラ』として提供する。お客さま自らが活動主体となって、AIを活用できる環境が整うことになる」とした。
2人目のゲストは、JTB 取締役 常務執行役員 財務担当 (CFO)の沖本哲氏である。
JTBでは、国内外のグループ企業54社の財務会計システムを一本化し、グローバルレベルでデータを統合管理および分析ができる経営基盤を構築。Oracle Fusion Cloud Applicationsの標準機能の95%を、そのまま活用する「Fit to Standard」を推進。各拠点や会社ごとに個別最適化した会計業務プロセスの根幹部分の標準化を進めたという。
JTBの沖本氏は、「JTBは、コロナ禍において経営危機に陥った。このときに求められたのが財務のリーダーシップである。財務環境の定点観測、バランスシート起点の意思決定、財務ガバナンスの3点を重視し、財務会計情報の適時性、正確性、即時性を向上させ、経営情報の高度化を進めた。将来の事業成長と価値創造を視野に入れる中で、統合した基盤が必要であり、そこでOracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning(ERP)を採用した。ERPを成長戦略の中心に位置づけた」と話す。
また、「SaaS is Deadという言葉があるが、AIを活用した経営を実現する上では、SaaSは必要である。ERPは骨格であり、AIは神経である。データとプロセスの上にAIを重ねることで、組織の意思決定能力を高め、経営の反射神経を鍛えることができる」などとした。
AIによる「System of Outcome」への進化がもたらすものは?
基調講演終了後に、メディア向けセッションに参加した米OracleのシシリアCEOは、「Oracleは、日本のお客さまとパートナーとともに、ユニークなアプローチによって、クラウドテクノロジーを運用している。Oracle Alloyによって、お客さまが、Oracleに代わって、クラウドサービスを運用できるようになり、フルスタックサービス、アプリケーションサービス、インフラサービスを提供できるようになった。日本におけるポジションは良好であり、多くの成果をあげている。世界が日本に追いつこうとしている」などと述べた。
また、日本オラクルの三澤社長は、「Oracleの基本的な考え方は、AIは外にあるのではなく、中にあるものというものである。Oracle DatabaseやFusion Cloud ERPは、これまではSystem of Recordとして提供してきたが、AIが加わることで、System of Outcomeに変わる。個人の生産性向上ではなく、企業活動や社会活動全体の生産性とスピード向上を図ることになる。そのためにAIをオプションとして外に置くのではなく、すべての製品スタックの中にAIを組み込む。これにより、新たな世界が開けることになる」と述べた。
さらに、「Oracleのクラウド戦略の最大の特徴は、クラウドデータセンターを小規模に構築できるテクノロジーを持っている点である。Oracle Alloyによって、パブリッククラウドと同じケイパビリティを、わずか3ラックで構成できる。パートナーのデータセンターに設置して、パートナーのクラウドサービスとして付加価値を乗せながら提供できる。これができるのはOracleだけである。また、日本では、これまで以上に、ソブリン性を高めてほしいという要望が多い。規制対象業種だけでなく、対象外の業種でもそうした声が上がっている。その背景にあるのはAIである。企業の機密データを、AIで利用するための仕組みを手に入れたいといったニーズが、ソブリンに対する希求につながっている」とも話している。
その上で、「オンプレミスからの移行先は、OCIが安全であり、安定した運用ができ、コストが安いという実績が数多く出ている。例えば、富士通のハードウェアをオンプレミスで利用していた企業は、富士通のデータセンターで運用しているOracle Alloyに移行する可能性が高い。また、昨年来、サーバーとストレージの調達に苦労している企業が多い。これも、Oracle Alloyによる取り組みを加速させることにつながっている」などとした。
なお、Oracle Alloyは、日本オラクルにとっては、先行投資の形でパートナーに提供するため、パートナーのビジネスモデルや事業規模、計画などについても、契約の中に盛り込んでいるという。「契約の際のコミットは、決して低い水準のものではない。パートナーが、自社内にクラウドデータセンターを持つという覚悟や本気度が必要であり、ビジネスとして成長させてもらいたいと考えている。そのため、Oracle Alloyパートナーが大量に増えるとは考えていない」とした。
さらに、「日本のエンタープライズITは、コスト構造改革をやらなくてはならない。日本は、圧倒的ともいえる人件費大国である。無駄なカスタマイズ、無駄な運用、無駄な設定などが多いことが理由である。クラウドリフトは、サーバーの入れ替えではなく、標準化を徹底し、自動化することで、無駄なITコストを削減できることが大きなメリットである。私自身、残りのビジネスマン人生は、この部分にメスを入れ、日本に還元したいと思っている」などと述べた。









