大河原克行のキーマンウォッチ

2017年は富士通にとって「信」の1年になる 富士通・田中達也社長

 「2016年は、一歩進むことができた『進』の1年だとすれば、2017年は、これをもとに、さらに自信を持って歩みを進める『信』の1年になる」――。

 富士通の田中達也社長はこう切り出す。2015年6月に社長に就任。中期的な目標として、営業利益率10%以上、海外売上高比率50%以上などの指標を掲げながら、テクノロジーソリューションを中核事業に位置づける一方で、そこから外れるPC事業やカーナビ事業などの分離にも着手。田中社長は、その進ちょくに対する手応えを示してみせる。

 また、グローバル化を推進する上で重要な事業となるクラウドについては、「これまでの富士通の経験値が、メガクラウドベンダーとの差別化になる」とも語る。

 田中社長に、2016年の取り組みを振り返ってもらうとともに、2017年の方向性について聞いた。

田中達也社長

「信頼と創造の富士通」に言及した意味

――2016年は、富士通にとってどんな1年でしたか。

 2015年6月に富士通の社長に就任しましたが、最初の1年は、営業部門やアジアを中心とした海外部門といった私の経験をベースに、まずは社内を見ること、そして、それをもとに方針を出す時期と位置づけました。そして、2016年は、その方針をもとに、大きな歩みを進めことができた1年だったととらえています。

 外から見ると、「スピード感にかける」といったご意見があるかもしれませんが(笑)、私自身は、社内外にしっかりと方向性を示すことができたと考えています。今後、より具体的なプランに落とし込みながら、第2歩、第3歩という形で、手を打っていくことになります。デジタルトランスフォーメーションへの関心が高まるなかで、どう成長戦略を描くか。ここに力を注いでいきます。

――2016年5月に開催した「富士通フォーラム2016」の基調講演において、田中社長は、「信頼と創造の富士通」という、かつてのブランドメッセージを持ち出して、富士通の取り組む姿勢について言及しましたが、これはどういう意図があったのですか。

 1980年に入社したときに私が富士通に持っていたイメージは、コンピュータで世の中を変え、新たなものを提供していくことができる、夢を持った企業でした。国内売上高では日本IBMを抜いたタイミングでもありましたし、これからさらに成長するなかで、なにかを作りだしていく、新たなもの創造していく企業という印象が強く、そうしたなかで私は新人として富士通に入ったわけです。

 そのときに掲げられていたブランドメッセージが「信頼と創造の富士通」でした。新人1年目は、大手鉄鋼ユーザーでSE実習を行ったのですが、顧客の信頼を得るために、現場では、営業やSEがこれだけ頑張っているんだ、ということを目の当たりにしました。私のような駆け出しでさえも、顧客の信頼を損なうことをやると、容赦なく、こっぴどく怒られましたよ。納期を守る、品質を守るために、社員が一丸となって取り組み、その結果、信頼を得ることにつながっている。そして、新たなものを作ることに邁進している。こうした信頼や創造に対して徹底して取り組む姿勢が、私が描いていた富士通のイメージと重なり、とても誇らしく思ったんです。

 「信頼と創造」というのは、私が富士通を誇らしく思う象徴的な言葉なんです。自分が社長になって思ったのは、やはりこれこそが富士通の原点であるということでした。ですから、この言葉は、社長就任以来、いつかは、どこかで言いたいと思っていた言葉なんです。富士通フォーラム2016では、そうした理由もあって、「信頼と創造の富士通」という言葉を使いました。常日ごろ、そう思っているものですから、若い社員との会話のなかでも時々使っています。いや、思わず出ちゃうといった方がいいかもしれませんね(笑)。

 富士通は変わっていかなくてはならない。これまでやってきたものを否定し、変えていかなくては生き残れない時代に入ってきています。しかし、変わってはいけないものがあるとすれば、それは「信頼と創造」だといえます。これが富士通のDNAであり、富士通の特徴を端的に示す言葉だととらえています。

――いまの富士通に「信頼と創造」の姿勢が足りないということですか。

 そうは感じていません。ただ、信頼のとらえ方が変化してきているのは確かです。例えば、かつてのメインフレームの時代には、Mシリーズが3年間にわたって一度もダウンしていない、ということが信頼性の指標のひとつでした。つまり、ハードウェアの信頼性そのものが評価された。しかも、メインフレームは、富士通1社だけで完結するわけですから、工場の技術者を連れて行って、新たなメインフレームの製品コンセプトを話してもらうことで、顧客との信頼関係を醸成することにもつながりました。

 しかし、いまは、サービスの時代になってきていますから、サービスを実現するために提供するさまざまな構成要素の品質も重視されるようになってきましたし、オープン環境においては、われわれだけではすべてを解決できなくなっています。組み合わせたが増えた分、難しさも高まったといえます。

 とはいっても、顧客の信頼を得るための姿勢は同じでなくてはいけない。サービスを構成する要素はさまざまでも、サービスに対してトータルの責任を持って保証するのは富士通です。信頼と創造に対する基本姿勢は変わらない。そうしたことを徹底していきたいと思っています。