大河原克行のキーマンウォッチ
2017年は富士通にとって「信」の1年になる 富士通・田中達也社長
2016年12月14日 00:00
営業利益率10%は達成可能なのか?
――田中社長は在任中に営業利益率10%の達成を目標に掲げています。2015年度実績では、営業利益率が2.5%。まだ、かなりの距離がありますが、これは達成できるのでしょうか。
富士通は、もともと自由度を持った会社であり、いろいろなところでいろんなことができる会社です。ただ、その結果、異なるSE会社が、同じようなセキュリティパッケージを開発したりといったこともありました。
これは、さまざまな人が、アイデアを活性化し、市場にぶつけるという意味ではいいのですが、グローバルに戦うためには、大きな方針のもとで、最もシナジーが出せるような投資を行い、集中させることで、強いものにする必要があります。
バラバラでもいいから、とにかくがんばってくれというやり方は無駄が多く、いまの時代にはあいません。それを変えていくことが必要です。
2016年11月にSE会社を統合したり、ネットワーク部門とデジタル部門とを統合したり、さらには、セキュリティソリューションの司令塔となる部門を作ったりといったことは、そうした無駄な投資をなくし、より強いものを創出するための取り組みのひとつです。
いま2~3%ゾーンの営業利益率にとどまっているのは、ビジネスモデル変革費用を計上している影響もあります。しかし、統合、再編などの手を打つことで、5%ゾーンに引き上げることは可能であるという見通しは立っています。
問題は、これを10%ゾーンにあげるには、なにをやるのかということです。富士通が置かれた立場を俯瞰してみますと、国内のビジネスは好調に推移しており、デジタル化の浸透とともに、富士通への期待感も高まっています。
国内ビジネスは、よりプロフィッタブルにできると考えています。一方、グローバルビジネスは、富士通は欧州を中心に他社に先駆けて展開してきた経緯がありますが、プロフィッタブルという点においては一部に課題がある。しかし、これもきちっと手を打つことで、収益改善が図れると考えています。
また、先行投資しているデジタルサービス部門も、収益を生み始めるタイミングに入ってきます。つまり、国内事業の高度化による収益確保と、グローバルビジネスでの収益確保、デジタルサービスの収益貢献といった積み上げで、10%ゾーンを狙っていけると考えています。いま、それに向けたプランを詰めているところです。
ただ、数字そのものの達成以上に大切なのは、「この数字は必ずできるんだ」、あるいは「このままではいけない」と思う、いわば意識改革です。10%の達成に向けて、多くの社員がアイデアを出して、それに一丸となって挑戦していくことが大切です。確かに、10%ゾーンは、高いハードルです。
しかし、私が5%でいいといったら、意識改革なんて進みません。リストラすれば達成できますし、財務部門も楽ですし、私も楽です(笑)。しかし、それでは根本的には、なにも変わらない。それでは意味がありません。将来に向けてどう変えるのかが大切なのです。
私は、10%ゾーンは、世界で戦うための収益率であると規定し、これによって次の投資ができるようになると考えています。だからこそ、10%という営業利益率を目指す。そして、重要なことは、これが将来に向けた「田畑」を作ることにつながるという点です。足を引っ張るものは外し、その上で、次の世代の人たちが努力し、活躍することができる「緑のフィールド」を作ることが私の役割です。
営業利益率10%を達成することで、よりサービスの度合いが高まり、顧客との関係性も、より強化されると考えています。自動車にしても、複写機にしても、ソフトウェアが重要になっており、ICTを中心とした設計によって、機能強化が図られる時代に入ってきたのは周知の通りです。
顧客が、製品やサービスを考えるときに、必ずパートナーとして富士通が横にいるという状況を作り、長中期的にサービスを提供することができる体制にしたい。顧客の事業が拡大したり、新たな製品やサービスを創出したりするたびに、富士通の事業も拡大するというようなモデルが理想です。
これが富士通が目指す「フィールド」づくりです。日本だけでなく、アジアや米国、欧州にも、フィールドを作っていきます。ただ、日本にあるものをそのまま持って行くだけでは、海外でフィールドを作れるとは思っていません。しかし、技術は持って行くことができる。それぞれのリージョンにおいて、それぞれのリージョンごとのやり方を考え、さまざまな種をまける、柔軟性のある「フィールド」を作りたいと考えています。
また、必要に応じて、M&Aを用いて、シナジーを生み出すといったことにも取り組みたいですね。しかし、単に市場を取る、シェアを取るという発想では、すぐに競合にひっくり返されたり、人材が流出したりして、失敗することになります。事業シナジーの部分をしっかりと見ていかなくてはならないと思っています。富士通が作る「フィールド」の余地はまだまだ大きいといえます。
「進」から「信」へと踏み出す富士通
――富士通にとって、2017年はどんな年になりますか。
2016年は、方針を一歩進めることができた年として、「進」という漢字で、富士通の取り組みを表現できます。そして、2017年は、それをさらに自信を持って進めるという点で、自信の「信」ということになります。
また、自分たちがやっていることを信じる「信」という意味もあります。2015年、2016年の経験をもとに、いまやっていることを信じて、全員がアイデアを出して、さらに成長を進めたい。2017年は、デジタルサービスやクラウド、セキュリティなどの領域において実績を出して、それを積み上げたい。
「信」は信頼の「信」でもありますし、このやり方で評価を得たという自分自身への信頼を積み重ねることで、成長の道筋も見えるでしょう。成長のための道筋をつくることができ、これまでやってきたリターンも見えるのが2017年になります。
道筋が間違っていないということを確信できるように年になる、という点でも「信」という言葉が当てはまります。まだ、やらなくてはならないこともあります。さまざまなことに積極的に取り組む1年にしたいですね。