大河原克行のキーマンウォッチ

2018中期経営計画で変革の第二期に挑む、NEC・新野隆社長

 2016年4月1日付けで、NECの代表取締役執行役員社長兼CEOに、新野隆氏が就任した。そして4月28日には、「2018中期経営計画」を発表。「変革の第二期として、成長の柱づくりに取り組む」ことを掲げ、2018年度の売上高は3兆円、営業利益は1500億円、当期純利益は850億円を目指す。なかでも、営業利益率5%とROE(自己資本比率)10%という、2つの指標にこだわる姿勢を示す。また2018中期経営計画では、「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」「リテール向けITサービス事業」の3つに注力することを明言。海外を中心に新たな事業モデルの創出にも挑む。

 「3年間が私にとっての勝負。新野カラーを出すよりも、経営を継承することにこだわっていく」と語る、新野社長にNECの目指す姿を聞いた。

NECの新野隆社長

NECは、まだ変われていない

――2015年12月25日に社長交代が発表され、2016年4月1日付けで社長に就任したわけですが、この間、どんなことに力を注いできましたか。

 NECは、通常ならば2月に役員人事を発表するのですが、それを前倒しして12月に発表したのは、遠藤前社長(=遠藤信博会長)の思いが強かったといえます。この4月からスタートする新たな中期経営計画を新体制でやってもらいたいこと、そしてそれを誰が責任をもって作るのかを明確にしたいという意思の表れでした。実際、遠藤前社長は年が明けてから、2016年度の予算会議や新たな中期経営計画に関する会議には一切出席しないという姿勢を貫きました。これは、私にとっては大変有り難いことでもありましたし、私が責任をもってやるということを、私自身も改めて強く感じ、そして、周りの役員や事業部長にもその姿勢が明確に伝わったといえます。

 年末の時点では、2015年度(2016年3月期)決算が厳しいものになるということはわかっていました。これを受けた次の中期経営計画では、なにをやっていけばいいのか、それを社員にどう伝えるのかということを一番に考えました。

 遠藤前社長の場合には、企業が社会に存在する意義を突き詰めて、NECのあるべき姿を考え、そこに向かっていくというのが基本姿勢でした。私はこれを6年間、一緒になってやってきました。この方向は間違っていなかったと確信しています。ただ、直近の3年間を見た場合に、実行という点では十分できていなかったという反省があります。これが2015年度の結果につながっているのだと思います。

 「新たな中期経営計画の内容は、前中期経営計画の反省ばかりだね」とは言われるのですが(笑)、なにが悪かったのかということを明確にして、具体的にどうすれば我々が変わっていけるのか、変わるためにはなにをやればいいのか、そういうことを認識した上で策定したことが、この背景にあります。

 ただ、これを作っても、社員全員がこの気持ちを理解していないと、実行につながりませんし、成果にはつながりません。「また、上の方でなにか言っているなぁ」ということだと、会社としての最大限の力を発揮することができません。まずは、現状と事実をしっかりと認識してもらうことを、社員に徹底したいと考えています。私は「危機感」という言葉は好きではないのですが、フォローの風もあり、2013年度、2014年度が業績がよかったことで、「NECはうまくいっている」と思っている社員もいる。「まだ本当に変われていないんだ」という「危機感」を徹底したい。そのメッセージを社長就任以降、重視しています。

――それは、社員との直接対話によって行うのですか。

 社長が各地に出て行って、タウンミーティングの方式で、直接対話をするという手法もあるでしょうが、これだとその場の人たちには直接会えるが、一度だけのメッセージで終わってしまうことになりかねません。

 大切なのは、社長や役員が持っている危機感を、同じレベルのまま、社員たちと共有することです。そのためには、経営陣すべてが同じメッセージを共有し、それを何度も社員に伝えることが大切です。これは遠藤前社長のときからやっていたのですが、毎週の朝礼などを通じて、共通の認識を持った役員や事業部長が、それを社員に何度も伝えるということを繰り返してきました。7月17日の創立記念日は、役員が各事業場に出向いて直接対話をするということも行っています。

 今は事業部長クラスまでは危機感が共有できていると思いますが、これからは部長、マネージャーといった社員も共通の認識で危機感を持てるようにしたい。同じ危機感を持ち、同じ話ができる人をどれだけ多く増やせるかが大切だと思っています。迅速な意識決定によって、経営のスピードを速めるということは重要ですが、決めたことをスピード感を持って徹底的にやり切ることは、さらに重要なことだと思っています。

 とはいえ、社員に「腹落ち」感がないと実行がままなりません。決めた意味すら薄れてしまう。決めて実行する前に、社員が「腹落ち」することが大切。そのためのコミュニケーションは重視したい。そして、決まったことは徹底して実行する。そういった文化を作りたいと考えています。

2階建てのビジネスに実行力をつける

――NECのいいところ、そしてNECの悪いところとはなんですか。

 NECは、良くも悪くも技術の会社です。これがNECのDNAです。私が入社した1977年を振り返っても、新入社員全員が理系。そのなかで、私は営業部門に配属されてしまったのですが(笑)、もともとは技術者ばかりの集団であることはいまでも変わりません。

 そしてNECのお客さまは、通信事業者やメガバンク、防衛分野など、トップレベルの技術を要求する方々であり、それによって鍛え抜かれてきたというのも特徴のひとつです。ひとつひとつの技術を積み重ねて、高い要求に必ず応え、逃げ出さない、諦めないという姿勢を持っている。SI(システムインテグレーション)においても、最後までやり切ることが徹底されている。NECの社員はおとなしいと言われますが(笑)、社会から信頼を得るためのこだわりはNECの強みです。

 ただ、このDNAは大事にしなくてはいけないものですが、それだけでは、ビジネスをやっていけないのも事実です。NECには、足りないところがある。その足りない部分を「ビジネスモデルの文化」と表現しているわけです。

 これまではOne to Oneでビジネスをやってきたわけですが、これからは、One to Manyのビジネスが重要です。自らが、お客さまの状態や、取り巻く市場環境、必要とされる技術はどうなっているのかということを理解し、その上で、我々のビジネスはどこにあるのか、どこに行けばいいのかということを考える文化が必要です。それをプロセスとして回せる文化を作らないと、社会ソリューション事業でグローバルに展開することができない。いま、それをやろうとしているところなんです。

 今年4月に、NECグループバリューに基づいた形で、「人財哲学」というものを制定しました。ここでは、これまでのDNAを土台として、その上に乗せる新たな能力を持った人たち、新たな考え方をする人たちを育成すること、同時に今後の採用や評価、人材教育は、そこにフォーカスしていくということを示しました。ひとことでいうと、さまざまな変化に対して、自ら考えて、行動する人財を育てたいと思っています。

 一方で、こうなって欲しくはない人材というのもあります。それは、「言われたことしかやらない」という人ですね。また、いくら「新たなことにチャレンジしろ」「自分で考えろ」「イノベーションに取り組め」と言っても、上司から「いまの予算達成はどうなっているんだ。そっちを優先しろ」と言われたら、元も子もないわけです。自由に意見を言い合える組織を作り、それを評価する仕組みを作ることが大切です。

 私は、「1階建て」を既存ビジネス、そして「2階建て」を新たなビジネスモデルというように比喩するのですが、1階建てと2階建ては、マネジメント方法も変えなくてはいけません。1階建てのマネジメント手法を、そのまま2階建てのビジネスに持ち込めば、潰れてしまうのは明らかです。組織も変えて、この違いを明確にしていく必要があります。

 いま、2階建てだけを専門に担当するビジネスイノベーション統括ユニットを設置して、ここで新たなビジネスモデルに挑戦してもらっています。すでに数十個のプロジェクトが動いているところです。ようやく、なにをすればいいのか、どうすればこのプロセスが生まれるのかということを理解した経験者が増えてきた。これからは、1階建てのビジネスを守り切りながら、2階建ての新たなビジネスを伸ばすかということを考えていく必要があります。

――前中期経営計画の反省点として「実行力不足」を挙げていましたが、これはNEC全体のことを指していたのですか? それとも、新たなビジネスに対することを指していたのですか?

 これは新たなビジネスを指した言葉です。1階建ての実行力はめちゃくちゃある。それについては、自信がある。だが、2階建ての事業についていえば、実行力が不足していた。これまでやったことがない取り組みなのですから、当たり前と言えば当たり前ですが、ようやくこうすればいいというのがわかってきた段階です。

 しかし、実行するために必要とされる、しっかりとした計画、しっかりとした市場調査、しっかりとしたアセットを持っているのかというと、そろっていない部分もありました。PDCAのP(プラン)のところができていなかった。そんな状態でスタートするものだから、取り組みが中途半端になってしまうものもあったわけです。実行力不足というよりも、実行前の準備力不足といった方がいいかもしれません。

 これを打開するためには、人財育成と社内文化を変えること、そして、足りないアセットはなにかということを理解して、そこを埋めていくことも大切です。例えば、グローバルでセーフティ事業を伸ばしたいといった場合に、国内外に通用する優れた技術を持っていたとしても、海外でデリバリーする仕組みがない。それがないのに、海外でこれだけ売りますといっても、実現できないわけです。実行力不足を解決するためには、なにが必要なのかといったことも再認識していく必要があります。

――今後3年間で成長投資として2000億円を計上していますが、これは新たな事業に投入するものなのですか。

 2018中期経営計画では、「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」「リテール向けITサービス事業」の3つを、注力事業に位置づけています。これらに共通しているのはグローバルで、いかに伸ばすかという戦略であり、2000億円の投資もこれらの領域が対象となってきます。

「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」「リテール向けITサービス事業」の3つを注力事業に位置づけた

 NECには、SDNやセキュリティなど強い技術はあるが、それでも、我々の技術だけでは十分ではないというものがあります。また、海外に展開するには足りない技術もあります。新たなものを組み合わせることで、いまは、10のビジネスでしかないものを、100にできるというものもあるわけです。こうした技術強化に向けた投資がひとつです。これをNECが自分でやるのか、パートナーシップでやるのか、あるいはM&Aするのか、さまざまな選択肢のなかから進めていきたいですね。

 一方で、リテール向けITサービス事業のように、国内ではソリューションがしっかりと完成しているものの、海外に広げていくための手段がないという事業もあります。海外のSIerとのパートナーシップなど、新たに事業を伸ばしていくための投資もこのなかに含まれます。さらに、実行のスピードをあげるためにはM&Aも必要ですから、そこにも専門家を入れて、従来とは違うアプローチを始めています。これまでは、「NECにとって、どういう会社の、どういう技術が必要か」というリストアップはできても、動き出すのが遅かった。しかも、これが欲しいと思って、すぐにM&Aできるという瞬発力はNECにはありませんし、イチかバチかの買収なんてできません。そこで、早い段階からそうした企業とお付き合いをはじめて、この会社と手を組んでいけるのか、ということを専門家とともに調査し始めています。来年ぐらいには具体的な成果につなげたいと考えています。

 前中期経営計画では、3つめの柱として「財務体質の強化」がありましたから、結果として、海外における新たな領域には投資がしにくい状況でもありました。とくに大きな投資には踏み出せなかった。しかし、フリーキャッシュフローが改善され、いまのネットD/Eレシオの水準を考えれば、2000億円の投資は確保できる。利益を上積みできれば、さらに投資を拡大することも可能です。

新中期経営計画は慎重なのか?

――2018中期経営計画で打ち出した年平均売上高成長率が2%となる売上高3兆円という数値目標は慎重すぎるとの声もあります。2018中期経営計画の基本姿勢を教えてください。

 私が最も重視しているのは、3兆円の売上高ということよりも、最低でも営業利益率5%を稼ぐことができる体質へと変わることです。営業利益率が3%の事業体質のままで、グローバルにビジネスを伸ばしても、中長期的な成長の姿は描けません。もちろん、5%という数字も、グローバルに見れば不十分ではありますが、それでも、最低でも5%の営業利益率の体質を持たなくてはならない。2018中期経営計画における最大のメッセージはここにあります。

 ROE10%をやるという目標も同様の理由です。そして、3兆円という売上高に到達すればいいとも思っていません。最低限のコミットとして、売上高3兆円、営業利益1500億円、当期純利益850億円という数値目標を掲げたわけで、どこの領域で、どう伸ばして、どんなM&Aをするのか、ということによって、売上高の嵩は変わっていきますし、いまの計画には、そうした新たな取り組みは盛り込んでいません。繰り返しになりますが、一番こだわるのは、営業利益率5%ということであり、それに対する具体的な数値が営業利益が1500億円。それを、逆算して売上高3兆円という数値があるのです。

2018中期経営計画の方針
2018中期経営計画では、営業利益率5%を目指す

――これまでの中期経営計画は「成長の礎」を作るとし、新たな中期経営計画では「成長の柱」を作るとしました。成長の礎ができたあとには、本来、「成長戦略」がくるのではないでしょうか。

 前中期経営計画では、ビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、SDNという、4つの領域に注力してきたことで、強い技術がそろい、IoTや人工知能に取り組むためのベース、つまり礎ができました。これらの4つの領域を合計すると、2013年度には1200億円の売上高であったものが、2015年度には2300億円へと、1.9倍に拡大しました。

 市場全体よりも高い成長を遂げているのですが、この成長は、私にとっては、まだ不十分なものです。しかも、小さいビジネスが多い。しかし、この4つの領域の礎ができたことで、新たな中期経営計画では、この礎の上に、「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」「リテール向けITサービス事業」という3つの注力事業領域を掲げることができた。そして、今後は、ビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、SDN という4つの技術を活用して、IoTプラットフォームを作り、それによって事業を加速することもできるようになる。それが礎という意味です。

 ただ、礎は強い方がいいですから、それはもっと盤石なものにしていきます。その強い礎に基づいて、これからは新たな成長の柱を作らなくてはならないというわけです。

目指すのは「セーテフィのNEC」

――2018中期経営計画で掲げた「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」、そして「リテール向けITサービス事業」の3つの重点領域にはどう取り組んでいきますか。

 セーフティ事業は、顔認証や指紋認証技術、SOC(セキュリティオペレーションセンター)運用ノウハウ、政府などへの納入実績を背景に、APACや中東、アフリカ、中南米の主要都市、政府や空港などの重要公共施設などをターゲットにソリューションを強化していくことになります。社内の関連部門を、グローバルBUに集約するとともに、組織をGSD(グローバル・セーティ・デイビジョン)と一体化することで体制を強化します。

セーフティ事業

 またグローバルキャリア向けネットワーク事業では、TOMSソリューションの提供力と顧客基盤を活用して、SDN(Software-defined network)やNFV(Network Functions Virtualization)での商用実績を生かした展開を進め、先進キャリアからほかのキャリアへの水平展開などを図ります。SDNは国内の民間企業においては、ダントツの実績を持ちますが、これを今後、海外にどう展開していくのかということも考えたいですね。

 そしてリテール向けITサービス事業では、国内大手コンビニ向けの圧倒的な導入実績をもとに、これをベストプラクティスとしてアジアや南米などにも展開する一方で、さらにオムニチャネル、認証・決済、オペレーション効率化、施設・設備管理などにも展開し、トータルソリューションとしての提案を加速させる考えです。

グローバルキャリア向けネットワーク事業
リテール向けITサービス事業

 こうしたなかでも、一番気にしているのは「セーフティ事業」です。「NECはどんな会社になりたいのか」と聞かれることが多いのですが、そのときに、私は「セキュリティのNEC」、あるいは「セーフティのNEC」、「世界を守るNEC」と言われるような会社になりたいと言っているのです。セキュリティの世界において、NECはなくてはならない会社、あるいはダントツであるというイメージを作りたいと考えています。

 もちろん、目指すところは「社会ソリューション事業のNEC」なのですが、そう言ってもなかなか理解をしてもらえませんから(笑)。「セキュリティのNEC」といえは、わかりやすいですよね。実は、国内における重量なセキュリティ部分は、かなりNECがやっています。グローバルでも、インターポールとの連携によるサイバーセキュリティ対策に取り組んでいる例がありますし、世界一高い評価を得ている顔認証技術なども持っています。ただNECが不得手なのは、多くの技術を持っていながらも、これをビジネスモデルにすることができない点です。これがうまくいけば、将来の大きな柱になると考えています。

 実は、これまではセキュリティ分野での実績を、多くの方々に知っていただくことができなかったという点でもジレンマがあります。特に国家レベルのセキュリティですと、なかなか事例として公開できない部分もあります。もし、公開することができれば、こんなところまでNECはやっていたのかという部分が、かなりあると思いますよ(笑)。

 2020年の東京オリンピック/パラリンピックでは、NECは「東京2020ゴールドパートナー」として、「パブリックセーフティ先進製品」と「ネットワーク製品」分野において、安全で、安心できる「東京2020」の実現に貢献する役割を担います。これは、国内外の方々に、「こんな安全な世界の実現を目指すのであれば、NECに任せればいい」ということを、具体的な事例を通じて、世界に訴求する機会になるとも考えています。

懸念の海外事業の拡大に再び挑む

――NECにとって、海外事業の拡大は、長年に渡る課題です。海外売上比率は着実に上昇していますが、目標とは大きくかい離しています。新たな中期経営計画では、2015年度実績の海外売上比率を21%から、2018年度には27%に引き上げる計画ですが、これまでとは、なにが違うのでしょうか。

 ご指摘のように、いままでさまざまな形でチャレンジしてきたものの、うまくいかなったのが海外事業です。では、なぜうまくいかなかったのか。ひとつは、NECの組織づくりに問題があったといえます。海外事業を実行するビジネスユニットのほかに、パブリックのビジネスユニット、テレコムキャリアのビジネスユニット、エンタープライズのビジネスユニット、システムプラットフォームのビジネスユニットが並列で存在していました。この体制で、海外で新たなビジネスをやろうとすると、複数のビジネスユニットが組み合わさり、そこに海外ビジネスユニットが加わるだけで、3人の責任者が存在することになります。3人が同じベクトルでいけばいいが、だいたい利害関係が発生する(笑)。つまり、海外でなにかをやろうとしても、スムーズにいかないことが多かったのです。

 そこで今回は、新たにCGO(チーフ・グローバル・オフィサー)を決めて、グローバルビジネスの権限を集約し、責任を負う体制としました。これにより、海外事業における指揮、命令系統を明確にしたわけです。そしてM&Aを含めて、この分野への投資は、早く、そして積極的にやっていきたいと考えています。海外事業に関して、いまの状況をいいますと、なにをすべきかということを検討する体制はできた。また、どんなビジネスモデルを構築していくのかということを決める体制も明確になっている。だが、それを具体的に実行する体制はできていない。ヨーイドン!といったときに、全力で走り出せるところまでは行っていないというわけです。

 海外は年率10%増の成長を目指しますが、その成長のほとんどを、「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」「リテール向けITサービス事業」の3つの注力領域が占めることになります。具体的には、セーフティ事業では2015年度に420億円だった海外売上高を2018年度には3.4倍の1420億円に、グローバルキャリア向けネットワーク事業は、グローバル売上高で1200億円から1.8倍となる2100億円へ、リテール向けITサービスでは、グローバル売上高を1340億円から1.2倍となる1600億円にまで拡大する計画です。とにかく、早く実行に移せる体制を構築することに取り組みます。

フィンテックへの取り組みはどうなるのか?

――一方で、今後3年間の国内における成長は横ばいです。国内への力のかけ方が弱くなるように見えますが。

 国内で重視するのは利益率の向上です。新たに海外に進出しても、すぐに利益が出せるわけではありません。2014年度には4%台にまで回復していた営業利益率も、2015年度実績では3%台に落ち込み、これをなんとか5%まで持っていきたいというのが中期経営計画の目標です。それを支えるのが国内ビジネスになります。

 よくよく見てみますと、営業利益率の悪化はロスコン(ロス・コントロール・オブ・プロジェクト)が発生したり、大型プロジェクトで赤字を計上したりといったことが影響しており、これらをきちっとやれば、数百億円の改善につながる。徹底的に絞り込む「内なる努力」によって、かなりの改善ができます。

不採算案件の抑制を図る

 また、国内は既存事業が落ち込むものの、マイナンバーの民間活用に向けた提案が加速したり、地方創生に向けたプロジェクトに取り組んだりといったチャンスもあります。さらに、ヘルスアケや農業、クルマといった領域での新たな事業機会も創出したい。

 こうやってみると、既存事業の落ち込みを補って余りある市場があるわけといえるわけです。ここには、セキュリティ、SDN、ビッグデータ、クラウドといった、過去3年間にNECが投資をして強くしてきた部分を生かせますし、それを活用したIoTや人工知能での強みも発揮できるでしょう。営業部門では、ビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、SDNの4つの注力領域における拡販プロジェクトとして、Project Orionを展開しています。これらの取り組みを通じて、注力領域での提案、販売活動に弾みをつけたいと考えています。

――気になったのは、長年、金融市場に携わってきた新野社長が、新たな中期経営計画において、「フィンテック」を盛り込まなかった点なのですが。

 フィンテックといっても幅広い範囲を指しますし、NECとしては、フィンテックという言葉を使うまでもなく、ITを活用した金融サービスの領域には積極的に取り組んできた経緯があります。

 私がフィンテックにおいて一番注目しているのは、ブロックチェーンの技術です。これは金融分野以外のあらゆる分野でも活用される技術になってくると思います。いやそれどころか、インターネットと同じように世の中を変える技術になるとさえ思っています。NECの欧州研究所には、ブロックチェーンの専門家が在籍していますし、さらにフィンテック事業開発室を設置し、ブロックチェーンを生かしたセキュアなデータ管理手法などについて、研究、開発を行っています。

 まずは、NECの主要なお客さまであるメガバンクとの連携のなかで、フィンテックのビジネスモデルを追求していくことになります。フィンテックにおいては、NECとして立ち位置を明確にした上で、ブロックチェーンによる変革に力を注ぎたいと考えています。

――エネルギー事業を軌道に乗せるという点については、かなり遠回りをしている感じもしますが、NECにとって、あるいは新たな中期経営計画において、これは必要な事業なのですか。

 エネルギー事業は、NECが持つ電池技術を生かして開発したEV車向けリチウムイオン電池を主軸に、成長戦略を描いていました。性能面やコスト面でも絶対的な優位性がありましたし、ボリュームも見込める事業。これをベースにグローバルに展開すれば、明らかに成長が見込める領域でした。

 しかし思惑と違ったのは、EV車の需要が想定よりも需要が小さかったこと、その市場に対して赤字覚悟で積極的な参入を図る競合企業が多かったこと、そしてリチウムイオンに代わる代替手段があったことも、想定通りに事業が成長しなかった理由のひとつです。

 またA123 Systemsの買収においても、グローバル展開において伸び悩んだ部分がありました。こうしたことを含めて、昨年度は減損を出さざるを得ないところに至ってしまったわけです。

 その点では、今後、売り上げに見合った投資に抑え込んでいくことになるのは明白であり、海外で活用されているファイナンススキームの手法を検討したり、A123 Systemsが持っているSIerとしての調達力を生かすことでビジネスを再構築し、NECの製品だけにこだわらない展開なども視野に入れる必要があります。

 しかし、NECにとってエネルギービジネスはこれからも必要だと考えています。プロダクトビジネスからサービスビジネスへと転換を図りながら、これまでの投資も生かしていきたい。成長時期は、この中期経営計画のあとかもしれませんが、必ず成長する時期が訪れると考えています。

社長として3年間の中期経営計画に全力を注ぐ

――新野社長は、「大学はアメフト部卒」と遠藤会長から言われていますが(笑)、アメフトは試合時間が決まっているスポーツです。また、攻めと守りがはっきりしています。前任の遠藤会長からの若返りは1歳だけ。社長としての時間軸は、どう考えていますか。

 社長交代会見のときにも触れましたが、私自身、自分が社長になるとはまったく思っていませんでした。しかし、遠藤前社長とは経営企画担当として一緒にやってきた経緯がありますし、現経営陣のすべてがNECのあるべき姿、そして、社会ソリューション事業によって目指す姿とはどんなものかということを共通認識として持っています。

 そして、現経営陣の全員がわかっているのは、その目指す姿が、過去6年間では成しえなかったということです。そして、これからの3年で完成するのかというと、私はそういうものでもないと思っています。

 私がいま思っているのは、まずは3年の時間軸で考える、ということです。2018年度までの中期経営計画期間中に、なにを、どこまでやっていくのか、ということにこだわります。その先はどうなるのかはわかりません。もっと社長にふさわしい人がいればその人にやってもらえばいいし、いなければ私がやらなくてはならない。それは、いま考えても仕方がないことです。まずは3年間で、掲げた目標に対して、実行し、成果につなげることができるのか。実績が出ることができるのか。それが、私がやるべきことです。

 私は、自分のカラーを出そうとは思っていません。社長が変わって、カラーを出そうとすれば出すほど、前の経営者とは、ここが違うということを前面に出すことになります。ただ、前任者と違うことをやるんだというと、会社も、従業員も不幸になる場合がある。いまは、継承が大切な時期だと考えています。

 いままでのNECの歴代社長は、自分のカラーを前面に出してきました。そして、私と遠藤会長との性格はずいぶん違います(笑)。しかし私は、自分のカラーを出すのではなく、経営を継承することに力を注ぎたい。会社は継続性が大事です。継続性というのは、少しでもいいから、年々良くなっていくこと。それができないと継続性は保てません。今は経営が継承されることが、なによりも優先されるべきで、この経営を次につなげていくのが大切だといえます。

 ですから、私は、次にバトンを渡す人を育てます。その人材は、遠藤会長、そして私がやってきたことを、ちゃんと継承される人材であるべきだと考えています。