Infostand海外ITトピックス

故人との対話 「デジタル不死」ビジネスのいま

実現しなかったデジタル不死ビジネス

 StoryFileとHereAfter AIが手がけている分野は、「digital immortality(デジタル不死」、「digital reincarnation(デジタル転生)」、「Ghostbot(幽霊ボット)」などと呼ばれている。人間の個性をデジタル化して保存するものだ。

 身近な故人をAIで再現することを目指したスタートアップはいくつもある。だが、頓挫あるいは消滅したものも多い。

 2014年に設立されたEternimeは、MITの起業家プロジェクトから始まった。StoryFileのような質問・回答方式のほかに、SNSなどのデータから、死後も残るデジタル人格を作成するというものだった。

 ベータサービスの開始を発表するや大きな反響を呼び、4万人を超える登録者が殺到した。だが、同社のWebサイトもTwitterも2018年を最後に更新が停止した。資金不足のため休止したという。

 一方、昨年1月に大手Microsoftもこのアイデアを進めていたことが明らかになって、ちょっとした騒ぎがあった。「Microsoftの特許は、愛する故人をチャットボットとして復活させる」(The Independent)などと報じられたものだ。

 特許は2017年出願で、2020年末に登録された。「特定の人物の会話型チャットボットを作成するシステム」で、出願書類によると、SNSのデータ(画像、音声、投稿、電子メッセージ、手紙)を元に、その人物の個性で会話できるようチャットボットを訓練する。画像、動画データから人物の2Dまたは3Dモデルを生成することも含まれている。

 ネット上では、期待とともに、反発の声が上がり、AI担当ゼネラルマネジャー(当時)のTim O'Brien氏が火消しに追われた。

 O'Brien氏はまず、「調査中。特許出願は(Microsoftが2018年に定めた)AI倫理のレビュー以前で、これに基づく構築や製品化の話は聞いていない」とツイート。次のツイートで、「心配不要。計画はないことを確認した」と明言して、落ち着いた。

 「死者をよみがえらせる」ことへの抵抗の大きさが垣間見えた事件だった。