クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

先進のファシリティとテクノロジーで顧客のデジタル変革ニーズに応える――NTTデータ三鷹データセンターEAST

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2018年3月30日
定価:本体2000円+税

武蔵野礫層の強固な地盤に支えられ、都心からのアクセスもよい三鷹周辺には各社のデータセンターが集まっている。その1社であるNTTデータが既設の三鷹データセンターの隣に新棟「三鷹データセンターEAST」を建設、2018年4月よりサービスを開始する。低運営コストを追求したファシリティ、顧客企業ごとの機器構成やセキュリティレベルに柔軟に対応可能で、デジタルトランスフォーメーションのニーズにも応えるサービスを特徴とした先進データセンターとなっている。 text:柏木恵子 photo:赤司 聡

「マルチコンコース」からすべてのマシン室へアクセス

 NTTデータの三鷹データセンターEAST(以下、三鷹EAST。写真1)は、さまざまな業種・用途の多様なニーズに、1つの建物で対応するという設計コンセプトで建設された。4階建ての建物は、北側のダブルデッキ棟(高負荷ゾーン)と南側のシングルデッキ棟からなり、中央の共通エリアが両エリアを仕切るかたちになっている。

写真1:三鷹データセンターEAST の外観

 エントランスで入館手続き、手荷物チェックを経て(写真2)、フラッパーゲート(写真3)を通ってエレベーターで3階に上がると、マルチコンコースと呼ばれる広い空間が現れる(写真4)。すべてのマシン室へはここからアクセスすることになり、複数の搭乗口につながる空港出発ロビーのようなイメージだ。既設棟にもブリッジでつながっており、フラッパーゲートのセキュリティを介して、そこの顧客のみが通れる仕組みだ。

写真2:エントランス。右側受付で利用者の指紋登録も行う。正面のサークルカウンターは手荷物チェックのスペース
写真3:生体認証システム搭載のフラッパーゲート
写真4:空港出発ロビーを思わせるマルチコンコース。開放感のあるモダンな空間だ

 マルチコンコースは4階まで吹き抜けになっており、天井はガラス張りで自然光を取り入れた、開放感のあるモダンな空間だ。照度を抑えた構内灯も太陽電池パネルからの電力を用いて省電力に寄与している。データセンターとしてはユニークな空間デザインで、やや贅沢に思われるかもしれないが、各マシン室につながる唯一の廊下でもあり、それぞれに搬入路を設置した場合よりも少ないスペースで済むという。

 どの室に行くにも必ずここを通るということで、マルチコンコースはセキュリティの起点にもなっている。ダブルデッキ側はセキュリティのための前室スペースになっている。シングルデッキ側は取材時点では未使用だったが、デスクを置いてオフィスにしたり、より厳重なセキュリティを求める顧客のための追加施設にしたりといった用途を想定しているという。

 建物の各階にはメカニカルコリドーと呼ばれる設備スペースがある。人と設備の動線を完全に分離した設計で、設備更改作業が顧客のマシン室の出入りなどに影響を及ぼすことがない。1階は電力やネットワークの引き込み設備のエリアとなっている。

建物全体が空調装置のシングルデッキ棟

 シングルデッキ棟には全体でA~D棟の4棟があり、開所時はA、Bの2棟が利用される。フロアは1つをUPS(無停電電源装置)、残り3つをマシン室として使う。顧客ごとに利用形態や冗長構成のニーズが異なるので、どのフロアをUPS室にするかは固定していないという。3階のマルチコンコースから各階への行き来はA~D棟それぞれのエレベーターと階段を利用する。

 シングルデッキ棟の空調には、直接外気冷房・壁吹出し方式を採用する(図1)。A棟とB棟の間をコールドパティオと呼び、免震層から外気を取り入れることにより、屋上チラーの稼働時間をなるべく減らす。マシン室のコールドパティオ側に空調機械室があり、壁吹き出しで冷気を送る。ホットアイル側をキャッピングし、外壁側に排出する仕組みだ。外観を見ると外壁が上で反り返っているが、下の階から暖気がどんどん集まるため、上を広げて排気しやすくしている。C、D棟が建った後は、B棟とC棟の間がホットパティオとなり、こちらも上にいくほど広くなる作りになっている。

図1:空調システムは直接外気冷房・壁吹出し方式(出典:NTTデータ)

 コールドパティオは、冷水の配管などの設備スペース(写真5)になっている。共通棟が幹のメカニカルコリドーで、こちらが枝のメカニカルコリドーとして建物全体に張り巡らされるという設計だ。ちなみに、コールドパティオの各階を穴あきパネルで作っているため、2階から上は容積カウントされないという。こちらもマシン室とは分離され、エレベーターはコールドパティオ側にも出られるようになっている。ある程度の広さもあり、設備更改や技術革新による設備の入れ換えなどをマシン室に影響なく実施できる。

写真5:コールドパティオ兼メカニカルコリドー。床は穴あきパネル

 建物全体を天然ゴム系積層ゴムと鉛プラグ入り積層ゴムで支える免震構造だが、掘削量を減らしたピットレスを採用。ピット層に降りることなく、地上から免震装置が見える(写真6)。

写真6:ピットレスの建物免震

 また、シングルデッキ棟はミッションクリティカルなシステムの利用もあるため、鉛直方向の制震ダンパー(写真7)が付いている。ラックスペースを広くするために柱は細く間隔が広いが、建物外周部を耐震ブレースで固める「鳥かご構造」を採用し、十分な建物強度を確保している。

写真7:鉛直方向の制震ダンパー

 マシン室の入退室セキュリティには、指透過式生体認証システム(写真8)を採用している。床に敷設したレールにラックを設置し、ケーブル類は上部ラダーに収める使い方が基本だが、電源は下から供給したいという場合は2重床にすることも可能だ。NTTデータが提供するコロケーションエリアは2重床で電源を下から取り、ケージで囲っている(写真9)。また、マシン室内に入るサークルゲートも追加で設置している。

写真8:指透過式の生体認証。表面ではなく真皮層の指紋で認証するため、読み取り精度が高い
写真9:二重床やケージなどの設置も可能

高密度サーバーを収容するダブルデッキ棟

 ダブルデッキ棟は膨大・多種のデータを扱う需要の増大から高集積サーバーの利用を想定し、ラックあたり8~20kVAの提供に対応する。3階部分がマシン室で、7室に分かれている。入室のセキュリティは、マルチコンコースにインターロックの前室を設ける。2室続きで利用する場合、前室は1つで済むので、7室すべてにあらかじめ用意するのではなく、利用形態が決まった段階で前室を設置することになる。

 2階にはUPSと空調機室がある。冷気がUPSを冷やしつつ、3階のマシン室の床から吹き上げる(2~3階の吹き抜けで空調を図ることからダブルデッキと呼ぶ)。こちらはコールドアイルを封じ込めるキャッピングを採用する。ダブルデッキ棟は外気に接している面が少なく、高集積サーバーの場合、直接外気では冷やしきれない。そのため、屋上の冷却棟による間接外気冷房を採用している。

 4階は非常用発電機室で、最大12台を設置可能だ。N+1の冗長構成で72時間無給油運転可能な燃料を備蓄している。

顧客のニーズに応じてティア4の高可用構成も可能

 三鷹EASTは既設棟との一体運用が可能だが、電力は別に引き込んでいる。特別高圧を本線・予備線の2系統で受電する以外に、3変電所から受電が可能なため、変電所自体がダウンした場合は東京電力が別変電所へ切り替える。

ネットワークは、西側の既設棟から延長する形でNTT専用線を引き込み、東側からそれ以外の複数キャリアを引き込んでいる。特徴的なのは、NTTのとう道(通信回線専用の地下トンネル)から直接ネットワークを引いていることだ。地震の際も最深30mに設置されたとう道が影響を受ける可能性は非常に低い。

 電力・ネットワークはすべて、A/B系で異経路冗長化されており、建物全体で日本データセンター協会(JDCC)のファシリティスタンダートJ-Tier 3準拠の堅牢性を確保するとなる。ただし、顧客からの要望があれば最高レベルとされるJ-Tier 4への拡張も可能だ。セキュリティも棟ごとにニーズに適したセキュリティレベル構成を取ることができる。

 搬入ヤードは東西に2カ所で同時搬入が可能だ。また、搬入用エレベーターは容積も大きく6トンまで対応するので、外資系などで使われる46Uラックにサーバーを搭載した状態でも心配なく運べる。

 ユニークなのが「養生レス」だ。データセンターは機器の搬入・搬出の作業が頻繁で、そのたびにエレベーターや通路の壁面に緩衝養生用シートを貼る必要がある。NTTデータはこれを手間とコストの無駄ととらえ、新棟では据え付けで金属プレートを貼り巡らせている(写真10)。

 マシン室のほかに利用者が使える施設としては、4階に事務室スペースとプレゼンルーム、3階に自販機コーナーとテーブルなどがあるSakuraTerrace(写真11)がある。

写真10:搬入ヤードの壁面や搬入エレベーターの内部は「養生レス」。デザイン的にもスタイリッシュな雰囲気だ
写真11:休憩スペースの「Sakura Terrace」。ガラス張りで開放的

NTT comとの協業で「デジタルバイモーダルIT」を実現

 NTTデータは金融や公共をはじめとするミッションクリティカルシステムに強いSIerとして知られる。顧客からビジネスのコアである基幹系システムを任されてハイレベル品質で構築・運用を行うことで多数の実績を積み上げてきた。

 一方で、ここ数年のデジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流から、多くの企業がデータ分析やIoT、AIを駆使したビジネスなどを中心に、クラウドサービスを積極的に選択し始めている。

 NTTデータが三鷹EASTで目指したのは、モード1、SoR(Systems of Record)と分類される基幹系システムに加えて、クラウドネイティブなモード2、SoE(Systems of Engagement)系のシステムにも対応する“バイモーダルなデータセンター”である。新棟では特に、クラウドへの接続性とネットワークでDX時代にふさわしい強化を施しており、そのための取り組みの1つに、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)との協業がある。

 具体的には、NTT Comが提供するクラウドサービス「Enterprise Cloud」のシステム基盤を三鷹EAST内に設置して顧客に提供する。NTT Comの拠点以外から同サービスが提供されるのは初の試みだという。加えて、NTT Comのクラウド間接続サービス「SD-Exchange」やNFV/SDN技術を活用したグローバルネットワークサービス「Arcstar Universal One」「OCNグローバルIPネットワーク」などもサービスメニューに加わり、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureといった海外のメガクラウドとも接続可能なハイブリッドクラウドの構築ニーズにも応えていく構えだ。

 首都圏では特にだが、自社でデータセンターを保有する企業の多くが施設・設備寿命の問題に直面している。とはいえ、クラウドやDXが進展する中で、この先新規で自前のデータセンターへの投資・建設は合理的とは言いがたい。NTTデータは三鷹EASTのサービス開始にあたって、そうした顧客のメインセンターの移設の需要に、高い信頼性・サービス品質をもって応えていくことを目指している。

 加えて、顧客のBCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)や複数拠点間のデータ活用といったニーズに対しては、大阪の堂島データセンターをはじめ全国で運営するデータセンターや、首都圏以外に拠点を持つクラウドサービスとの連携により、同社ならではの総合力で、顧客にトータルなITインフラを提供していく。その中で、バックアップセンターのニーズ拡大に応えるべく、西日本エリアのリソース増強を計画中だ。昨今注目のAIについても、2018年夏頃に顧客のAI導入・活用を支援する「AI.Studio エイアイスタジオ」のオープンを予定している。

 「DX時代の競争力の源泉はほかならぬ“データ”にある」――この考え方に基づいて顧客のDXを緊密に支援できるよう、NTTデータは三鷹EASTを中心に、社内外のデータセンター/クラウド事業者と連携を図りながらエコシステムの構築を推し進めていく構えだ。

表1:NTTデータ 三鷹データセンターEAST 設備概要
所在地東京都三鷹市
開所2018年4月
建物仕様  構造鉄骨造
      階数地上4階(Ⅱ期棟完成時)
      延床面積38,000㎡
      床荷重1,500kg/㎡
      免震構造ピットレス建物免震
受電設備本線・予備線の2系統受電、最大40,000kVA(変電所から切り換え供給可能)
非常用電源設備4,500kVA ガスタービン(N+1 冗長構成)。無給油連続運転72時間
空調設備屋上チラー水冷式+直接/間接外気冷房
火災対策設備不活性ガス(チッ素)
認証方式ICカード認証+指透過式生体認証
その他セキュリティ24時間365日有人監視、フラッパーゲート(前室、サークルゲートなどゾーン単位でセキュリティ強化可能)
ラック供給電力最大20kVA
ネットワークマルチキャリア(異経路引き込み可)、とう道引き込み
付帯設備プレゼンルーム、休憩スペース、既設棟との連絡通路