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データを使って「習慣を科学する」中で――、生成AIによって業務改善を図るライオンの取り組み

 本誌主催のイベント「クラウドWatch Day 生成AIのビジネス導入・活用支援企画 ~生成 AI が支える!これからのビジネス価値創造を 活用事例から探る~」が9月27日に都内で開催された。

 オープニング基調講演では、ライオン株式会社の中林紀彦氏(執行役員 全社デジタル戦略担当 デジタル戦略部担当)が、「ライオンの未来を拓く生成AI」と題して登壇。自社における生成AIへの取り組みとして、全社での業務効率化にとどまらず、研究開発(R&D)部門のDXまで紹介した。

 中林氏はまず、あらためてライオンの事業を紹介した。中核事業となる一般用消費財の中でも、ハミガキなどのオーラルケア製品の売上が約3割を占める。氏は動画で、天然ミントの畑や、研究開発においてそのミントを調合して製品を作り出すところを紹介。また製品にとどまらず、次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーを目指していることも説明した。

 そのライオンでは、DX戦略「LDX(Lion Digital Transformation Strategy)」を推進し、データを使って「習慣を科学する」の言葉を掲げているが、その中で、早くから生成AIを利用してきたと紹介した。

ライオン株式会社 執行役員の中林紀彦氏

社内専用のチャット型生成AIアプリを内製、利用が週1万回を突破

 生成AIの利用は2つの軸で進めているという。1つは全社で生成AIを活用するもので、普及活動や用途拡大の取り組みを推進している。もう1つは、社内データを生成AIで利用する、部門特化・用途特化の生成AIだと中林氏は述べた。

 全社での生成AIとしては、ChatGPTのようなチャット型UIの「LION AI Chat」を内製開発した。社内の情報を安全に取り扱えるように、Webアプリを社内ネットワークのみからアクセスできるようにし、クラウド事業者の生成AIの契約を確認して、データの2次利用や外部からの閲覧がなされないようにしたという。

 利用促進としては、生成AIの活用方法を考えるワークショップをリアルとバーチャルとで開催し、LION AI Chatのハンズオン会も開催した。

 機能や推進策も順次アップデート。モデルのアップデートやハンズオン会の拡充、用途ごとのテンプレートの用意などを進め、直近ではLION AI Chatの週間利用回数が平均1万回を突破したと、中林氏は報告した。

 システム構成としては、Amazon Web Services(AWS)上で内製したシステムから、OpenAIやAmazon Bedrock、Google GeminiなどにAPIアクセスしている。AIモデルとしては、そのときに一番いいAIモデルを使いわけるほか、ユーザーが用途に応じてモデルを選択することもできるようになっているとのことだ。

R&Dでも、生成AIでドキュメント活用の時間が1/5以下に

 もう1つの部門特化・用途特化の生成AI利用としては、特にR&D部門での生成AIの活用にチャレンジしている。

 R&D部門では、まずデータにおいて、実験データ、報告書・論文などの業務データ、実験機器からのデータなどが散在してしまっているという課題があった。また、専門人材からの知識伝承として、人の頭にしか存在しない情報を抽出してデジタルデータにする必要性があり、さらには、異動でナレッジが薄まってしまう点も課題だったという。

 こうした課題を解決するための取り組みの1つが、社内の研究開発文書を生成AIで検索できるようにする「知識伝承AI」で、情報を検索して活用する時間が1/5以下になったという検証結果を中林氏は紹介した。

 一方で、これまでは見つけられなかった情報を抽出できるようになったこと、要約生成により開封せずに内容を理解できるようになったこと、ドキュメントをまたいだ情報の抽出・整理が可能になったことなどを、定性的な効果として挙げている。

 さらには先に触れたように、紙の文書をスキャンするのではなく、人の頭の中にしか存在しない情報をデータ化し、伝承につなげることにも現在チャレンジしている。ただし今のところは、インタビューだったり、人が文字を書き起こしたりといった手法を試行しているものの、まだまだ効率が悪く、方法を模索しているとのことだった。

ノーコードで部門ごとに業務特化型アシスタントを作れるようにチャレンジ

 その先としては、生成AIを民主化し、自分専用のアシスタントにできるようにチャレンジしていると中林氏は語った。具体的には、使い方のパターンが決まっているケースや、自分の文書を検索したいというニーズに対して、ローコード/ノーコードでカスタマイズできる仕組みを用意するものだ。例えば、RAGを使った就業規則の検索、といった専用アプリを作れるようにする。

 ツールとしてはオープンソースの「Dify」を利用。ドラッグ&ドロップによるノーコードで、ワークフローを構築したり、独自データと連携したり、UIとシームレスに連携したりできる。

 ライオンでは、こうした生成AIの民主化により、部門ごとに特化した課題を自部門で解決できるようにしたい考えで、現在、PoCを繰り返して、どうすると効率が上がるかを試行錯誤しているところだという。自分専用のアシスタントも、理論的には可能とのことだ。

 こうして、全社員がAIを使いこなす世界に向けて、WordやExcelのように、誰でも手軽に自分専用のアシスタントを利用できるようにし、ゆくゆくは顧客への価値提供へつなげたい、と中林氏は語った。