特集
中堅SIerが作り上げた、全社で生成AIを利用できる環境とその活用法とは?
2024年11月21日 09:00
本誌主催のイベント「クラウドWatch Day 生成AIのビジネス導入・活用支援企画 ~生成AIが支える!これからのビジネス価値創造を活用事例から探る~」が、9月27日に都内で開催された。
講演「中堅SIerが取り組む生成AIの導入と活用戦略」では、株式会社ISTソフトウェアの谷中大樹氏(ITサービス企画本部 ITサービス企画部 部長)が登壇した。
同社はプライム市場上場企業である株式会社アイネットのグループ企業で、受託開発、自社パッケージ/ソリューションの企画運営、データセンターサービスの提供などを事業領域としている。その中での社内でのAI利用の取り組みについて、導入の流れから、そこからより活用するための施策まで、具体的な内容が紹介された。
初期から自社ナレッジ共有ツールに生成AIを統合、あとからガイドラインを整備
ISTソフトウェアの社内での生成AI利用状況は、2024年7月時点で、全社員の60%が生成AIを利用し、全社員の27%が業務で活用している、と谷中氏はまず紹介した。
その導入ステップは「1. 生成AIの利用環境を全社員に提供」「2. 活用方法をレクチャー」「3. 守ってほしいことを文書化」の順だった。通常は3、2、1と順序が逆になりそうだが、それも含めて谷中氏は順に説明した。
まず「1. 生成AIの利用環境を全社員に提供」の段階。このときのポイントとしては、まず、セキュリティを考慮してAzure OpenAI Serviceを利用する自社アプリケーションを用意したことがある。
具体的には、自社開発のナレッジ共有ツール「ミーム」に生成AI機能を統合。社員間のQ&Aコーナーに、生成AIが回答してくれる機能を付けた。AIモデルとしては、GPTのほか、ClaudeやGeminiにも対応した。
なお、このときはまだガイドラインを作る前だったので、投稿フォームに最低限の注意喚起だけ記載したという。
続いて「2. 活用方法をレクチャー」の段階。同社では、全社員を対象にした社内勉強会を月2回開催しているという。その中で、2023年5月から、生成AIが10回テーマに採用された。
ここでは、「ChatGPTとは」に始まり、ChatGPTの活用事例や、生成AIを活用したシステム開発、他社活用事例、独自データを使った生成AIの開発などもテーマに取り上げられたと谷中氏は紹介した。
最後に「3. 守ってほしいことを文書化」として、ガイドラインを作った。すでに環境提供が先行している中で、その利用を厳格化するより、むしろ社員のセキュリティ意識が高すぎて利用が広がらなかったことが課題だった、と谷中氏は言う。
そこで、どんどん使ってもらいつつ、無法地帯にしないために、「これさえ守れば安心して使える」というガイドラインを作った。キャッチフレーズは「守って使おう! 生成AI」。
情報は最小限にとどめ、「個人情報は入力しない」「顧客情報を入力する場合は顧客許可を得る」「社内情報を入力する場合は上長許可を得る」の3つのポイントだけを、1枚のポスターにまとめた。
全社的組織を作って活用へ。システム開発用プロンプトや議事録自動化、テストコード作成自動化など
続いて活用戦略として、今期の取り組みと実績が語られた。
生成AI活用の目的は、大きく分けると2点。1点目は、社員の9割がシステム開発業務に従事する中で、生成AIを活用しシステム開発業務のQCD(品質、コスト、納期)を向上させること。2点目は、生成AIを活用した新たなサービスを開発することだ。
まずやったこととしては、自部門のメンバー、特にトップエンジニアを専任化して「生成AI推進ユニット」を作った。そして、各部門の中にメンバーを募って「生成AIアンバサダー」を組織した。
生成AIアンバサダーは、生成AIユニットから情報提供を受けて、その内容を各部門に伝える。そして、各部門からの情報共有を生成AI推進ユニットに集め、AIドリブン開発を推進する。
その実績の1つ目としては、システム開発に特化したプロンプトを作って配布した。要件定義テンプレート作成や、抜け漏れチェック、SQLクエリ作成、テストデータ作成、テストコード作成など、工程ごとに用意した。
2つ目としては、議事録作成の自動化を行った。会議を録音した音声ファイルから議事録を自動作成するものだ。
生成AIによる音声文字起こしのWhisperで音声ファイルをテキスト化し、テキストデータを小分けにしてGPT-4oで要約、それをまた議事録にまとめる。小分けにするのは、全体だとコンテキストサイズを超える可能性があるのと同時に、全体を与えてしまうとざっくりまとめすぎるからだと谷中氏は説明した。
3つ目としては、ホワイトボックステストのテストコード作成を自動化した。ソースコードからGPT-4oでパターン分割し、テストパターンごとにサンプルコードを与え、GPT-4oでコード生成する。
4つ目としては、社内文書を参照して回答するチャットを開発した。つまり、RAGにより、社内の規定や規則についての質問に回答してくれるチャットだ。
ただし、回答精度にはまだまだ課題があり、現在は配属されたばかりの新人が精度向上に挑戦中だと谷中氏は語った。
5つ目としては、社内チャット(ChatLuck)から直近1週間のトピックが自動投稿される仕組みを構築した。谷中氏によると、「回答内容はそれほどすばらしいということはないが、1週間分をふりかえるのにはいい」とのことだった。
6つ目はおまけとして、翌日のおすすめコーディネートを提案してくれる仕組みも作ってみたと谷中氏は紹介した。Webクローラーが天気予報サイトをクロールし、GPT-4oで天気予報を抽出、そこからGPT-4oでコーディネートを提案し、DALL-E3でコーディネート画像を生成するというものだ。
活動を通してわかったこと
最後に谷中氏は、活動を通してわかったことをまとめた。
まずは、生成AIだけで業務を完全に自動化することは難しいこと。結果のチェックや手直しが必要であり、使う人には知識と経験が求められるということだ。
続いて、生成AIは社員の代わりではなくサポートであるということ。そのため、生成AIは社員の成長にも大きく寄与するということだ。
そして、全員が生成AIを使いこなせることが理想的であること。一部の社員だけでなく、全員で生成AIの活用を考えるべきということだ。
これらをもとに、「当社は、今後も社員の教育に力を入れていくことで、目標のQCD向上につなげる」と谷中氏はまとめた。
そのほか谷中氏は、生成AIのサービスを利用する/開発する、サービス利用/アプリ開発、AIモデル提供元の選定など、生成導入における選択肢とポイントなども紹介した。