特集

“業界別”データ活用の肝:第3回
製造業界での課題を解決するためのデータ活用とは?

 小売業界、物流業界に続き、最終回となりました製造業界のデータ活用に関して、フライウィール プロダクトマネジメント部の大附よりお話しさせていただきます。

 製造業界は日本にとって大変重要な産業であり、製造業界の成長こそが日本の成長であるとも言えるでしょう。しかしながら、海外のメーカーにシェアを奪われているメーカーもあり、かつては物づくり大国であった日本も、失われた30年と言われるなど世界から大きく後れをとっています。そして、各メーカーのみならず、日本政府もこの現状を打開すべくさまざまな改革を行っています。

 私は、日本にとって重要な産業の製造業において世界的な競争力を保つためには、DXとデータ活用が不可欠であると考えています。本記事では小売業界、物流業界における十分な成果を得るためのデータ活用に続き、製造業界に注目して解説します。

製造業界におけるデータ活用例

 製造業界におけるデータ活用においても、小売や物流と同様にまずデータ収集から始まり、データを分析・可視化し、KPIツリーを作成し、施策などを細分化していきます。そこから、どこにボトルネックがあるのか、人員の配置は最適なのか、調達コストは最適なのか、製造ラインのパフォーマンスは最適なのか、などを可視化していきます。そして、業務上どの部分にボトルネックがあるのか、などの課題を特定し改善のためのアクションプランを策定していきます。

 私が今まで対応した製造業界のデータ活用例として、新規事業企画を推進するためにチームが集めたビジネスアイデアを生産的にレビューし、比較検討して新規事業開発を加速させていきたいという案件がありました。

 そのため、ビジネスアイデアすべてのデータをベクトル化して、アイデア間の類似度などを算出して2次元マップとして可視化することで生産的なレビューと比較が可能になりました。それらの可視化の効果を検証したところ、従来のプロセスでは見つけられなかった類似アイデアを発見できることがわかりました。

 また、製造現場にてよくあるケースとして、現場の担当者から見て「なんとなくここに課題がある」「ここを改善すればもっといいのに」と思っていたとしても、定量的な根拠がなければ、改善のための提案もできず、稟議(りんぎ)を通すことも難しいのではないでしょうか。データを活用することで、その現場の担当者が感じた「なんとなく」を「確信」に変えて設備を最適化し、現場における生産性を大きく向上させることが出来た事例もありました。

 製造業界は、サプライチェーン全体の中でも上流に位置しており、この部分においてデータ活用を駆使することで、その後のプロセス(物流、販売)に大きくプラスに影響します。また、国内総生産の観点においても、世界的な競争力維持においても大変重要であると言えるでしょう。

 にもかかわらず、ほかの業界同様に進まない、必要性や成果を実感できないまま終了してしまうというDXやデータ活用案件が多々あります。進まない要因としては、小売業界や物流業界の記事にて言及されていますが、もう一つ大きな壁となる要因が存在していました。

「失敗が許されない文化」が大きな壁に

 私が製造業のデータ活用を推進する際の課題感に加えて、失われた30年となってしまった大きな要因ではないか、と感じたことについてお伝えします。ほかの業界においても当てはまることなのかもしれませんが、製造業界に特に共通していることとして、「失敗が許されない文化」が大きく関係しているのでは、と実感しています。

 多くの製造業で見られる文化ですが、失敗を良しとせず、何もしないことが評価される環境であれば当然のことながらイノベーションが起こることは無いでしょう。さらに、失敗から学ぶことがなければ成長がなく、その失敗をしてはいけない文化であれば、その産業の成長はない、ということになります。

 では、データ活用の観点からデータ活用なしに、どのようにしてその産業が成り立っていたのかというと、長年経験を積んだ社員によるカンと経験のみで運営されているということです。その結果、その社員が退職してしまえば、その成功体験は再現されることなく、振り返りや分析もできず、さらにビジネスのブラッシュアップや継続的な改善がなされないまま時間だけが過ぎてしまい、現在に至ることも少なくないのではないでしょうか。

 それこそが、現在の日本の製造業を取り巻く現実となってしまっているのではないかと感じています。ただ、データを活用してデジタルツイン(さまざまなデータを、まるで双子であるかのように、コンピュータ上で再現する技術)を構築することによって、仮想的なデジタル空間を作ることができます。そして、そのデジタル空間の中でどのような施策を行うと、どのような結果が得られるのか、どんなリスクがあるのかなど、さまざまな失敗を繰り返しながら探索することができます。

 なので、失敗が許されない文化においてもデータ活用は大変有効な手段であると言えるでしょう。

「全社最適」と外から言うのは簡単なこと

 「全社最適」という言葉は、IT業界においては頻繁に使われる言葉なのではないかと思います。しかし、「全社最適」に対して責任を持つのは、その会社の社長や上層部の一部だけであり、会社における社員のほとんどは、「全社最適」よりも自身の業務にフォーカスして、その部分のみの業務を最適化しようと考えます。さらに「全社最適」となると、大きな改革が必要で企業にとっては痛みを伴うケースもあるでしょう。

 「全社最適」となるはずの施策政策にも関わらず、部署によっては痛みを伴う改革を推進することは担当者にとっては難しく、自分の部署にとっての局所最適に傾いてしまうことも多いのではないかと思います。さらに失敗が許されない、となると提案すらできず、現場の意見を優先する結果、「全社最適」という改革は後回しとなり、それが何年も続いてしまうという現実が、全社的なDXやデータ活用が進まない要因となっているのです。

「全社最適の壁」を突破するには

 では、全社最適の改革は経営層からアプローチしなければ実現できないのでしょうか?この疑問に対しては、経営層の支持が不可欠ではあるものの、従業員一人ひとりの理解と協力もまた重要です。経営層からの指示に加えて、従業員一人ひとりが変革の重要性を理解し、具体的な行動を起こすことが、持続可能な改革を実現する鍵です。

 そして、真の改革は組織全体での取り組みが必要であり、私たちはデータ活用に加えて、その真の改革を進めるためのプロセス構築のためのコンサルティングも提供しています。

 また、私たちがデータ活用を推進する際に、企業の壁を突破してデータ活用を成功させるためには、顧客企業のビジネスやデータに対する理解に加えて、顧客企業の業界の特性、企業の文化、従業員の働き方やモチベーションなどについても深く理解する必要があります。技術的な裏打ちに加えて、その企業の一員であるかのように課題を理解し解決策に取り組んでいくことが経営層、改革担当者、現場の担当者の理解と信頼を得ることに大きくつながります。

 私たちが実際に携わった案件で、経営層からのトップダウンではなく、担当者レベルから全社的な改革を推進している事例をご紹介させていただきます。

 その顧客企業は、日本においても有数の大手製造業の企業で、多くの社員が在籍し国内外に部署や工場も存在しており、経営層までも距離があるような企業でした。そこでは、社内の組織が細分化されており、データの適切な管理が難しく、データを有効に活用できていない状況でした。私たちは顧客企業と協力してそれらのデータを一元的に管理して、全社的にデータを検索したり活用したりできるようなソリューションの構築を目指して、現在も取り組んでいます。

 その大きな推進力となっているのが、顧客企業の担当者が持つ全社的かつ長期的な視点と課題解決に対する大きな「熱意」でした。強い問題意識と解決に向けた熱い想いが、大きな企業の大きな壁を突破し、全社最適の改革を進められた案件となりました。「熱意」といった定性的なもので、そこには数値化できるものはありません。ただ、ITやAIといった最新技術に加えて「熱意」が、大きな企業も動かし、全社最適の改革を進められた案件となりました。課題解決に対する大きな「熱意」によって壁を突破したこの経験は、私たちにとても大きな学びとなりました。

サプライチェーン全体でのデータ連携・活用を

 小売業界、物流業界、製造業界のデータ活用についてお話ししてきましたが、私たちが目指す本当のデータ活用は、一企業内の最適化にとどまらず、サプライチェーン全体でのデータ連携を行い、活用をしていくことが大切ではないかと思っています。サプライチェーン全体でデータ活用を行い最適化することで、現在日本が抱えている多くの課題を解決することができるようになると私たちは考えています。

サプライチェーン全体におけるデータ活用例

最後に

 小売業界、物流業界、製造業界と3回に渡ってお伝えしてきた業界ごとのデータ活用ですが、DX同様に進めるための大きな壁が存在すること、そしてその壁をどう突破してきたのかについて、成果を実感できるデータ活用についての大切さをお伝えしてきました。

 現在、たったの2%の企業のみがデータ活用によって成果を実感できており、残りの98%が今後取り組むのであれば、とても大きな伸び代があると思っています。そして、失われたれた30年はとても大きいものではありましたが、ただ98%が取り組めば、再び取り戻すことができるのではないでしょうか。

 日本においてもITやAIなどの最新技術を含めて、DXやデータ活用における技術はすでにそろっています。企業は、いつでもその恩恵を受けることが可能で、生産性から利益の向上に至るまで、それらのソリューションと共に改革が可能であるにも関わらず、企業に存在する進まない壁によって大きく足を引っ張られています。

 それらを解決するためにも、私たちのようなスタートアップと、日本のIT構築の最前線にいるSIerやベンダーが協力するだけではなく、企業や業界を超えてデータを共有しあうなど文化などが広がっていくことが大切だと考えています。

株式会社フライウィール プロダクト開発本部 プロダクトマネジメント部 部長 大附 克年
現在、プロダクトマネージャーとしてデータ活用プラットフォーム Conata の開発に携わる。以前は、大手外資系ソフトウェア会社などで音声認識や自然言語処理技術の研究開発に従事。