特集

“業界別”データ活用の肝:第2回
物流業界で十分な成果を得るためのデータ活用とは?

 小売業界のデータ活用に続き物流業界のデータ活用に関して、フライウィール プロダクトマネージャー 山本からお話しさせていただきます。

 物流業界は、製造から小売につなぐ重要な起点であり、さらに物流2024年問題などに直面しており、改革において待ったなしの状況ですぐにでも改善しなければならない状況です。物流2024年問題においては、以前より警鐘が鳴らされておりましたが、実際には十分な対応が取られている現状は少ないのではないでしょうか。

 物流業界は、2024年問題を始め人手不足や空トラック問題など、解決しなければならない課題が山積しています。それらを解決するにはDXとデータ活用が不可欠であり、言い換えればDXとデータ活用によって解決可能であると言えるでしょう。

 本記事では小売業界から十分な成果を得るデータ活用に続き、物流業界に注目して解説します。

物流業界・領域における業務改善のためのデータ活用

 まず、物流業界には陸運、空運、海運、鉄道、倉庫と大きく分けて5つの領域があります。そして、物流業界と、物流領域の改善に取り組む事業者として製造業や小売業など、物流業会のデータ活用に関しては、さまざまな業界やステークホルダーが存在しています。

 私たちが物流業界のデータ活用に取り組む際にはまず、物流業界と物流領域の改善に取り組む事業者双方のステークホルダーからのヒアリングから開始します。各ステークホルダーへのヒアリングにおいても大変重要で、「本当の課題は何か」を追及していくと、担当者が当初考えていた課題とは全く違ったということが多々あります。そして、課題の発見からボトルネックの特定を行うのですが、その際にとても重要なポイントがあります。

 それは、すべての領域や事業者を網羅しようとするのではなく、小さいエリアに的を絞って、まずは実験設計を実施し具体的に検証実験ができる環境を構築します。その検証実験に参加いただける物流領域の改善に取り組む事業者へ依頼するなど、パートナーを開拓しつつ、小さくPDCAを回せるように進めていきます。

 そして、実際に自分自身がこれらのデータ活用に携わり実感したことは、倉庫や店舗の在庫の適正化や、配送の効率化が、成果を実感できるデータ活用につながるのではと考えています。

データだけではない!システムのカオス

 私たちは、物流業界におけるデータ活用の際に、さまざまなステークホルダーとのヒアリングから調整を行い、活用するためのデータの収集を開始します。恐らく、この段階で継続が難しいと判断してしまうケースが数多くあるのではないでしょうか。

 それは、前回の小売業界編でもお伝えしましたが、データの管理が見事にバラバラな状態であるということです。社内の部署や担当者が違う、というだけではなく、そのデータを管理するためのソリューションベンダーまでも違うのです。私たちは、社内の部署や担当者との調整や交渉に加えて、データを管理しているソリューションベンダー各社に掛け合って、データを収集することも行います。

物流倉庫におけるデータ活用

 それでは、具体的なデータ活用について解説します。ここでは、倉庫や店舗を抱える事業者が在庫を適正に保つためのデータ活用の例を紹介していきます。まず、大きく3つの項目に着手し改善を測っていきます。

1.現状、在庫がどの程度滞留しているのか正しく把握する

まず、店舗がそれぞれ在庫を抱えているか(店舗×在庫)という大規模なデータを正しく把握することから開始します。データ活用の効果を最大限得るためにも、ここのデータの精度が大変重要となります。私たちは、在庫データをスナップショットでとりためていき、在庫を最適化するためのデータ収集が、必要在庫回転率、在庫日数などの指標をいつでも確認できる仕組みを作っていきます。

2.データを元に需要予測を行う

次に、上記で記載した商品数と店舗数という大規模なデータを使い、機械学習を活用して需要予測を行います。上記のデータと商品の概要、カテゴリー、季節性や店舗の特性などを掛け合わせることで、類似される商品を見つけ出し予測を立てることが可能になります。一方で、新商品の需要予測は難しいとされています。しかし、メーカーからの発売やキャンペーンなどが頻繁に実施されるため、新商品に関する需要予測は物流業界のデータ活用において大変重要であると言えるでしょう。高度な需要予測によって、商品が欲しいタイミングと製造や配送にかかるリードタイムも加味して、将来的には発注の提案まで自動化できる仕組みを提案します。

3.倉庫・店舗での在庫移動

上記の3つの項目に加えて、倉庫内にて滞留してしまった商品などにも着目します。滞留したままでは、商品が仕入れられずに在庫の消化もしきれず利益に大きく影響します。ここでの対応としては棚卸しを行い、これらの商品のセールを実施するのか、破棄するのか、または店舗間で移動ができる商品なのかを見極め、それらの配送コストを含めて利益が最大化するように提案します。

 また、1つの小さな商品が大きなダンボールに入っていて、「何でこんな梱包何だろう?」「これならもっと簡素化できるのに」と思った事はありませんか?さらに、その小さい荷物を大きなトラックで運んでいたとしたら...。これは極端な例ですが、そのような箇所からデータを使って問題点を可視化し、改善していきます。データをしっかりと活用することで、AIによって過剰な梱包などが最適であると導き出してしまうことを防ぐことも可能ですし、現状担当者のカンによって対応しているフェーズで大きな無駄が出ている箇所を見える化・改善し利益拡大につなげます。

トップダウンの難しさ

 「組織で実施する取り組みはトップダウンで進める」ということを、どの担当者も考えた、または実行した経験があるかと思います。しかし、トップダウンであっても簡単に進まないのが、DXに加えてデータ活用なのではないでしょうか。では、なぜトップダウンでも難しいのか?ここにおいても大きな壁が存在します。

1.組織の違いと評価制度

データ活用やDXなど、全社で取り組む改革が必要となった時、その企業の組織に大きく依存します。なぜなら、それぞれの部署が担う職務や評価制度が全く違うからです。マネージャーレベルはデータ活用によって業務全体の効率化を行うことが重要な職務で、さらに評価にもつながる場合だったとしてもメンバーや現場にとってその項目が評価対象ではない場合、大きなリスクや時間を割いてデータ収集に協力することを躊躇してしまうのではないでしょうか。

2.データを活用したい理由が不明瞭

「データ活用が重要だから進めましょう」となっても、その理由が不明瞭である場合、現場に受け入れられるのは難しいでしょう。現場からはメリットを感じられないどころか、AIに対するアレルギーのようなものを感じることもあります。データから導かれた最適解が現場ではうまく受け入れられない、AIの需要予測なんて何の根拠があるのか?というケースが多々あります。

 私たちはデータ活用に対するメリットを感じてもらうため、シミュレーションをするだけではなく、現場の人を巻き込んで小さく検証していくことを実施します。実際の取り組みでは、倉庫内で捌けるオーダーの理論値を算出して、実際にその通りに行ったらどう変わるかを実験するなどして、少しずつ現場に認めてもらい受け入れてもらえるように対応します。地道な作業ではありますが、小さい信頼から現場におけるメリットを実際に感じてもらい、データ活用における「本当の価値は何か」「意味は」「それは自分たちのためになる」をリアルに実感いただければ、現場を含めた改革が可能になるでしょう。

 そのため、私自身の経験上必ずしもトップダウンが有効ではなく、少しの信頼をつなげて大きくしていき、その結果、ボトムアップしつつ共感を得ていくというやり方が、現場とマネジメント双方にとって納得して進めていける方法であり、かつ成果を得るためのデータ活用における重要なポイントの一つではないかと考えています。

十分な成果を得るためのデータ活用に重要なポイント

 私自身が日々データ活用に関するコンサルティングを行う中で思う重要改善ポイントとしては、業務の属人化に危機感を持つこと、ではないでしょうか。業務の属人化とは、社内での担当者がたった一人であることと、その方の経験と知見のみで日々業務を行っていて、成功事例を誰にも再現できない状況です。

 私が以前、危機感を覚えた具体例としては、社内で1人がExcelにてデータを管理し、何かあればそのExcel担当者に聞いて対応することに慣れてしまっているケースがありました。例えば、こちらがダッシュボードを作っても全社的に見る習慣ができず、たった一人に頼り続ける組織になっていることでした。この場合、仮にこの担当者が退職した場合、これらのデータがブラックボックス化することも考えられますし、企業の長期的な成長に欠かせない人材の流動や育成の部分においても大きなリスクとなります。

 このような事態を避けるためにも、データ活用における「本当の価値は何か」「意味は」「それは自分たちのためになる」を全社的に共通認識として、その考え方が広がって行けば良いと思っています。

最後に

 日本の大手企業では少なからず、大手のSIerがシステムの導入や整備など行っているかと思います。現在、顧客のみならず日本全体の底上げにはIT技術が不可欠で、現状これらの改革においては待ったなしの状況です。その最前線にいるSIer各社が、顧客や日本にとっての最適な提案をし続けられる環境であればと切に願っています。

 そして、私はこうした大手のSIerや私たちのような新たなスタートアップ企業が協力すべきであると強く感じています。大手SIerとスタートアップ双方にて足りない部分を補いながら、日本のDXに加えてデータ活用を推進していくことで、現状のさまざまな課題を解決する大きなソリューションとなることができるでしょう。

 次回は、サプライチェーンの上流に位置し、最適化が急務とされる製造業界に特化してお伝えします。全社最適に向けた改革が難しいとされる大きな壁を突破したケースや業界ならではの課題をデータ活用によってどのように改善・改革したのかなど、実際の事例とともにお伝えします。

株式会社フライウィール プロダクトマネージャー 山本大起
現在プロダクトマネージャーとして、データプラットフォーム開発を担当。プライバシー保護を考慮したデータ処理の自動化や機械学習パイプラインの構築などに従事。