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システムはビジネスそのもの――、New Relicがめざす日本のオブザーバビリティの民主化とDXの加速

 「日本法人を設立してから今年で5周年を迎えるが、かなり速いペースでオブザーバビリティを日本企業に届けられていると思っている」――。2月9日、New Relic株式会社 代表取締役社長 小西真一朗氏は報道関係者向けの説明会においてオブザーバビリティ市場が拡大していることをあらためて強調した。

New Relic 代表取締役社長 小西真一朗氏

 米国で2月7日に発表された同社の2023年度第3四半期(2022年10月~12月)の収益は、前年同期比18%増の2億3980万ドル(約326億円)でウォール街の予想を上回り、今後も成長が見込まれるとして株価も上昇中だ。そしてその勢いは日本でも拡大しており、国内オブザーバビリティ市場では2位以下を大きく引き離し、39%という高いシェアを獲得している。

2021年の国内オブザーバビリティ市場のシェア(テクノ・システム・リサーチ調べ)。New Relicのシェアは「2位から4位までのシェアの合計とほぼ同じ」(小西氏)の39%で、業界首位を走る

 2018年12月から日本法人のトップを務める小西氏は、社長就任以来、一貫して「日本のオブザーバビリティ市場を民主化する」を掲げ、「シングルプラットフォーム」と「日本語によるサポート」というコンセプトを、軸に国内ユーザー数を着実に増やしてきた。2023年2月現在の国内ユーザー数は1万6000以上、一昨年の5000ユーザーから比較すると3倍の成長を果たしたことになるが、小西氏は「いまは2025年の5万ユーザーという目標に向けて前進している途中」と、さらなるシェア拡大に意欲を見せている。

「日本のオブザーバビリティを民主化する」を掲げ、日本法人も今年で5周年を迎える。ユーザー数は1万6000まで拡大し、トヨタ、ドコモ、イオンなど幅広い業種のリーダー企業が顧客として名を連ねる

 New Relicの採用企業にはトヨタ自動車、ダイキン、三菱UFJ銀行、NTTドコモ、ファミリーマート、Abema、セガなどさまざまな業種のリーダー企業の名前が並ぶが、これらの企業の事例に共通するのは「DXを加速させるオブザーバビリティ」という点だ。

 例えば2021年から「New Relic」を導入してきたAbemaは2022年、日本初となるFIFAワールドカップ全64試合中継に踏み切ったが、開局史上最大となるトラフィックと視聴者数をさばききったことで大きな評価を得た。同社の藤田晋社長は「デジタルサービスの品質に自信があったからこそ、(ワールドカップという)大きな契約にベットできた」と語っているが、その品質を担保した技術のひとつがシステム全体を俯瞰し、迅速な改善を可能にするオブザーバビリティであったことは疑いない。

 小西氏は「オブザーバビリティのパワーがあったことを日本中に示した」と語るが、単に膨大なトラフィックをさばいただけでなく、企業が一段上のステージへと向かうトランスフォーメーションを後押ししたという意味でも興味深い事例である。

New Relicのオブザーバビリティが日本企業のDXを加速した事例。特にAbemaのワールドカップ全64試合無料中継は社会的インパクトも大きく、同社のビジネスを大きく成長させたケースとして知られる

 「システムとビジネスの間にはいまや境界線はなく、システムはいまやビジネスそのものと言っていい。コア事業がデジタルと密接にひも付いている以上、すべての企業が経営戦略の一環としてシステム全体を把握している必要がある」(小西氏)。

2010年以降、企業のコア事業がデジタルと密接に関わるようになり、パンデミック以降はさらにその流れが加速、いまや「システムはビジネスそのもの」であるというのがNew Relicの主張
システム=ビジネスの時代だからこそ、システムの状態をリアルタイムに把握し、問題の検知と対策を迅速に行うオブザーバビリティプラットフォームの存在が重要になる

国内ユーザーのニーズを反映した進化が求められている

 もっとも、日本のオブザーバビリティ市場は米国などに比べるとまだ小さく、現状では“オブザーバビリティ”という言葉もひろく知れ渡っているとは言い難い。2年後の2025年に国内で5万ユーザーを達成するという大きな目標を実現するには、オブザーバビリティ市場そのものの拡大に加え、データプラットフォームとして国内ユーザーのニーズを反映した進化が求められる。

 New Relicが2022年に行ったオブザーバビリティ調査レポートによれば、日本企業の経営層(CxO)の80%がオブザーバビリティに関心をもっており、グローバルよりも上回る傾向にある。また、日本企業はグローバルと比較して、オブザーバビリティに対し「単一のプラットフォーム」「クラウドネイティブのアプリケーションアーキテクチャの開発」「オープンソース技術の導入(OpenTelemetryなど)」などを求める傾向が強いという。

New Relicの調査レポートによると、日本のCxOの80%がオブザーバビリティに関心をもっており、かつ単一のツールへの期待が大きい。また、オブザーバビリティの導入においては、クラウドネイティブアーキテクチャの開発やオープンソース技術の導入を意識しているという結果も出ている

 これらの国内外のトレンドを考慮し、「日本のオブザーバビリティを民主化する」というゴールにあらためて向き合うために、New Relicはプラットフォームの機能強化を含む3つの施策を国内向けに発表している。

・脆弱性管理機能を新たに追加
・パフォーマンスとスケーラビリティを改善
・国内外のテクノロジーエコシステムを拡大

プラットフォーム強化の3つのポイント。今回発表された国内向けアップデートもこの3つのポイントに従って実施される

 何度か言及しているように、New Relicの最大の特徴は「シングルプラットフォーム」であり、同社の顧客の多くもひとつのツールでオブザーバビリティに関するプロセスを完結できることを望んでいる。

 そして今回のアップデートは、

・多様なデータを取り込む … セキュリティへの拡大(脆弱性管理機能)
・膨大なデータを分析する … スペックの強化
・データを可視化/理解する … エコシステム拡大

という、オブザーバビリティにおける3つのプロセスをそれぞれ強化するものとなっている点に注目したい。以下、New Relic 執行役員 技術統括 兼 CTO 松本大樹氏による説明をもとに、それぞれのアップデートについて紹介する。

New Relic 執行役員 技術統括 兼 CTO 松本大樹氏

脆弱性管理機能「New Relic Vulnerability Management」

 セキュリティのデータもオブザーバビリティプラットフォームに取り込みたい、というニーズから実装された機能で、米国と同時に日本のユーザーに対しても一般提供開始(GA)となった。追加投資が必要ない既存のAPMエージェントを利用してニアリアルタイムでセキュリティデータを取得し、継続的なランタイムソフトウェアの構成分析を行い、緊急性の高い脆弱性に優先順位を付けて対応(トリアージ)することが可能。また運用チームと開発チームがシングルプラットフォーム上で共通のセキュリティデータにアクセスできるため、互いに信頼性を高めあいながらリスク管理をしやすくなる。

米国と同時にGAとなった脆弱性管理機能の「New Relic Vulnerability Management」は、既存のAPMエージェントを利用してランタイムソフトウェアを分析するので、追加投資は必要ない。米国のNew Relicが保持する脆弱性データベースと突合して、もっとも緊急性の高い脆弱性に優先順位をつけて対応することが可能

 「脆弱性管理はすでにやっているというユーザーも多いが、実際に脆弱性を特定できている範囲はOSから良くてミドルウェアぐらいまで。アプリケーションのライブラリまで特定できているケースはあまり多くない。New Relic Vulnerability Managementはアプリケーションのコードまでしっかりカバーし、脆弱性を特定したあとも重要度/緊急度に応じて自動でトリアージが可能。セキュリティレポートを読んでからではなく、いま動いているシステムの脆弱性を、いま検出し、容易に対応できる点が特徴」(松本氏)。

New Relic Vulnerability ManagementのAPMエージェントはアプリケーションライブラリまでカバーできるため、他社製品よりも幅広く脆弱性を特定することが可能

 なお、New Relicは2022年9月に買収したセキュリティ企業 K2 Cyber Securityの技術をプラットフォームに統合する方針を示しており、パッチを適用せずにゼロデイ侵害を防ぐランタイム保護(RASP)や、悪用可能な脆弱性の検出(IAST)などの機能も今後、実装される予定となっている。

2022年9月に買収したセキュリティ企業 K2 Cyber Securityの技術を今後実装していく予定

「New Relic I/O」によるエコシステムのアセット化

 オブザーバビリティプラットフォームとして進化するには、コア機能の拡充とともに、サードパーティとの連携拡大も重要な要素になる。New Relicはネットワーク、アジャイル開発、セキュリティ、オペレーション、オープンテレメトリ/Kubernetes、クラウド/データプラットフォームの6つの領域で500以上のテクノロジーパートナーとソリューション連携を実現しているが、エンジニアがすぐにこれらの製品とNew Relicを連携させるは簡単ではないという声も上がっていた。

 今回発表された「[New Relic I/O(Instant Observability)]」は、「すべてのエンジニアがすぐにオブザーバビリティを実践できるようになることをめざしたハブ的機能」(松本氏)で、連携する500以上のサードパーティ製品をカタログ化し、ワンクリックでシステム連携に必要なダッシュボードやドキュメント、APIを「クイックスタート」として取得、データを可視化することが可能になる。

 例えば「Snowflake」を選ぶと、Snowflakeアプリケーションのパフォーマンスをトラッキングするダッシュボードや、パフォーマンスメトリクスの急激な変化を検出するアラートなどを入手でき、既存のSnowflakeアプリケーションに対して“インスタント”にオブザーバビリティ機能を統合できるようになる。数多くのアプリケーションデータに含まれる価値を容易に可視化できる機能として注目される。

ブラウザからもNew Relicプラットフォームからもアクセスできる「New Relic I/O」は、500以上のサードパーティツールとワンクリックで連携できる

 エコシステム拡大の施策としてもうひとつ、New Relicが提供するオブザーバビリティ教育プログラム「New Relic University」ではオブザーバビリティの基礎知識試験「Full Stack Observability Exam」を実施しているが、この試験を日本語で受けることが可能になり、合格者にはデジタル認定証も授与される。松本氏は「オブザーバビリティエンジニアのモチベーションを高め、スキルアップを支援することはNew Relicにとっても非常に重要。オブザーバビリティのスキルをもっていることを証明するシステムとして活用してほしい」とコメントしており、今後も無償プログラムを含め、国内のオブザーバビリティエンジニアを支援していく方針を示している。

日本のエンジニアがオブザーバビリティのスキルを取得/証明するための日本語の基礎知識試験も実施へ

エンタープライズグレードのデータストア機能「New Relic Data Plus」

 2022年4月に発表された「New Relic Data Plus」は、従量課金のデータプランとして提供されている「New Relic Data」のスペックを大幅に向上したラインアップで、1GBあたり55円(月額)というリーズナブルなコストでエンタープライズグレードなデータストア機能を利用できる。最大90日間のログ保存、従来比3倍のデータ量のクエリ検索と10倍の実行時間、ログデータの難読化、データを保存するクラウドプロバイダの選択など「スケーラビリティ、セキュリティ、ガバナンスのすべてが進化したデータストア」(松本氏)として国内のユーザーにも提供されることになる。

エンタープライズグレードなデータストア「New Relic Data Plus」は既存メニューの「New Relic Data」に比較してスケーラビリティ/セキュリティ/ガバナンスが大幅に強化されている
データストアの比較。フリー枠の100GBはそのまま、データ保持期間は最大90日間に延長され、クエリの上限も3倍、実行時間は10分に拡大されている。ログの難読化や各種認証にも対応しており、クラウドプロバイダの選択も可能(近日対応)

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 「われわれのゴールはすべてのエンジニアにオブザーバビリティを提供し、オブザーバビリティデータからもたらされるインサイトを経営判断に生かしてもらって、日本のDXを加速すること。New Relicは“これだけで(オブザーバビリティを)始められる”というシンプルなプラットフォームでありながら、細かい粒度でアプリケーションコードのデータまでリアルタイムに取得できる。競合でここまでカバーできる製品はほとんどない」と小西氏は業界のリーダーとしての自信をあらためて示している。

 システムの品質がビジネスに直結する時代、Abemaのような成功事例を国内でも増やしていくためにも、業界のリーダーとしてオブザーバビリティの重要性をひろく浸透させていくことがNew Relicにとって引き続き重要なミッションとなる。