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クラウドによる管理がビジネスでのインサイトを生む――、Extreme Networksが進めるクラウドとネットワークの融合

 ここ数年、積極的な買収を展開している米Extreme Networks。2017年にAvayaのネットワーク事業やBrocadeのSRA(スイッチ、ルータ、アナリティクス)事業を買収したほか、2019年には無線LANソリューションのAerohive Networksを買収している。

 これにより、有線だけでなく無線にまたがるユニバーサルプラットフォーム製品群や、クラウドによるネットワーク管理まで、事業領域を広げることになった。

 Extremeの現在の事業やソリューション、および日本での事業について、米Extreme NetworksのPresident & CEOのEd Meyercord(エド・メイヤーコード)氏と、VP, Asia PacificのJeff Hurmuses(ジェフ・ハミューセス)氏、日本法人の執行役員社長 林田直樹氏に話を聞いた。

米Extreme NetworksのPresident & CEO、Ed Meyercord氏

クラウドによる管理が現在のExtremeのキー

 「Extremeは1996年設立で、業界で初めてGigabit Ethernetと10Gigabit Ethernetのスイッチを作った会社です」と林田氏。「現在も、そのころの印象をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、さまざまな会社を買収した結果、膨大な数の特許技術を持つに至りました」と語る。

日本法人の執行役員社長、林田直樹氏

 この10年ほどの変遷としては、DECの流れをくむEnterasys Networksや、Motorolaのエンタープライズ事業を買収したZebra Technologies、Nortel Networksのエンタープライズ事業を買収したAvaya、Brocade Communications Systemsなどを吸収し、ビジネスや技術を拡大してきたのだという。

 2019年には、クラウド管理型無線LANのAerohive Networksを買収したが、「Aerohiveのクラウドによる管理の技術は、現在のExtremeのキーになっています」と林田氏は説明。その証左として、GartnerのMagic Quadrantの「Enterprise Wired and Wireless LAN Infrastructure」(エンタープライズ向け有線・無線LANインフラ)部門で、4年連続でリーダーポジションに入っていることを紹介した。同ポジションにはほかに、JuniperやHPE(Aruba)、Ciscoが入っている。

 また、同じくGartnerのPeer Insightsの「Voice of the Customer: Wired and Wireless LAN Access Infrastructure」(ユーザーの声:有線・無線LANインフラ)において、サービスとサポートで1位をとっていることを林田氏は強調した。

 「これに選ばれた理由は、外注をせず、すべて社内のTAC(Technical Assistance Center)チームが対応しているからです。それにより、クオリティの高いサービスを提供でき、社内ノウハウが蓄積します」(林田氏)。

 なお林田氏は、日本法人の組織についても紹介した。氏の下に、マーケティング、各方面の営業、TAC、プレミアサポート、品質管理(QA)の部門があり、25名で展開しているという。

買収によるビジネスや技術の拡大
GarenerのMagic Quadrantの「Enterprise Wired and Wireless LAN Infrastructure」でリーダーポジション
GartnerのPeer Insightsでサポートとサービスで1位
日本法人の組織

クラウドによる管理がビジネスでのインサイトを生む

 CEOのMeyercord氏は、「ネットワーク業界はいまユニークな時にあります」と語る。単に配線してつなげるだけでなく、そこから大量の情報が発生して分析できる、インテリジェントなものだという意味だ。

米Extreme NetworksのPresident & CEO、Ed Meyercord氏

 まずMeyercord氏は、Extremeの市場について説明した。有線と無線のネットワークインフラで始まり、次の段階としてAeroHiveを買収して、クラウドによる管理やクラウド移行に拡大した。

 クラウドは管理方法というだけでなく、「ネットワーク全体のインテリジェンスがすべて一カ所に集まるようになり、ネットワークがかつてないほど戦略的な色合いを帯びている」とMeyercord氏。データを保管する能力がクラウドにできることで、インサイト(洞察)やインテリジェンスが生まれ、AIによる分析やオペレーションも可能となったと氏は述べた。

 「それによりわれわれは、ビジネスでよりよい業績を上げる手伝いができる。それは、スポーツ、娯楽、スタジアム、ヘルスケア、教育、製造などすべての業界だ」(Meyercord氏)。

 またその先には、SD-WANやWAN Edgeに市場を拡大していくという。「2023~2025年には、TAM(Total Addressable Market、獲得可能な最大市場規模)の目標を520億ドルと見積もっている。特に、Extremeが拡大してきた市場は成長が著しい」とMeyercord氏は言った。

 さらに、「市場が大きくなるだけでなく、Extremeは大手からシェアを奪って、シェアを大きくしている」とMeyercord氏は付け加えた。

Extremeの市場の拡大
Extremeの市場シェアの拡大

 このほかExtremeの戦略について、Meyercord氏は「ユニバーサルとクラウド」を挙げた。

 まず、いくつもの企業を買収してできるさまざまな製品ポートフォリオを整理して、すべてユニバーサルプラットフォームに統合した。このユニバーサルプラットフォーム製品をクラウドに参加させる。Meyercord氏によると、ユニバーサルプラットフォームの無線製品はほぼ100%がクラウドに参加しており、有線製品も65%が自動的にクラウドに参加するという。

 その結果、マーケットシェアが倍に、クラウドのサブスクリプション契約が3倍に、フットプリント数が4倍になったとMeyercord氏は語った。

 なお、日本にもデータセンターがあって直接サポートしている、とMeyercordは付け加えた。

ユニバーサルとクラウドの戦略

サッカーや野球のスタジアムでWi-Fiシステムが採用

 そうした拡大の成果として、Extremeの顧客が各業界にいることをMeyercord氏は示した。政府、教育、エンタープライズ、製造、ヘルスケア、小売、スポーツ、エンターテイメントの業界と、そこでの顧客だ。

 例えば5月、リバプールフットボールクラブ(リバプールFC)が、公式Wi-Fiネットワークソリューションプロバイダーおよび公式Wi-Fi分析プロバイダーとして、Extremeと複数年にわたる契約を結んだことが発表された。Extreme Wi-Fi 6Eアクセスポイントを設置して来場者の無線接続を提供するほか、Extreme Analysisにより、ファンの足取り、スタジアム全体のアプリ利用状況、人気のある売店、ファンが最もデジタルに関与する試合中のポイントなどのデータをリアルタイムで取得でき、運営効率を向上させることができる。

 野球でも同様に採用されており、ExtremeのWi-FiがMLBの30の球場、マイナーリーグの120の球場に入っているとMeyercord氏は語った。

業界ごとの顧客の例

 パートナーについては、世界で8300のアクティブな代理店がある。ただしそのうち2000弱は1つのソリューションしか売っていないので、これを増やすことでもっと拡大できるだろうとMeyercordは説明した。例えば、Wi-Fiだけ扱っているところにスイッチも、といったことだ。

 ただし、いま世界中のメーカーでサプライチェーンが逼迫している。これについてMeyercord氏は、「われわれは他のベンダーと比べてもサプライチェーンによく対応していると自負している」とコメントした。「ブロードコムの供給不足があったが、われわれは密接な関係があるので問題なく対応している。問題はティア2やティア3のサプライヤーの部品だ。そこで、この状況なのでティア2やティア3のサプライヤーと直接の関係を結んだ」(Meyercord氏)

 その結果、Extreme始まって以来の成長が実現した、とMeyercord氏は言う。売上はこの3年増加しており、2023年度以降も10%台なかばの成長の見通しだという。「業界全体は1桁台後半ぐらいの成長なので、Extremeはそれに比べて早い成長をしていく」と氏は語った。

パートナー動向
サプライチェーンの課題に対処
売上成長の見通し

日本市場はAPACの収益の25%

 日本市場についてはMeyercord氏は「日本は大きな機会に恵まれている」とコメントした。「一時撤退していた時期もあったが、製品をリリースできて、結果に表れると思っている」(Meyercord氏)。

 それを継いで林田氏は「サプライチェーンの問題があって、われわれも他社も苦労しています。しかし、大きな案件がとれるようになってきていてリカバリしています」と語った。

 例えば、教育や学術系の市場がある。「数年前にギガスクールがあって、われわれもだいぶビジネスをしました。そのほかに大学などの案件があり、高い確率で商談を勝ち取りました」(林田氏)。また、これまでなかった中央省庁の案件をExtremeで取れるようになって、「大きなステップアップになっている」と林田氏は言う。

 そのベースになるのは、ネットワークスイッチに加えて、クラウドとの融合だという。クラウドと融合することで管理が簡便になる点が、多拠点に分散したネットワークの顧客に訴求し、実際に採用されていると林田氏は説明した。

 Asia Pacific(APAC)地域のVPであるJeff Hurmuses氏は「いろいろな会社でアジア太平洋地域を担当してきたが、Extremeは最もエキサイティングな会社だ」と語った。

 その理由としては、新型コロナによって、企業にとってクラウドが欠かせないものになったことをHurmuses氏は挙げる。アジア全体で企業の共感を呼んでExtremeの顧客が拡大したという。「特に日本は、新型コロナ以前は欧米に比べてクラウド関連が売れずに苦労したが、新型コロナで一変した」(Hurmuses氏)

 その結果日本はAPACの中でも有望で、APACの収益の25%を占めるという。「今後数年間で、日本での収益を2~3倍にできると思う。そのために私も10月に日本に引っ越して、収益が加速的に増えるのを支援する」とHurmuses氏は語った。

VP, Asia PacificのJeff Hurmuses氏

「ニューExtremeと考えてほしい」

 いま、無線をはじめとするネットワークのクラウドによる管理は各社から出されている。最後に、その他社との違いについてMeyercord氏に聞いた。

 Meyercord氏はまず「クラウドソリューションのシンプリシティ」を挙げた。例えばライセンスモデルは、1つの価格ですべてのデバイスに対応し、プールや交換もできる柔軟性がある。

 次に、クラウドの柔軟性をMeyercord氏は挙げた。「Extremeのクラウドでホスティングして、顧客のインスタンスとつなげたり、パブリッククラウドとつなげたりして使える」(Meyercord氏)。

 さらに、データ保管が無制限だとMeyercord氏は語った。すべてのネットワーク上のイベントにまつわるデータをすべて保管し、入手可能にすることで、顧客がいつでもアクセスできるようにする。それにより、ユーザー情報や、クライアント情報、アプリケーションの利用量などのInsightsを得られ、よりよいビジネスにつながるという。

 そのほか、クラウドのセキュリティ認証や、ユニバーサルプラットフォームなどについてもMeyercord氏は触れた。

 サービス内部のアーキテクチャについては、マイクロサービスアーキテクチャで設計され、クラウドネイティブであることをMeyercord氏は説明した。さらに、AI/機械学習による自動化や予測によって、オペレーションの効率化を実現していて、「業界で最も進んだものを提供している」と氏は主張した。

 加えて林田氏は、管理ツールのExtremeCloud IQ Site Engineを挙げた。他の無線LAN製品も監視して分析することができるため、他社の製品とExtremeの製品が混在していても全体を同じように見えるという。

 またHurmuses氏は、「APACで重要なのはレスポンスタイム。大きな企業ではなかなか回答が返ってこないこともある」として、Extremeの対応を挙げた。

 最後に、日本市場から一度撤退して戻ったExtremeの、日本市場に対するメッセージを尋ねた。

 Meyercord氏は、「ずいぶん前に撤退したが、また戻ってきて、プレゼンスを再確立した」と語り、「日本はグローバルでもどのマーケットよりも著しく成長していて、APACで一番の機会が日本市場にあると思っている。日本で相当な投資をしており、長期的にここに居続ける」と説明した。

 Hurmuses氏も「日本が非常に重要なので私は引っ越してくる。過去はコントロールできないが、コントロールできるのは今とこれからだ。これからもお客さまを大事にする。既存のお客さまも、これからのお客さまも」と語った。

 さらに林田氏も「ニューExtremeと考えいただけるといいと思います」とまとめた。

左から、米Extreme NetworksのEd Meyercord CEO、Sr VP of Global System EngineeringのMark Dellavalle氏、日本法人の執行役員社長 林田直樹氏、米Extreme NetworksのJeff Hurmuses VP