特別企画
パブリッククラウドからの“回帰”事例が増加――、クラウディアンが語る「日米のオブジェクトストレージ事情」
2020年7月22日 06:00
オブジェクトストレージベンダーのクラウディアンは6月23日、「日米オブジェクトストレージ事情」をテーマとしたプレスラウンドテーブルを開催。クラウディアン 代表取締役 ブライアン・バーンズ氏は、データの爆発的な増大により、パブリッククラウドから、オンプレミスへと回帰するデータ・リパトリエーションがトレンドになっていることを解説した。
本稿では、その内容を紹介する。
クラウド導入には3つの大きな革命があった
バーンズ氏は過去10年を振り返り、クラウド導入には3つの大きな革命があったと説明する。
1つ目の革命は、AWS、Azure、GCPといったHyperscalerの登場だ。それまで企業システムといえば、IBMやオラクルといったベンダーに依存して高価なソリューションに頼るか、あるいは工数を費やして複数のコンポーネントを組み合わせ、オンプレミスに構築されていた。
Hyperscalerが登場した10年前、企業はNASやSANといったストレージに依存しており、データ増大の需要に柔軟に対応できていなかった。そのため、リソースを自分たちで購入・設置することなく、必要な時に必要な分だけの(pay-as-you-go)のリソースを、オンデマンドで柔軟にスケールできるパブリッククラウドに移行する事例が相次いだ。
2つ目の革命は、プライベートクラウドの登場だ。特定のデータは国外に持ち出せないといったレギュレーションやコンプライアンスの要件から、プライベートクラウドの成長率はHyperscalerよりも高く、特に日本においてはパブリッククラウドの導入に積極的ではない企業が多かったこともあり、プライベートクラウドの導入率が非常に高い。
そして3つ目の革命として、バーンズ氏は「The Edge」、つまりエッジコンピューティングを挙げている。従来のモデルは中央集権的で、データはデータはコンピュート(計算リソース)に送られて処理されていた。プログラムのコードは環境への依存性が高くポータビリティに欠けており、コンピュートには物理的に大きなリソースが必要だった。
一方のエッジコンピューティングは、データにコンピュートを持っていくことで、分散型で非同期処理を実現する。コンテナなどの技術進化によりプログラムコードのポータビリティが確保されたことで、データは収集された場所で処理することができるようになった。
バーンズ氏は、中央集権的なコンピューティングであったメインフレームが、クライアントサーバーの登場によって分散型へと移行し、さらにクラウドの登場によって中央集権的になっていったこれまでのトレンドの流れを振り返り、またエッジコンピューティングによって分散型へとシフトしていると説明。
さらにクラウディアンのオブジェクトストレージである「Cloudian HyperStore」を使った「Hyperstore Analytics Platform(HAP) ARCHITECTURE」を紹介した。エッジにおいて、Hyperstore、Spark、TensorFlowを単一プラットフォームで実行可能であるという。
パブリッククラウドからの回帰がトレンドに
バーンズ氏は「データの増大に伴い、ストレージ需要も爆発的に膨れ上がっている。2025年には年間175ZBのデータが生成されることが予想されているが、ネットワーク帯域はデータの増大には追い付いておらず、パブリッククラウドから、オンプレミスへと回帰するデータ・リパトリエーションがトレンドになりつつある」と説明した。
なお、「リパトリエーション(Repatriation)」とは、経済用語で海外投資資金を引き揚げることを意味しており、これをデータにたとえてパブリッククラウドから回帰する現象をデータ・リパトリエーションと呼ばれている。
セキュリティコントロールや情報保護の観点からも、プライベートクラウドを選択する動きが出ている。2017年下半期、AWSAでは2億人近くの投票者情報や米国防総省の漏えいが発生しおり、米国防総省は独自に開発したプライベートクラウドである「milCloud」に移行している。また、米国のCLOUD (Clarifying Lawful Overseas Use of Data) Actなどにより、パブリッククラウドには情報公開が要求される懸念もある。
また、ストレージコストから、パブリッククラウドのコストを見直す動きもある。バーンズ氏は「データストレージを長期間使用する場合、プライベートクラウドは、パブリッククラウドに比べてコストが割安になる」と説明。昨今AIやデータ分析などデータ量が多くアクセス頻度が高いアプリケーションが増えたことで、パブリッククラウドのストレージコストは上昇傾向にあるとする。
一方、プライベートクラウドには初期投資の費用が必要となるが、アクセス頻度やデータ量のスケールによっては、圧倒的にプライベートクラウドの方がコスト効率が良くなるという。
IDCが2019年6月に実施したデータ・リパトリエーションレポートによると、85%の企業はパブリッククラウドからオンプレミスやプライベートクラウドへの回帰を検討・あるいはすでに導入しているという。そのうち50%はオンプレミスのプライベートクラウド、40%はホスト型のプライベートクラウド、10%がオンプレミスを選択している。
米国におけるデータ・リパトリエーションの事例としては、Appleはプライベートクラウドに移行したことで、2017年に約780億円、2018年には約370億円のコストを削減する。Dropboxは2015年からAWSのオブジェクトストレージであるS3(Amazon Simple Storage Service)からの移行で、2016~2017年の2年間で約75億円のコストを削減したという。
その一方で、AWSを利用しているNASA(米国航空宇宙局)では、2025年度にNASAは65億円のAWS使用料金に加え、データの取り出しにかかるEgressコストだけで約30億円の追加費用を支払うという。
このデータの爆発的な増加によるストレージコストの増大は、日本市場でも深刻な課題となりつつあり、多くの企業がパブリッククラウドの長期的なコストを意識するようになっている。すでに3割から4割の日本企業が、データ・リパトリエーションを行っている、あるいは予定しているとのことだ。
なお、初期導入のコストをかけてもデータ・リパトリエーションを実施すべきかどうかについて、営業ディレクターの石田徹氏は、「主なHyperscalerのストレージサービスのコストは、ギガバイト単価で1カ月あたり2円~3円。これに加えて読み出しのコストが発生する。クラウディアンのストレージアプライアンスを利用してオンプレミスに環境を構築すれば、1カ月あたりのギガバイト単価は0.5円程度になる」と説明した。
【お詫びと訂正】
- 初出時「ビット単価」としておりましたが、正しくは「ギガバイト単価」です。お詫びして訂正いたします。