特別企画

ITの“ライトアセット化”に向け、Azure活用の成功事例をグローバル規模に展開、IT基盤の標準化を実現

郵船ロジスティクス株式会社 Microsoft Azure導入事例

日本郵船グループの中核企業として、世界46の国と地域で国際物流を手掛ける郵船ロジスティクスは、現在、2018年に着手したMicrosoft Azureによるグローバルでの全社システムの統合/標準化を進めている最中です。Azureが選定された理由は、倉庫管理システム「Manhattan SCALE」の欧州での移行実績から、基幹システムの稼働に足る信頼性や安定性を備えていることが確認されていたこと、そして、既存システムの同一の基盤技術により円滑なクラウド移行が見込めたことにあります。これにより、懸案であった倉庫管理システムの標準化とTCO削減は達成されつつあるほか、ITコストの可視化や基盤の柔軟性が増すことで、グループ全体のIT施策の立案/管理/監督の高度化においても、すでに大きな効果を上げています。

倉庫管理システムの標準化が“変化対応”で不可欠に

 郵船ロジスティクスは、世界46の国と地域で国際物流を手掛ける日本郵船グループの中核企業です。貨物輸送に伴う通関、保管、船積みなどの業務まで顧客に代わって取り仕切る航空・海上貨物フォワーディング事業、荷主企業の物流業務を受託するコントラクトロジスティクス事業、効率的なサプライチェーン戦略を支援するサプライチェーンソリューション事業を推進。日本、欧州、米州、東アジア、南アジア&オセアニアの世界5極体制によるグローバルネットワークを武器に、ビジネスと社会の持続的な発展に貢献するグローバルサプライチェーンでの新たな価値創造に取り組んでいます。

 そんな郵船ロジスティクスは現在、グローバル本社のIT部門であるITプランニンググループの指揮の下、事業基盤のひとつであるである倉庫管理システムを皮切りに、Microsoft Azureによるグローバルでの全社システムの統合/標準化を進めている最中です。背景には、郵船ロジスティクスが直面する次の2つの課題があります。

 まず挙げられるのが、競争力の維持・強化に向けた「顧客へのよりきめ細やかな情報提供」です。物流に対するニーズは、地理的特性や扱い貨物によって、エリア、さらに顧客ごとに少なからず異なります。そこで郵船ロジスティクスでは、各極に配置したCIOに裁量権を委ねて地域のニーズに即したシステムを整備する一方、CIOミーティングを定期的に開催し、情報共有を図る体制を敷いてきました。しかし、ビジネスモデルの進化による物流の複雑化や延伸などを背景に、顧客ごとに異なるきめ細やかな倉庫管理の提供や、フォワーディング業務におけるより高い精度での貨物状況の追跡・把握をしたいというニーズが年々高まっています。

 「そこで、倉庫管理については複雑、多岐にわたる倉庫オペレーションに対応できるようなシステム導入を図ることが、地域・極を超えた横展開のしやすさやノウハウの共有などにも繋がり、グローバルレベルでサービス品質を揃えるために不可欠との結論に至ったのです」と、郵船ロジスティクスグローバルヘッドクオーターのITプランニンググループでグループ長を務める泉山 権 氏は説明します。

“実績”と“安心感”でグローバル標準化の基盤に

 一方で、中・長期的な課題と位置付けられたのが、グループ全体の「ITコストの最適化」です。

 冒頭に説明した通り、フォワーディング事業には様々な業務が付帯し、郵船ロジスティクスはそのためのシステムをグループ全体で数多く抱えています。ただし、それらはオンプレミスで構築され、整備と運用に多大な手間とコストを要すことが、将来的なIT活用でも同社の経営課題として認識されていました。

 「対応の一環として、2015年には個別に存在していた航空と海上の両フォワーディングシステムの統合作業を開始しましたが、システムはほかにも数多く存在します。この状況を克服し、ITの機動的な活用を推進するためにも、ITシステムの『集約化を含めた最適化』を基本方針に、基盤事業の競争力強化に取り組んできました」(泉山 氏)。

 こうした中、標準化の取り組みが動き始めた発端は、2016年に入り、フォワーディングシステム統合の対応に向けた議論が本格化したことにあります。そこで開催されたCIOミーティングでは、倉庫管理ソフトウェアの選定だけでなく、実装法についてもライトアセット化の観点で協議が進められ、各種クラウドや倉庫管理システムベンダーの提供するサービス、ホスティングの利用など、あらゆる形態の利用法が俎上に上ったといいます。

 結果、最終的にたどり着いた結論が、グローバル規模での導入が可能なマンハッタン・アソシエーツの倉庫管理システム「Manhattan SCALE」のMicrosoft Azure上への展開を通じたグローバル標準化です。Manhattan SCALEは米国のほか、特に欧州で長らく利用され、高い機能性について各極のCIO間でも広く共有されていました。そのうえで、先行して着手されていた欧州極でのManhattan SCALEのAzure移行がすでに完了し、何ら問題なく稼働していたことが決め手となりました。

 「高可用性を求められる倉庫管理システムには万が一にもトラブルが許されません。その点、マンハッタン自身がManhattan SCALEをクラウドサービスとして提供していること、さらに欧州極での実績からも、Azure上の運用であれば十分な信頼性や安定性を確保できると確信できました」(泉山 氏)。

Azure上で稼働するManhattan SCALEのシステム構成。先行する欧州極での実績を基に倉庫管理システムのグローバル標準化が実現されました。

 もっとも、この判断にはITプランニンググループとして別の狙いもあったといいます。クラウド移行はライトアセット化に向けた有力な手法の1つですが、同時に新しい技術を取り込むきっかけでもあります。郵船ロジスティクスは既存システムの多くでWindows Server/SQL Serverを採用してきており、基盤技術を一にするAzureなら、他のクラウドよりも技術者に安心感を与えつつ、新しいことにチャレンジする場を提供できると考えたといいます。そこで、Manhattan SCALEの展開を機に、オンプレミスの移行先としてもAzureを全面採用することで、ライトアセット化も併せて加速させる方針が固まったのです。

Enterprise Agreement締結によりAzureのグローバル利用を促進

 こうした総合的な判断から、郵船ロジスティクスでは2018年、グローバルでの3年間のAzureボリュームライセンス契約「Enterprise Agreement」をマイクロソフトと締結。そして、2019年になり狙いは現実のものとなります。「実はAzureの導入も従来同様、各極の判断に委ねており、ネットワークも含めたクラウドへの疑心暗鬼から、どのエリアも最初はクラウド移行について様子見の状況にありました。しかし、Azure上のManhattan SCALEを実際に触れ、安定性や信頼性が認められるにつれ、TCOの削減での有効性も相まって、米国ではこの1年でAzure化が大きく進みました。欧州でも大規模な移行プロジェクトが立ち上がっています。リソースの使用量を見ても、2018年末には契約の総使用量に到底届かないと危惧されるほどでしたが、2019年末には契約量の限界に近いところまで一気に伸びたほどです」(泉山 氏)。

 こうした中、日本でもいよいよAzureの本格導入が始まろうとしており、ビジネス面の効果は今、まさに顕在化しつつあるところです。

 「これまでの作業で確実に言えるのは、Azureであれば、簡単かつ迅速に各種システムの展開や移行が可能だということ。実際に、Manhattan SCALEの展開に合わせて、ノンプログラミングでアプリケーション構築が可能なAzure Logic Appsにより顧客向けEDIシステムを構築したところ、従来よりも工数を圧倒的に削減できています」(泉山 氏)。

 一方で、ITプランニンググループのミッションであるグループ全体のIT施策の立案/管理/監督においては、Azureの効果はすでに明確に表れています。郵船ロジスティクス グローバルヘッドクオーターITプランニンググループ プランニングチームの岩崎 康彦 氏は、「EA契約により、どの国で、どのくらいリソースが使われているかが利用料として可視化され、将来計画の立案、さらに、全体予測の精度向上と計画内容の高度化にも確実に寄与しています」と頬を緩ませます。

Azureがシステムによる新たな付加価値創造基盤に

 郵船ロジスティクス グローバルヘッドクオーターITプランニンググループプランニングチームの廣瀬 奈月 氏も、「IT予算の検証にも極めて有効です」と続けます。

 「従来、各国のIT予算の具体的な使い道を把握するには、非常に手間暇を要しました。しかし、利用料が可視化されたことで、今ではそれも一目瞭然です。今後は可視化をさらに推し進め、稼働するアプリケーションとリソースとを紐づける仕組み作りに取り組もうと考えています」(廣瀬 氏)。「IT施策の幅も格段に広がった」と語るのは、郵船ロジスティクスのグローバルヘッドクオーターITプランニンググループ プランニングチームでチーム長を務める井上 満弘 氏です。

 「オンプレミスではコスト面で難しかったことが、Azureでは容易に行えます。また、場所を問わずにアクセスできることとも、クラウドならではの魅力です。現状、基幹システムを中心に、まだ各極で個別最適な部分が多いですが、それらをAzureで段階的に統合し、外部からの柔軟なアクセス環境を整えることで、社員の生産性向上にも大いに役立つことは間違いないでしょう」(井上 氏)。

 郵船ロジスティクスでは現在、Azureのさらなる活用を視野に、Azureに関する運用ルールやセキュリティ基準の詳細を詰めるなど、ITガバナンスの強化に取り組んでいます。今後は各種ツールの標準化や、さらなる信頼性の向上に向けたマルチリージョンでのAzure運用の検討なども進める計画です。その先に泉山 氏が描くのが、ITプランニンググループを中核としたナレッジ共有によるグローバル全体でのIT活用レベルの底上げです。

 「これまでは、オンプレミスであるため地理的に離れ、システムも個別であったために、システム活用のナレッジ共有が困難な状況にありました。しかし、今後はAzure上に標準化されたシステムが整備されることで、距離やシステムの違いの問題が抜本的に解消されます。そこで、ITプランニンググループがナレッジ共有の“場”を提供することで、ITでの新たな付加価値創出を支援することこそ、グローバル本社のIT部門として求められていることのはずです。無論、そのためにはAzureへのより深い理解が必要となりますが、マイクロソフトは充実した人材教育プログラムも用意しています。今後、Azureだけでなく知識面でも我々を支えていただきたいと思います」(泉山氏)。