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日本AMD、サーバー向けCPUのロードマップを公開~64ビットARMなど3つの製品ラインを提供へ

 日本AMD株式会社は19日、米AMDが6月18日(米国時間)にサーバー向けCPUのロードマップを発表したことを受け、説明会を開催。2014年に提供する予定のCPUに関して、その背景などをエンタープライズ事業部長の林淳二氏が説明した。

 エンタープライズ分野ではデータセンターの大型化とクラウドの利用が広がっているが、その結果、データセンターにはより多くの処理能力が求められるようになった。これはコンシューマ分野でも同様で、スマートフォンやタブレット端末の利用が増えるにつれ、クラウドのデータセンターと連携したアプリケーションが増加。その結果として、データセンターでは、より多くのリソースを必要とするようになった。

 そしてこの傾向は、これからも変わらない。2011年第4四半期現在、従来型のフィーチャーフォンが約60億台なのに対し、スマートフォンは約10億台にすぎず、「今後、その差分がスマートフォンに移行することが見込まれる」(林氏)からだ。さらに、車載端末をはじめとするさまざまな組み込み機器でもインテリジェント化が素寸でおり、さらに多くのデバイスがインターネットに接続されてくる。

 こうした状況の中で、データセンター向けのサーバーについても、大きな変革が求められている。データセンターが使える電力は限られているのに、より多くの処理が求められてくるのだから、そこで利用されるサーバーについても、大きな変革が必要になるというのだ。

 AMDではこうした状況に対応するために、1)新しいx86系Opteronの提供、2)ARMアーキテクチャのサーバープロセッサ、3)SeaMicro高密度サーバーの拡充、4)オープンなハードウェアによるビジネス、の4つの柱で対応しようとしている。

エンタープライズ事業部長の林淳二氏
AMDがかかげる、サーバー戦略の4つの柱

 その中でもっとも注目されるのが2)だろう。今回発表された64ビットARMベースのサーバー向けSoCである「Seattle(開発コード名)」は、ARM Cortex-A57コアベースの8コアを搭載し、2GHz以上のクロック周波数で登場する予定で、「Opteron Xシリーズと比べて、ワットあたりの性能を2~4倍に高めている」(林氏)という。

 ARM系プロセッサを用いたサーバーは現在も存在するが、まだ32ビットのプロセッサであるため十分なメモリ空間を活用できないなど、本格的に活用できる存在にはなっていない。それを64ビット化することで、ARMプロセッサの優位性である省電力性を追究しながら、より多くの用途で使えるようになる。これが、Seattleの持つ意味だ。

 現在、コンシューマ向けを中心にARMプロセッサが各種存在する中で、AMDはまだ、ARMプロセッサを製品としては提供していない。しかし林氏は、「その点では確かに遅れているが、提供するのはサーバー向けだ。ARMライセンスを保有するベンダーの中では、もっともサーバー市場での経験を持っている。さまざまな競合からも提供されてくる64ビットのARMプロセッサと比べて、当社が優れているのはサーバー向けのエコシステムをきちんと用意できる点だ」と述べ、その面での優位性を強調した。

 また、10Gigabit Ethernetや、買収したSeaMicroのファブリック「Freedom Fabric」をチップ上に統合している点もメリットで、林氏はプラットフォーム全体での優位性を前面に押し出して展開する考えを示している。なお、Seattleは2014年第1四半期にサンプル出荷を開始する予定だ。

Seattleの概要
AMDならではの価値を、サーバー向けのARMプロセッサの領域でも提供できるという

 また1)では、Opteron X(開発コード名:Kyoto)の後継製品ラインとなる「Berlin(開発コード名)」と、2ソケット/4ソケット向けOpteronの最新製品「Warsaw(開発コード名)」を提供する。

 BerlinではKyotoと同様、GPUを統合したAPUとGPUを持たないCPUが提供される予定で、APU製品では、x86サーバー向けとしては初のHSA(ヘテロジニアス・システム・アーキテクチャ)に対応。「CPUとGPUのメモリ空間を同一に扱えるため、飛躍的にアプリケーションのパフォーマンスを上げられるし、開発の生産性も向上できる」(林氏)点が大きなメリットになる。

 なお具体的な性能についてはあまり明らかにされていないが、現行のOpteron 6386SEと比べて7.8倍のワット性能を提供できるとされており、林氏は、「HPC分野にも適用が見込まれるなど、単なるKyotoの後継とはいえない位置付けになる」とした。製品は、2014年上半期に登場する予定で、HPの高密度サーバー「HP Moonshot」に採用されることがすでに決まっている。

Berlinの概要

 一方の「Warsaw(開発コード名)」は、現行のOpteron 6300シリーズとソケット互換を持つ、12コア/16コアのCPUとして提供され、出荷開始は2014年第1四半期の予定としている。

Warsawの概要
2013年と2014年のサーバー向けプロセッサのロードマップ
さまざまなワークロードに対応するため、単一ではなく複数のラインアップをそろえ、ニーズに応えていくという

 3)と4)では、こうした新CPU製品群が大きく絡んでくる。

 3)では、米AMDが買収したSeaMicroの高密度サーバーを、国内でもさらに大きく推進していくという。このサーバーは、従来型のサーバーと比べて高いTCOを提供できることから注目が集まっており、国内でもNICT(独立行政法人情報通信研究機構)やWeb系の証券会社、大手プロバイダなどにも導入されているが、これをより多くの顧客へ導入していきたいというのだ。

 それには、さらなるプラットフォームの価値の底上げが求められる。今回は発表されなかったが、搭載するプロセッサのリフレッシュが求められるのは常であり、それを考えると、将来的にはKyotoやBerlin、Seattleなども採用されていくと予想されている。

 また4)では、オープンなサーバーハードウェアである「AMD Open 3.0」をさらに推進するために、Opteron 6300と互換性を持ち、性能が向上したWarsawを活用していく考えだ。「当社は常にオープンスタンダードを追究してきたが、ソフトウェアだけでなくハードウェアでもそれを提供している。競合に先駆けて最初のリファレンスモデルを提供しており、今後もさらにその方向性を進めていきたい」(林氏)。

SeaMicroの高密度サーバーがもたらす価値
SeaMicroのサーバーボード

石井 一志