“Business Discovery”で意思決定を迅速に~アジアと日本での市場拡大を狙うQlikTechの戦略


 「いまや経営トップの数人だけがBIを使って意思決定を行う時代ではない。すべてのビジネスユーザーが洞察を得ることができる、それも使いやすいBIツールが求められている。それがQlikViewだ」――。米QlikTechのラース・ビョークCEOは、22日に行われたクリック・テックジャパンの事業戦略説明会でこう強調した。

 創業以来、右肩上がりの成長を続けるBIベンダのQlikTechだが、2012年度は日本を中心にアジア太平洋地域でのさらなる成長を狙うとしている。勢いづく同社の自信の源泉は看板製品の「QlikView」だ。自らを「BI業界のニューブリード」と称するQlikTechだが、同製品を武器に2012年度のビジネスをどうドライブしていこうとしているのだろうか。

 

ビジネスユーザー指向に特化したBIツール、それがQlikView

米QlikTechのラース・ビョークCEO

 1993年にスウェーデンで創業されたQlikTechは現在、本社を米国に移し、世界100カ国で約2万4000社の顧客に対してBIソリューションを提供している。社員数は1000名を超え、23カ国で28の事業所を展開、製品提供は直販とパートナー経由(グローバルで1200社)で行っている。

 順調にビジネスを推移させてきた同社の2011年度の売り上げは約3億2000万ドル、うち米国を中心とする北米地域が1億500万ドル、欧州が1億8,700万ドルを占めており、アジア太平洋を含むその他の地域が2700万ドルとなっている。

 「売り上げの数字はまだ小さいが、アジア圏の成長率は非常に高く、これが2011年度の業績をけん引してきた。特に日本での実績が大きい。アジア市場には多くのオポチュニティがあり、2012年度はこれまで以上に注力する。もちろん日本はその筆頭だ」(ビョークCEO)。

 同社の急成長を支えるメイン製品はBIツールの「QlikView」だ。ビョークCEOは「QlikViewは従来のBI製品とはまったく違うビジネスユーザー指向のツール。すべてのビジネスユーザーがどこにいてもすぐに、簡単にインサイト(洞察)を得ることができる」と、実際に使うユーザーのことを考慮したツールであることを強調する。

 ではQlikViewが他社のBI製品と何が異なるのか。ビョークCEOは「Business Discovery(解の探索)」という言葉で表現する。IT部門主導のBI導入では、ビジネスユーザーの意見が取り入れられることが少ないため、どうしてもレポート開発中心のシステム構築になりがちだ。

 「本来、業務では各部署のニーズや使い方に適したBIアプリケーションがあるほうが望ましい。ならばビジネスを最もよく知るユーザーがアプリケーションの構築や設計を担うべき。IT部門がビジネスユーザーのアプリを構築してもうまく機能しないことはこれまでの歴史が証明している」とビョークCEO。

 分析を行うビジネスユーザー自身がダイナミックにアプリケーションの組み立てや再構成を行えるセルフサービス型のBIツール、これがQlikViewの最大の特徴だといえる。ビジネスユーザーが頻繁に使用するタブレットなどのモバイルデバイスにも対応しており、“いつでも、どこでも、誰でも”を可能にしている点も高く評価されている。

 「現在はビジネスの変化が激しい時代。われわれが知る限り、静的(スタティック)な世界にとどまっていたいという顧客は1社もない。誰もがダイナミックな世界で柔軟に、俊敏にビジネスを行いたいと思っている。ITシステムも当然ダイナミックであるべきで、IT部門に依頼してから1年後にシステムができ上がっても意味がない。ソーシャルな機能を追加したい、モバイルで分析を行いたい、といったビジネスユーザーの要求にすぐに応えられるシステム、それがQlikView」(ビョークCEO)。


実際に使うユーザーのことを考慮しており、使う人主導型のセルフサービス型のBIツールとして提供されているという

 QlikViewがほかのBIベンダと大きく異なる点はもうひとつある。BI導入というと大規模案件、大量購入をイメージしがちだが、同社の販売モデルは「Land&Expand(着地から拡散)」、ごく一部のユーザー、一部の部署での導入を図り、そこから事業部門、全社規模へと広げていく手法を取っている。

 「興味をもったユーザーにはすぐに使ってもらう。製品がシンプルなので、実装には数日、長くても数週間あれば十分。そこで顧客にメリットを享受してもらい、結果を出してもらう。ある部門での導入が成功すれば、連鎖的に社内で導入が広がっていく」(ビョークCEO)。まずは特定の課題を解決する(着地する)ことで実績を見せ、徐々にその力を拡散していく。現在のところ、この販売戦略は非常に順調に進んでいるという。

 今後のビジョンについてビョークCEOは「2、3年後には数十億ドル規模の企業になる」を掲げている。また「“Change Their World”というスローガンのもと、何十億もの人々の人生にかかわる企業になりたい」とも語っており、貧困撲滅などのCSR活動に積極的に力を入れていきたいとしている。


ごく一部のユーザー、一部の部署での導入を図り、そこから事業部門、全社規模へと広げていく「着地から拡散」の手法により、販売を順調に伸ばしている

 

日本企業は”管理”だけでなく”判断”する力をもつべき

クリックテック・ジャパン 代表取締役社長の垣田正昭氏
判断と管理の両方が必要

 ビョークCEOの次に、日本法人のクリックテック・ジャパン 代表取締役社長である垣田正昭氏が登壇、QlikViewがなぜ日本企業に適しているかについて語った。2009年3月に日本市場で製品展開を開始した同社だが、約3年で導入企業は350社を超えた。その成長のカギは日本企業に足りなかった“判断”のスキルを提供したところにあるようだ。

 「戦後、日本が高度成長を果たしてきたにはそれなりの理由がある。日本人が得意とするPDCAに基づく“管理”、これが経済成長に奏功した。トヨタなどはその代表例」(垣田氏)。しかし90年代以降の日本経済の低迷ぶりはほかの経済圏と比べても著しい。いまだ不況から抜けられない最たる理由として垣田氏は「日本企業は変化に対応する力が弱い」と語る。

 企業を取り巻く環境は日々変化する。変化が実際に訪れたとき、どう対応すべきなのか。その判断がビジネスを大きく左右するはずなのに、十分な対策を考えている企業はあまりに少ない。

 垣田氏は「例えば“明日、円が暴落した場合、どのように利益を確保するか?”という、この単純な問題に答えられる企業がどれほどあるか」と指摘し、現実の問題としてこういった環境の変化が起こりうることを認識し、正しい“判断”につなげていく重要性を説く。

 「ひとことで“判断”と言っても非常にむずかしい。推論の域を出ないし、定式化することもできない。複雑で、非線形で、判断のあとは世界が変わっている。例えば円が暴落後に値を戻したとしても、それはもう元の暴落前の世界とは違っている」(垣田氏)。

 帳票に代表されるような従来の定型レポートは「管理はできても判断はできない。帳票を眺めても円の暴落に対して判断を下せないのは明確」と垣田氏。そしてこれまで、重要な意思決定とされる判断はいわゆるKKD(勘と経験と度胸)をベースに行われることが多かった。そうではなく、管理と判断を両方行えるITツールが現在求められており、それが“Business Discovery(解の探索)”を可能にするQlikViewだとする。

 判断で重要なのは「何をKPIとするか」(垣田氏)であるという。正しい判断(解)を得るためには、アプローチを1つにするだけでなく、指標を変え、軸を変えて、さまざまな分析を試せたほうがいい。「同じ分析を行うにしても、何を目的にするかによって結果はかなり違うはず。一度決めた定義をビジネスユーザー主体で何度でも構築できるのがQlikView。どのような切り口でも自由自在。この迅速性が重要」(垣田氏)。

 同社はQlikViewを「突然変異のソフトウェア」と称している。1993年にスウェーデンの大学プロジェクトで生まれた“連想技術(Associative Technology)”をベースにしたQlikViewは、その高速性によりデータキューブやデータマートを作成する必要がなく、膨大な生データからすぐに結果を得ることが可能だ。データはインメモリで展開されるため、データベースにアクセスする必要がなく、したがってディスクI/Oが発生しない。

 「クリックしたその場で計算ができるということは、何ら制限のない解の探索が可能ということ」(垣田氏)。経営に欠かせない“管理”と“判断”を、高速に実現するBIツールという触れ込みで、日本市場でのビジネス拡大を狙う。


従来のBIとの違い日本におけるQlikView事業
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