京速コンピュータ「京」による成果論文がゴードン・ベル賞を受賞

実アプリケーションで実効性能3ペタフロップスを達成


スパコンの世界ランキングTOP500で、2期連続世界一となった「京」

 独立行政法人理化学研究所、筑波大学、東京大学、および富士通株式会社の研究グループは、理研と富士通が共同開発中の京速コンピュータ「京」を用いた研究成果を、スパコンの国際会議SC11で発表し、17日(現地時間)にゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞した。

 受賞の対象となった成果は、次世代半導体の基幹材料として注目されているシリコン・ナノワイヤ材料の電子状態を計算したもの。研究グループは、現実の材料のサイズに近い10万原子規模(直径20ナノメートル、長さ6ナノメートル)のナノワイヤの電子状態について、計算性能を確認するための量子力学的計算を行い、実効性能3.08ペタフロップス(実行効率:約43.6%)を達成。

 また、1万個から4万個の原子規模からなるシリコン・ナノワイヤについて電子状態を詳細に計算した結果、断面の形状によって電子輸送特性が変化することを明らかにした。

 ゴードン・ベル賞は、日本ではこれまで、GRAPEプロジェクトを主催する国立天文台理論研究部 牧野淳一郎教授が通算6回受賞しているほか、2004年に地球シミュレータ(初代)で最高性能賞を受賞した。

 日本の研究チームがゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞するのは、2004年の地球シミュレータ(初代)を用いて地磁気ダイナモシミュレーションを行った神戸大学の陰山聡教授(当時 独立行政法人海洋研究開発機構)らのグループ以来だという。

 筑波大学と東京大学では、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクト(現「HPCIの構築」)の開始当初の2006年度から、実アプリケーションによる「京」の性能確認を行うための最適な計算手法とプログラム開発を理研と共同で進めてきた。今回、スイッチング速度が高く、リーク電流が少ないとされる次世代半導体の材料で、シリコン原子からなる微小な線材「シリコン・ナノワイヤ」の電子状態について、実際に「京」を用いて計算を行った。

 「京」全体の約3分の2のシステムを用いて計算した結果、実効性能3.08ペタフロップスを得ることができ、3万9696原子のシリコンからなる直径10ナノメートル、長さ10ナノメートルのシリコン・ナノワイヤの電子状態の計算に成功。この結果を、米国ワシントン州シアトルで11月12日~18日に開催されている「ハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する 国際会議SC11(International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)」で発表して、ゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞した。

 受賞論文のタイトルは、「『京』による100,000原子シリコン・ナノワイヤの電子状態の第一原理計算(First-principles calculations of electron states of a silicon nanowire with 100,000 atoms on the K computer)。理研ら研究チームは、シリコン・ナノワイヤの電子状態の計算を行った今回の成果について、「京」が行う先端的物質科学計算が、ナノデバイスの設計指針に大きく貢献することを示したと評価。「引き続き、シリコン・ナノワイヤの性質を明らかにしていくとともに、今回の成果を他のアプリケーションの高度化にも活かし、「京」がもたらす多様な分野の科学的成果の早期創出に向けて、貢献していく」とコメントしている。

シリコン・ナノワイヤ材を用いた電界効果トランジスタのイメージ。ゲート部分(黄色)に電圧を加え、酸化物(灰色)を介して、ソースとドレインの間(青)に流れる電流(電子)を制御する


シリコン・ナノワイヤの伝導電子の状態数とエネルギーの関係。シリコン・ナノワイヤの断面形状や側面の滑らかさを変えた時の、横軸の各エネルギーを持つ伝導電子の状態数



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