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日立、Physical AI「HMAX」を中核としたAI事業戦略について説明 Google Cloudとの戦略的アライアンス拡大も発表

 株式会社日立製作所(以下、日立)は10日、Agentic AIとPhysical AIの急速な進展を踏まえ、今後の日立グループにおけるAI事業戦略に関する説明会「AI Strategy Update Session」を開催した。説明会では、社会イノベーション事業をグローバルで推進する日立グループならではの強みを生かしたAI戦略や、その中核を担うPhysical AIソリューション「HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)」の展開、また同日発表されたGoogle Cloudとの戦略的アライアンス拡大の概要などについて説明した。

 まず、日立 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOの細矢良智氏が、同社が注力するPhysical AIの取り組み状況を紹介。「生成AIの市場は、ChatGPTのユーザーが8億人に達し、Agentic AIによって業務に組み込まれ、継続的に拡大している。

 これに伴い、Physical AIは、現実世界の製品・データと優れたAIモデルをつなぐ起爆剤として、今後、大規模かつ長期的な成長が見込まれている。その中で当社は、OT領域ではプロダクト、制御・運用技術、IT領域ではシステムインテグレーション、AI技術研究を1社でカバーし、ミッションクリティカルな社会インフラを支えている。

 特に、AI技術の研究では約60年の歴史を持っており、これまでに蓄積したドメインナレッジとAgentic AI、Physical AIを掛け合わせた『Lumada 3.0』でサステナブルな社会インフラ革新に挑戦していく」と述べた。

日立 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOの細矢良智氏

 Lumada 3.0を体現するPhysical AIソリューション「HMAX」の展開としては、モビリティからエナジーへ事業領域を拡大しており、「モビリティ分野では、センサーから列車の走行データを収集し、天候・摩耗条件と組み合わせ、最適な部品交換、保守要員手配、コスト削減、働き方改革を実現している。また、エナジー分野では、天候、衛星データ、API、アーキテクチャを事業間で共同利用することで、協働デジタルサービスのビジネスモデルを展開している」という。

 「今後、積極的に『HMAX』を自社グループに導入し、“カスタマーゼロ”として自らデジタル・セントリック企業へと変革する。そして、この変革の実績を顧客やパートナーに活用してもらうことで、AIエコシステムを形成。当社が『世界トップのPhysical AIの使い手』となり、社会に貢献していく」との方針を示した。

日立製作所のAI事業戦略

 次に、同社 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット事業主管 兼 CLBOの黒川亮氏が、AI事業戦略の具体的な取り組み内容を説明した。

 Agentic AIの事業領域では、「すでに経営からバックオフィス、SE/エンジニア、フロントラインワーカーまで、200種以上のAIエージェントが現場で稼働している。各ユーザーが実際に業務で使うAIエージェントは、今後10万種まで拡大すると考えている。日立グループでの取り組み事例としては、全社の業務を『事業ライン業務』『間接部門業務』『一般業務』の3層に分け、業務改革効果の高い間接部門から戦略的にAIエージェントを活用。全社AIエージェント統括部門がOne HitachiでAIエージェントの開発、業務フローへの組み込み、自律化を実現している」とした。

日立 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット事業主管 兼 CLBOの黒川亮氏

 新たな展開としては、Google Cloudとの戦略的アライアンスを推進し、OT領域へと活動を拡大。電力や鉄道、製造ラインなど社会インフラ分野におけるフロントラインワーカーの業務変革の加速に向け、現場にあわせたAIエージェントの開発・活用に取り組むことを発表した。

 「現在、第一弾の適用先として、電力や産業分野の保守事業を担う日立パワーソリューションズで、技術検証を開始している。具体的には、保守作業の前後で撮影した画像を比較し、原状復帰の合否判定が可能かどうかを試行している。日立パワーソリューションズでは今後、Google Cloudとともに、最前線で働くフロントラインワーカーの未来を再定義していくことを目指す」と説明した。

 グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 上級執行役員 カスタマー・エンジニアリング担当の小池裕幸氏は、「当社の提供するマルチモーダルAI『Gemini』は、テキストだけでなく画像や音声、動画など複数の情報形式を同時に理解し、処理できるため、物理的な情報を正確に扱うフロントラインワーカーの業務に適している。そして、『Gemini Enterprise』を活用することで、現場作業員の各業務を再現したAIエージェントをノーコードで開発し、現場業務を効率化することが可能となる。また、『Gemini Enterprise』では、社内で使用しているすべてのAIエージェントを視覚化し、保護・監査することができる」と、これまで難しかったフロントラインワーカー向けAIエージェントの開発・運用を容易に実現できると強調。

 「今回の戦略的アライアンス拡大を通じて、単に未来に備えるだけでなく、OT領域においてもイノベーションの最前線のAIテクノロジーを常に活用できるよう支援していく」と意欲を述べた。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 上級執行役員 カスタマー・エンジニアリング担当の小池裕幸氏

 Physical AIの事業領域については、Lumada 3.0を軸に「HMAX」ソリューションのさらなる事業拡大を図る。日立の黒川氏は、「製造業から始まった当社の強みを生かし、インダストリー分野での事業を推進。ビル・ファシリティ管理や工場の製造におけるドメインナレッジ(機器稼働データ、保守現場映像、保全データ)を作業員の安全確認、設備故障診断、ライン最適化に利用し、Physical AIと組み合わせることで、作業の自動・半自動化を実現していく。また今後は、金融・公共など業務特化型のPhysical AIを用いた『HMAX』ソリューションを拡大し、それを再利用可能にすることで社会インフラの変革に貢献していく」との計画を明らかにした。

「HMAX」ソリューションの事業領域拡大

 「HMAX」ソリューションの事業拡大に向けた取り組みでは、今年9月にNVIDIAとの戦略的協業に基づきグローバルな日立の「AI Factory」を構築することを発表。日立のOT領域の専門知識とNVIDIAの最新アクセラレーテッドコンピューティングおよびAIソフトウェアスタックを融合した「AI Factory」によって、「HMAX」ソリューションの開発、導入を加速していく。10月10日には、Lumadaのデジタルサービス「HMAX for Building : BuilMirai(ビルミライ)」が提供する価値の一つとして、NVIDIA AI Blueprint for Video Search and Summarization(VSS)を活用した、フロントラインワーカー向けAI Safetyソリューションを開発したことを発表している。

NVIDIAとの戦略的協業による「AI Factory」の概要

 また、米国子会社のGlobalLogicが、ドイツのデータ・AIサービス企業であるsynvertを買収することを今年9月に発表。Agentic AIからPhysical AIまでの開発を加速し、グローバルで「HMAX」ソリューションの展開を強化していく。

 オンラインで登壇したGlobalLogic President&CEOのSrini Shankar氏は、synvertの買収について、「synvertは、AIを活用したビジネスデザインやデータのアクセス・ガバナンス、統合、運用などに高度な専門性を持っている。今回の買収によって、AIの新たな能力を追加するだけでなく、『HMAX』の開発を加速させることができ、オペレーション、オートノミー、ビジネスモデルのイノベーションにつながると考えている。また、ドイツ、スイス、スペイン、ポルトガル、中東にプレゼンスを有しており、Hitachi RailやHitachi Energyとの協創によって、世界的に『HMAX』の市場拡大も図っていく」と説明した。

GlobalLogic President&CEOのSrini Shankar氏

 最後に日立の黒川氏は、AIエコシステムの戦略について、「当社は10月2日に、OpenAIと次世代AIインフラの構築および、OpenAI技術の活用に関する戦略的パートナーシップを締結したが、今後もAIエコシステムをさらに拡大していく。さまざまなパートナー企業とともに、AIトレンドを追いかける側からつくる側、支える側として、顧客・社会の課題解決、価値創出に取り組んでいく。そして、世界トップクラスのAIの使い手として、これまで培ってきた技術とパートナー連携を原動力に、『HMAX』のユースケースを全産業に拡大し、デジタル・セントリック企業への変革を推進していく」と、今後の展望を語った。