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日本IBM、AIエージェントで業務の完全自動化を図る「IBM Consulting Advantage for Agentic Applications」

業界・業務別AIエージェントと標準業務プロセスを100種類以上提供

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は、AIエージェントなどに関する新たな取り組みについて説明した。同社では、すでに100種類以上のエージェント型AIの提供を可能にしており、企業システムの本番環境におけるAI導入の加速を支援。企業業務の25%の完全自動化を目指すという。また同社では、AIエージェント戦略の中核となる製品をwatsonx Orchestrateと位置づけ、同製品を通じて、AIエージェントを高度に構築・運用・管理するための最新機能を提供していく考えを示した。

 日本IBM IBMフェロー執行役員 コンサルティング事業本部 最高技術責任者の二上哲也氏は、「日本IBMは、AIに関するテクノロジーに長けているだけでなく、SIやパッケージコンサルティングによるアプリケーション構築ノウハウを蓄積している。これらを生かして、お客さまの本番環境に適用できるAIエージェントを、お客さまと一緒に共創していく」と述べた。

日本IBM IBMフェロー執行役員 コンサルティング事業本部 最高技術責任者の二上哲也氏

 さらに、米IBMが先ごろ米国ボストンにおいて開催した年次イベント「Think 2025」で発表した、各種最新技術についても触れた。

これまでのAIは、AI+(AIファースト)へ移行していく

 日本IBMでは、これまでのAIが、Copilotやアシスタントとして、人が主体の業務を補助し、効率化する「+AI(プラスAI)」であったのに対して、業務のエンドトゥエンドをAI主導に再構築し、人は監督する業務へとにシフトする「AI+(AIファースト)」に移行するという新たな概念を提唱している。

「+AI」から「AI+」へ

 日本IBM コンサルティング事業本部 AIエージェント事業部長の鳥井卓氏は、「2025年は、『AI+』を本番適用していく年になる」と位置づけ、「AIエージェントとエージェント型AIの2つが重要な役割を果たす」と述べた。同氏は5月20日付でAIエージェント事業部長に就任したばかりで、就任当日に入社後初の記者説明会に参加したという。

日本IBM コンサルティング事業本部 AIエージェント事業部長の鳥井卓氏

 従来型AIは、プログラムを行い、長い期間をかけて教育する必要があったが、AIエージェントではLLM(大規模言語モデル)の推論能力を使い、人はゴールを設定すれば、AIが自分で考えて、タスクを実行し、遂行していくことになる。さらに、「AI+」を実現するエージェント型AIでは、業務をエンドトゥエンドでAIに任せることが可能で、パッケージベンダーが提供するAIエージェントを含めて、複数のAIエージェントを連携させ、自律的に意思決定とタスクを実行。目的を達成することができるという。

AIの進化

 だが、鳥井事業部長は、「AI+を実現するには、企業において、いくつかの課題がある」と指摘する。

 企業においては、業務をエンドトゥエンドでAIに任せる完全自動化のイメージがわかない点、AIエージェントを開発し、自社システムとの統合に投資体力が必要であり、適用できる業務領域が限定されてしまう点、事業環境の変化が激しいにも関わらず、業務に適用するまでに時間がかかってしまう点――だ。

 「これらの課題を解決するのが、新たに発表したIBM Consulting Advantage for Agentic Applicationsとなる。AIにすべてを任せる業務プロセスのひな型と、それを支えるAIエージェントのソフトウェアアセットであり、さまざまな業界、業種別のエージェント型AIのソフトウェアを用意。AI+の標準業務プロセスを提供することができる。すでに100種類以上のエージェント型AIを用意しており、企業業務の25%の完全自動化を目指す」とした。

IBM Consulting Advantage for Agentic Applications

 例えば、人事部門における「給与計算・支払業務」向けエージェント型AIは、レセプションエージェントが給与計算などの具体的な作業指示の内容を読み込んで理解すると、その業務を担当するマネージングエージェントに渡し、作業計画(タスクリスト)を生成。次にオーケストレーションエージェントが、人事システムなどが提供するエージェントなどを活用しながら人事情報を参照したり、更新したりといったことを行い、業務を遂行する。

 最後に完了報告を提出し、イレギュラーな事例が発生していた場合もそれを提示し、作業実行のリプランにつなげる。人事担当者は承認だけを行えば済むため、大幅な業務量削減が可能になるという。

人事担当者は承認のみを行うことで、大幅な業務量削減を実現

 すでにIBMでは、人事業務にエージェント型AIを自ら導入し、13倍もの生産性向上を実現しているという。

 100種類以上のエージェント型AIは、「ゲーム専用機のカセットのように」(鳥井事業部長)提供しており、企業が取捨選択して利用できる。また、これを企業ごとにシステムイングレーションする必要があるが、ユーザーインターフェイス開発、エージェント実装/システム連携、データ統合、ガバナンス/セキュリティ実装の4つのシステム開発領域を製品そのものがカバー。カスタムSIを最小化することで、業務変革の適用領域を拡大でき、「日本の企業の競争力強化につなげることができる」としている。

 鳥井事業部長は、「IBMには、38の専門領域にソリューション責任者が置かれ、業界別、業務領域別にAIエージェントを開発している。また、各国にもそれぞれに責任者を配置し、ユースケースとソフトウェアアセットを体系化して、国ごとの課題を解決できるようにしている」という。

 グローバルでは、高度なAIスペシャリストが7万5000人在籍し、そのうち、日本では700人以上が活躍。業界資格を持つコンサルタントは全世界に13万5000人を擁し、日本では5000人以上のコンサルタントが企業を支援しているという。

38の専門領域のソリューション責任者が置かれているという

ビジネスのためのAIエージェントの開発および展開を支える総合スタジオ

 こうしたAIエージェントの実現において、重要な役割を担うのが、IBM watsonx Orchestrateとなる。

 2023年から提供しているIBM watsonx Orchestrateは、業務システム同士の連携にAIを活用し、業務を支援していく役割を担ってきたが、いまでは、ビジネスのためのAIエージェントの開発および展開を支える総合スタジオへと進化した。

IBM watsonx Orchestrate

 日本IBM テクノロジー事業本部Data and AIエバンジェリストの田中孝氏は、「AIエージェントに対する期待と、IBM watsonx Orchestrateが目指す世界観が合致してきたタイミングにある」と位置づけた。

日本IBM テクノロジー事業本部Data and AIエバンジェリストの田中孝氏

 IBM watsonx Orchestrateでは、新たな機能として、業務に特化した事前構築済みのエージェントを提供。すぐに使い始めることができるように整備。人事、営業、調達といったエージェントを用意している。SalesforceやSAPとの連携も可能だ。

 事前構築済みエージェントは、Agent Catalogを通じた閲覧が可能で、150以上のエージェントおよびツールがリスト化されている。ユーザー自らが実現したいユースケースにあわせて、必要なエージェントやツールを探すことができる。

事前構築済みエージェント

 また、構築済みのエージェントが顧客の利用環境に合致しない場合に、個別の要件にあわせてエージェントを、迅速に、スムーズに構築できる機能も用意している。ノーコード開発ツールであるAgent Builderを通じて、AIやデータサイエンスのスキルを持たないユーザーでも、ガイドで示された流れに沿って、簡単にAIエージェントを構築、デプロイ、管理が可能になる。

 「どんな振る舞いをするのか、どんなタスクを行うのか、どんな知識を持つのか、あるいは、やってはいけないことを定義することで、AIエージェントを簡単に構築できる」という。

Agent Builderによる独自エージェントの構築

 さらに、ベンダーをまたいだ複数のエージェントを連携させ、協調動作により、複雑な業務プロセスを自動化することができるようにした。マルチエージェントオーケストレーションによって、IBM watsonx Orchestrateのなかで構築したAIエージェントだけでなく、SalesforceのAgentforce上で開発したAIエージェントなどを含めて、それらを連携し、協調した活動を行うことができる。

マルチエージェント・オーケストレーション

 加えて、watsonx.governanceにもAIエージェントのガバナンス機能を追加したことを発表。導入時のリスクを管理しながら、エージェントのライフサイクル全体に渡る統制を実現し、AIエージェントを安心して大規模展開するために、性能の見える化と、継続的な改善を支援することができる。

 日本IBMの田中氏は、「AIエージェントは、従来の生成AIに比べて複雑なタスクを実行することになる。開発やテストの証跡から、タスク実行に関する性能を評価、監視に至るまで、AIエージェントのライフサイクル全体を管理する必要がある。本番業務のなかでAIを活用する上で、こうした観点からも支援をしていく」と述べた。

watsonx.governance――AIエージェントのガバナンス機能

Think 2025の発表内容

 一方、Think 2025の発表内容にもついても紹介した。2025年5月5日~8日まで開催した同社年次イベントで、顧客やパートナー企業など約4000人が参加し、日本からは230人以上が参加したという。

 米IBMのアービンド・クリシュナ会長兼CEOは、基調講演のなかで、「エンタープライズAIの価値を最大化し、AIの構築、運用を効率化することで、AIの投資対効果を高め、ビジネス成長を実現することが重要である」と発言。企業データを活用することで業務に最適化した実効性のあるエンタープライズAIの実現が重要であることを訴えた。また、AIエージェントに関するさまざまな技術が発表され、これによって、エンタープライズAIの世界が加速していくことを示したという。

 さらに、会期中には、世界2000人のCEOを対象に実施した最新のIBM Study 2025が発表され、60%のCEOがAIエージェントを積極的に採用し、大規模に導入する準備ができていることなどが明らかになったという。

 日本IBMの二上氏は、「Think 2025では、エンタープライズAIの価値を最大化するためのテクノロジーが数多く発表された」とし、IBM watsonx Orchestrateの機能を大幅に拡張。AIエージェントの構築および運用の効率化を実現し、人事、営業、調達などの各SaaSとの連携による事前構築済みAIエージェントを提供することで、容易に利用できる環境を整えたことをあらためて強調した。

 また、LLMについては、Granite4.0を発表し、利用時のメモリ削減やトークン数の制限が無くなるといったメリットを生かしてコストを削減。watsonx Model Gatewayの発表により、より柔軟にLLMの統合、管理が可能になるとした。「これまでは自然言語をプロンプトに入力すると、自然言語で回答することが多かったが、今後はGenerative Computingという新たなコンセプトによって、プログラムがAIに質問し、プログラムで答えるという生成AIが重要になってくる。Generative ComputingによるプラグラマブルAIによって、生成AIがシステムに組み込みやすくなる」とも述べた。

 生成AIの学習コストが高いという課題解決に向けて、watsonx.dataの新製品として生成AI DBを発表し、さまざまなタイプのRAGを容易に実現。生成AIが学習するためのデータを管理する仕組みも提供した。また、InstructLabでは、SaaSによって追加学習できる環境を用意したという。

 基幹システムでのAI活用については、メインフレームであるz17へのAI半導体の搭載に続き、新たにLinuxONE Emperor 5にもAI半導体を搭載すると発表。オンプレミスでのAI活用を促進することができるという。

 さらに、システム連携では、IBM webMethods Hybrid Integrationを新たに発表。統合iPaaSとして、AIを活用した統合エージェントにより、ワークフローの自動生成を実現することができる。

 量子コンピュータについては、これまでの156量子ビットのIBM Heronプロセッサに加えて、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」と、IBMの最新量子コンピュータであるIBM Quantum System Twoを融合し、量子を中心としたスーパーコンピューティングを具現化する方針も示した。

Think 2025の発表内容