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富士通・時田社長が中期経営計画の進捗状況を説明、順調な進捗をアピール
2025年度連結業績は増収増益、調整後当期利益は過去最高に
2025年4月25日 00:00
富士通株式会社は24日、2025年度を最終年度とする中期経営計画の進捗状況について説明。富士通の時田隆仁社長 CEOは、「Uvance、モダナイゼーション、事業ポートフォリオ変革を中心に中期経営計画を推進しており、ここまではうまくきている。決して、簡単な目標を立てているわけではなく、まだチャレンジもあるが、オントラックという状況にある。自分自身に対しても、気を抜かないという姿勢で進める。社員も厳しい目標とトランスフォーメーションに対して、しっかりとやってくれている」などと述べた。
また、「中期経営計画は、2030年以降の持続的な成長と、収益力向上モデルを構築する期間と位置づけており、事業モデル・ポートフォリオ戦略、カスタマサクセス戦略/地域戦略、テクノロジー戦略、リソース戦略を、重点戦略としている。そして、事業モデルと事業ポートフォリオの変革、お客さまのモダナイゼーションの確実なサポートのほか、サービスビジネスシフトをはじめとした海外ビジネスの収益性向上に取り組んでいる。Fujitsu Uvanceを中心に、従来型のSIからオンクラウド、ビジネスアプリケーション、クロスインダスリーへの変革を進めている」とも語った。
Fujitsu Uvanceでは、2025年度に売上収益7000億円を計画。コンサルティングビジネスを拡充し、商談の質と量を改善し、Uvanceの受注拡大に寄与し、売上収益達成を目指すという。
「従来型ITサービスから、モダナイゼーションを経て、Fujitsu Uvanceを中心とするオンクラウドによるデジタルサービスへとシフトする。2025年度には、サービスソリューションにおけるFujitsu Uvanceの割合を30%にまで拡大する」と語った。
サービスソリューションの収益性向上では、グローバルデリバリーセンター(GDC)やジャパングローバルゲートウェイ(JGG)を通じたデリバリー変革を行っているほか、開発共通基盤の活用により、開発の標準化や自動化を推進。提供価値に基づくプライシング戦略を拡大し、継続的な収益拡大にも取り組んでいるという。これにより、2024年度は売上総利益率が2%改善。2025年度は、サイバーセキュリティやAIの倫理的な活用にも配慮しながら、生成AIをデリバリーに積極的に取り入れる考えだ。これにより、効率化や標準化を進め、グローバルで最適なデリバリー体制を確立し、さらに年間2%の売上総利益率の改善を図るという。
「サービスソリューション事業を中心に、収益性はこれからも拡大する。事業モデルと事業ポートフォリオの変革を進めていく」と語った。
モダナイゼーションにおいては、「受注、売上とも順調に拡大しており、リソースを効率的、機動的にアサインするほか、モダナイゼーションマイスターと認定している専門人材の育成、言語の自動変換ツールの整備など、業務の高度化、効率化を図っている。2025年度は、Fujitsu Uvanceにつながるモダナイゼーションと、Horizontalソリューションを統合したDXの提案を加速させる。生成AIを活用した効率化や自動化を行い、競争力を高める」と述べた。
海外ビジネスについては、事業ポートフォリオ戦略や構造改革の効果により、営業利益率は1.7%から、4.1%に改善したことを強調。Europeは、構造改革完了に向けて採算性の低い事業のカーブアウトや地域戦略の見直しを実行。Americasはサービスビジネスに注力し、2024年度にコンサルティング事業を立ち上げたことを示した。また、Asia Pacificは採算性の高いビジネスと地域にフォーカスした構造改革に着手。2025年4月からは、国ごとの体制へと変更したという。2025年度は利益体質の確立に向けた構造改革を進め、Uvanceを中心としたサービスビジネスの拡大を図り、すべてのエリアでの収益性向上を図る。
テクノロジー戦略については、AI、コンピューティングを中心に外部バートナーとの積極的な戦略的提携を行い、サービスの差別化につながる技術を強化。Cohereと共同開発した企業向けLLM「Takane」を、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」のラインアップのひとつとして提供を開始したことや、AIエージェントおよびマルチAIエージェントの提供により、顧客の事業の高度化を支援するという。
また、量子コンピュータでは、265量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発したほか、2026年度には1024量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発する計画であり、神奈川県川崎市のFujitsu Technology Parkに建設中の量子コンピュータ専用施設に設置することにも触れた。
FUJITSU-MONAKAについては、Supermicro、AMDとの戦略的協業を進め、新たなテクノロジーの創出と実用化を目指し、研究開発を加速させる考えを示した。
さらに、事業と連動した人材ポートフォリオ戦略についても言及した。
富士通では、必要な制度や人材マネジメントの見直しを継続的に進めており、グローバルで人材の流動性を高めるためにジョブ型人事制度に移行。2026年4月からは、これを新卒入社者に対しても適用することで、ジョブレベルに応じた処遇を実施する。国内の従業員を対象に、グローバルで競争力がある報酬水準を取り入れており、2023年度から2024年度までの2年間累計で約20%の引き上げを実施。「今後も市場のトレンドを見ながら、継続して見直していく」と語った。
2020年度から導入したポスティング制度は、キャリア形成の手段としてグループ内に定着しており、2024年度までに年間平均で約3000人がこの制度を使って異動。注力事業領域へのシフトや、キャリア形成に必要なスキルを自律的に学ぶリスキリングが活発化しているという。「注力事業領域へのリソース強化、コーポレートの効率化、外部転身を含むリソースシフトを行い、事業成長と生産性向上に向けた取り組みを継続する」と述べた。人材ポートフォリオ変革による2025年度のコスト削減効果は、150億円程度となる。
また、富士通では、ネットワークプロダクト事業を行う1FINITY(ワンフィニティ)を、2025年7月に設立することを発表した。「2024年4月に設立したエフサステクノロジーズと同様の考え方によるものであり、グループ内に分散しているネットワークプロダクト事業に関する研究開発から製造、販売、保守までの各機能を集約し、経営のスピードを上げ、グローバルでの競争力を高めることを目的としている。AIが存在感を増し、欠かせないものとなるなか、データ活用を支えるハードウェアソリューションも同じスピードで進化し、実用化することが求められている。テクノロジー企業として、最適なソリューション提供体制を検討していく」と語った。
説明のなかで時田社長 CEOは、2025年6月に、富士通が設立90周年を迎えることに言及。「時代の変遷とともに提供する製品、サービスは変わっているが、テクノロジーで人を幸せにするという企業活動の根底にある考え方は大切に持ち続けている。テクノロジーの進化は、環境、資源問題、地域間の紛争、格差といった社方課題に対して、新たな解決策を創出する可能性を持っている。時代の変化にいち早く対応し、長く持続的に貢献できる企業へと変革しながら、より安心、安全で、豊かな社会の実現に、テクノロジーを通じて貢献していきたい」と抱負を述べた。
2024年度の連結業績は増収増益
一方、富士通が発表した2024年度(2024年4月~2025年3月)の連結業績は、売上収益が前年比2.1%増の3兆5501億円、営業利益は同77.5%増の2650億円、調整後営業利益は同16.0%増の3072億円、税引前利益が同65.1%増の2734億円、当期純利益が13.6%減の2198億円となった。また、調整後当期利益は同2.0%増の2409億円となり、過去最高益となった。
富士通の時田社長 CEOは、「全社連結で増収増益し、調整後当期利益は過去最高益を達成した。主力のサービスソリューションは、国内を中心にDXやモダナイゼーション商談が伸長した。また、ノンコアとしているデバイス事業のカーブアウトを進め、事業ポートフォリオ変革は計画通りの進捗になっている」と総括した。
また、富士通の磯部武司副社長 CFOは、「Fujitsu Uvanceと、モダナイゼーションが、ともに計画を上回った。売上収益は為替影響を中心に、予想に対して801億円の増加、調整後営業利益はサービスソリューション、ユビキタスソリューションを中心に予想に対して172億円増加している」と、計画を上回る実績となったことを強調した。
セグメント別の業績
2024年度のセグメント別業績は、サービスソリューションの売上収益が前年比5.1%増の2兆2459億円、調整後営業利益は同22.0%増の2899億円となり、過去最高となった。調整後営業利益率は12.9%となっている。
サービスソリューションのうち、Fujitsu Uvanceの売上収益は前年比31.2%増の4828億円となり、サービスソリューション全体に占める売上構成比は21%(前年同期は17%)となった。
時田社長 CEOは、「当初計画の4500億円を超える実績となった。コンサルティングブランドであるUvance Wayfindersが立ち上がり、従来のSI商談とは異なり、経営変革のアジェンダ策定から実装までの商談が生まれている。グローバルでのオファリングの標準化、商談におけるリカーリング比率の向上、海外ではGK SoftwareなどのVertical領域が伸長している」という。
内訳はVerticalが同51%増の1752億円(前年同期実績は1163億円)となり、Horizontalの売上収益は同22%増の3076億円(同2515億円)となった。また、Fujitsu Uvanceの受注高は、前年比31%増の5486億円となった。
また、モダナイゼーションは、売上収益は同69.6%増の2010億円となった。Fujitsu Uvanceの重複分を含むと売上収益は2969億円に達している。
磯部副社長 CFOは、「旺盛な基幹システムの刷新需要を背景に、2680億円の当初計画(Fujitsu Uvanceとの重複分を含む)を大きく上回った。DXとクラウド化を基盤に、モダナイゼーション需要を確実に取り込み、レガシー資産からの移行を加速させている」とした。
サービスソリューションのサブセグメント別内訳では、グローバルソリューションの売上収益は前年比6.4%増の5112億円、調整後営業利益は同58.8%減の56億円。リージョンズ(Japan)では、売上収益が同3.8%増の1兆3104億円、調整後営業利益は22.1%増の2603億円。リージョンズ(海外)の売上収益は同2.4%減の5897億円、調整後営業利益は同132.7%増の239億円となった。
「グローバルソリューションは、Fujitsu Uvanceを中心に売り上げが拡大したが、オファリング開発投資やモダナイゼーションナレッジセンターへの投資が影響した。成長領域拡大につながる投資は、手綱は締めないが、Fujitsu Uvanceのオファリング開発では売れ筋の見極めなどにより、投資のメリハリをつける。リージョンズ(Japan)はDX、モダナイゼーション案件が伸長。クラウド移行、データ活用基盤構築、業務プロセス変革で成果があがっている。リージョンズ(海外)は、ドイツプライベートクラウド事業のカーブアウトにより減収となった。海外事業は、さらなる採算性改善に取り組みながら、今後は規模の拡大も進めなくてはならない。場合によってはM&Aも考える必要がある。具体的な案件があるわけではないが、注意深く、大胆に決断したい」(磯部副社長 CFO)と語った。
2024年度の国内サービスソリューションの受注状況は、全体では前年比5%増となった。分野別では、エンタープライズ(産業、流通、小売)が前年比6%増、ファイナンス(金融・保険)が同14%増、パブリック&ヘルスケア(官公庁、自治体、医療)が同2%減、ミッションクリティカル(ミッションクリティカル、ナショナルセキュリティなど)が同11%増となっている。
磯部副社長 CFOは、「受注は、第3四半期に続き、第4四半期も順調に推移している。基幹システム関連、モダナイゼーション商談のほか、SXによるクロスインダストリーの課題解決に向けたUvanceオファリングも、着実にリリースできている」と言及。
「エンタープライズでは、製造、モビリティ、リテールなど、広い範囲で受注が拡大した。ファイナンスでは、メガバンクの基幹システム保守の複数年契約の大型案件を獲得。パブリック&ヘルスケアは、前年に官公庁関連で複数の大型案件を獲得した反動があったが、システム更改案件は安定して複数を獲得している。ミッションクリティカルは、ナショナルセキュリティで大型商談を複数獲得し、前年度の高い水準をさらに上回った」とも述べた。
海外の受注状況は、Europeが前年比7%減、Americasが同12%減、Asia Pacificが同34%増となっている。EuropeおよびAmericasは、いずれも前年度の大型受注の反動が影響。Asia Pacificでの大幅な伸びは、オセアニアでの公共系の新規案件や更新案件などを複数獲得したことが影響している。
ハードウェアソリューションの売上収益は前年比1.1%増の1兆1199億円、調整後営業利益は同26.8%減の613億円。そのうち、システムプロダクトの売上収益は同1.4%増の9383億円、ネットワークプロダクトの売上収益は同0.8%減の1816億円となった。「システムプロダクトは、前年度の新紙幣対応需要や、大型の好採算商談の反動減があった。ネットワークプロダクトは、基地局や伝送装置のデマンドが低調。次の成長サイクルに向けた開発投資は継続している」という。
ユビキタスソリューションの売上収益は前年比7.9%減の2517億円、調整後営業利益は同29.6%増の313億円になった。「2024年4月に欧州ビジネスを終息し、国内ビジネスに集中している。Windows 10のEOSに起因する需要の高まりが想定より早く進んだ」という。
なお、デバイスソリューションは、新光電気、富士通オプティカルコンポーネンツ、FDKを譲渡したことで、非継続事業に分類変更した。
2024年度の事業成長投資は、前年比161億円増の2182億円。Fujitsu Uvanceやモダナイゼーション、コンサルティング強化で410億円、AI開発や量子コンピュータ、MONAKAの開発などの先端研究開発で580億円、2024年度第3四半期におけるグローバルワンインスタンスOneERP+の国内稼働などによる経営基盤強化で550億円、品質やセキュリティ強化で400億円となっており、「計画通りの進捗」とした。
また、非財務指標についても触れた。GHG排出量は、Scope 1および2については、2020年度比で46.9%削減、Scope 3では同35.6%削減したほか、お客さまNPSでは2022年度比で5.6ポイント改善。1人あたり生産性は2022年度比で37%増、従業員エンゲージメントでは68と前年比で1ポイント減少。女性幹部社員比率は17%と1ポイント上昇した。
2025年度通期の業績見通しは増収増益を見込む
中期経営計画の最終年度となる2025年度通期(2025年4月~2026年3月)の業績見通しは、売上収益は前年比2.8%減の3兆4500億円、営業利益は同35.8%増の3600億円、調整後営業利益は同24.0%増の3600億円、税引前利益が同123.9%増の1330億円、当期純利益が同77.4%増の3900億円、調整後当期利益は2500億円を目指す。調整後営業利益と調整後当期利益は過去最高益を目指す。また、調整後営業利益率は10.4%を計画している。
Fujitsu Uvanceの売上収益は、前年比45%増の7000億円。そのうちVertical領域は同60%増の2800億円とし、構成比は40%。Horizontal領域は同37%増の4200億円を計画し、構成比では60%を見込む。磯部副社長 CFOは、「2025年度は、Vertical領域を、Uvance拡大のエンジンとする。Fujitsu Uvanceは、サービスソリューションの売上収益における売上構成比で30%を目指す」という。
また、モダナイゼーションの売上収益は同15%増の2310億円としている。「Fujitsu Uvanceとの重複分を加えると、3300億円を目指す。当初計画の3000億円を上回ることになる」(磯部副社長 CFO)という。
セグメント別では、サービスソリューションの売上収益が前年比3.7%増の2兆3300億円、調整後営業利益は同24.2%増の3600億円とした。調整後営業利益率は15.5%を見込んでいる。そのうち、グローバルソリューションの売上収益は前年比3.7%増の5300億円、調整後営業利益は同376.9%増の270億円。リージョンズ(Japan)では、売上収益が同9.1%増の1兆4300億円、調整後営業利益は17.6%増の3060億円。リージョンズ(海外)の売上収益は同10.1%減の5300億円、調整後営業利益は12.5%増の270億円とした。
ハードウェアソリューションの売上収益は前年比13.8%減の9650億円、調整後営業利益は同10.3%減の550億円とした。ユビキタスソリューションの売上収益は前年比10.6%減の2250億円、調整後営業利益は同36.2%減の200億円としている。
なお、トランプ関税の影響については、「主力となるサービスソリューションはそれぞれの国の中に閉じたビジネスであり、富士通のビジネスへの直接影響は限定的である。ネットワークプロダクトも関税の対象になるかどうかも未定である。だが、景気の不透明感によってIT投資が減速する可能性がある。そのため、成長計画は保守的に見込んでいる」(磯部副社長 CFO)と述べた。