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パナソニック コネクト 樋口泰行プレジデント・CEO、Blue Yonder黒字化に手応えも「テイクオフ見届けられず心残り」――2026年3月退任へ
2025年12月10日 06:00
パナソニック コネクト株式会社の樋口泰行プレジデント・CEOは、Blue Yonderの取り組みについて説明。「コグニティブソリューションに対する評価が高く、Blue Yonderの成長蓋然(がいぜん)性が高まっている。Blue Yonder単独の調整後営業利益も、間もなく黒字化を見込む」とした。
一方で、樋口氏は2026年3月31日付で、同社プレジデント・CEOを退任し、シニア・エグゼクティブ・アドバイザーに就くことを発表しており、「Blue Yonderの最後のテイクオフまでを見届けられない点には心残りがある」としながらも、「人生における最後の仕事として、少しでもパナソニックに貢献できたことがあれば、それが一番うれしく、やりがいを感じられる部分になる」と振り返った。
Blue Yonderは、SCMソフトウェア業界でのトッププレーヤーになることを目指す
パナソニックグループでは、12月2日に「Panasonic Group IR Day 2025」を開催。そのなかで、パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOが、グループ全体でソリューションへの取り組みを強化する姿勢をあらためて強調。データセンター向け蓄電池、電設資材(電材)事業、SCMソフトウェアを、「稼ぐ力を高めることができるポテンシャルを持ったソリューション事業」に位置づけて見せた。
同席したパナソニック コネクトの樋口プレジデント・CEOは、SCMソフトウェアの中核事業となるBlue Yonderについて説明し、「Blue Yonderは、SCMソフトウェア業界でのトッププレーヤーになることを目指す」と力強く宣言。今回は、それを補足する形で取材に応じた。
樋口プレジデント・CEOは、「Blue Yonderでは2025年5月に、コグニティブソリューションを発表して以降、1件あたりの案件が大型化しており、100万ドル以上の受注案件は、2025年1月~9月の実績で前年同期比2.8倍となっている。その影響もあり、SaaS事業における受注残を示すRPO(Remaining Performance Obligations)は、2025年度第2四半期には、前年同期比36%増の14億ドルに達した。これが、今後のSaaS ARR(Annual Recurring Revenue)の成長率を高めることにつながる。また、営業パイプラインは、四半期ごとに倍増しており、急速に立ち上がっている」と述べた。
また、「コグニティブソリューションへの移行によって、SaaS比率の上昇、SaaSの粗利率の改善、限界利益の改善、固定費削減が進展し、調整後EBITDAを大幅に増加させることができる。これに加えて、戦略投資が2025年度を境にピークオフする。Blue Yonder単独の調整後営業利益も、間もなく黒字化を見込む」とも説明。Blue Yonder単独では、2025年度の調整後営業利益で1400万ドルの赤字見通しとしているほか、2026年度を収益改善フェーズと位置づけているものの、黒字化への道筋に手応えを示している。
一方で、2024年後半に発生したサイバー攻撃による顧客情報の漏えいに伴い、解約率が上昇し、「年間では、正常レベルから3~4%高い状態にある」としながらも、「セキュリティ投資や顧客のフォローなどの効果により、四半期ごとの解約率は減っている。解約のピークは越えた」とも述べた。
また、Blue Yonderに指摘される減損リスクについても説明。「余裕率が20%以上あり、減損リスクはない。さらに、毎年の無形資産償却により余裕率が上がっていくことになる。年々減損リスクが減るイメージである」と見方を否定した。
なお、パナソニックグループでは、2022年5月にBlue Yonderを中心としたSCMソフトウェア事業を上場させる計画を発表しており、現時点でもその方針に変更はない。
また、Blue Yonderは、2023年度~2025年度(Blue Yonder会計年度)までの3年間にわたって、当初は累計2億ドルの戦略投資を予定していたが、結果として、これが3億ドル弱に達したことを明らかにしている。
約3億ドルの戦略投資のうち、製品強化が約半分、オペレーション強化が約半分となり、製品強化においては、コグニティブソリューションの開発に投資。エンジニアの増強や、コグニティブAIやAIエージェント関連への投資を増やしたという。
樋口プレジデント・CEOによると、ベースとなる統合プラットフォームと、サプライチェーンネットワークの開発はすでに完了。さらに、計画系や実行系、注文管理および返品管理、AIオーケストレータおよびAIエージェントもほぼ完成しており、「2026年度までに、新たなコグニティブAI、統合プラットフォーム、サプライチェーンネットワークを含めた、エンドトゥエンドソリューションの開発および整備がすべて完了する予定である」としている。
さらに、コグニティブソリューションにおいては、統合プラットフォームを開発。統合データ基盤、マイクロサービス、マルチテナント、クラウドネイティブ、イベントドリブンなどを実現していることを示した。
パナソニック コネクト執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント・CTOの榊原彰氏は、「従来のアーキテクチャでは、そのままLLMやAIエージェントを導入しても変更に弱く、そこに労力がかかってしまう。コグニティブソリューションでは、イネーブラーとなる基盤を用意することで、付加価値を提供できるようにした。さまざまなものがつながる基盤を用意している。生成AIの登場により、提供できる価値が大きく変化しており、それを踏まえたソフトウェアのリライトを行い、MCPプロトコルを経由して、さまざまなものにアクセスできる環境を整え、LLMによって、ユーザーが取るべきアクションを提案することができる」と話す。
また、「Blue Yonderは、計画系の充実ぶりが特徴のひとつであり、サプライチェーンの全体最適を実現できる。これを生かすためには、実行系を現場に則したものに強化していく必要があった。パナソニックグループが持つIoT技術を活用し、Blue Yonderに素早くデータを入れ、インサイトを得て、倉庫、輸配送、店舗などの現場にフィードバックするサイクルを構築したい。現場のシステムを賢くしていきたい」と述べた。
このほか、樋口プレジデント・CEOは「コグニティブソリューションは、情報やデータの意味づけを理解するレベルを持った人間の認知能力に近いAIを搭載している」とし、SNSの投稿をもとに需要が急増する傾向をとらえて、プランニングを変更したり、交通渋滞や、空港および港湾情報などの状態を検知して配送の遅延に対処したりといったことが可能であることを強調。データを活用して、しきい値を待って判断するのではなく、コグニティブAIが人間に近い判断を行うことで、価値を高める提案を迅速に行えるとした。
加えて、「計画系と実行系がひとつのプラットフォームでつながり、発表した5つのAIエージェント同士の連携も行うことができる。競合他社が、すぐには追いつけないプラットフォームを構築した」と自信を見せた。
Panasonic Group IR Day 2025では、楠見グループCEOが、「Blue Yonderを買収した時点で、ソフトウェアをリライトしなくてはならないことに我々が気づかなかった。これが投資回収の遅れにつながっている」と指摘した。
これに対して、樋口プレジデント・CEOは、「Blue Yonderは、買収を繰り返してきたことや、パナソニック コネクト入りするまではプライベートエクイティ傘下であったため、長期的な投資が制限され、ソフトウェアの作りが古いことは理解していた。リライトしなくてはならないことには気がついていた。だが、インフォア出身のダンカン・アンゴーヴ氏がCEOに就き、エキスパートチームが入り、根本的に直すことを決定した。必要なピースをそろえるためにM&Aを行い、ネットワーク機能まで取り込んだ。それを聞いて、『えーっ』とは思ったが、やるならば徹底的にやり、世界で唯一無二となる一流のSCMソフトウェアを開発することにした」と説明した。
コグニティブソリューションを発表して以降、パブリッククラウドを活用した新たなSaaS環境でのビジネスは20%以上の成長を遂げており、従来のSaaSは横ばいで推移。オンプレミスも製品は継続するが、今後、構成比は減少するという。
パナソニック コネクトでは、2026年度において、オンプレミスおよび従来のSaaSから、コグニティブソリューションおよび新たなSaaS環境への移行を促進するためのプログラムを実施する予定であり、「移行促進プログラムでは、顧客の要望を聞きながら、システムに搭載するエージェントを開発するための支援、エージェント同士の連携支援などを行っていく。また、データ移行支援、システム移行支援も行う。価格ディスカウントではない」(榊原CTO)とした。
また、パナソニック コネクト サプライチェーン事業統括部 エグゼクティブコンサルタントの勝川宏明氏は、「従来のBlue Yonderの窓口は、サプライチェーンの担当者であったが、サステナビリティやエナジー、グローバルでのリスクマネジメントといった部門からの関心が高まっている。こうしたニーズにも応えていきたい」と話す。
樋口プレジデント・CEOは、「これまでは、古い製品だとわかっていながらも、それを売らなくてはならないという状況にあったのも事実だ。だが、これからは、すべての提案をコグニティブソリューションにすることができる」とし、コグニティブソリューションを軸にして、2026年度以降は、収益改善フェーズおよび利益創出フェーズへと移行することをアピールした。
一方、パナソニック コネクトの樋口 プレジデント・CEOは、2026年3月31日付で現職を退任するが、記者の質問に答える形で、その点にも言及した。
今回、退任に至った背景として、「9年間にわたりカンパニー長を務めたケースはまれではないか。私は68歳であり、70歳近くになる。次の世代にやってもらわなくてはいけない。トランジションが重要であると考えていた」とコメント。
「Blue Yonderの最後のテイクオフまでを見届けられないのは心残りもあるが、後任のケネス・ウィリアム・セインがしっかりとやってくれる。プロの経営者であり、戦略、カルチャーを理解している。変革をより力強く推進できる」と、今後の経営に期待を寄せた。
また、これまでの経営を振り返り、「もう一度、時計の針を戻しても、同じ手を打っていただろう。それをもっと速くやることになるだろう」とも語った。
樋口プレジデント・CEOは、新入社員としてパナソニックに入社後、日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、日本マイクロソフトの社長を歴任。2017年4月にパナソニックに復帰した。
「樋口氏の人生にとって、パナソニックに出戻ったことはよかったのか」という質問に対しては、「パナソニックに貢献しようと思い戻ってきた。どれぐらい貢献できたのかは、自分ではわからない。だが、少しでも貢献できたことがあれば、それが、一番うれしく、やりがいを感じられる部分になる。人生における最後の仕事として、よかったと思える部分はそこだろう。変わらないと言われた会社が、『まったく違った会社になったね』と言われることがある。なぜこんなに変わることができたのかは自分でもわからない。ただ、恵まれたチームと一緒になって仕事ができ、カルチャー変革、ポートフォリオ戦略において、正しい戦略を選択できたのであれば、私の人生にとっても幸せなものだったといえる」と述べた。
さらに、「単品、金物のビジネスをしてきたパナソニックは変わらなくてはならない状況にあった。ハードウェアから付加価値がなくなり、それを売り切りでやっているとコモディティ化のリスクが高い。世界の景色を見ながら、コモディティ化するまでに何年持つのかをとらえて、その時期を判断し、レジリエントなビジネスモデルに転換する方法を考えていかなくてはならない」と指摘。
「パナソニックの従来のカルチャーは、固く、岩盤のように、変わりにくいものであり、腕ずくで変えなくてはならない部分があった。しかし、一度変わり始めると、変わることがDNAに転換される。最初は力が必要だったが、途中からは自律的に回っていった。その点では、とても優秀な集団である。パナソニック コネクトのポートフォリオ改革では、5つの工場を閉め、10以上の事業から撤退した。選択の理由が腹落ちすれば、自ら取り組んでくれる体質がある。ポートフォリオ改革は大きなものは終わっており、残りは事業部内での取り組みが残る。終わりなき取り組みではあるが、9割ぐらいのことはできた。カルチャー変革は、7~8割程度ができたと考えている」と述べた。
また、パナソニック コネクトの改革を、パナソニックグループ全体にもっと波及できたのではないかという質問に対しては、「山の頂上に立ってみないと、そこから見える景色はわからない」と比喩。「私は、家電や空調、部品の経験はない。そこに立ったときに何をすべきかは、その立場にならないとわからない。その立場にいないため、コメントできない」とした。






