ニュース

SAPジャパンが2025年のビジネス戦略を発表、SAP Business Suiteを通じた提案を加速

SAPの“ビジネスAI”の優位性もアピール

 SAPジャパン株式会社は19日、2025年のビジネス戦略について発表。「AIファースト、スイートファースト」を掲げ、ビジネスAIの推進およびSAP Business Suiteを通じた提案を加速することを強調した

 SAPジャパンの鈴木洋史社長は、「2025年はAIをビジネスで本格的に活用する年になる。SAPは本気でAIの領域に投資をしており、AIは日本の企業の競争力を復活させるドライバーになると考えている。また、ビジネスAIのメリットを享受するには、クリーンコアでERPを活用することが必須になる。Fit to Standardの推進も必要である。仕事のやり方を変えずにERPを導入し、アドオンを多く作るようなやり方では、生産性が上がらず、世界から取り残される。システム導入の短期化、効率化、品質向上を同時に実現し、本稼働後も継続改善ができるようにする。SAP Business Suiteによる提案を通じて、顧客のDXを支援する」と述べた。

SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏

 一方で、経済産業省のDXレポートによって示された「2025年の崖」については、「2025年までにすべてを解決できるわけではなく、この先にも崖はあり、チャレンジは続く。数年前から移行プロジェクトをスタートしている企業も多いが、SAPのプロジェクトについても、数年遅れて取り組んでいる企業があり、これからスタートを切る企業もある。ただ、まったく何もせず、5年先、10年先を乗り越えるという発想の企業は多くはない。SAPを使っているユーザー企業は、先を見据えた戦略に取り組んでいる。SAPジャパンとして、どんなことができるのかを徹底していく」と語った。

 さらに、2027年末にメンテナンス終了を迎えるBusiness Suite 7について、「2030年末までは、個別に継続メンテナンスを提供する。クラウド移行を決定するユーザーも増えており、だいたいの企業が移行できるだろう。だが、間に合わない可能性がある顧客に対しては、2030年以降も延長できるオプションがあり、個別対応をしている」と語った。

AIへの取り組み

 AIへの取り組みについては、「日本の企業でのPoCが進展し、130以上の生成AIのユースケースが、SAP Cloud製品に組み込まれ、各業務プロセスにおいて、自然な形でAIが活用できるようになっている。また、デジタルアシスタントのJouleは、第1四半期にはABAP(Advanced Business Application Programming)開発者向け、第2四半期にはコンサルタント向けに提供を開始する予定であり、システム導入や移行時間を大幅に短縮し、作業品質も向上させることができる」とした。

 Jouleでは、開発要件を入力するだけで、ABAPが自動的に生成されたり、SAPのコンサルティングスキルを学習することで、SAP S/4HANA Cloudの設定を変更する際などに、最適なパラメータを提案したりといったことができるという。

Jouleはエンド・ツー・エンドで業務を指揮するエキスパートへ

 「2025年以降、SAPのビジネスAIは、企業の業務やソフトウェア領域で革命を起こす。Jouleは業務のエキスパートとなり、会計、販売、顧客管理などの多数のAIエージェントが連携し、自らの意思で行動する。SAPアプリケーションが対象とする業務プロセスをエンドトゥエンドで実行することになる」と述べた。

 例えば、販売担当AIエージェントが需要を予測し、サプライチェーン担当AIエージェントに引き継ぎ、予測に基づいて、世界中の在庫を管理し、リアルタイムで配送を指示。調達担当エージェントに適正在庫を管理。こうしたAIエージェント同士の連携により、需要と供給のプロセスを自動で管理することができるという。また、CFO向けには、Jouleが財務計画や外部データを使用して、正確なシミュレーションを行い、意思決定を支援できるようになることも示した。

 さらに、ナレッジグラフ機能の提供に加えて、AIエージェントを開発するためのエージェントビルダーを発表したことに触れ、「ユーザーがAIに問い合わせると、どこに関連するデータがあるのか、どのAPIにアクセスすれば取得できるのかということを、正しく理解し、Jouleが業務を支援するようになる。特定の領域に依存せず、あらゆる業務プロセスをカバーするAIエージェントによる連携が可能になる。データに基づいた意思決定を支援する。ここに、他社と差別化ができる、SAPならではのビジネスAIの優位性がある」と述べた。

SAP Business Suiteにおける取り組み

 SAP Business Suiteについては、「エンドトゥエンドでのビジネスプロセスへの深い理解」、「信頼性の高いビジネスデータ」、「統合されたアプリケーション」の3点を特徴に挙げ、「この特長を生かして、スイートファーストを推進する。AI、データ、アプリケーションを統合し、イノベーションと継続的改善の循環を生み出し、経営課題を解決する」と語った。

 特に、新たに発表したSAP Business Data Cloudは、データを集中的に管理。SalesforceやGoogleをはじめとしたSAP以外のシステムで生成されたデータも収集し、正確で、セキュアな情報プールに統合され、リアルタイムのデータから優れたインサイトを得るためのAIへと強化するデータ基盤になると位置づけた。

 また、既存のSAP ERPのユーザーを対象に、SAP Business Suiteを通じて、レガシーシステムをモダナイズする「RISE with SAP」と、新規SAP ERP 顧客に対して、SAP Business Suiteをクラウド導入し、1からスタートすることができる「GROW with SAP」により、SAP Business Suiteの可能性を最大化することができるとし、「2025年度は、RISE with SAPとGROW with SAPに対して、技術的にも、商業的にも強化し、クラウドによるビジネス成長を加速させる」と語った。

RISEとGROWでSAP Business Suiteの可能性を最大化

 なおSAPでは、クリーンコア戦略を推進している。鈴木社長は、「AIの能力を発揮させるためには、ERPのクラウド移行と、ERPの標準機能を最大化した活用が必要であり、カスタマイズを最小限に抑え、標準機能に影響がない拡張方法を組み合わせるクリーンコアが必要である。これからは、クリーンなデータをどれだけ用意できるかがキーになる。SAPでは、クリーンコアを保ったまま、SAP Business Suiteを導入してもらい、本稼働後もクリーンコアのまま、業務がまわっていることをモニタリングし、継続的な改善を定着させることを目指している」と語った。

 これを実現するための各種ツールを、「Tool chain」と呼んでおり、エンタープライズアーキテクト管理の「LeanIX」、ビジネスプロセス管理の「Signavio」、テストの自動化を行う「Tricentis」、デジタルアダプションツールの「WalkMe」などを活用することによって、導入期間の短縮化と、本番稼働後の定着化を可能にするという。「日本のERPの導入期間が海外平均に比べて、2.5倍から3倍になっている。それに伴いコストが上昇している。Tool chainの活用によってこうした課題を解決し、クリーンコアの導入を促進したい」と述べた。

Business Suite transformation with tool chainでDXを総合的に支援

 パートナーエコシステムについては、2024年には、パートナーを通じたクラウド再販ビジネスが前年比44%増と大きく伸長。新たに41社がパートナーに参加して、国内500社を超えたほか、SAP認定コンサルタントが30%増加。特にSAP S/4HANA Cloud Public Editionに関わる認定コンサルタントは前年比5倍に増加したという。

 「中堅中小企業向けビジネスは、100%をパートナー販売としている。2024年10月から、中堅企業にSAPの導入提案を行うテレビCMなどを実施してきた結果、SAPの認知度が60%向上し、購買検討の割合は12%向上した。2025年度も、SAP S/4HANA Cloud Public Editionを中心にして、中堅中小企業へのアプローチを進めていく」と語った。

 パートナーエコシステムの強化にも継続的に取り組み、首都圏、中部、関西以外の顧客発掘をパートナー主導で推進するための支援を強化。AIファースト、スイートファーストに基づいた最新ソリューションに関する教育機会の提供、パートナープロジェクトの支援担当者の設置によるプロジェクト品質の向上支援や伴走型協業の展開などにより、パートナー自走モデルを確立していくことになる。

パートナーエコシステムの拡大

 そのほか、減災、防災支援への取り組みや、「でじたる女子」による女性のリスキリング支援、企業における脱炭素化の支援にも注力する姿勢を示した。

SAPジャパンおよびワールドワイドでの業績

 一方、SAPジャパンの2024年度(2024年1月~12月)の実績は、総売上高が前年比20%増となり、グローバルの2倍の成長を遂げていることを報告。「SAPジャパンは、クラウド売り上げを含む、すべての指標において、グローバルの成長を大きく上回っている。日本市場においては、ERPをはじめとして、クラウドが当たり前の選択肢になっている」とした。

 RISE with SAPの採用企業としては、エネオス、資生堂、日本ゼオン、日本航空、富士通を挙げ、GROW with SAPでは、ジェクス、三井情報が採用しているという。また、商船三井では、本社ではSAP S/4HANA Cloud Private Editionを採用し、グループ会社では、SAP S/4HANA Cloud Public Editionを採用する2ティアモデルの活用も始まっていることを示した。

 また、パートナー主導による実装ビジネスが飛躍的に増加。パートナーからの発掘案件をもとにした受注金額は前年比3倍に増加しているという。

 なお、SAPのグローバルの業績は、総売上高が前年比10%増の341億7600万ユーロ、総利益は同11%増の249億3200ユーロとなり、そのうちクラウドの売上高は同26%増の171億4100万ユーロ、クラウドERP Suite(SAP S/4HANA)は同34%増の141億6600万ユーロを達成。また、今後12カ月間に見込まれる売上高を示すカレントクラウドバッグログは、前年比29%増の180億7800万ユーロを見込んでいる。

 「すべての重要な指標において見通しを達成している。SAPの時価総額は50兆円を超え、世界30位となっている。2025年はグローバルでのクラウド売上高は、前年比26~28%増となる216~219億になると想定。営業利益は同26~30%増となる103億~106億ユーロを見込んでいる。2025年度も大きく成長することになる。SAPジャパンもグローバルと同等の成長を見込んでいる」とした。

SAPグローバル業績