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SAP、「SAP NOW Japan」でビジネスAIの最新状況を明らかに
NECの森田隆之 社長兼CEOはSAPを活用しながら進めたビジネス変革を説明
2024年8月1日 12:13
SAPジャパン株式会社は7月31日、プライベートイベント「SAP NOW Japan」を開催した。イベントの冒頭に開催されたグランドキーノートでは、2024年を「ビジネスAI元年」と位置づける中、最新のAIを活用したSAPの戦略を説明したほか、日本電気株式会社(以下、NEC)がSAPを活用しながら進めたビジネス変革について、NECの取締役 代表執行役社長兼CEO 森田隆之氏が講演を行った。
イベントの冒頭に登場したSAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏は、「最新のSAPの動向をお届けする、SAPジャパン最大のイベントとなる。今年のテーマは『Bring out the best in your business』。日本語訳が難しいが、最高のビジネスの実現と訳した。複雑なビジネス環境で成功し、競争力を維持するために、あらゆる業界、あらゆる規模のお客さまが最善を尽くしている。私たちはこうしたお客さまをサポートするため、最新テクノロジーを組み合わせ提供してきた。2024年はビジネスAI元年と位置づけている。AIに食べさせる一番キレイなデータがそろっているのがSAPのERPだ」と述べ、ビジネス拡大につながる最高のビジネスAIを支えるのがSAPのERPから生まれているとアピールした。
SAPのCopilot「Joule」は今年末までに利用頻度の高いタスクの8割をサポート予定
SAP本社では、昨年、グローバルイベントでAI戦略を公表しているが、今回のSAP NOW Japanではそれを引き継ぎ、最新のAIへの取り組みを紹介した。
グランドキーノートには独SAPのフィリップ・ハーツィク博士が登壇し、SAPが取り組むビジネスAIの現状を説明した。グランドキーノート終了後には、ハーツィク博士が報道陣向けにあらためてビジネスAIについて説明を行い、さらに報道陣からの質問を受けた。
まず前提として、「SAPにとってAIは新しいトピックではなく、長年取り組んできたものの1つで、すでに2万7000以上の顧客がSAP Business AIを活用している」と強調した。
続けて、「我々が提供しているのは、我々のアプリケーションのビジネスプロセスで利用するために作られたAIで、人事、サプライチェーンなどすべてのSAPアプリケーションに対応し、信頼性を担保している」と汎用的なAIとは異なるものであるとした。
最新のビジネスAIについては、生成AIについては70以上のユースケースがある。次世代のシェアードサービスオートメーションを実現する「SAP Enterprise Service Management」では、全体的なサービス担当者の生産性を14%向上するという成果が出ているという。
「SAP Sustainability Control Tower」は、アプリケーションの中からサスティナビリティに関するデータを集計し、レポートを生成するもの。手作業で実施していたESG関連レポートの作成に関して、80%の手間を削減する。
「Joule」は2023年11月に発表されたSAPのCopilotだ。情報提供、ナビゲーション、取引支援という3つの機能に分析機能が加わり、Webからだけでなく、モバイル端末からも利用できるようになった。2024年年末までには実行頻度の高いタスクの80%をサポートする計画だ。
文書グラウンディングについては、取り込む対象をすべての文書、対象となるデータは構造化データおよび非構造化データ、追加として推論機能に対応する。まず、SAP SuccessFactors内で一般提供を開始する。
JouleとマイクロソフトのCopilotの連携も発表されている。ハーツィク博士によれば、「両社の提携は、API連携よりも深いレベルでの連携となる。現時点では例えばTeamsを使いながら、SAPの会計情報から必要なデータを取り出すといった作業をシームレスに行うサービスを、2024年末に提供する計画となっている。今後、開発チーム、研究チームなどが協議し、より深い連携を実現することを計画している」という。
Copilotは、マイクロソフト以外にも提供するベンダーが出てきているが、「現時点では2社の連携が決定しているのみ」だと説明した。
SAP BTPは、ユーザー自身がサーバーを立てずにすむため、ハードウェアの購入および運用、LLMのホスティング最適化、安全なアクセスの確保などを行う必要がない点がメリット。ハイパースケーラーのクラウドを利用した場合と比較しても、ロックインの可能性を排除できるほか、SAPのプロセスやデータの統合など手作業で行う必要がなくなるという。さらに、ID管理、権限の統合、マスターデータの完全な統合を安全に行えるなど、大きなメリットがあるとアピールした。
生成AIハブについては、40以上の新機能が加わり、22のモデルが利用可能になっている。今後、さらに多くのモデル利用を可能としていく計画だ。「我々の生成AIハブは、すべてのフロンティアモデルを行ったり来たりできる、唯一のプラットフォームとなる」とメリットをアピールした。
なお、AIはクラウドベースとなっているものの、「オンプレミス版を使っているお客さまに対しては、カスタムAIにBTPを利用することでオンプレミス環境でも利用が可能」と説明。クラウドに移行することで利用できるサービスの幅が広がり、手軽にAIを利用できるようになるものの、限定した一部サービスを利用することは可能と説明した。
NECの森田CEO自身が社内改革の軌跡をアピール
グランドキーノートの後半は、NECの森田社長兼CEO自身が、自らも関わった「コーポレート・トランスフォーメーション」について講演した。
NECは2024年7月に創立125周年を迎えたが、「順風満帆に来たわけではなかった」と振り返る。「1990年代は、通信、コンピューター、半導体でグローバルのトップレベルに入っていたが、財務業績から見ると、黒字になったり赤字になったりを繰り返していた。そこで事業ポートフォリオを見直し、半分を事業売却するなど、新たに柱になる事業を見直した」。
2010年代に入ってからはコーポレート・トランスフォーメーションを実施したが、グローバル基盤の見直しの際に採用したのが、SAPのERPだ。
「2008年、子会社のコンプライアンス問題を発端にした会計問題で、米国で上場廃止をかまれる状態になったという的な状況であった。当時のNECは、事業ごとに異なるプロセスとITシステムが存在し、承認プロセスもバラバラで、内部統強化は急務となっていた」
こうした状況の中で2010年にSAP ERPをグローバルに採用することを決定し、さらにグローバル企業のあるべき姿を学ぶためにドイツのSAP本社を訪問した。
しかし、「会計システムに合格点を出すことができても、マネジメントシステムとしては合格点が出せるような状態ではなかった」と2010年前後の状況を振り返る。この段階では、社内で利用するシステム数を1400から750に絞り込んだが、SAP周辺には200のレガシーシステム、1200のアドオンが存在していた。エンドトゥエンドのプロセス整備、マスターコード標準化は必要であったものの、手をつけることができない状態だったという。
こうした中で森田社長兼CEOは、2008年にCFOに就任し、自ら社内改革を実践する立場となった。
「当時の社内は、スピーディで柔軟な顧客対応が難しい、多くの手作業、Excelの山という状態だったが、私は2008年にCFOに就任し、制度会計に対応しなければならなかった。マネジメント面から考えたリスク回避を考えると、プロセス整備、マスターコードの標準化は将来のために取り組まざるを得ないものだと考えた」。
さまざまな社内見直しを進め、その集大成となるのが、2018年以降に進められた、経営陣が一枚岩となって取り組んだ「経営タスクフォース」だ。経営層が一枚岩となり変革にコミットしていくコンセンサスを形成。2年かけ、グランドデザインを描いた上で、経営層、現場、ビジネス部門、IT部門が一体となって変革に取り組んだ。
「変革には、経営陣が1つになるということがものすごく重要。当時の社長のもと、私が事務局となり、経営陣による対話を徹底的に積み重ねた。『総論賛成、各論反対』がある中で、しっかり、じっくりとコンセンサス作りを行っていった。一見、非常に時間がかかるプロセスに見える、今振り返ってみると、非常に重要なプロセスだったといえる」。
2021年には森田氏は社長兼CEOに就任した。就任後も社内、社外のDX推進、AI活用などコーポレート・トランスフォーメーションを進めている。RISE with SAPによるクラウドネイティブな基幹システムへ移行し、事業環境変化に柔軟に対応し、企業競争力を強化している。
そして、森田社長兼CEOはコーポレート・トランスフォーメーションの要諦として、「経営陣が覚悟を決める」、「長期ビジョンを描く」、「Quick Winで継続する」の3点が必要だと指摘した。
「経営層が覚悟をするということは、改革を進める中でさまざまなトラブルや反発が必ず起こる。現場からの抵抗もある。これに対し、根気強く向き合い、決して妥協しないという覚悟が必要となる。丁寧に気持ちを共有していくことも必要といえる。2つ目の長期ビジョンとは、自分たちがどこに向かっているのか、これが理解されない、共有されていない状況では誰もついて来ない。あるべき姿を経営陣が見せ、それにコミットすることが非常に重要となる。3つ目は、Quick Winで継続していくこと。システム開発にあたって、最初に取り組んだのは社内の全手続きがスマホから利用できるようにする、デジタル社員証などを次々に出していくことで、社員全員が自分たちは正しい方向に進んでいるということを理解できるようになる」。
こうして経営陣主導で、全社員を巻き込んで改革を進めていったと明らかにした。その成果については、NEC本社で公開しているものもあるといい、「興味を持たれた方はぜひ、本社にお越しいただきたい」と訴えた。