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アクセンチュア・江川社長が新執行体制を説明、生成AIと地方創生が重点領域

2025年春にはAIエージェントを全社員が利用可能に

 アクセンチュア株式会社は4日、重点領域と位置づける「生成AI」および「地方創生」について説明した。

 アクセンチュア 代表取締役社長の江川昌史氏は、「生成AIはさまざまなところにインパクトをもたらしている。中でも、個人の分身を果たすAIパートナーやAIエージェントは、定型業務の代替だけでなく、意思決定も支援することができる。また、営業や生産管理、購買といったそれぞれの専門性を持つAI同士が対話し、企業全体を最適化するといったことが3年後には普通になってくる。企業が半自動といえる状態で回るデジタルツインエンタープライズの世界がやってくる」と述べた。

アクセンチュア 代表取締役社長の江川昌史氏

 デジタルツインエンタープライズでは、AIが個人をサポートするだけでなく、個人のスキルや知識格差を生成AIが吸収したり、企業の枠を超えた調整や対話を行い、経営者や従業員を支援したりすることになるという。

 アクセンチュア 執行役員 テクノロジーコンサルティング本部クラウドインフラストラクチャーエンジニアリング日本統括 兼 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ 共同日本統括の山根圭輔氏は、「デジタルツインエンタープライズは、情報システムとデータのデジタルツインがニアリアルで更新されていること、従業員自身のデジタルツインがニアリアルで更新されていることが大切であり、これらがきちっと集まる状況にすることで、企業のデジタルツインが実現する」と述べた。

アクセンチュア 執行役員 テクノロジーコンサルティング本部クラウドインフラストラクチャーエンジニアリング日本統括 兼 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ 共同日本統括の山根圭輔氏

 アクセンチュアでは、システムプロジェクトに関するすべてのデータをニアリアルで、自動収集し、それを分析。この結果を全社に共有し、アクションを自動実行していく「DDX(デリバリーデジタルトランスフォーメーション)」のコンセプトを提唱しており、さらに、システム開発の中核となる「ADIP(Accenture Data Integration Platform)」を活用し、ニアリアルでのデータ収集および活用を可能にしている。

 「ADIPによってデータ同士を連携し、デリバリーを進めることができる。これが次のステップへの仕込みとなり、AIX(AIトランスフォーメーション)につながることになる。すべてがコードやデータになり、収集し、更新されつづけることで、企業全体のデジタルツインが実現することになる。これらのデータはさまざまなAIで活用され、AIXへのステップが進展する」などと述べた。

 AIXの実現に向けては、アクセンチュア社内でも、ピアワーカー・プラットフォームを活用した取り組みを推進。「人とAIエージェントがタッグを組むことで、アクセンチュアは、真の『Human+Worker』になることを目指している」とした。

DDXを支えるアセットの一例:ADIP
「DDX」から「AIX」へ

 アクセンチュアの全社員が利用しているピアワーカー・プラットフォームでは、AIエージェントであるピアワーカー・プラットフォームバディ(PWPバディ)を活用できる。ピアワーカー・プラットフォームでは、社員が作成した3300以上のAIアプリが利用され、そのうち250以上のAIアプリが共有アプリとして公開されているという。また、社員はすべての仕事をPWPバディとタッグを組んで実行。PWPバディが必要に応じてAIアプリを利用したり、PWPバディ同士が情報交換を行ったりして、社員の業務や意思決定を支援する。PWPバディは一部の社員で利用している段階だが、2025年春には、全社員で利用できるようにする計画だ。

PWPとPWPバディ

 また、江川社長は、「デジタルツインエンタープライズによって、人がやるべき業務の7~8割を生成AIが担ってくれる。そうなると、企業に所属するすべての従業員の業務の内容が変わる。営業担当者は、これまでの営業とは違うやり方が必要になる。仕事にあぶれる人も出てくるだろう。その結果、リスキリングが必要になる。生成AI時代には、すべての人が、自分が持つスキルを変えなくてはならない」と予測した。

 アクセンチュアでは、2024年3月に買収したUdacity(ユダシティ)が持つリスキリングのための統合プラットフォーム「Lean Vantage(ラーンバンテージ)」の提供を開始。195の国と地域において、2100万人にサービスを提供しており、今後3年間に10億ドルを投資して、生成AI時代のリスキリングサービスを提供していくことになるという。また、アクセンチュアでも77万人以上の同社社員に対して、年間10億ドルの人材開発投資を行い、60万人以上の社員を対象にAIに関するトレーニングを実施しているという。

LearnVantage

 アクセンチュア 執行役員 データ & AIグループ日本統括兼AIセンター長の保科学世氏は、アクセンチュアでの生成AIの利用の現状や、今後のAIの方向性について説明した。

アクセンチュア 執行役員 データ & AIグループ日本統括兼AIセンター長の保科学世氏

 アクセンチュアでは、Microsoft Copilot for M365やAdobe Fireflyといった生成AIの活用に加えて、独自の生成AIを利用。社内業務を支援する社内コンシェルジュ、全社員が利用できる生成AIによるデータサイエンティスト、提案書を自動作成するAI、アクセンチュア版ChatGPT、会議の議事録を自動生成したり、リアルタイム翻訳を行ったりするAI、新入社員向けにプログラミング講師となるAIを用意しているという。

 「こうした現場をサポートするAIに加えて、今後は、経営の意思決定を行う生成AIを活用することが求められている。人によるCxOとは別に、それを支援するAIのCxOがバディとして存在する。人とAIには、それぞれに得意分野があり、異なる役割を果たすことになる」と述べた。

生成AIは現場スタッフの能力を底上げしつつある

 例えば、CFOの役割では、財務戦略の実行では人のCFOが得意だが、財務状況の把握や予測については、人のCFOよりも、AIによるCFOの方が得意だといえる。社外取締役も、人の場合には自身の経験に基づいたアドバイスが可能であるのに対して、AIの社外取締役の場合は多様な社外データから導き出した示唆が可能になり、人にはないアイデアが出るケースもある。

 このような「CxOデジタルツイン」によって、意思決定を行う組織が、今後は増えていくと予測する。

 その一例として、生成AIを活用した組織設計の事例も紹介した。

 現在の組織構成や配属人数だけでなく、中期経営計画や重点施策企業といった企業が目指す将来のありたい姿や、他社の動き、海外動向、統計情報などをもとに、企業戦略に則した組織と配属人数をAIが提案。さらに、人材を徹底的に活用するAIと、事業改革を強力に推進するAIといったように、異なる立場の生成AIが討論しながら、あるべき組織構造を提案する。討論の内容については、「なぜ、そうした結論に至ったのか」といったことも明示する。また、途中に人の意見も取り入れながら、調整して、最終的な提案を行うことが可能だ。

 生成AIが提示した組織変革プランでは、各組織に必要な人員数を提示したり、新たに必要な組織を提案したりといったことが盛り込まれている。シミュレーションでは、生成AIを活用することで39%の人員を再配置できるとしており、この再配置計画についても生成AIを活用した立案が可能になる。

生成AIのインパクトを加味した組織変革プランをAIが提示

 「アクセンチュア自らも、生成AIを活用し、3年後の組織設計を行っている。自ら経験しながら、お客さまにも提案している」とし、「生成AIを活用し、予測やシミュレーション、最適化の提案ができるが、そこに人が関わりながら、リスクを取って、どのオプションを展開するのかを決定していく必要がある」とも語った。

 2024年11月に開設したアクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都は、経営者がAIに対する理解を深め、多様なAIとの対話を通じて企業経営に新たな洞察を得るための専門施設に位置づけており、組織構造の変革プランのシミュレーションも、同施設で体験できる。

地方創生への取り組み

 もうひとつの重点分野である「地方創生」では、約10年前から福島県会津若松市での取り組みを開始して以降、全国への拠点開設や、地方活性化に関する提携を推進。2024年は、6月に宮城県とデジタルおよびデータ活用に関する連携協定を締結し、11月には京都にアドバンスト・AIセンター京都を開設するとともに、京都大学と包括連携協定を締結している。

 江川社長は、「市民、地域、企業に対して、『三方よし』の取り組みを推進している」と前置きし、データに基づく個人に最適化したサービスを提供する「市民」、地域のデータに基づく持続性の高い社会モデルを構築する「地域」、オプトインされた市民データを活用した先進的なサービスを開発する「企業」という3つの観点からの取り組みを行っていることを強調。会津若松市で開発した都市OSと、SAPとともに構築した中小規模製造企業連携プラットフォーム「CMEs(Connected Manufacturing Enterprises)」を活用し、地方創生を促進していることを示した。

地方のさらなる活性化を、市民・地域・企業「三方よし」の取り組みで支援

日本での新たな執行体制を説明

 一方、アクセンチュアの日本における新たな執行体制についても説明した。

 2015年9月に、日本法人の社長に就任してから、10年目を迎えた江川氏は、2024年9月からアジアパシフィックの共同副社長に兼務で就任。それにあわせて、日本法人に、2人の代表取締役副社長を新たに登用し、3人が代表権を持つ体制としている。

 代表取締役副社長に就任した立花良範氏は、デジタル黎明期からアクセンチュアのデジタルビジネスを統括し、この領域での成長モデルを構築。同じく代表取締役副社長に就任した土居高廣氏は、長きにわたりテクノロジー部門のトップとして、アクセンチュアの最大の組織を統括。大規模かつ複雑なSI案件を多数牽引してきた実績も持つ。

 アクセンチュア 代表取締役副社長の立花良範氏は、「約10年前から、DXナンバーワンの企業になることを目指してきた。いまでは2万7000人の全社員が、デジタルに関与する体制ができている。これだけの規模でDXを支援できる企業はない。今後はAIXによる企業変革のパートナーとして、一番に選ばれる企業になりたい。経営から現場までのすべてにAIを組み込み、デジタルツイン化することを支援する。また、アクセンチュア自身が顧客に先駆けてデジタルツイン企業になる。AIとともに働くことで、アクセンチュアの企業活動すべてがデジタル化し、データ化し、それをもとにして、新たな働き方やサービスを生み出していくことになる」と抱負を語った。

アクセンチュア 代表取締役副社長の立花良範氏

 また、アクセンチュア 代表取締役副社長の土居高廣氏は、「新次元のIT業界へと進むなかで、ナンバーワンの実績と価値創出力で、これをリードしていく。そのためにはすべての技術領域をカバーする基礎体力が重要である。SAPに代表されるパッケージソリューション、クラウドおよびカスタムソリューション、レガシーマイグレーションについてもしっかりとやっていく。アクセンチュアは、エコシステムパートナーとも一緒にやるが、基本は自前主義である。アクセンチュア自身がしっかりと体制を整えて、企画し、デリバリーできる人材を育て、基礎体力を伸ばしていく。デジタルツイン企業においては、IT人材がより重要な位置づけとなる。また、生成AIにより、ITの構築および運用手法は大きく変化し、進化する。経営陣と常に会話し、ビジネスバリューに直結するITサービスを提供していく企業を目指す。さらに、IT業界そのものを魅力的なものにしていきたいと考えている」と述べた。

アクセンチュア 代表取締役副社長の土居高廣氏

 なお、アジアパシフィックのもう一人の共同CEOには、アクセンチュアの代表取締役副社長だった関戸亮司氏が就任しており、アジア・オセアニア市場のCEOにも就任している。

 アジアパシフィックの売上高のうち、日本が占める割合は51%であり、共同CEOである江川氏と関戸氏の2人が、それぞれに、「日本」と「日本以外の地域」を担当する体制とし、アジアパシフィック地域の経営を担っている。

 アクセンチュアは、全世界で77万4000人の社員数を誇り、過去10年で3倍以上に拡大。49カ国に展開し、グローバルの売上高は649億ドル、調整後営業利益率は15.5%に達する。日本法人の社員数は、2万7000人を超え、過去9年間で、社員数は約5倍に拡大。女性社員は7倍、外国籍社員は6倍となり、データ&AIに所属する社員数は40倍、首都圏以外のオフィスに所属する社員数は32倍に増加。ビジネスは6倍に成長しているという。

堅調な成長を続けるアクセンチュア(グローバル)
堅調な成長を続けるアクセンチュア(日本)

 ビジネスコンサルティング、ソング(顧客接点の変革支援)、テクノロジーコンサルティング、オペレーションズ・コンサルティング、インダストリーXのサービス別専門組織と、通信・メディア・ハイテク、金融サービス、公共サービス・医療健康、製造・流通、素材・エネルギーの業界別専門組織により、最適なチームを形成し、企業のビジネス変革を支援する事業を展開している。

アクセンチュアの事業

 江川社長は、「ビジネスコンサルティング、テクノロジーコンサルティング、オペレーションズ・コンサルティングといったようにウォーターフォール型に改革を進めると時間がかかるため、約5年前から、全社規模で改革し、それに関わる時間を短くしたいという要望が出ている。そこで、5つの専門サービスをひとつの箱に入れて、一気呵成(かせい)に進めていくTotal Enterprise Re-Invention(全社変革)を推進している。昨今では、ここには生成AIが深く入り込んできた」と説明した。