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アクセンチュアが「Accenture Life Trends 2024」を発表、「2024年は解体と再構築が始まる」

 アクセンチュア株式会社は29日、社会やビジネスのトレンドを分析した年次レポート「Accenture Life Trends 2024」を発表した。

 同レポートは、Accenture Songのデザイナー、ストラテジスト、また社会学、人類学、テクノロジーの専門家が、各地域での知見と調査結果を集約して作成したもの。今回は、世界50カ所2000人以上のデザイナーが行った定性的なシグナル調査と、日本を含む21カ国1万5227人に対して実施したアンケート調査をもとに、5つのトレンドを見いだしている。

 説明会の冒頭で、アクセンチュア Accenture Song サービスデザイン アソシエイト・ディレクターのレベッカ・ブッシュ氏は、これまでのトレンドの変遷について触れ、「2019年から2020年にかけては、企業が持つ価値観や、その企業の社会や環境への貢献と影響を生活者が探求するようになった。2021年から2022年は、コロナによる混乱と喪失で内省を深め、パンデミックの影響が落ち着き始めると、社会や企業、同僚たちとの関係性の変化に対応するようになった。2023年は進化するテクノロジーを活用しつつ、不確実な社会の変化への適応を模索するようになった」と語る。

アクセンチュア Accenture Song サービスデザイン アソシエイト・ディレクター レベッカ・ブッシュ氏

 その上で、2024年についてブッシュ氏は、「生活者は進化するテクノロジーを駆使して社会の変化に適応するだけでなく、主体性を取り戻すとともに、これまでの当たり前を捨て、新たな当たり前を作り始めている」と述べ、「2024年は解体と再構築の始まりの年だ」とした。

解体と再構築が始まる

 2024年の具体的なトレンドについては、アクセンチュア Accenture Song Design & Digital Products 日本統括 兼 マネジング・ディレクターの番所浩平氏が解説。「今年のトレンドは5つある」として、「1. 愛を取り戻せ」「2. インターフェース革命」「3. 創造性の逆境」「4. テクノロジーの飽和点」「5. 成功神話の解体」を挙げた。

アクセンチュア Accenture Song Design & Digital Products 日本統括 兼 マネジング・ディレクター 番所浩平氏

 1つ目のトレンド「愛を取り戻せ」とは、企業による顧客への愛の優先度が下がっていることから来ているものだ。厳しい経済状況の中、企業はコスト削減を余儀なくされ、値上げや品質の低下などから顧客との間に摩擦が生まれていると番所氏は指摘。ブランドへの疑念や不信感が拡大する可能性もあることから、「価格と体験価値のバランスを再調整するための部署間連携や、マーケティング戦略を見直す重要性が高まっている」とした。

 愛を取り戻すために、企業は何をするべきなのか。番所氏は、「自社の顧客体験の中で、ロイヤリティを左右する最も重要な箇所を見極め、そこに集中投資することが重要だ。逆に、重要でない部分については顧客に妥協してもらう勇気を持つことも必要となる。また、顧客にとって最も公平性を感じる部分は価格となるため、価格設定については一層慎重な戦略を立てて進めてもらいたい」と述べている。

トレンド1. 愛を取り戻せ

 2つ目のトレンド「インターフェース革命」は、生成AIによってインターフェイスのあり方が変わってきたことを指している。番所氏は、ChatGPTの誕生によって会話型インターフェイスへの期待が高まっているとし、「パーソナライゼーションが今後さらに動的なものへと進化する。そしてユーザーは、複数のウィンドウやチャネルを使い分けるのではなく、1つのAIを通じて複数のタスクをシームレスに完了できるようになるだろう」と話す。

 これは、企業と顧客とのタッチポイントが、チャネル単位からブランド単位に変わることを意味する。そのため「ブランドらしさを体現するAIの重要性が今後ますます高まっていく」と番所氏は述べ、「まずは自社データの確認や整備が必要だ。その上で、AIがブランドを体現する未来を見据え、AIに付与するアイデンティティを検討すること。そして、最大限シームレスな体験が提供できるよう、部門横断で体験を設計できるような組織体制が求められる」とした。

トレンド2. インターフェース革命

 3つ目のトレンド「創造性の逆境」は、クリエイティブへの影響に関するトレンドだ。番所氏は、効率重視や予算縮小により、クリエイターが新しいものを追求するより過去に成功したやり方を選択することが増えていると指摘。進化するテクノロジーによってその流れは一層高まっており、「平均的なコンテンツが蔓延しやすい環境になっている。その一方で、効率篇重で生み出されたコンテンツに顧客は失望している」と警告する。

 ただし、「クリエイターのアイデアや設計によっては、過去の成功やこれまで慣れ親しんできたものを活用し、新たな価値や革新的なクリエイティブを生み出せる可能性は十分にある」と番所氏は述べている。平均的なコンテンツに偏りやすい生成AIをいかに使うかも、今後の差別化の鍵になるとして、「テクノロジーのテンプレートを打ち破り、コモディティ化のリスクを防ぐには、熟練クリエイターが生成AIを活用すること。そして企業としてクリエイティビティへの投資を惜しまないことが重要だ」とした。

トレンド3. 創造性の逆境

 4つ目のトレンド「テクノロジーの飽和点」とは、人とテクノロジーとの関係が重大な局面を迎えていることを指す。生活者の3分の1近くが、テクノロジーによって生活がシンプルになる一方、複雑にもなったと考えており、テクノロジーに追い立てられていると感じる人もいるためだ。

 こうした状況から、企業はテクノロジーが生活にどのように組み込まれているかを見極めるとともに、ユーザーに新たな時間やスキルを強要していないかなども確認する必要があるという。番所氏は、テクノロジーを導入する際には恩恵と弊害の両面に配慮すること、常に顧客が実現したいことに立脚してテクノロジーの使い方を考えること、そしてテクノロジーのあるべき姿は人間が描くべきことを推奨している。

トレンド4. テクノロジーの飽和点

 5つ目のトレンド「成功神話の解体」とは、社会の変化やテクノロジーの進化を背景に、あらゆる世代の人生観が解体・再構築されつつあるというトレンドだ。教育や子育て、キャリアなど、これまでのライフイベントの価値や形も変化していることから、「顧客ニーズも今後ますます予測不能になるだろう」と番所氏は語る。

 典型的な人生のライフイベントを支持する傾向も弱まる中、「生活者の消費行動や自社のビジネスにどのような影響があるかを考え、ターゲットとなる顧客を見直す必要も出てくるだろう」と番所氏。また、今後も変化し続ける顧客像をとらえ、「変化を常に把握し、対応できるような組織体制を整える必要がある」と述べた。

トレンド5. 成功神話の解体

「LTV」と「cLTV」の両立を

 これら5つのトレンドを踏まえ、アクセンチュア Accenture Song 執行責任者 兼 コンサルティング部門日本統括 マネジング・ディレクター 木原久明氏は、「生成AIをはじめとするテクノロジーで効率化を目指した結果、同質化も進み、平均的なものが多くなってしまった。効率化と同質化の矛盾にどう立ち向かうかが、日本企業にとっての課題だ」と指摘する。

アクセンチュア Accenture Song 執行責任者 兼 コンサルティング部門日本統括 マネジング・ディレクター 木原久明氏

 そこで木原氏は、顧客が製品やサービスを利用することで得た利益を企業目線で測る「LTV(Live Time Value:顧客生涯価値)」に加え、新しいコンセプトとして顧客目線から見た生涯価値の指標となる「cLTV(Customer Live Time Value)」を提唱、この2つを両立させるべきだとした。

 「cLTVを用いて顧客のロイヤリティを上げ、それによって顧客から得られるLTVを最大化する。そのLTVによって、cLTVを高めるため投資する。このサイクルを高速で回す必要がある。顧客の体感価値を長期的に蓄積する形で成長することが、いま企業に求められている」と木原氏は述べた。

「LTV」と「cLTV」の両立を