ニュース

日本マイクロソフトが生成AIの最新状況について説明、イオングループとナガセの導入事例も紹介

 日本マイクロソフト株式会社は24日、生成AIの最新状況について説明した。

 マイクロソフトでは、「AIを使う」と「AIを創る」という2つの観点から、Microsoft Copilotを提供しているという。

「AIを使う」と「AIを創る」

 「AIを使う」では、Copilot for Microsoft 365により、既存のソリューションに組み込んでAIを活用し、ビジネス課題の解決に貢献することができるとする。

 日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「Copilot for Microsoft 365は、日本でも多くの企業が利用している。Copilotはこの1年でも大きな進化を遂げており、生成AIを当たり前のようにして利用する企業や人材が増えている」とした。

日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏

 また、「クラウドからデバイスまで」のメッセージを打ち出し、デバイス側の新たな提案として、Copilot+PCを発表。「AIに最適化したNPUを搭載しており、インターネットにつながっていない状態でも、ローカルサイドで生成AIの価値が体験できるようになる。SLM(スモールランゲージモデル)を稼働させることができる」とした。

 日本マイクロソフトでは、SurfaceシリーズでCopilot+PCを発売。今後、OEMメーカー各社から発表されることになると述べた。

Copilot+PC

 「AIを創る」では、Azure OpenAI Serviceや、Azure AI Studio、Microsoft Copilot Studioを提供し、AIを活用したビジネスアプリケーションを迅速に開発できるようになるとする。

 「マイクロソフトは、OpenAIとの強固なパートナーシップにより、ビジネスを推進していくことになる。GPT-4-Turbo with VisionやGPT-4o、DALL・E 3、Whisperなど、AIソリューションを拡充しており、Azure OpenAI Serviceの導入企業は全世界で5万社以上になっている。日本でも多くの企業で導入されている。ホリゾンタルの領域から、インダストリアル特化型で、AIの適用が進みはじめており、ビジネスプロセスの課題や、業界の課題に踏み込んだ利用が増えている」と指摘した。

 また、Azure OpenAI Serviceにおいて、GPT-4oが利用できようになっており、テキストや音声、画像を組み合わせたマルチモーダルでの利用ができること、レスポンスが高速化していること、パフォーマンスとコスト効率が最適化したことで、導入しやすくなっていることを強調した。

 「2023年5月時点のGPT-4に比べると、GPT-4oはコスト効率が12分の1となり、パフォーマンスは6倍になっている。より安いコストで、ユーザーエクスペリエンスのいいアプリケーションが開発できる。日本においても、GPT-4oを採用する企業が増加している」と述べた。

 さらに、「2024年度以降の生成AIのトレンドは、マルチモーダルになる。また、大規模なパラメータ数を持ったLLMだけでなく、より少ないパラメータ数で、低い計算資源で動作可能なオンデバイスモデルに注目が集まり、適材適所で最適なモデルを組み合わせて、ユーザーにメリットがある形で実装されることになるだろう」と予測した。

Key AI Partnership

 一方、国内における生成AIの最新活用事例として、イオングループにおける生成AIの活用プロジェクトと、東進ハイスクールなどを運営するナガセによる活用事例について説明が行われた。

 イオングループは約300社の事業会社で構成され、食品や日用品、ファッションなどの小売だけでなく、金融、健康・美容、旅行、住まい、冠婚葬祭など、さまざまな業態で顧客接点を持ち、それらから得られるデータを分析することで、顧客を広く、深く、迅速に理解できる環境を構築しているという。

 また、イオングループ全体のデータ能力の向上を目指して、2021年3月に、データイノベーションセンター(DIC)を発足。基礎となるデータを統合し、外部採用を中心としたデジタル人材の強化のほか、アナリティクスの内製化、ベストプラクティスの組織横断での展開、約56万人のグループ社員の医療データやSNSデータなどの活用による新たな事業機会の探索などに取り組んでおり、グループ全体で、データに基づく事業価値創造を実践しているという。

 イオングループでは、生成AIへの取り組みにも積極的だ。

 ひとつめの事例として紹介したのが、「商品説明自動生成AI」である。eコマースにおける商品情報、セールスコピー、タグ、詳細商品の説明文などを生成AIで作成しているという。商品情報を入力し、用途にあわせて生成項目を設定。メッセージの方向性を保守的にするか、革新的であるかを設定し、実行ボタンを押すだけで、セールスコピーなどの生成結果が表示される。

商品説明自動生成AI

 イオン チーフデータオフィサー(CDO)/データイノベーションセンター長の中山雄大氏は、「生成AIを導入後、セールスコピーの検討時間が60%削減できている。また、PVも生成AIで作成した方が高いという実績が出ている。ビジネス面から見て、価値が高い文章が作成できている」と述べた。

イオン チーフデータオフィサー(CDO)/データイノベーションセンター長の中山雄大氏

 もうひとつが「イオン景気インデックス」である。一般的な景況指標は、発表された時点ではかなりのタイムラグがあったり、消費者の生活実感と乖離(かいり)しているという指摘があったりする。イオングループでは、北海道から沖縄までの店舗から収集したデータや、第一線に立つ店長たちの洞察力を集めて、日本全国や地域ごとの景況感を独自に分析。景気の状況にあわせて変化する売れ筋商品も予測できるという。

 「店長を対象とした月次景気動向アンケートを実施し、そのコメントを生成AIで分析するほか、リアルタイムPOSデータによって根拠づけすることができる。独自の視点で、景況の変動要因を探ることができる」という。

イオン景気インデックス

 一方、ナガセでは、生成AIを活用した英作文添削サービスを提供していることを紹介した。

 同社では、東進ハイスクールや四谷大塚、早稲田塾、東進ビジネススクール、イトマンスイミングスクールなど、全国3000拠点を展開し、約37万人の生徒数を誇る。

 ナガセ AI 教育開発部長の山野高将氏は、「教育と生成AIは相性がいい。生徒一人ひとりの状況を理解し、最適な学習を提供するために、テクノロジーやAIを活用した教育の技術革新に率先して取り組んできた経緯がある」とし、2019年からスタートした「志望校別単元ジャンル演習」では、200億問以上の生徒の回答データを分析し、生徒一人ひとりの学習状況を把握し、AIが700以上の志望大学ごとに最適な演習を提案。その結果、国公立大学志望校合格率は71.8%に達したという。

ナガセ AI 教育開発部長の山野高将氏

 今回紹介した英作文添削サービス「英作文1000本ノック」は、Azure OpenAI Serviceを通じて、GPT-4を利用。東進ハイスクールなどが保有する指導ノウハウやデータを組み合わせて、次々と日本語文による問題を表示。生徒が英語で回答すると、リアルタイムで添削して、ポイントを指摘し、繰り返し学習もできる。生成AIが別の回答方法を教える機能も用意しており、新たな表現方法を知ったり、語彙(ごい)力を高めたりもできる。

 2024年2月~3月まで先行無料提供を行ったところ、1310人の生徒が、延べ12万8000回以上の演習を実施。それをもとに改善を行い、4月22日から正式サービスを開始。これまでに527人が、累計19万5000回の演習を行っているという。

 「蓄積されたデータをもとに、AIの改良を継続的に続けている。生成AIを活用した新たな学習方法が確立できる。また、生成AIの活用の可能性は多岐に渡り、情報Ⅰでのプログラミングの学習にも利用し、新たなサービスとしてリリースする予定である。将来は、生成AIが、生徒がつまずいているところを理解し、教科書のどこを見た方がいいといった指示や、演習の繰り返しを提案するといったこともできるようになるだろう。生成AIは、曖昧性を解釈できるという強みもある。東進のデータと生成AIの組み合わせで、1人ひとりに最適化した教育を実現していきたい」と述べた。

「英作文1000本ノック」の実績とデータ

 なお、日本マイクロソフトの岡嵜氏は、米国の教育分野における生成AIの活用事例を紹介。すべての教育者に無償で提供する教師向けAIサービス「Khanmigo for Teachers」を通じて、生成AIが教師に代わり、一人ひとりの生徒にあわせた個別指導を可能にしているほか、教師の授業準備などの業務負担の削減にもつなげているという。