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GitHub、生成AIソリューション「GitHub Copilot」と、その社会への影響に関してCOOらが説明

 GitHubは、生成AIでソフトウェア開発を支援するGitHub Copilotファミリーとその社会への影響に関する「Copilotおよび責任あるAIイノベーションに関する記者説明会」を、5月14日に都内で開催した。

 米国から来日したChief Operating Officer(COO)のKyle Daigle氏が、生成AIが企業にもたらすものについて、同じく来日したChief Legal Officer(最高法務責任者)のShelley McKinley氏が、AIに関する規制整備について語った。

 また、2月に日本と韓国のトップに就任した角田賢治氏(日本・韓国エンタープライズ担当シニアディレクター)も登場し、日本の状況をまじえてあいさつした。

左から、GitHub 日本・韓国エンタープライズ担当シニアディレクターの角田賢治氏、Chief Legal OfficerのShelley McKinley氏、COOのKyle Daigle氏

GitHub日韓トップの角田氏があいさつ

 角田氏は日本でのGitHubの状況として、300万人以上の開発者が利用し、2023年に対する成長率が31%の伸びを見せていると説明。さらにGitHub上のAIプロジェクトへの貢献で日本は世界第3位にあることも紹介した。

 国内企業のGitHub活用については、企業にとってGitHubプラットフォームが、生産性向上や、開発者満足度向上、イノベーション、セキュリティ向上などをもたらすと語った。利用企業の例としては、サイバーエージェントや、LINEヤフー、ZOZO、パナソニックコネクトなどが活用していると名を挙げた。

 そのうえで、以前と違うのはAIを用いる点であり、AIによってソフトウェア開発は新時代を迎えると語った。

日本におけるGitHubの状況

「『2025年の崖』もAIを使って乗り越えられる」

 Daigle氏は、2022年12月以来の来日となる。当時はすでにGitHub Copilotは一般提供されていた。その後にリリースされたGitHub Copilotファミリーとして、AIに自然言語でプログラミングに関する指示をする「GitHub Copilot Chat」や、脆弱性を検知して修正方法を提案する「Code scanning autofix」、アイデアからコーディングまでを支援する「GitHub Copilot Workspace」を氏は紹介した。

 Daigle氏は、AIによってソフトウェア開発者は同じ課題を何度もやらなくてすみ、創造性の部分にフォーカスできるとその利点を語った。

AIを使ったGitHubのサービス

 では開発者以外はどうか。これについてDaigle氏は、GitHub社内の情報システム(情シス)部門を例に挙げた。社内において、最初にAIを採用したのが情シスだったという。情報シスでは社内から四半期あたり5000件の問い合わせを受けており、しかも同じ質問に何度も答えなくてならなかった。

 そこで情シスがSlack上のチャットボット「Octobot」を導入し、30%の問い合わせに対応した結果、1人あたり3時間が浮いたとDaigle氏は説明した。「その時間を、よりクリエイティブな作業や、社内にAIを広める仕事に使うことができた」(Daigle氏)。

 こうしたことからDaigle氏は「AIは人間に取って代わるものではなく、人間の労苦を置き換えるもの」と言う。定型的な仕事をAIに任せて、創造的なことを人間が行うのだと述べた。さらにSlack社の調査結果として、デスクワーカーは、41%を生産性の低い繰り返しの作業に費やしているというデータを氏は紹介した。

GitHub社内の情シスがAIで1人あたり3時間を節約

 続いてDaigle氏は、日本企業の問題についても、日本で言われている「2025年の崖」を取り上げた。レガシーシステムのサポート終了と、COBOLなどレガシー技術のわかるベテランエンジニアの退職により、日本企業が競争力を失うという論だ。

 これについてDaigle氏は、「生成AIの力で、退職者と新人のギャップを埋めて乗り越えることができる」と述べた。レガシーコードの移植作業について、GitHub Copilotが最大80%を自動化してくれるという。

 また、AIは開発者の学習にもつながる。COBOLのレガシーコードとは少し違うが、Daigle氏自身の体験として、数年前に自分が書いたコードについて、覚えていない部分をCopilot Chatに説明してもらったという。このように、新人エンジニアとベテランエンジニアがCopilotを使うことで、コードの伝承を解決できるというわけだ。

日本企業の「2025年の崖」の問題
AIの助けでレガシーコードを移行
AIを利用して開発者が既存のコードについて学ぶ

 最後に、Daigle氏は、開発者はAIにより定型的な記述を書く必要を減らして新しいコードを作ることにフォーカスでき、開発者以外のIT部門なども繰り返しのタスクを自動化でき、日本企業も「2025年の崖」に対処できる、とまとめた。「私のAIへの願いは、AIを活用することで仕事がいろいろな形で変わり、新しいものを作ってイノベートする機会が世界で開かれることだ」(Daigle氏)。

開発者を保護するルール作りのために政策に働きかけ

 McKinley氏は、AIについて適切なルールを設けることで、責任あるオープンな形でイノベーションを行えるようになると主張。逆に、開発者を保護する政策ができなければ、イノベーションを阻害すると論じた。

開発者を保護する政策ができなければ、イノベーションを阻害する

 McKinley氏は法律の専門家として、2021年にGitHubに入社した。そのちょうど1週間後にGitHub Copilotのテクニカルプレビューが登場した。そのため、法律とAIに関する取り組みが深くなっているという。そのうえで氏はまず「GitHubでCopilotを開発する際には責任ある開発も念頭に置いている」と語った。

 さてMcKinley氏は、AIに関する規制の焦点として、システム、モデル、社会的レジリエンスの3つを挙げた。

 システムは、AIの実装やユーザーインターフェイスにおける規制だ。これについては各国ともリスクに取り組んでいるという。その例としてはEUのAI規制法案があり、今後の世界でのAI規制の方向を左右するとMcKinley氏は語った。そこではヘルスケアや重要な意思決定などのハイリスクなAIシステムに焦点があてられ、安全性と透明性を確保することが求められる。

 AIのモデルについても規制が考えられている。AIモデル開発の上流でのリスクに対応する必要だ。この例としては、広島AIプロセスがある。

 そして社会的レジリエンスとしては、政策的にAIのメリットを享受できるようにしようという動きがある。この例には、米バイデン大統領による大統領令がある。

AIに関する規制の焦点:システム
AIに関する規制の焦点:モデル
AIに関する規制の焦点:社会的レジリエンス

 こうした中でGitHubは、商用のAIツールを持っていて政府の規制下にあることと、世界最大のオープンソースコミュニティであることとの2つの顔を持っている。そのため「開発コミュニティの利益を守る形にしていくのが我々の責任と考えている」とMcKinley氏は言う。

 そのために例えば、「立法府の議員がAIをどう規制するか決定できるよう、AIスタックについて、モデルやシステムなどのレイヤーを理解できるよう時間をかけて議論した。そして、AIの大きなシステムの中でOSSのコンポーネントが使われているとき、規制対象はシステムであってコンポーネントではないと話している」と氏は語った。

 そして大きな成果として、EUのAI規制法案に、それ以前にはなかった条項を盛り込むことができたと紹介した。

 ちなみに、米国の現政権が大統領令でサイバーセキュリティ政策を推進している中で、ソフトウェアのサプライチェーンのセキュリティについて独自のポジションを持つGitHubが関わっていることも氏は紹介した。

AI政策における結果と成果

 その中での日本についてMcKinley氏は、新しいテクノロジーで世界にインパクトを与え、AIに対する熱量も高いことから、AIのイノベーションとそのための適切な規制などの政策に期待すると述べた。そして、広島AIプロセス策定において日本がリーダーシップをとったことを高く評価すると語った。

AI技術と日本

 最後にMcKinley氏は、グローバルで一貫した規制が必要であり、それがAIエコシステムのコンプライアンスとイノベーションを加速すると語った。それによって参入障壁をなくしていくことにより、AIの支援によって開発者を爆発的に増やし、労働人口や社会の生産性の向上につながると述べた。

 そのうえで、冒頭で紹介したように、AIについて適切なルールを設けることで責任あるオープンな形でイノベーションを行えるようになり、開発者を保護する政策ができなければイノベーションを阻害すると語った。

開発者を保護することで、さまざまな問題を解決できる