ニュース
リコーが企業価値向上プロジェクトの進捗を説明、「2024年度は収益構造変革の各施策を遂行する1年に」
2024年度連結業績も発表、増収も営業利益は21.2%減
2024年5月8日 10:30
株式会社リコーは7日、「企業価値向上プロジェクト」の進捗状況について説明。リコー 代表取締役CEOの大山晃氏は、「このプロジェクトは、新たな収益基盤を支えるコスト構造への移行を目指しており、経営において最重要アジェンダとなっている。やり切る必要がある。各種施策は慎重に設計してきており、2024年度は、収益構造変革の各施策を遂行する1年になる。デジタルサービスの会社としてふさわしい収益構造へと体質を転換することに注力する」との方針を述べた。
今回の説明では、2025年度までに、2023年度比で600億円超の収益構造変革効果を創出することを新たに発表。内訳は2024年度で100億円強、2025年度で500億円弱の効果を想定している。さらに、オフィスプリンティングとオフィスサービスをまたがる形で、SCMの最適化や、販売・サービス体制の見直しを進めることも追加で発表した。
同プロジェクトは、2023年5月から開始し、ちょうど1年を経過したところであり、その取り組みをさらに加速することになる。
リコーでは、「企業価値向上プロジェクト」において、「本社改革」、「事業の選択と集中の加速」、「オフィスプリンティング事業の構造改革」、「オフィスサービス事業の利益成長の加速」の4点から変革プログラムを進めている。今回の説明会では、それぞれの取り組みにおける進捗状況の説明と、内容のアップデートを行った。また、「SCMの最適化」と「販売・サービス体制の見直し」を追加発表した。
「本社改革」では、R&Dの適正化として、従来は1000億円規模であった研究開発投資を、800億円規模に洗練。CTOが配分を統制する形へとシフトしながら、ワークプレイス領域に研究開発費を集中させるという。「テーマの選択と集中は進んでいる。2024年度には約150億円のテーマの適正化を行う。事業化の確度が低かったり、将来進むべき方向と一致しなかったりするテーマについて中止と判断する。これらは、リコーの成長力を毀損するものではない」と述べた。
「本社改革」のもう一つの取り組みである間接機能の適正化では、プロセスDXにより、本社業務の効率化に着手。業務量削減を踏まえて、組織体制を見直していくことになる。「コストの適正化だけでなく、強化すべき点は強化する。バリューチェーン全体を俯瞰(ふかん)する組織を本社内に設置するほか、ダイベストメントを支援する本社機能も強化する。人員の適正化については、リスキリングによる人材活用のほか、機関決定が必要なその他のオプションも排除はしない。めりはりをつけた本社改革を進める」とした。
「事業の選択と集中の加速」においては、2023年11月時点で、売上高1800億円に相当する10事業を対象に、撤退および売却を検討することを明らかにしていたが、今回の説明会では、「6つの事業については、出口プロセスへの移行に向けて最終段階に入っている」とコメント。その成果として、2023年10月にオプティカル事業の譲渡契約を締結し、2024年度に実行すること、2024年4月に米eDiscoveryの売却を発表したことに触れた。
「今後も事業ポートフォリオマネジメントを行い、選択と集中を強化する。将来の市場性や、ワークプレイス分野との適合性を考慮しており、利益が出ている事業でも手放すという選択肢がある。撤退、売却を決めている事業については、相手がある話なので完了する時期は特定できないが、なるべく早い時期に終わらせたい」と述べ、今後も手綱を緩めずに、低収益事業の撤退、売却に向けた取り組みを推進する姿勢を示した。
「オフィスプリンティング事業の構造改革」では、2024年7月に設立する東芝テックとのジョイントベンチャー「エトリア(ETRIA)株式会社」について触れた。
「準備段階においてはさまざまなことがあったが、予定通りに設立することになる。機種ラインアップを絞り込み、生産および開発コストの効率化を図るほか、共通購買によって調達コストを低減する。さらに、共通エンジンの開発により、生産コストの効率化と商品力の強化を目指す。機種統合や共通エンジンの開発によって、さまざまな部分でのコスト削減効果があると考えられる。まずは両組織の事業統合により、安定稼働を進める」とした。
「オフィスサービス事業の利益成長の加速」については、新たに利益成長の進捗を測るKPIとして、対象となる顧客数、オフィスサービス導入率、ストック売上成長率の3点をあげ、「140万社の顧客を対象にビジネスを行うことになる。現在、オフィスサービスの導入率は35%であり、前年比微増である。微増にとどまっているのは、戦略的に活動を進めた結果であり、重視しているDocuWareについては、顧客数は1500社以上増加している。ストック売り上げは順調に伸びており、前年比10%増となっている。為替影響を含めると17%増になる。引き続き伸ばしていきたい」とした。
新たな取り組みとして説明したのが「SCMの最適化」と「販売・サービス体制の見直し」である。
「SCMの最適化」では、オフィスサービス商材の調達費の削減、需要予測プロセスの最適化、物流費の削減の3点に取り組み、2023年度比で30億円超の収益改善効果を想定している。「サプライチェーン全体を俯瞰した取り組みを推進する必要がある。グローバルでのプロセスネットワークを見直し、サプライチェーンコストを抑制していく」とし、「オフィスサービスではグローバルでの調達体制を強化し、PCやサーバーなどのIT商材に関する調達費用を低減していく。また、需要予測から生産計画に至るプロセスの高精度化や自動化を進め、在庫削減や業務効率化を図る。さして、物流ネットワークの見直し、ラストワンマイルのプロセスの最適化を実施していく」と語った。
「販売・サービス体制の見直し」では、顧客接点において、より多くの価値を創出するだけでなく、販売プロセスのDXを通じた業務の標準化や効率化にも踏み込む考えを示し、インサイドセールスの活用や、販売・サービス体制の適正化にあわせたグループ会社の構造改革も推進する。「デジタルサービスの会社に変わることで、販売・サービスの支援業務の適正化が必要になる。これまでのチャネル販売体制でいいのかといったことも含め、デジタルサービスの会社として、ふさわしい体制に見直す」と述べた。
一方で、「人的資本の適正化」にも取り組む考えを示した。ここでは、リスキリングプログラムを活用して、売上貢献するデジタル人材と、社内効率化を担う人材へのリスキンリングを進めるという。
注力領域の各顧客接点において、売り上げを創出し、売上に貢献するデジタル人材では、AIエンジニアやSEにリスキリングする一方、プロセスDXによって業務効率化に貢献する社内効率化を進める人材では、DXを推進するためのデータ利活用や、ローコード/ノーコード開発ができる人材、基幹システム開発が行える人材へのリスキリングを図り、外部委託しているシステム開発や運用を内製化していくという。「利益効果を創出する仕組みを目指す」という。
また大山CEOは、「今回、示していない施策も実施していく。追加的な一時費用があれば、順次投入し、費用対効果の確実性を追求する。機関決定が必要な費用についても適宜開示していく」としながら、「企業価値向上プロジェクトで取り扱う構造改革に関する費用は、2024年度中に発生させたい」とも述べた。
なおリコーでは、OAメーカーから、デジタルサービスの会社への変革を推進しており、デジタルサービスの売上比率を2023年度には48%にまで拡大。2025年度には60%超を目指している。この目標達成に向けて、オフィスサービス事業の収益成長と、オフィスプリンティング事業の持続的な体質強化を両輪とした成長戦略を推進している。
「オフィスサービス事業では、オフィスプリンティングで培った顧客基盤に、さまざまなサービスを乗せ、ストック収益を生み出し、収益性を高めていく。また、オフィスプリンティング事業は、他社との協業を含めた生産効率、販売チャネルの見直し、価格の適正化などの取り組みを通じて、体質を強化していくことになる」としている。
また、リコーでは、「グローバルなワークプレイスサービスプロバイダー」を目指していることをあらためて強調。「グローバルの顧客基盤、顧客接点を持つとともに、自社開発のソフトウェアの導入を図り、収益性を改善している。中長期的にワークプレイスの在り方が大きく変容するなかで、新たな顧客ニーズが顕在化。リコーは、BPA(Business Process Automation)、CS(Communication Services)、ITサービスを注力領域としている。投資をワークプレイス領域に集中させ、インテグレータとしての機能を強化し、各領域での成長加速を進める」とした。
BPAにおいては、DocuWareを基軸にしながら、買収や提携を通じて周辺領域に提供価値を拡大。既存顧客にアドオンした形で価値を提供することを目指している。また、CSでは欧州でのAVインテグレータの買収による提供能力の強化、米国ではマネージドサービスを提供する企業を買収し、プラットフォーム強化を進めていることを強調した。ITサービスでは、インテグレータの能力強化を進めているという。また、スクラムパッケージのような顧客が導入しやすい製品の強化にも取り組んでいるとした。
2023年度連結業績は増収減益
一方、第21次中期経営戦略の1年目となる2023年度(2023年4月~2024年3月)連結業績について発表。売上高は前年比10.1%増の2兆3489億円、営業利益が同21.2%減の620億円、税引前利益は同16.1%減の682億円、当期純利益は同18.7%減の441億円となった。
リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏は、「オフィスサービスが成長をけん引した。第3四半期に発表した見通し通りの着地になっている。だが、MFPは市場在庫の改善に取り組むことになり、販売も想定には届かなかった」と総括した。
セグメント別では、リコーデジタルサービスは、売上高が前年比10.0%増の1兆8528億円、営業利益は30.7%増の408億円。「オフィスサービスが成長し、売上高で17.5%増の8432億円と、2桁の増収にとなった。ITサービスやアプリケーションサービスを中心に順調に成長しており、ストック売り上げは前年比17%増の3484億円となり、2025年度目標の3800億円に対して90%以上の進捗率になった」という。
2023年度のスクラムパッケージの売上高は前年比20%増の594億円、スクラムアセットは前年比44%増の830億円、スクラムシリーズ合計では前年比33%増の1424億円となった。スクラムパッケージの販売本数は前年比6%増の8万6769本となっている。
「電帳法やインボイス制度の施行後も、未対応顧客の刈り取りを進めている。福祉、介護、セキュリティ関連が引き続き好調である」という。RICOH kintone plusは、セールス教育を進めた結果、kintone認定資格保有者数は1年間で1.5倍に増加。契約数が着実に拡大しているという。
オフィスサービスのうち、欧州では、買収企業を中心に成長を継続。売上高は前年比20.1%増の2463億円。米州はコミュニケーションサービスの成長やBPSの収益改善により売上高は前年比15.4%増の1618億円となった。「2024年4月に、独Natif.aiを買収した。インテリジェントキャプチャーと呼ぶAIを活用した画像認識技術および手書きOCR技術を持つ企業であり、DocuWareとも相性がいい。幅広い業務プロセスの自動化、高度化を進めることができる」と述べた。
リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年比1.8%減の4844億円、営業利益は同50.0%減の173億円。「MFPの市場在庫の調整に伴う生産調整が入り、減収減益となったが、第4四半期には区切りがつき、下期の収益性は改善している」という。
リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年比11.6%増の2621億円、営業利益は同6.2%増の154億円。「拠点の再編による構造改革、開発資産の償却負担があったものの、ノンハード事業の成長と為替効果により増収増益になった」という。
リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年比2.4%減の1135億円、営業利益は前年度の31億円から、マイナス3億円の赤字となった。「サーマル事業は、顧客の在庫調整や、欧米での市況悪化もあり、1年間を通じて苦しんだ。連結業績全体での目標未達の一因になっている」と述べた。
その他は、売上高が前年比12.4%増の456億円、営業損失は前年から12億円悪化のマイナス105億円の赤字となった。
2024年度の通期業績見通し
一方、2024年度(2024年4月~2025年3月)通期業績見通しは、売上高が前年比6.4%増の2兆5000億円、営業利益が12.9%増の700億円、税引前利益が7.0%増の730億円、当期純利益が8.7%増の480億円とした。
「MFPの製販連携の立て直しによって増産体制を敷いており、この部分での回復が見込める。また、オフィスサービスの継続的な成長が期待でき、業績をけん引していくことになる。具体的には、ストック収益にこだわり、地域戦略の強化、ソフトウェアの拡販に取り組む。欧州では買収した企業を通じた新たなサービスも提供していく」などと述べた。
セグメント別業績見通しは、リコーデジタルサービスは、売上高が前年比5.1%増の1兆9470億円、営業利益は7.8%増の440億円。リコーデジタルプロダクツは、売上高が15.2%増の5580億円、営業利益は67.6%増の290億円。リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が8.4%増の2840億円、営業利益は10.4%増の170億円。リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が8.4%増の1230億円、営業利益は前年度のマイナス3億円の赤字から65億円の黒字転換。その他の売上高が21.0%減の360億円、営業損失は20億円改善するがマイナス85億円の赤字を見込んでいる。
スクラムパッケージの売上高は730億円、スクラムアセットの売上高は930億円を目指す。
なお、2024年7月1日に設立する東芝テックとのジョイントベンチャーであるエトリアの組成に向けた準備が進んでおり、約20億円を準備費用に計上。連結対象となる7月以降、売上高で500億円、営業利益率で約5%を見込んでいるという。
「スムーズな事業統合、シナジーの早期実現に向けて取り組んでいる。生産、開発体制の効率化、共通エンジンの開発、調達コストの低減といった点での効果を見込める。大きな期待を持って進めている」と述べた。