ニュース

インボイス制度でデジタル化が後退する? コンカーが経費精算業務の実態調査結果を発表

制度の要件緩和に関して提言も

 株式会社コンカーは13日、インボイス制度開始後の経費精算業務の実態調査結果を発表するとともに、インボイス制度の要件緩和に関する提言を行った。

 コンカーの橋本祥生社長は、「2023年10月に導入されたインボイス制度は、適正・公正な税務処理を促すために重要な制度であるが、さまざまな面で課題がある」と指摘。「特に経費精算のデジタル化、効率化が後退する恐れがあり、日本のビジネスパーソンの多くに影響する。インボイス制度の要件を緩和し、キャッシュレス決済を利用した経費精算の場合には、適格な領収書の受け取りを不要にすべきである」と提言した。

コンカー 執行役員社長の橋本祥生氏

 また、インボイス制度によって発生する経費精算業務への負担増加の影響を試算。日本全体において、経費精算業務に費やす時間が年間5億3972万時間に達し、人件費に換算すると1兆4045億円もの影響が出るとした。「経費精算業務に関する業務負荷が増加したことで、日本の企業の生産性を下げている」と指摘した。

コンカー試算|インボイス制度の経費精算への影響

 インボイス制度の開始前は、コーポレートカードなどによるキャッシュレス決済時において、明細データが経費精算システムに連携されれば、領収書の受け取りを不要にでき、デジタルでの処理が可能であった。

 だが同制度の開始後は、明細データにはインボイス制度に必要な情報が含まれていないため、キャッシュレス決済時であっても、事業者登録番号などが明記された「適格な領収書」を受け取る必要があり、その結果、紙の領収書の受け取りが原則必須になっている。また、領収書受取時に事業者登録番号などが記載されているかを確認し、承認者や経理担当者は事業者登録番号に関する確認作業が必要になり、現場での作業が増加。この結果、経費精算業務のデジタル化の後退と、ビジネスパーソンの作業負担が増加したことを指摘する。

インボイス制度対応に伴う経費精算業務の変化

 コンカー ソリューション統括本部 ソリューションマーケティング部 マネージャーの舟本憲政氏は、「これまでの各種改正によって、大幅な業務量の削減が実現されてきたが、インボイス制度により、従来は可能だったデジタル処理ができなくなり、再び領収書の受領が必要になった。業務効率化が後退する懸念がある」としながら、「インボイス制度の仕組みであっても、事業者登録番号や税率ごとの税額情報が経費精算システムにデータ連携できれば、適格な領収書の受け取りを不要にできる。だが、クレジットカードのデータ連携環境が整っていないのが実態である」とも述べた。

経費精算業務に関する要件緩和の流れ

 店舗でのPOSレジと、クレジットカードによる決済などを行う決済端末との間では、すべての情報が連携されておらず、会社カードには加盟店情報と金額情報だけを送付して決済している状況にある。そのためインボイス制度に必要となる税率や事業者番号の情報が決済端末から入手できず、別途、適格な領収書が必要になるというのが実態だ。

 「POSレジと決済端末のデータ連携を行えば済むという話ではない。全国で約759万店の加盟店に設置されている決済端末の改修やアップデートだけでは不十分であり、決済ネットワークの改修、カード会社や国際カードブランドにおける改修も必要であり、対応するには膨大な時間とコストがかかり、現実的ではない」という。

 ただ、コンカーではタクシーアプリと連携しており、この場合には必要な情報のデータ連携ができているため、インボイス制度においても領収書を不要にできるといったケースもあるとした。

なぜキャッシュレス決済の場合にも適格な領収書の受取が必要になったか
クレジットカード決済データのインボイス制度対応が難しい背景

インボイス制度導入で"経費精算業務が面倒になった”

 コンカーでは、今回の提言の裏付けとして、インボイス制度施行後の経費精算業務に関して、申請者(現場部門)と承認者(管理部門)に対する調査を実施した。経費精算業務が多い営業職のビジネスパーソン500人と、日本CFO協会に所属する経費管理者500人、コンカーを利用しているユーザー57人を対象にまとめている。

 現場部門では、経費精算業務が面倒だという回答は79%に達し、中でも経費データの手入力が面倒であるという回答が49%と最も多かった。会社の経費を手作業で入力している人は76.6%に達しており、キャッシュレス決済によって領収書の提出が不要になると便利になると回答している人は84.2%に達したという。「キャッシュレス化による経費精算業務の負担軽減を多くの人が期待している」と分析した。

市場調査結果|経費精算業務における負担
市場調査結果|キャッシュレス決済での経費利用・精算の状況

 インボイス制度の経費精算への影響については、71.2%が「経費精算業務が面倒になった」と回答。面倒になった業務として、事業者登録番号の領収書への記載確認が42%、事業者登録番号の入力が36%、事業者登録番号が正しさの確認が35%、紙の領収書の受け取りや添付が30%となった。

 また、キャッシュレス決済の場合も、適格な領収書の受け取りが必要になったことについては、現場部門の69.4%、管理部門の85.4%が面倒になったと回答した。

市場調査結果|インボイス制度の経費精算への影響

 さらに、インボイス制度が緩和された場合、キャッシュレス決済によるデータの自動連携の仕組みを積極的に取り入れたいとする現場部門は67%となり、管理部門では84.1%を占めた。

 「インボイス制度によって業務負荷が増えている。また、キャッシュレス決済利用によって軽減された経費精算業務が、インボイス制度の施行によって失われたため、現場部門および管理部門ともに、経費精算の業務負荷があがったと感じている。キャッシュレス決済による経費精算業務の負荷軽減が望まれている」と総括した。

 なお、コンカーでは、インボイス制度の導入にあわせて、紙の領収書をスマホでデジタル化するAI OCR技術において、事業者登録番号を高い精度で読み取ることができる機能を追加。入力した事業者登録番号を、国税が提供するデータベースと照合する機能も提供し、利便性を高めているという。

 一方、従業員立替精算においては、証憑受領の特例措置があり、公共交通機関の料金は領収書がなくても仕入税額控除の対象にできるほか、従業員などに支給する出張旅費や宿泊費、日当、通勤手当は、消費税法のもとで適格な領収書を不要にできる特例措置がある。

 だが電子帳簿保存法(法人税法)では、現金で出張旅費などを支払った場合には領収書が必要であるなど、証憑の保存義務が異なり、双方の法律にも対応するためには、結果として、企業はほとんどの経費で領収書の提出が必要になっていることを指摘した。「特例措置があっても、それが生かされず、業務の効率性を損なっている点は大きな課題である」と述べた。

消費税法(インボイス制度)と法人税法(電子帳簿保存法)の関係

 ここでも調査結果を紹介。旅費以外でも適格な領収書が不要となると便利だと感じるビジネスパーソンは93.6%に達し、管理部門では、会社決済型カード支払いの場合に適格な領収書を不要にしたいとの回答が91.2%、消費税法と法人税法で証憑の保存義務が異なることによって運用がさらに複雑になっていると感じているとの回答は87.7%となった。

 なお、コンカーのユーザーを対象にした調査では、旅費特例対象外の割合が38.9%あり、「改善の余地が大きく、それをユーザーが望んでいる」と述べた。

立替精算における出張旅費が占める割合

 こうした調査結果を踏まえて、コンカーでは、「出張旅費等特例をすべての立替経費に拡大し、法人税法と同様に、キャッシュレス決済時には適格な領収書を不要にすることで、デジタル化を推進し、社会的コストを削減することができる」(コンカーの橋本社長)と提言した。

 「インボイス制度の施行により、適格な領収書の受け取りが必須となり、デジタル化が阻害され、社会的コストが増加し、従業員の労働時間の増加につながっている。インボイス制度対応で、必要かつ十分なデータ連携を、行政支援のもとに、社会が実現することが理想だが、実現には多大な期間とコストがかかり、現実的ではない。今回の提言は、インボイス制度適用前の2020年時点で実現できていた運用効率化の現状復帰を目指すものになる。日本は労働人口の減少が懸念されている。人手が足りないなかで、経費精算業務のように付加価値を生まない無駄な業務を削減することは待ったなしで取り組まなくてはならないものであり、重要なテーマである。インボイス制度後も、日本の経費精算のデジタル化、効率化を推し進めていくべきであり、それが日本企業の競争力強化につながり、そこにコンカーも貢献していきたい」と語った。

 会見では、野村ホールディングスの子会社であるコーポレート・デザイン・パートナーズの田中秀和社長が登壇し、「野村グループでは生産性向上や効率化のために、コーポレートカードを積極的に活用し、キャッシュレス化を進めている。紙に変わる真正性を担保できるデータ活用があらゆる面で拡大していくことを期待している」とコメント。

 野村ホールディングス 執行役 財務統括責任者の北村巧氏は、「インボイス制度は必要である一方、紙の領収書の受け渡しは、企業の業務生産性向上や社員の働き方改善に寄与しにくく、真正性を担保できるデータ活用などによる合理的かつ効率的な運用の見直しがなされることを望んでいる」とメッセージを寄せた。

 東急 執行役員 財務戦略室長の戸田匡介氏は、「事業環境が変化するなか、生産性向上を通じた企業価値の最大化が求められている。コンカーには、働き手が本来なすべき業務へ集中できるような経費精算業務の圧倒的効率化の仕組みづくりに取り組むことを期待している」とメッセージを寄せた。

 また、公認会計士である日本CFO協会 主任研究委員の中田清穂氏は、「電子帳簿保存法は、要件緩和が進み、22年間に渡り変わり続け、業務量を減らすことに大きな効果があったが、インボイス制度によって先祖返りし、業務量が増えている。インボイス制度も要件緩和が進み、業務量が減ることを期待している。現場の状況を理解して、要件緩和を進め欲しい」と述べた。

日本CFO協会 主任研究委員の中田清穂氏

日本企業の生産性向上や国際競争力向上に貢献できるようにコンカーを盛り上げていく

 なお、コンカーの橋本社長は2024年1月に社長に就任。今回は社長就任後初めての会見となった。

 橋本社長は、「コンカーは2011年の創業以来、日本市場において、クラウド経費精算市場をゼロから作り上げてきた。その歩みと並行して、コンカーにおいてすべての事業部門の責任者を経験してきた。企業の事業課題を直接聞き、ソリューションを提供してきた経験を生かして、日本企業の生産性向上や国際競争力向上に貢献できるように、コンカーを盛り上げていきたい」と抱負を述べた。

 1998年にNECに入社し、流通サービス業および製造業向けのソリューション企画などを担当。その後、ガートナージャパンでプロセス、ユーティリティ、流通サービスなどの分野において、IT戦略立案を担当。2013年にコンカーに入社し、2019年に営業統括本部長に就任。2020年から戦略事業統括本部長に就任して、ソリューション、パートナーアライアンス、公共マーケットの事業開拓を推進した。2022年からは製品・ソリューション、プリセールスも統括してきた。

 「コンカーは、国内において1755事業グループ以上に導入されており、『経費精算のない世界』の実現に向けて取り組んでいるが、その達成は道半ばである。2024年からは、『コンカー第2章』として、経費精算サービスとしては世界最大の5万1000社、約9300万人の利用実績をもとに、30年に渡り蓄積してきたデータを分析したビッグデータの活用、SAPグループの生成AIをかけあわせることで、『経費精算のない世界』の実現だけでなく、間接費業務の高度化を目指していく。ビジネスAIを活用して、お客さまに気づきやインサイトを提供し、業務の自動化も推進していく」と述べた。