大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

「経費精算のない世界」を7合目から頂上へ引き上げる――、コンカー新社長の橋本祥生氏

バトンを引き継ぐ三村真宗代表取締役による振り返り、経緯説明も

 出張・経費管理クラウドサービスを展開するコンカーの新社長に、2024年1月1日付で、橋本祥生氏が就任した。その一方で、12年3カ月間に渡り、コンカーの社長を務めた三村真宗氏は、2024年5月1日まで、代表取締役エグゼクティブアドバイザーを務め、十分な移行期間を経て、経営のバトンを橋本新社長に引き継ぎ、コンカーの経営から卒業することになる。

 なぜ三村氏は、社長退任を決めたのか、そして、橋本新社長はコンカーをどう成長させるのか。2人が同席してインタビューに応じた。

コンカー 執行役員社長の橋本祥生氏(右)と、コンカー 代表取締役エグゼクティブアドバイザーの三村真宗氏(左)

フレッシュな感覚でリードできる経営者にタッチしなければいけない、と感じた

――三村さんに、ズバリ聞きますが、なぜコンカーの社長を退任することに決めたのですか。

三村: 外資系IT企業で、10年以上に渡って社長を続けるというケースは少ないと思います。私自身、12年3カ月間という期間に渡り社長を務め、コンカーのビジネスを大きく成長させることができ、経費精算クラウドサービスという新たな市場カテゴリーを日本に確立するなど、自分のなかではやり切ったという気持ちがあります。

 ただ、それ以上に、一人の人間がトップを続けることの弊害があるということを感じ始めました。実は、自分は例外であり、ずっと経営トップを続けられるだろうと思っていたんですよ(笑)。

コンカー 代表取締役エグゼクティブアドバイザーの三村真宗氏

 しかし、それは違ったな、と感じる出来事がありました。コンカーは、2024年下期に、日本にデータセンターを開設することを、2022年12月に対外的にも発表しました。これを、本社と粘り強く交渉を続けたのが、新たに社長に就任した橋本です。私も、10年以上に渡って、本社とさまざまな交渉を行い、日本に多くの投資をしてもらったり、日本独自のやり方を数多く推進したりといったことをしてきましたが、その一方で、裏側には、米本社との交渉がうまくいかなかったものがたくさんありました。その経験がもとになって、知らないうちに、自分の心の中に「澱(おり)」として、自然と溜まっているものがあることに気がつかされました。

 正直なことを言うと、私は、日本のデータセンター開設に関して米本社との交渉をするなかで、これまでの経験から、「これはうまくいかないな」という気持ちがどこかに芽生えてきて、少しあきらめはじめていた時期がありました。なにを言っても米本社が首を縦に振らないんです。

 ところが橋本が、「これをなんとか突破しましょう」とあきらめの気持ちを持たずに交渉を続け、私もその熱意に動かされて、一緒になって米本社と掛け合いました。橋本がここまで粘らなければ、日本でのデータセンターの開設は実現しなかったと思っています。この一件で、「澱」が溜まってしまった私が続けるよりも、フレッシュな感覚でリードできる経営者にタッチしなければいけないと感じました。そうした私の想いを米本社に話をして、社長退任を理解してもらいました。

――橋本新社長のどんな点を評価していますか。

三村: 日本へのデータセンター設置のエピソードからもわかるように、橋本には胆力があります。また、営業畑の出身ですが、パートナー部門など、さまざまな領域を担当しており、私の次に視野が広い経営メンバーであったことも理由のひとつです。そして、社員からも愛される人柄であるとともに、素直で、コーチャブルな人物ですから、さまざまなものを受け入れて、その経験を生かして、幅広い領域を任せることができます。コンカーの成長を継続するには適任だと考えています。

――2024年1月1日付で、代表取締役エグゼクティブアドバイザーに就き、その期間を5月1日としています。外資系IT企業では、こうしたバトンの渡し方も珍しいですね。

三村: 私は、クビになったわけではありませんから(笑)、しっかりとバトンタッチできる期間を置こうと考えました。この期間があることで、スムーズな移行ができていると思っています。

ビジネス軸や課題解決軸のメッセージ「間接費改革」を打ち出してきた

――2011年10月にコンカーの社長に就任して以降、コンカーのビジネスは大きく成長しました。この間コンカーは、日本においてどんな役割を果たしたと考えていますか。

三村: コンカーの社長に就任した当時は、クラウドがまだ黎明(れいめい)期の時代で、SaaSという言葉も一般的ではありませんでした。クラウドに対する期待値は高いが、許容度は低く、大手企業が使うものではないという雰囲気があったころです。当初はクラウドの良さを訴求したのですが、なかなかそれが理解されません。

 そこで、メッセージを「間接費改革」という言葉に変えて、技術軸からの訴求ではなく、ビジネス軸や課題解決軸の訴求とし、コンカーのメリットを打ち出しました。また、ITベンダーの多くはCIOにアプローチしていますが、コンカーはCFOに対するアプローチを強化するといったことも同時に進めました。

――「間接費改革」という言葉はそれまで聞いたことがありませんでした。

三村: 「経費精算」というと業務の規模が小さく、IT投資の対象になりにくいことがわかりました。経営アジェンダとしてとらえてもらうために、「間接費改革」という言葉を使ったのです。直接費の削減は、経営テーマのひとつとして多くの企業が手を打っていても、間接費改革にはなかなか手をつけられていなかったのが実態であり、「海外企業は、すでにそこにもメスを入れていますよ」ということを、コンカーは明確に示したわけです。

 また、経費を可視化することで費用の最適化が図れること、経費精算は不正の温床になりやすいため、ガバナンスの観点からも改善を図れること、経費処理の生産性を向上できるというメリットがあることも訴求していきました。

 ここから状況が少しずつ変化していきました。大きなきっかけになったのは、2013年9月、野村證券がコンカーを導入したことでした。金融システムを稼働させている企業ですから、経費精算に対する要件も厳しく、私たちもとても鍛えられまた(笑)。このとき、金融情報システムセンター(FISC)から、コンカーが取り扱う経費情報は機微情報に当たらないという確認が取れました。つまり、日本以外のサーバーに経費情報のデータを置いても大丈夫だと、いうことを示すことができたのです。

 日本の企業が、グローバルスタンダードの経費精算システムを利用できる環境が整ったことが、経費精算のデジタル化を加速したと考えています。実は、大手企業のお客さまからは、「初めて使うクラウドサービスがコンカーだった」という声をかなり多くいただいています。コンカーが、日本の大手企業におけるクラウド利用の門戸を開いたといってもいいかもしれませんね。

SAP Concurの主な導入効果

――コンカーが、まずターゲットにしたのが、国内の時価総額上位100社への導入でした。この狙いはなんだったのですか。

三村: 黎明期は日本法人の体力がなかったので、フォーカスマーケットを大手企業に絞り込みました。厳しい要望をいただきながら導入を行い、それが成果につながったことで、日本におけるコンカーの信用が高まり、大手企業への導入がさらに促進されるというサイクルが生まれました。現在、時価総額上位100社のうち67社でコンカーが利用されています。

 一方で、中堅中小企業の導入はこれからになります。グローバルでは中堅中小企業での導入実績がありますから、この経験を日本でも生かしていきたいですね。

――記者会見では、「経費精算の仕事は無駄だ」とまで言い切っていたのが印象的でした。実際、「経費精算のない世界」の実現を掲げ、日本での事業を推進してきましたね。

三村: 経費精算のクラウドサービスを提供する会社なのに、経費精算を無くすという方針を打ち出しましたから(笑)、びっくりした人も多かったと思います。もともと企業にとっては、間接費は「必要悪」だという認識があり、なかなか手をつけられない分野でした、しかし、コンカーの提案によって、そうではないことが少しずつ理解されていきました。

 また、クラウドの浸透、スマホの登場、電子決済の広がりといった動きが重なり、まさに、カンブリア紀のように、さまざまなものが同時に誕生してきたことも追い風になりました。これらの技術を活用することで、間接費改革ができるという時代に入ってきたといえます。

 コンカーは、2013年に最初のミッションとして、「経費精算マーケット」を作ることを打ち出しました。経費精算という市場が成り立つのかという指摘もありましたが、これが成立しないと企業は投資対象にはしません。数年を経て、調査会社の資料のなかで、経費精算市場というカテゴリーが設定され、いまでは、さまざまな企業がこの分野に参入しています。これもコンカーが、貢献できた部分のひとつだといえます。

――またコンカーでは、ビジネスキャッシュレス構想、ニューノーマルトラベル構想、インボイス構想といったように、新たなサービスを提供するたびに、独自の構想を打ち出してきました。

三村: 経費精算・経費管理の「Concur Expense」、出張管理の「Concur Travel」、請求書管理の「Concur Invoice」といったように、単にサービスを提供するだけにとどまらず、それぞれのサービスによって解決できる課題を、間接費改革といえ観点からビッグテーマにするための提案であり、経費精算に続き、出張手続きや請求書発行においても、考え方をドラスティックに変えてほしいうという提案でもありました。

 この5年ほどは、企業のDXが進展しましたが、最初は、なにから取り組んでいいかわからないという経営者も少なくありませんでした。そこで、「まずはコンカーからDXをはじめてみましょう」という提案をし、これを切り口にDXを進めていった企業も少なくありません。コンカーを採用した企業のCIOやCDXO、CFOからは、「コンカーはあらゆる部門の社員が利用するものであり、スマホの活用や電子決済といった新たなテクノロジーを社員が体感しやすく、デジタル化の恩恵や効果、威力を理解させ、意識改革させることができるきっかけになった」という声をずいぶん聞きました。

 コンカーはSAPグループの1社ですが、ERPによる大規模なDXを推進する際に、先頭バッターとしてコンカーを活用し、まずは半年間から1年間という短期間で成果をあげてみるという使い方も多かったですね。

――ただ、三村社長が掲げた「経費精算のない世界」の実現はまだ道半ばですね。

三村: そうですね(笑)。「経費精算のない世界」の実現は、登山でいえば、7合目といったところでしょうか。具体的にいえば、不正検知のところが道半ばであったといえます。クレジットカードや交通系カードなどを使って電子決済し、その電子データに不正がないことを自動的に確認し、無ければ払い戻しするという仕組みを実現するには、AIの適用が不可欠ですが、そこまでを純正ソリューションとして実現することはできませんでした。AIというラストワンピースが足りませんでしたが、この部分は、橋本新社長がしっかりと受け継いでやってくれます。これが完成すれば、誰もがノータッチで経費精算が完了する「経費精算のない世界」の実現が一気に近づくことになります。

 「経費精算のない世界」の実現には、電子払いが前提となりますが、振り返ってみますと、コンカーが日本に参入した当初は、社員による電子払いそのものが定着していませんでしたし、コーポレートカードは役員だけが使うものという状況でした。いまはコンカーの導入の際に、コーポレートカードを利用する企業は9割を超え、先進的な企業では、経費精算の9割が電子払いになっているという状況が生まれています。

 また、この仕組みを実現するための日本のさまざまなパートナーとの連携もかなり進み、ここは「社会インフラ」といえるものを構築できたとさえ考えています。各カード会社のクレジットカードやコーポレートカードのほか、SuicaやPASMOなどの交通系カード、PayPayなどのQRコード決済、GOやS.RIDEといったタクシー会社の電子決済など、ここまで幅広い電子決済に対応しているサービスはコンカーだけです。

 さらに、電子帳簿保存法改正などにつながる規制緩和の働きかけを2回に渡り行い、これも「経費精算のない世界」の実現につながっています。ただ、インボイス制度によって、デジタル化が少し後退した部分があります。経費の登録には事業所登録番号が必要であり、これが電子データとして入ってこないため、領収書の紙は不要でも、別途画像データが必要だという状況が生まれています。インボイス制度は社会にとって必要な制度ですが、決済データだけで決済できていたものができなくなるという課題があります。先祖返りしてしまった部分を、どう戻すかということがこれからのテーマだといえます。

「働きがいのある会社」の実現にこだわった理由は?

――「三村体制」のなかでは、「働きがいのある会社」の実現にこだわってきましたね。

三村: これはコンカーが成長する源泉になったと自己評価しています。2024年2月に、Great Place To Work Institute Japanが発表した2024年版「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門(従業員100~999人)では、7年連続で1位を獲得し、10年連続のベストカンパニー賞を受賞しました。2013年に、5年後の目標として、米国以外でトップの売上高を達成することと、働きがいのある会社でナンバーワンになることを目指しましたが、両方を成し遂げることができました。これにより、優秀な人材が集まり、SaaSベンダーとしては、日本で最優秀集団になったと自負しています。いまの採用率は1%台(100人応募時に採用が一人強)となっており、優秀な人材を採用することができています。

2024年版でも「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門で1位を獲得

――なぜ、コンカーは「働きがいがある会社」なのでしょうか。

三村: ひとつは、コンカーが掲げている夢や志、大儀を、社員全員が共有し、働くことの意味合いを理解している点です。「経費精算のない世界」の実現に向けて、一人ひとりが貢献しているという意識を持って仕事をしています。また、高い視座と徹底した権限委譲を行い、能動的に働ける環境を作ること、成長実感を持てるようにするために、フィードバック文化を浸透させていることも、コンカーの特徴です。これらが背骨となる一方、社員の声を吸い上げ、それに向き合ってしっかりと対応する文化や、社員のストレス状況を計測し、そこに会社として対応するなど、さまざまな仕組みを導入しています。

 私自身、会社には、働きがいがなくてはならないと思っていますし、これは橋本も同じです。総務部や人事部が主導する施策ではなく、経営トップがそこにコミットメントしていることが大切です。こうした信念が浸透しているからこそ、「経費精算のない世界」という大きな目標に向けて、やり切ろうという意識が、社員の間に広がっているのだと思います。

 また、これは、カリスマ社長が、天才的手腕でやっているものではなく(笑)、さまざまな施策の積み上げの上で実現しているものですから、多くの会社に再現してもらえるものだと思っています。

――外資系企業ではありながらも、「三村カラー」が色濃く出ていたように感じます。

三村: 確かに、外資系企業のなかには、ローカルでの手法を厳しく統制するケースもあります。ただ、コンカーの場合は、創業者の一人であるスティーブン・シンが、「社員を大切にする」という強い思いを持って経営をしてきた経緯があり、日本での取り組みについても応援をしてくれていました。いまは、この成果がSAPジャパンのなかでも取り入れられるようになっています。私はSAPジャパンの経営メンバーの一員として、2023年に4回に渡って、フィードバック文化について研修を行い、ここにSAPジャパンの約7割の社員が参加してくれました。これだけの社員が参加すると共通言語化がはじまりますから、これからフィードバック文化が浸透していくことを楽しみにしています。

橋本新社長が目指す「コンカー第2章」

――橋本新社長は、どんなコンカーを目指しますか。

橋本: コンカーが、異なるステージや、新たな価値を創出できるようになるために、「コンカー第2章」に挑みたいと思っています。これが私のミッションです。これまでのコンカーは、「経費精算のない世界」を目指し、規制緩和への働きかけを行い、経費精算市場を日本に創出し、その結果、業務の生産性を高めてきたという実績があります。コンカー第2章では、これをベースに、2つのことに取り組みたいと考えています。ひとつは、新たなテクノロジーを活用すること、もうひとつは、政府や自治体を対象にした公共マーケットでの展開を強化していくことです。

コンカー 執行役員社長の橋本祥生氏

――ひとつめの新たなテクノロジーという観点ではどんなことに取り組みますか。

橋本: 私が目指しているのは、これからのコンカーは、「ビッグデータ/AIカンパニー」であるということです。グローバルのSAP Concurとしては、2024年の1年をかけて、AI機能を搭載したサービスのリリースプランを検討していくことになります。具体的には、SAPが開発した生成AIアシスタントである「Joule(ジュール)」の技術を活用することになります。Jouleをベースにして、SAP Concurのグローバルでのサービスラインアップが作られ、それをもとに日本のコンカーが、日本に必要なビジネスシナリオを用意していくことになります。

 コンプライアンスやガバナンスの部分では、日本独自のものが求められますので、そこにおいて、日本独自のビジネスシナリオを検討しており、これを3月に米本社に提案し、9月に日本での開催を予定している年次イベント「SAP Concur Fusion Exchange」で、詳細な計画を発表したいと思っています。

 ビッグデータやAIを活用し、電子決済データの不正検知を自動化することで、現在、7合目まで到達している「経費精算のない世界」の実現を、一気に頂上まで引き上げるつもりです。

 また、対話型AIを通じた新たなコミュニケーション環境と、全世界で5万社以上、1億人以上が利用し、最も利用されている経費精算クラウドサービスであるSAP Concurが持つビッグデータを組み合わせて、いままでの仕組みではお客さまが得られなかった知見や情報も提供したいと考えています。例えば、海外出張に行きたいと語りかけると、それぞれの会社の出張規程に基づいて、最適な航空機やホテルなど、推奨する出張旅程を瞬時に提示してくれるようになります。このように、経費精算だけでなく、さまざまなインサイトを提示するサービスを提供したいと考えています。

 さらに、自社の出張規程が他社に比べて妥当なものになっているのか、会食などの費用の上限設定はどうなのかといったことを、他社と比較しながらコストを可視化できるサービスも提供します。これまでは、出張規程や経費の設定などは、なかなか比較するものがありませんでしたが、SAP Concurに蓄積されたデータをもとに、同業他社の状況をベンチマークしながら改善につなげたり、対話型AIが新たなルールやコスト削減方法を提案したりといったことができるようになります。より経営に近いところにサービスを広げていきたいと思っています。

――もうひとつの取り組みである日本の公共マーケットへの展開ではどんな手を打ちますか。

橋本: コンカーでは、ISMAPの認定を取得する予定であり、2024年下期には国内にデータセンターを開設することになります。日本へのデータセンターの開設は、4年間に渡る本社との交渉によって実現したものです。日本の政府や自治体、旧国営企業では、データを国内に置くことが前提になっていたり、入札の条件としてISMAPの認定が必要であったりしていますが、コンカーのクラウドサービスが、これらの基準をクリアできる環境が、2024年中に整います。さらに、公共マーケット部門の人員をこの1年間で倍増しており、コンサルティングやセキュリティ、機能開発などの人員など、ワンチームとして提案できる体制も整えています。自治体の業務の現状や課題をきちっと理解し、それを改善できる提案を行い、運用のイメージまでを示しながら、デジタル化を支援していきたいと思っています。

 私自身、5年前に、新市場開拓のひとつとして、公共マーケットに取り組んできた経緯があります。その取り組みのなかで、2019年には、10団体を対象に、PoC環境を提供しました。これによって、自治体が持つ課題を言語化および可視化でき、社内においても課題の共通理解が進んでいます。このノウハウをベースにして、自治体向けの提案が確立できている点は強みのひとつだといえます。また、米国では連邦政府の7割がSAP Concurのユーザーであり、こうした海外での導入実績を紹介したり、ノウハウを活用したりできます。労働人口の減少により、自治体が将来に渡って、いまの住民サービスのレベルを維持するには、自治体職員が20%足りないという試算が出ています。紙で行っている経費精算などのバックオフィス業務をデジタル化し、住民サービスに割ける時間を増やしてもらいたいと思っています。

「決めたことは突破する」という強い意志を持つ社長でありたい

――橋本社長のこれまでの経験は、コンカーの経営にどう生きますか。

橋本: 私は、NECで13年間にわたり、流通サービスや製造業向けのソリューション企画を担当し、業界初の建設業向け基幹システムサービスである「建設クラウド」の立ち上げに関わりました。個別対応が多いパッケージ提案から、共同利用するクラウドサービスへとシフトすることが建設業界においては最適だと考え、1年半に渡るコンソーシアム活動を通じて、共通要件を洗い出し、それを開発に反映し、完成させました。NEC自らも建設クラウドへの投資を決定し、それが現在の事業の成功へとつながっています。

 新たなものが必要であると感じたら、あきらめずに突破するための努力を行うということは、このときに学んだもので、コンカーにおいて、日本にデータセンターを設置する交渉でも、このときの経験が生きたと思っています。これから推進する「コンカー第2章」でも、新たな挑戦が続きます。そのときに、壁にぶつかったらすぐにあきらめてしまう社長では、社員はついてきません。「決めたことは突破する」という強い意志を持つ社長でありたい。これまでの経験から、その部分は、社員に信頼してもらえるかなと思っています。

 また、エコシステムの構築という点での経験も生かせると思っています。NEC時代に、外食産業を担当し、NECが強みを持つPOSシステムの提案を行っていました。ただ、外食産業を担当するとサプライチェーン全体を見ないといい提案ができません。そこで、倉庫管理や配送管理などのベンダーと新たなエコシステムを構築し、ワンチームとなって、最大手外食チェーン企業のシステムをリプレースすることに成功しました。コンカーは、外部連携が重要な企業です。私自身もコンカーでパートナーアライアンスの責任者を経験しており、Win-Winのスキームを構築してきました。パートナーにも貢献できる仕組みをこれからも構築していきます。

 また、2011年からはガートナー・ジャパンに入社して、プロセスやユーティリティ、流通サービス企業のIT戦略立案の支援などを担当しました。ここでは、企業の課題を抽出し、それをもとに、経営陣に対する提案を行ってきました。これからのコンカーは、サービスを進化させることで、より経営に近いソリューションが増えていくことになります。CIOやCFOへの提案だけでなく、CEOやCDXOなどへの提案が増えますから、このときの経験が生かせると思っています。

 このように、クラウドの立ち上げ、エコシステムの構築、経営層への提案という仕事を、コンカー入社前に経験しており、これをコンカーの社長として生かしたいと思っています。

――コンカー入社後の経験はどう生きますか。

橋本: 2013 年にコンカーに入社してからの約11年間は、社員と距離が近いところでずっと仕事をしてきました。その経験を生かして、社員とのインタラクティブなコミュニケーションを大切にしていきたいと思っています。社長就任の発表直後から、東京の本社だけでなく、大阪や大分の拠点にも出向き、社員と直接話をする場を設けました。5月までにはすべての部門の全社員とインタラクティブな直接対話をしたいと考えています。また、全社員との対話は継続していきます。いい兄貴分として、社員一人ひとりの個の成長に貢献したいですね(笑)。

――コンカーの社長として、課題に感じている点はありますか。

橋本: 11年前に私がコンカーに入社したときに比べると、いま入社している社員の多くは、ある程度、コンカーが成長した段階の状況しか知りません。アントレプレナーシップ(起業家精神)の気運をもっと高めて、コンカーを活性化させたいと思っています。
 「コンカー第2章」では、すべての社員が関わる経費精算をドアオープナーとして、デジタル化の提案をするだけでなく、AIやビッグデータを活用した新たなサービス提案を進めます。また、これを民間企業だけでなく、日本の政府や自治体にも広く展開していくことになります。日本の企業のDXや、社会インフラの変化は、コンカーから始まったと言われるような存在になりたいですね。

コンカーほどエキサイティングな会社はなかった

――ところで、三村さんは5月1日付で、コンカーの代表取締役エグゼクティブアドバイザーを退任したあとはなにをやるのですか。

三村: 退任後もコンカーの社外取締役として、継続的に関与することになります。これも珍しいことではありますが、私が求められるのであれば、引き続き、協力したいと考えています。実務や執行には口を出さず、橋本社長の壁打ち相手として(笑)、経営判断の相談に乗ったりできると考えています。橋本カラーのコンカーを作り上げることを舞台裏から支援していきます。

――ほかの外資系IT企業の経営に携わる気持ちはありますか?

三村: 外資系IT企業の社長は、もうやらないと思いますよ(笑)。コンカーほどエキサイティングな会社はなかったと思っていますから、私の人生において、外資系IT企業の社長としての役割は終えたと思っています(笑)

――新しい挑戦はなにか考えていますか。

三村: これまでは、キャリアチェンジを考えたり、なにか新しいことをやるという考えを巡らせたりする時間はありませんでしたが、何もやらない期間を少し作って、自分がやりたいことをあらためて考えてみたいと思っています。これまでに「最高の働きがいの創り方」、「みんなのフィードバック大全」といった本を出していますが、新たな本を書きたいという気持ちもありますし、フィードバック文化を広げるための活動もしていきたいですね。学校に通って学んだり、逆に学校で教えたり、スタートアップ企業に出資して、若い人たちを支援したり、保護猫のNPO法人に携わったり、いろいろなアイデアがあります。いろいろやってみて、そこから本当にやりたいことが見つかるといいなと思っています。