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AWSジャパンが最新の国内事業戦略を発表、2027年までに2兆円超を投資へ

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は19日、日本における事業戦略について説明。2023年~2027年にかけて、日本市場に対して、2兆2600億円(149億6000万ドル)の投資を行うことを発表した。これにあわせて、2027年までの日本への投資計画および日本全体への経済効果をまとめた「AWSの経済効果に関するレポート」を発行した。

日本において2兆2600億円(149.6億米ドル)の投資を行うという

 AWSジャパンの長崎忠雄社長は、「2兆2600億円の日本への投資により、日本のお客さまは、国外にデータを持ち出さず、日本で利用でき、低遅延でのクラウドサービスの利用、日本における雇用の確保、クラウドに関する教育、AIなどの先端技術の活用、地域コミュニティの支援、再生可能エネルギーの開発や導入といった点での効果がある」と前置き。

 「今回の投資は、日本のお客さま、パートナー、スタートアップ企業、日本の産業界、地域経済、日本のクラウドコミュニティ全体に対して、ますます重要になるデータの利活用に対するAWSのコミットメントである。日本に対して、AWSがコミットし貢献していることを示したものとなり、クラウドの利便性が高まるだけでなく、さまざまな経済波及効果が生まれる。また、デジタル人材の育成支援、再生可能エネルギーの導入も促進できる。日本のお客さまの成長に貢献するとともに、新たなイノベーションの創出を実現することにもつながる」と述べた。

AWSジャパン 代表執行役員社長の長崎忠雄氏

 2兆2600億円の投資のなかには、データセンターの建設、サーバー導入の費用やデータセンター間をつなぐネットワーク機器などの各種設備投資、長期的に発生するデータセンターの運用費用、機器のメンテナンス費用などが含まれている。

 「日本の官民でのクラウド利用が増加しており、今回の投資は、東京リージョンおよび大阪リージョンのデータセンターの増強と運用費に関わる費用となる。新たな地域へのデータセンターへの投資ではない」としたほか、「新たな投資によって、5兆5700億円(368億1000万ドル)のGDP効果、年間平均3万500人以上の雇用創出を見込んでいる。スタートアップ企業や中小企業を含む企業のDX、地域コミュニティの発展、再生可能エネルギープロジェクトの加速などの効果も見込む」という。

AWSの日本への投資と経済効果 2023年~2027年

 なおAWSでは、2011年~2022年までの12年間で、国内のデータセンターなどに対して、1兆5100億円(100億ドル)の投資を行ってきた。この投資効果として、GDPでは累計で1兆4600億円(97億ドル)を創出したほか、データセンターのサプライチェーン上にある国内企業の雇用創出は、年間平均で7100人以上、累計で8万5200人に達したと試算している。

AWSの日本への投資と経済効果 2011年~2022年

 「AWSは、世界各地で継続的な投資をしていくことで、地域別に測定し、実証可能な経済成長をもたらしたいと考えている。日本における16年間の合計投資額は、3兆7700億円(249億6000万ドル)になり、GDP効果では7兆3000億円(465億1000万ドル)が想定される」と語った。

 全世界で数百万社、日本で数十万社がAWSのクラウドサービスを利用。現在、240以上のサービスを提供し、2022年には年間3332件の新機能を発表している。主力となるAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)では、750以上のインスタンスを提供し、あらゆるワークロードやビジネスニーズに対応していることを示した。2023年には生成AIに関する利用が増加し、2023年10月には、Amazon Bedrockの提供を日本で開始しており、すでに全世界で1万社以上が利用しているという。

あらゆるワークロードに対応するインスタンスを提供

 データセンターでは、全世界33カ所にリージョンを開設し、105のアベイラビリティゾーンを展開。今後、ドイツ、マレーシア、ニュージーランド、タイに新たなリージョンを開設する予定を明らかにしている。日本では、2011年に開設した東京リージョン、2021年に開設の大阪リージョンがあり、米国以外で2つのリージョンを設置したのは日本が初めてだったという。

全世界33カ所にリージョンを開設し、105のアベイラビリティゾーンを展開している

 「日本では、通信、製造、金融、製薬、メディア・エンターテイメント、政府機関、自治体、教育、研究機関、スタートアップ企業など、業界や規模を問わず、幅広いお客さまにAWSを利用してもらっている。昨今では、生成AIを日本のユーザーが利用する気運が高まっており、今回の投資は、それらのニーズに対応する狙いもある。日本のお客さまのニーズに沿って、地球上でもっともお客さまを大切にする企業であることを目指す」とした。

 また、過去10年以上に渡り、日本におけるデジタル人材の育成を支援し、2017年から2023年までに60万人以上に対してクラウドスキルのトレーニングを提供しているほか、ITの基礎知識やプログラミング、AI、セキュリティなどの育成プログラムを用意していることにも触れた。

 「お客さまとの対話では、データを活用したテクノロジーによる経営価値向上、生成AIや機械学習などのAIの利活用、これらを下支えするデジタル人材の育成の3点がテーマになることが多い。特に、デジタル人材への投資は日本においては大きな課題のひとつである。クラウドやAIなどの新たなデジタルテクノロジーを活用するためには人への投資を加速する必要がある。AWSは、日本のお客さまやパートナーに対して、教育の観点からも支援をしていく」と語った。

 なお、能登半島地震の被災地における安全な生活の確保、復興に向けて、アマゾンでは、災害支援チームにより、災害支援物資の保管拠点として、国内2カ所のDisaster Relief Hubを稼働。国際的な支援団体や地元の支援団体と連携し、3万点以上の毛布や食料、飲料、衛生用品などを被災地に届けたほか、AWSでは災害対策チームを立ち上げて、地震発生翌日には技術支援を開始し、AWSクレジットを提供する体制を整えるとともに、復興支援を行う顧客、パートナー企業などと連携しながら、現地での災害対策能力を強化する支援を行ったという。

AWSの最新技術

 会見では、AWSの最新技術についても説明が行われた。

 生成AIに関しては、AWSの取り組みを「基盤モデルの学習と推論のための基盤」、「基盤モデルを活用してアプリケーションを構築するツール群」、「基盤モデルを活用するアプリケーション」の3つのレイヤーで定義。自社で基盤モデルを開発するユーザーに対しては、フルマネージドな機械学習サービスであるSageMakerを提供、また基盤モデルの選択肢を提供し、利用者のニーズに合致した生成AIアプリケーション開発をサポートするAmazon Bedrock、生成AIによりコード開発を支援するCodeWhisperer、業務用に設計した顧客専用の生成AIアシスタントサービスのAmazon Q(プレビュー版)を提供していることを示した。

AWSの生成AIスタック

 Amazon Bedrockの事例についても紹介。Pfizerでは、生成AIを活用して、医薬品の開発スピードの向上に取り組んでおり、18カ月で、19の医薬品やワクチンを開発する目標を掲げているという。Amazon BedrockとAmazon Sagemakerを利用して、生成AIプラットフォームを構築し、17のユースケースで採用。年間10億ドルのコスト削減を見込んでいるとした。また竹中工務店では、Amazon Bedrockと Amazon Kendraによって「デジタル棟梁(とうりょう)」を実現。自社の業務ルールや専門知識だけでなく、ベテランの知識や経験を継承した人材育成につなげているという。

Pfizerの事例
竹中工務店の事例

 AWSジャパン 執行役員 デジタルトランスフォーメーション本部本部長の広橋さやか氏は、「Amazon Bedrockは、金融、製造、流通、製薬などさまざまな業界で活用されている。また、日本国内で、大規模言語モデル(LLM)を開発したいというユーザーを対象に、2023年7月から、AWS LLM開発支援プログラムをスタートしており、LLM開発のための計算機リソースに関するガイダンスや技術的メンタリング、学習用クレジットなどを提供している。現在、10社以上の企業が参加しており、各社の成果が間もなく発表できる」と述べた。

AWSジャパン 執行役員 デジタルトランスフォーメーション本部本部長の広橋さやか氏

 リコーでは、深層学習を利用した自然言語処理技術を開発しており、LLMによって、性能向上を図るなかで、AWS LLM開発支援プログラムを活用。AWSによるGPUの利用環境の整備および構築期間の短縮に貢献したという。また、技術課題を解決しながら、より規模の大きいモデル構築に取り組んでいるとした。

リコーの事例

 そのほか、NVIDIAとの戦略的パートナーシップの拡張、第2世代となる学習用AIアクセラレータであるTrainium2を発表したことにも触れた。

 また、Annapurna Labsの半導体技術をAWSのコア技術として活用して、EC2で提供していることを紹介。EC2上のワークロードを最良のコスト性能で実行するAWS Graviton Processor、機械学習の学習と推論を高性能かつ低コストで実現するための専用アクセラレータであるInferentiaおよびTrainiumを開発していることを示しながら、AWSジャパン 執行役員 技術統括本部長の巨勢泰宏氏は、「特にGravitonは、エネルギー消費量の低減や、コストパフォーマンスの最適化を提供する汎用的なコンピューティングサービスとして、2018年から提供を開始しており、EC2では、150以上のGravitonベースのインスタンスを提供している。全世界で5万社以上に利用されており、SAPでは、HANAのサービス提供において。このインフラを活用し、プライスパフォーマンスを35%向上し、カーボンフットプリントを45%削減した」とした。

学習・推論用の第2世代のAIアクセラレーター
AWSジャパン 執行役員 技術統括本部長の巨勢泰宏氏

 さらに、2023年11月に米国ラスベガスで開催された同社年次イベント「AWS re:Invent 2023」で発表されたGraviton4について説明。Graviton3と比較して、最大30%高い計算能力やコア数を50%拡張し、75%高速なメモリ帯域を実現。データベースでは約40%、Webアプリケーションでは約30%の高速化を達成していることを示した。

カスタムチップの開発の成果をさらに進捗

 また、新たな衛星通信サービスとなる「project kuiper」についても説明。3236基の低軌道衛星を使用し、地球上のあらゆる場所に、高速で、安価なブロードバンドを提供することになるという。2023年10月には、2基のプロトタイプを打ち上げて、テストに成功。2026年までに計画の約50%の通信衛星を運用することになるとした。さらに、AWSとプライベートに接続するPrivate connectivity to AWSの試験運用を2024年後半から開始するほか、NTTおよびスカパーJSATとの戦略的協業により、高度な衛星ブロードバンドサービスを日本の企業や政府、自治体に提供できるとした。

project kuiper

 なお会見では、初代デジタル大臣である平井卓也衆議院議員が登壇した。

 平井衆議院議員は、「クラウドバイデフォルトの方針は、ロシアによるウクライナ侵攻によって正しいと感じた。オンプレミスのままであったら、ウクライナは国家として立ち上がることは不可能であった。直前に法律を改正し、すべてをクラウドにあげたことで、データは難を逃れ、国民のために使えるようになった。災害時のBCPでも同様のことが考えられる」と前置き。

 「日本の自治体でも、庁舎のなかにデータを置いているケースが多いが、データをクラウドに持っていくのは間違いがない方針になる。ガバメントクラウドは、日本にとって最大の行政改革プロジェクトになり、これがいまスタートしているところである。ハードルはあるが国家として乗り切らなくてはならない。かつての日本における最重要インフラは道路などであったが、いまは、ネットワークとデータセンターである」と指摘した。

 そして「だが能登半島地震では、ネットワークを使ったリカバリーができているとは言えない。通信が分断され、放送も駄目であり、役に立ったのはStarlinkだけであった。災害時における情報共有のために、考えていく必要がある。これは、災害時の整備のために取り組むべき宿題である」と提言した。

 さらに、「サイバー攻撃に対して強靭なデータセンターであるためには、クラウド事業者には、常に投資をしてもらわなくてはならない。最先端のセキュリティを備えたものでなくてはならない」とし、「安全なクラウド環境がないとAIも動かない。今回のAWSの日本への長期的投資を大歓迎する。日本は先進国でありながらも、デジタル分野ではもっとも伸びしろがある。だからAWSは投資を決めたのだろう。それにあわせた日本の政策が進めば、デフレから脱却し、日本が成長軌道に乗るだろう」と語った。

 また、自民党では独自のAIを活用し、広報活動などに利用していることや、政府では、2024年2月にも、AI Safety Instituteを発足させ、技術的観点からの監査および開発者や提供者、利用者に対するチェック、啓もうなどを行うことにも言及した。

平井卓也衆議院議員