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HPE日本法人が事業方針を説明、“第三極のクラウドプラットフォーム”提供へ
2023年12月7日 06:15
日本ヒューレット・パッカード合同会社(以下、HPE)は、2023年11月からスタートした同社2024年度(2023年11月~2024年10月)の事業方針を発表。「Leading Edge-to-Cloud Company」を掲げるとともに、それを実現する施策として「Journey to One」を打ち出した。
HPEの望月弘一社長は、「これまでにもEdge-to-Cloud Companyを掲げてきたが、さらに幅広いテクノロジーによって、この分野のリーダーを狙うことを新たに示した。ハイブリッドクラウド管理を提供し、HPE GreenLakeを拡充することで、あらゆるベンダーの製品やさまざまなクラウドサービスを、ベンダーニュートラルおよびクラウドニュートラルによって実現し、オンプレミスとパブリッククラウドのいいところを取り込んだ第三極のクラウドプラットフォームを提供する。これがHPE GreenLakeの特徴になる。お客さまのビジネス変革を支援し、ITの観点から持続可能な社会への貢献を果たす」との方針を示した。
HPEでは、過去1年間に渡って戦略的なM&Aを実行した経緯があり、これによって、Edge-to-Cloud Companyのリーダーとしての立場を強固できると考えている。
例えば、ハイブリッドクラウド環境を最適化する管理プラットフォームのOpsRamp、統一したSASE環境を実現するAxis Security、ローカル5Gを実現するAthonet、AIモデルの開発、訓練を行うプロセスを自動化し、管理するPachyderm、ソフトウェアディファインドサーバーを提案するTidalScaleなどを買収した。
望月社長は、「エッジやハイブリッドクラウド、AIといったこれまでの事業の範囲が広がる。例えば、SASEやローカル5Gなどが加わったことで、エッジの領域におけるHPEが提案可能な領域は1.5倍に拡大した。また、あらゆるハードウェアベンダーのサーバーを一元的に管理することで、真のハイブリッドクラウド管理を実現。ハイブリッドクラウドの事業領域は1.6倍に広がる。さらにAIでは、世界最速のスーパーコンピュータであるFrontierのノウハウを活用し、AIワークロードに特化した共通のプラットフォームを提供できるほか、M&Aによる事業の広がりを加えることで、AIの事業範囲は2倍に拡張する」などと述べた。
「エッジソリューション」では、HPE GreenLake Private Cloud Business EditionやHPE Edgelineによるエッジインフラの提供、HPE GreenLake Central/AI Platform、OpsRampによる分散環境の管理、AthonetやAxis Security、HPE GreenLake Network as s Serviceによるコネクティビティを提供することができると説明。
「ハイブリッドクラウドソリューション」ではHPE GreenLake Compute Ops Management、同Data Services Cloud Console、同Aruba Central、OpsRampによるマルチ環境管理、HPE GreenLake CentralやHPE GreenLake Private Cloud Enterprise、HPE GreenLake Sustainability Dashboardによるオンプレミスおよびクラウドのランニングコストの改善、HPE GreenLake Backup & Recoveryおよび同Disaster Recovery、HPE Managed Service、Zertoによるレジリエンシーの実現を挙げた。
さらに「AIソリューション」では、HPE Ezmeral、HPE ProLiant Gen11、Optimized for AIによるEnterprise AIの提供、HPE Machine Learning Development EnvironmentやSupercomputing solution for generative AIによるAI at scaleの支援に加えて、HPE ServicesやHPE GreenLakeの提供、HP Labを通じたAIに関する研究成果やAI人材を活用した経験と知見を提供できるとした。
「企業の検討ポイントから出てくるITに対する期待値や要件を、お客さまと会話しながら、設計、デザイン、構築、運用までを支援できるのがHPEの強みである。日本法人の社員の半分はサービスデリバリーの担当であり、これもユニークな強みになる。さらに、HPE GreenLake Edge-to-Cloud Platformで提供する機能は、APIを通じて、パートナーやデベロッパーにも提供することができる点も大きな特徴になる」などと述べた。
一方、日本ヒューレット・パッカードの2004年度の施策として打ち出した「Journey to One」では、「Edge-to-Cloud Platformの拡充」、「購買特性や購買サイクルに合わせたエンゲージメント強化」、「パートナリングの革新と拡大」の3点を挙げた。
「Edge-to-Cloud Platformの拡充」では、以前から提供しているオンプレミス領域における「Enterprise Infrastructure」に引き続き注力しながら、すべての製品をサービスとして提供する「Everything as a Service」、マルチクラウド管理の実現や、パッケージ型プライベートクラウドの提供による「Cloud Experience」を進化させていくという。
「Everything as a Serviceにおいては、2018年にすべての製品をサービスとして提供すると宣言し、それを達成。お客さま固有の環境をas a Service化することに取り組んできた。2022年にはそれが第2章に入ると位置づけ、Advance your cloud experienceのメッセージとともに、HPE GreenLakeを拡充してきた。2024年度は、ベンダーニュートラル、クラウドニュートラルを、現実のものとして提供する1年になる。これによって、お客さまをベンダーロックインから救いたい」と語った。
「購買特性や購買サイクルに合わせたエンゲージメント強化」では、顧客に最適なサービスやプロダクトを提案するスペシャリティサービスの陣容を大幅に拡大。また、HPE GreenLakeユーザーやテクニカルバイヤー向けに、コミュニティ活動をそれぞれ開始する。
「購買特性や購買サイクルに合わせたエンゲージメント強化については、1年前にも言及した。IT業界には、課題の洗い出しやソリューションの設計、構築、運用を行い、顧客に伴走するソリューションバイヤーと、必要なハードウェアとソフトウェアを手軽に、効率的に提供してもらい、自分たちで設計、構築、運用のすべてを行うテクニカルバイヤーがいる。HPEでは、前年度に、それぞれに特化した営業体制を確立し、利用状況にあわせてプロアクティブに情報提供と提案を行う組織を設置した。2024年度は、この体制をさらに拡張することになり、サーバーやストレージ、HPE GreenLakeのスペシャリストを増員するとともに、HPE GreenLakeの新機能に関する情報を能動的に提供し、顧客同士が課題を含めて、情報を共有できる場も用意する」とした。
「パートナリングの革新と拡大」においては、Journey to One with Partnerという方針を打ち出す一方、「パートナリングの深耕と開拓」として、2023年11月からスタートしたHPE GreenLakeを中心としたパートナー向けプログラム「Partner Ready Vantage」の活用と、新規パートナリングのための体制を整備に。さらに、HPE GreenLake PlatformのAPI公開により、パートナーが持つマネージドサービスとの連携を強化する「プラットフォームの解放」、パートナー向けコミュニティの発展に加えて、パートナーとともに構築するコミュニティを通じた活動を強化する「コミュニティの進化」を挙げた。
「日本ヒューレット・パッカードの社員全員が同じ方向にむかうことを目指した施策がJourney to Oneとなる。さらに、社員エンゲージメントを高めるDEI施策に力を注いでおり、VISION 30を通じて、2030年までに、誰もが個性を生かして活躍し、自己と組織と社会を成長、進化させる企業になることを目指す」と語った。
HPEの2023年10月期決算
HPEの2023年10月期決算についても総括。「売上高、利益とも好調であり、かねて注力しているHPE GreenLakeやIntelligent Edge、HPCおよびAIなど、戦略的に伸ばす領域が好調であった」と述べた。
グローバルでの売上高は前年比5.5%増の291億ドル、営業利益率は10.8%。HPE GreenLakeによるas a Serviceの受注総額は同23%増、HPC & AIの売上高は同25%増となり、過去最高の業績を達成した。一方で、ストレージの売上高は同1%減、コンピュート(サーバー)は同7%減となった。
日本においては、Edge-to-Cloud Companyに関する公開可能な導入事例として、過去1年間で約40件の実績が生まれているという。また、日本におけるHPE GreenLakeの構成比は昨年の段階では約2割だったが、この比率が高まっていることを示しながら、「オンプレミス環境をクラウド的に使いたいという要望が依然として強い。年間5割、6割増という勢いで成長している。HPE GreenLakeは、従来のオンプレミスの成長率の数倍の勢いで伸ばし続けたいと考えており、サチュレーションはしない。3年後に25%や30%の構成比になると可能性がある。お客さまの期待に応えるべく、比率を上げていく」と語った。
ITプラットフォームの潮流
また、ITプラットフォームの3つの潮流についても触れた。
ひとつめは「ITへの期待の変化」である。「サーバー市場の約9割をx86サーバーが占め、アプリケーションがサーバーの種類を問う時代は終わった。だが、2030年のテータセンターの電力消費は15倍に拡大するとの予測がある。プラットフォームに対する消費電力が、新たに評価の対象になってきた」とする。
2つめが、「一貫性があるクラウド体験」だ。「全世界で生成されるデータ量は今後3年で2倍に達し、そのうちの60%がエッジで生成される。また、DXやデータ駆動型ビジネス用途が進み、クラウド利用がさらに進展する。そのなかで、一貫したクラウド体験を求めている」と指摘した。
3つめが「急激なIoT/AIの浸透」である。「AIの浸透度合いが企業の戦略を変化させ、進化させ、競合優位性に大きな影響を与える時代がやってくる」と述べた。
東京電力ホールディングスの事例
会見では、東京電力ホールディングス 常務執行役 最高情報責任者(CIO)兼最高情報セキュリティ責任者(CISO)の関知道氏が、「TEPCO DX」について説明。HPE Ezmeralソリューションを中心とした「TEPCO Data Hub」や、稼働インフラである「TEPcube」に触れた。
「東京電力は、電力の安定供給とカーボンニュートラルを両立する事業構造改革に取り組んでいる。それを推進する方策のひとつがTEPCO DXである。徹底的なデータ化により、ゼロカーボンエネルギー社会の実現を牽引することになる。地球温暖化や激甚化する気象変動を抑止し、生物多様性を維持し、社会の信頼を得ることにつなげたい」と語った。
徹底的なデータ化によって、業務プロセス価値とステイクホルダー価値を創出。電力の安定供給においてもデータを活用し、改善を繰り返し、電力のワンストップモデルを実現するという。さらに、カーボンニュートラルを実現するためのソリューションをパートナーとともに提供するトランジションパートナーモデルを確立することを目指しており、それらのベースになるのが、Zero Carbon Energy Data Hubと位置づけた。
Zero Carbon Energy Data Hubは、HPE Ezmeralで実装したTEPCO Data Hubが重要な役割を果たす。ここでは、2800万件の顧客、600万本の電柱、1万5000kmの送電線に関するデータを収集。これに加えて、3万人の社員が持つ知識も活用していくという。
「TEPCO Data Hubでは、大量のデータを高速に処理できること、需要インフラ事業者として求められる可用性やセキュリティを実現できること、DXによるパートナーとの新たなビジネスの創出におけるデータ活用に適していること、イニシャルコストが低く、スケールできること、OSSをベースに構築しながら安定稼働をさせたいといった厳しい要件を出した。もっともいい提案をしたのがHPEであった」と振り返る。
テプコシステムズのクラウド環境「TEPcube」で運用。PaaSレイヤーでは、HPE Ezmeral Data Fabricにおいて、大量データの加工や検索を可能にし、HPE Ezmeral Runtime Enterpriseではコンテナベースで、アジャイルなトライアルをパートナーとともに行えるデータ分析環境を実現した。IaaSレイヤーでは、HPEのサーバー、ストレージ、ネットワーク製品を採用。保守運用はHPEに委託し、システム全体を月額課金方式のHPE GreenLakeによって稼働させているという。
「HPEのエンジニアが、インフラ部門に入り、プロジェクトをリードし、数週間かかるものが数日で稼働した。比較対象のベンダーの提案に比べて、パフォーマンスは10倍速かった。安心して使うことができた」と述べた。