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freee、従業員数人の小規模企業が使えるクラウドERP「freee統合型ERP」を提供開始

 freee株式会社は24日、従業員数2人~5人程度の小規模企業でも利用できるクラウド型統合ERP「freee統合型ERP」を提供開始すると発表した。当初は、商品在庫を持たないIT企業や、コンサルティングビジネスなど無形商材を行う企業をターゲットに販売を開始する。なお、有形商材を扱う(在庫を持つ)企業向け製品の開発にも着手しており、今後発売する計画となっている。

 長らく、ERPは大規模企業向け製品とされてきたが、カスタマイズを行わないパッケージ製品ということで、低価格で短期間に導入可能という。価格は導入企業ごとに応相談だが、数十万円から数百万円となる見込みで、導入するために数億円から数十億円がかかる大企業向けERPに比べて、極端な低価格となる。

freee統合型ERPで実現すること

 導入に必要なサポートも行い、既存のfreee製品のユーザー、他社製品のユーザーの両方をターゲットに販売を行っていく計画としている。

 freee チーフプロダクトオフィサー(CPO)の東後澄人氏は、「中小企業では、経理や会計のソフトは導入しているものの、紙や表計算ソフトを使って保管作業することが必須となり、システム化が十分ではない。その結果、生産性で2倍近い差が生まれる。さらに、正確な経営情報が見えない、与信が通らず資金調達が難しいといった課題があるが、今回提供するfreee統合型ERPは、利用してもらうことでこれらの課題を乗り越えてもらえるものとしたい」と、製品投入の狙いを説明した。

freee チーフプロダクトオフィサーの東後澄人氏

 freeeでは、「統合型経営プラットフォーム」の実現を目標に掲げ、企業経営に関わるソリューションを提供してきた。freee統合型ERPは、その目標を具現化したもので、これまで単品で提供されてきた「freee会計」、「freee人事労務」、「freee販売」がシームレスに連携。これまで、中小企業が手作業や表計算で行ってきた案件管理、案件別経費管理などの作業を、ERP内ですべて済ませることができる。データの再入力などの手間がなくなる上、入力間違えといったトラブルを抑えることも可能だ。

統合基幹業務システム「ERP」の存在

 具体的な導入効果として、3つの改善例が紹介された。

 1つ目は、「案件原価の可視化 ~人件費を含めた粗利計算~」。今回提供が始まった最初の製品は、ITビジネスやコンサルティング業務など、有形在庫を持たずに無形商材を提供する受託型・請負型ビジネスを展開する企業向けとなっているが、ITサービス開発を行う企業の場合、エンジニアが受注した案件に対し、プログラミングなどの作業を行って納品をすることになる。

 やり方としては、すべて自社で行うケースもあれば、外注先に発注し製作してもらうという2つがあるが、いずれの場合にも当然お金がかかる。社内制作であれば給与を支払う必要があり、外注であれば発注した分の金額を払う必要がある。人件費も含めその案件の原価が算出されるわけだが、案件ごとに原価が可視化されていれば、その後の粗利計算も容易になり、赤字・黒字といったことが把握できるようになる。

 また工数管理として、自社の従業員が「どんな作業に」「どれくらいの時間を使ったか」などを把握することが必要となる。

 「今までは外部発注による請求額と、社内制作のものを連携させて案件原価を可視化することができなかったが、新製品では外注、内部制作を連携させて、結局いくら制作コストがかかったのか、一元的に案件原価を可視化できるようになった。従来よりも、その案件が赤字なのか、黒字なのかを早期に把握できるようになる」(freee 債権販売プロダクトCEOの佐藤顕範氏)。

原価と工数の連携による「案件原価の可視化」
freee 債権販売プロダクトCEOの佐藤顕範氏

 2点目は、「案件別の収支管理 ~立替経費を含めた粗利計算~」。従業員が立て替えた旅費・交通費、接待交際費など経費精算が必要なものについても、freee入出金管理の中にある経費精算機能を利用することで、各スタッフの経費精算が完了する。「紙やハンコを使うことなく経費精算が完了するので、手間がかからない上、発生件数が多く集計が難しかった原価や利益の状況を早期に把握できるようになる」(佐藤氏)。

売上・入金情報の連携による「案件別の収支管理」

 3点目は「入出金管理」。通常、入金管理は経理担当者が会計ソフトを使って作業をすることから、その案件の営業担当者が入金を確認するためには、経理担当者に問い合わせを行うことになる。新製品は、会計ソフトと販売管理ソフトが連携していることから、販売ソフトに売上を登録すると、会計ソフトには自動的に売上分の仕訳が登録される。登録された売上データが入金されたのか否かは、販売ソフトから確認できるので、営業担当者は入金、未入金を自ら確認できるようになる。

 「営業担当者自身が確認できることで、経理担当者と行ってきた余分なコミュニケーションコストを削減することができる」(佐藤氏)。

社内外の支払い・請求連携「入出金管理」

 ソフトを使って業務効率化、状況把握が即座にできることで、これまで対応が遅れていた小規模法人の改善につながる。

 「従業員数が5人以内の小規模法人にスコープを当ててみると、80%程度が紙、表計算ソフトを使ってバックオフィス業務をこなしている。その結果、ERPを使っている大企業と比べると生産性に2倍近い差がある」(東後CPO)。

 中小企業庁の「中小企業白書」によれば、小規模企業の労働生産性540万円に対し、大企業は1099万で、約2倍の差があるというのだ。また、利益が出ているにもかかわらず必要経費を支払う資金がショートする「黒字倒産」してしまう企業も多いのが実態とする。

 そして、これらの原因を、紙や表計算ソフトが欠かせないなどシステム化が十分ではないこと、正確な経営情報が見えていないこと、与信が通らないために資金調達が難しくなるといった3点と指摘する。

スモールビジネスでは、紙・表計算ソフトに依存したオペレーションとなっている
スモールビジネスと大企業の生産性には大きな差がある
大企業とここまで差が開く主な要因

 ところが、「大企業がこうした課題を解消する手段の1つがERPの活用。企業の経営資源である人・物・金に関わる情報を一元的に1つのプラットフォーム上で管理し、可視化することで生産性向上、課題の可視化といった企業の課題を明らかにする。小規模企業でもERP導入ができればということになるが、ERPは大企業が数十億円、最低でも数億円かけて導入するもので、小規模企業導入は現実的ではないのが実情だった」(東後CPO)とし、小規模企業は解決が難しい背景があったと指摘する。

 今回、Freeeでは、導入コストがかかるカスタマイズに対応しないことで、小規模企業でも導入可能な、数十万円から数百万円という低コストを実現した。製品の仕様的には数千人規模でも利用可能だが、カスタマイズに対応しないことから、小規模企業の導入がメインとなる見込みだという。

 また、契約書管理に利用できる「freeeサイン」をあわせて導入することで、人事労務上で雇用契約書の作成、送付、確認作業が可能となる。さらに、企業向けクレジットカード「freeeカードUnlimited」をあわせて導入することで、カードの利用明細が当日中に会計データと連係し、月次決算をタイムリーに実施することが可能となると、そのメリットを説明している。