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SAP、中堅・中小向けテーラーメイド型クラウドERP「GROW with SAP」を国内で提供開始
業界ごとのベストプラクティスなどを含め、事前設定済みの状態で提供
2023年7月13日 06:15
SAPジャパン株式会社は12日、中堅・中小企業向けのクラウド(SaaS型)ERPのオファリング「GROW with SAP」の国内提供開始を発表した。グローバルでは4月に発表されたもので、それを国内で提供開始する。
GROW with SAPは、クラウドERP「SAP S/4HANA Cloud, public edition」を中心に、業界ごとのベストプラクティスなどを含め、導入と稼働のためのサービスやソリューション、ノウハウなどを1つにまとめ、事前設定済みの状態で提供するもの。最短4週間で環境を構築できるという。
拡張プラットフォームの「SAP Business Technology Platform(SAP Build)」、導入と活用の方法論とツールを集めた「SAP Activate」、計画された期間と価格での立ち上げと稼働を実現する「Packaged Activation Services」、ラーニングなどが含まれる。
同時に、国内ですでにGROW with SAPを導入した先行事例として、NKKスイッチズ株式会社が基幹システム基盤として採用したことも発表された。
クラウドERPに、業界ベストプラクティスや導入の方法論、ラーニングなどをまとめて提供
同日開催された記者会見で、SAP (UK) Ltd.のグローバルバイスプレジデント Head of SAP S/4HANA Public Cloud Solution Managementのジョナサン・ロウズ氏は、GROW with SAPに含まれる要素を、「ソリューションコンポーネント」「定着化および加速化のためのサービス」「コミュニティとラーニング」の3カテゴリーに分類して説明した。
まず「ソリューションコンポーネント」。中核になるのは前述のとおり、クラウドERPのSAP S/4HANA Cloud, public editionだ。
その裏にあるのがSAPの50年間の経験にもとづくベストプラクティスだとロウズ氏は言う。これが事前設定されたFit to Standard(標準に合わせる)アプローチで提供するとことで、そのまま簡単に起動させることができるという。一方で、ベストプラクティスより進んだイノベーションについては、「SAP Business Technology Platform(SAP Build)」で拡張して実現できる。
「定着化および加速化のためのサービス」としては、導入と活用のツールと方法論を集めた「SAP Activate」、計画された期間と価格での立ち上げと稼働を実現する「Packaged Activation Services」、それらを実現するエコシステムが用意される。
「コミュニティとラーニング」では、常に最新のリリースが提供されるSaaSの特徴を利用するために、ラーニングやコミュニティのガイダンスが提供される。
クラウドERPの導入と活用のノウハウをつめこんだ方法論とツールを提供
続いてSAPジャパン株式会社のエンタープライズクラウド事業本部 S/4HANA Public Cloud事業部 事業部長の阿部洋介氏が、GROW with SAPの要素の中からポイントを解説した。
スタンダードな業務プロセスを提供することで限られた人数での導入や運用を実現
阿部氏が「特に強調したい点」として取り上げたのが「SAP Activate」だ。クラウドERPの導入と活用のノウハウをつめこんだ方法論と各種ツールを提供する。「これがあることにより、中小企業が限られた人数でのシステム導入や運用を実現することが可能」と阿部氏は言う。「SAPはさまざまな業種の顧客とともに基幹システムを作ってきた。そのノウハウをもとにSAP Activateという導入方法論を開発した」(阿部氏)。
SAPは「Fit to Standard」という言葉を掲げている。SAP Activateでは、導入後のスタンダードな業務プロセスを提供することも重要だと考えているという。これは「SAP Best Practice」と名付けられており、SaaS型ERPに最適化した700を超える業務プロセスを“スコープアイテム”として公開している。顧客は検討する段階でスコープアイテムを事前に確認することで、各業務単位でどのようなビジネスプロセスが動くかを確認できるという。
SAP Activateではツールも各種用意される。阿部氏はその中から、定期的なバージョンアップの影響範囲を自動で確認するツールや、テストの自動化ツールなどを紹介した。
GROW with SAPの認定パートナー制度も開始予定
次に阿部氏は、日本市場での展開において重要なものとして、パートナーエコシステムを取り上げた。
パートナーエコシステムでは、SAPからの情報提供だけでなく、パートナー間の情報提供といった双方向なコミュニティのためのクローズドSNSをパートナーに提供する。ノウハウの勉強会なども実施する。
また、パートナーを認定する「GROW with SAP認定パートナー制度」を2023年度後期に予定していることも阿部氏は明らかにした。
「スタートアップ支援を日本でも展開したい」
加えて、スタートアップ企業向けの特別プログラム「Grow with SAP for Scaleups」も阿部氏は紹介した。
まずSAPソリューションの提供として、SAP Cloud製品最大6か月間の無償期間の提供、「S/4HANA Cloud Public edition」の導入支援、活用方法等の支援を実施する。
さらにスタートアップ企業のビジネス面にも、SAP既存顧客とのオープンネットワークなどの支援を行う。
Grow with SAP for Scaleupsはヨーロッパでは2022年からスタートしており、「日本でもこれからプログラムを展開したい」と阿部氏は語った。
NKKスイッチズ、業務の標準化を目指してGROW with SAPを導入
NKKスイッチズの事例については、実際に構築をしたSAPのパートナーである株式会社アイ・ピー・エス(IPS)の常務執行役員 SAPサービス事業部 事業部長の赤松洋氏が紹介した。
NKKスイッチズは、産業用機器におけるスイッチおよびその周辺機器の製造・販売を行う企業だ。グローバルで製造・販売を展開し、今日では半分以上のシェアを占めるという。
同社ではこれまでいくつかのベンダーのERPパッケージを使ってきて、今回SAPを採用した。対象範囲は、グループ全体のサプライチェーンと財務会計・管理会計など会社全体の業務に及び、対象となる組織も5か国8法人にわたる。こうした中で、業務やマネジメントの複雑化、業務の非効率が問題になってきていた。また、サプライチェーンが国をまたがっているため、運用や管理会計がどうしても難しくなる。
そこで、会社全体の業務を見直して標準化と効率化をはかるために、GROW with SAPを採用した。
GROW with SAPを選択したポイントとしては、まず「グローバル」がある。標準的で国際対応力のあるベストプラクティスが、業務標準化のひな型として有効と考えた。
また「継続性」として、長期的なサポートや、SaaSによりシステムが継続的にアップデートされること、それによる新しい技術や法令への対応が挙げられた。
なお、導入にあたっては10社以上の国内外のパッケージを比較。いずれの項目もSAPが優位となり、費用については短期的にSAPが高額になるものもあったが長期的なTCOではSAPが優位だったと赤松氏は語った。
導入についてはIPSが伴走。Fit to Standardのとおり、Standardにあわせて業務を標準化していくのを、業務とシステムの両面から行った、と赤松氏は報告した。