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東北大学と富士通、ウェルビーイング社会の実現に向け、医療環境のデジタルツイン開発などで提携

 国立大学法人東北大学と富士通株式会社は26日、身体的・精神的・社会的、3つの側面において良好な状態にあることを意味する概念である「ウェルビーイング」社会の実現を目指す戦略提携に合意したと発表した。

 提携では、東北大学病院が企業の専門家を加えて、同院の高度医療、先進医療に関する知見、デザイン思考を取り入れ、現場観察からニーズを探索するプログラムASU(Academic Science Unit)、医療者とともにコンセプトやプロトタイプを検証する実証フィールドOBL(OPEN BED Lab)と、富士通の最先端テクノロジーや研究開発機能、富士通Japan株式会社が提供する電子カルテシステムをはじめとするヘルスケアインフラ環境や業務ノウハウを融合し、共同研究に取り組む。

 両者は、国民一人ひとりが自身の目指す健康像に向けて自律的に健康増進や病気の予防に取り組むとともに、地域全体がさまざまな医療やサービスを有機的に提供することで、運動不足や栄養低下などの連鎖により健康状態が悪くなるフレイルスパイラルの防止や、早期治療の促進につなげていく。これに向けて、予防および治療のシミュレーションを可視化するヘルスケア領域におけるデジタルツインや、電子カルテの診療データ(EMR:Electric Medical Record)や、PHR(Personal Health Record)などのヘルスケアデータから、病気の発症や重症化を予測するAIを新たに開発するなど、共同研究を開始する。

 患者への最適な医療提供を支えるデジタルツインとしては、患者の診療データや各種の検査機器、ウェアラブルデバイスなどから得られる情報をもとに、デジタルツイン上に患者像を再現する。そこに日々蓄積される多様なリアルタイムデータが反映されることで、医師は、患者の病状をより正確かつ迅速に把握することが可能になり、個々の患者に対して最適な治療法や投薬計画、手術方針などを医師が判断する際の意思決定を支援する。

 病院経営を支援するデジタルツインとしては、電子カルテシステムに蓄積された診療データに加え、病院スタッフの人事情報や勤務情報、財務情報、医療機器の稼働状況などの情報をデジタルツインに統合することで、病床のリアルタイムな稼働状況の把握と将来のシミュレーションを可能にする。これにより、病院の日々のオペレーションやリソースの最適化、手術室などの医療施設の稼働率向上を実現する。

 地域住民の健康増進や病気の予防を促進するデジタルツインとしては、人生100年時代に即した生活者一人ひとりの健康的なライフスタイルの実現に向け、病歴や健診結果、日々の生活をもとに将来の健康状態を予測・可視化し、地域住民などへ情報提供を行うためのデジタルツインを開発する。さらに、本デジタルツインを活用し、自治体や健康保険組合と連携のもと、地域住民全体の健康増進や病気の予防に対する行動変容を促進するとともに、国民医療費削減に寄与する仕組みづくりを推進する。

 さらに、疾患の可能性を示す微小な異変を診療データから検知するAIモデルの開発を進め、医療現場における効率的な診断支援を実現する。個人の日々の生活における食事や運動などのヘルスケアデータにもAIモデルを応用し、AIが健康状態の変化を検知して個人に知らせることで医療機関の早期受診を促すなど、一人ひとりの自律的な行動変容につなげ、重症化防止に貢献していくことを目指す。

 AIモデルの開発にあたっては、東北大学病院が蓄積してきた診療データと、同病院による高度な専門医や、デザイン思考によってニーズ探索から事業化までをつなぐビジネスリエゾン人材などによるアドバイスと、富士通のAI技術を活用する。

 また、リアルワールドデータ活用に向けた基盤整備とデータアナリティクス手法の開発も進める。さまざまなデータ形式で存在している、大量の診療データや健診情報および日常生活のライフログを分析するため、新たなデータ基盤の整備を推進するとともに、そこに集約されたデータを分析可能なデータに構造化して解析する、社会課題解決に向けたデータアナリティクス手法を新たに開発する。

 整備したデータ基盤を製薬会社、保険会社などさまざまなヘルスケア関連企業に活用してもらうことで、新たな医療サービスや製品の創出につなげ、そこから得られた知見を病院や個人に還元していくデータ循環型エコシステムの実現を目指す。

 共同研究で開発した技術の社会実装に向けては、東北大学と富士通の双方間での人材出向や、研究・開発施設の相互利用、東北大学のインターンによる現場考察を実践するとともに、東北大学病院が保有するASUを積極的に活用し、デザイン思考を取り入れた新たな医療サービスの開発を推進する。

 これにより、従来の技術や性能の向上を中心としたものづくりから脱却し、多様化した個人の価値観を起点とした人間中心の体験づくり(エクスペリエンスデザイン)を目指すと説明。さらに、医療知識とデジタル技術のスキルを兼ね備えた、次世代のデータサイエンティストやAIエンジニアなど、世界で活躍する次世代の多様な人材を育成し、ヘルスケア領域における新たなイノベーションを実現するとしている。