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富士通、ヘルスケア特化型AIエージェントを活用できる基盤を構築
2025年8月28日 11:04
富士通株式会社は27日、社会課題の解決を目指す事業モデル「Fujitsu Uvance」の「Healthy Living Platform」上に、ヘルスケアに特化したAIエージェントの実行基盤を構築したと発表した。
「Fujitsu Uvanceは、データとAIを活用して高度な意思決定を実現し、ビジネスインパクトとソーシャルインパクトを両立することを目指している。今回挑むのは、持続可能性の危機に直面している日本の医療だ」と話すのは、富士通 執行役員常務 グローバルソリューション(ソーシャルソリューション&テクノロジーサービス担当)の大塚尚子氏だ。
「日本の医療は、医療費の増加や財政赤字、医療従事者の過重労働など、深刻な課題を抱えている。その要因のひとつは、複雑で属人化した医療業務オペレーションにある。この部分をデータとAIで簡素化することで、医療機関の経営変革と日本の医療の持続可能性向上につながると考え、ヘルスケア業界で安全かつ効率的にAIを活用できる基盤を構築した」と、大塚氏は今回の取り組みについて説明した。
また、富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 Healthy Living事業部 事業部長の荒木達樹氏は、「医療業務オペレーションを改革するには、具体的な指示がなくとも、医療従事者に代わって状況を正しく認識し、必要なタスクをこなしていく代理人のような存在が必要となる。それがAIエージェントだ」と語る。ヘルスケアに特化したAIエージェントが、信頼性の高い基盤の上で医療提供体制の持続可能化に取り組んでいくというのが、富士通が作ろうとしている世界だという。
富士通では、長年にわたる医療情報システムの提供を通じて医療業務オペレーションについての知見を蓄積しており、「その知見をベースに、ヘルスケア領域のAIエージェントが実装できる基盤をHealthy Living Platform上に構築する」と荒木氏。同基盤にて、データの構造化を担うAIエージェントや、相互運用監視を行うAIエージェント、さらには業務特化型のAIエージェントが連携、それら全体を管理するオーケストレーターAIエージェントを実装する。荒木氏は、「この基盤を国内外のパートナーに提供することで、より多様なAIエージェントをいち早く社会実装し、広範かつ迅速に医療業務オペレーションの変革を進める」としている。
このように、ヘルスケア領域で複数のAIエージェントが連携することになるが、「その中核となるのが、司令塔の役割を果たすオーケストレーターAIエージェントだ」と、富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 Healthy Living事業部 Digital Health PFグループシニアディレクターの勝田江朗氏は話す。
オーケストレーターAIエージェントには、患者情報や医療業務のデータをもとに、問診や診療科の分類など、専門的なスキルが必要な作業に最適なAIエージェントを自動で選んで動かす高度な仕組みが装備されている。こうした複数のAIエージェントがスムーズに動作するには、基になるデータが整備されている必要があるが、「今回構築した基盤では、カルテなどの膨大な自由記述の情報を、AIが活用できる形式に変換するデータの構造化が可能なほか、個人情報の取り扱いをはじめとするコンプライアンス対応、安全に利用するためのセキュリティ対策、そして異なるシステム間でデータをやり取りできる相互運用性が備わっている」と勝田氏は説明する。
「これは、単なるシステム開発の技術だけでなく、医療現場で専門職が行う業務の内容や、そこで扱われる情報のつながりを理解している富士通だからこそ実現できたものだ。今後もこの強みを生かしながら、ヘルスケア分野におけるAIエージェントの実装に取り組みたい」と勝田氏は述べている。
富士通では、2025年中に、先端的な取り組みを進める医療機関やパートナー企業とともに、ヘルスケアオーケストレーターAIエージェントの有効性の検証と、具体的な業種特化型AIエージェントの開発および事業化を進めるという。
なお、今回発表した基盤はエヌビディア合同会社の支援によって構築した。発表会では、エヌビディア エンタープライズ事業本部 事業本部長の井﨑武士氏も登壇し、「これまで富士通とは長期間協業関係にあった。今年はAIエージェント元年とも言われており、今後さまざまなエージェントが横連携し、複数のツールを活用しながら自律的に意思決定を行うようになるだろう。この流れがさらにフィジカルAIへとつながっていく中で、エージェント技術は非常に重要な役割を担うことになる。富士通とは、今後の協力関係も含め、共に新しい未来を構築していきたい」と述べた。