大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

日立、Lumada 3.0の加速に向け2026年4月から新体制 フィジカルAIとHMAXを軸にグローバル成長を狙う
2026年2月9日 06:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は、Lumada 3.0の加速に向けて2026年4月1日から新体制を敷く。
今回の新体制では2つの柱がポイントだ。
1つ目は、デジタルシステム&サービス(DSS)セクターの体制強化である。GlobalLogicと日立デジタルソリューションズのオペレーション統合など、日立グループ全体のデジタル化を推進するDSSの役割を強化し、Lumada 3.0のグローバル成長を加速させる体制を敷く。
2つ目は、日立が注力するフィジカルAIの強化に向けた体制の刷新だ。コネクティブインダストリーズ(以下、CI)セクターの中に、3つのビジネスユニット(BU)を新設し、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業を推進することになる。OTの総本山となるCIセクターにおけるLumada体制の強化は、フィジカルAIの推進に直結するものとなる。
日立では、これらの取り組みを通じて、次世代ソリューション群である「HMAX by Hitachi」を、モビリティ、エナジー、CIの各事業領域に展開しながら、グローバル戦略を加速。将来の目標として掲げている「Lumada80-20」(Lumada事業を売上高構成比で80%以上、利益率では20%以上)の実現に向けた歩みを進めることになる。
本稿では、こうした日立の取り組みを詳述する。
GlobalLogicと日立デジタルサービスを統合、エンドトゥエンドのデジタル提供体制を強化
1つ目となるDSSセクターの体制強化では、CIセクターにあった産業向けDX部門をDSSセクターへ移管。社会BUと金融BUを統合したデジタルサービスBUとして一体運営を行う。これにより、エネルギーや交通、産業、通信、公共、金融といった、日立グループが対象としている社会インフラのあらゆる領域において、AIを活用したフロントエンジニアリングやデジタルサービス、ミッションクリティカルなシステムインテグレーションを提供することになる。
同BUのCEOには、これまでフロントビジネスをリードしてきた執行役専務の永野勝也氏が就き、国内市場におけるDSSセクターの成長を牽引することになる。
さらに、グローバル市場でのデリバリー体制の強化を目的に、GlobalLogicとHitachi Digital Servicesを統合する。
GlobalLogicの約3万2000人の社員、Hitachi Digital Servicesの約6000人の社員が統合された体制を構築。両社が持つデジタルエンジニアリングや、チップからクラウドに至るまでのソフトウェア開発力、AI適用技術、ミッションクリティカルなシステム構築力を融合することで、エンドトゥエンドのデジタルサービスを提供する体制を強化する。
あわせて、日立グループ内のOT、プロダクト領域との連携を強化し、自らが0番目の顧客となって製品や技術を活用する「カスタマーゼロ」での実績を活用しながら、デジタル変革と成長を包括的に支援するという。
GlobalLogicとHitachi Digital Servicesの統合後は、現GlobalLogicの社長兼CEOであるSrinivas (Srini) Shankar(スリニヴァス (スリニ)・シャンカール)氏氏が新体制を率いることになる。
また、統合後の新組織は、GlobalLogicのVelocity AIや、Hitachi Digital ServicesのHitachi Application Reliability Centers(HARC)といった強みを持つオファリングと、パートナーとのアライアンスで構成するエコシステムを通じて、「AI Factory」を確立。現場の運用に即したAIオファリングを開発して、ミッションクリティカル領域への実装および運用までをシームレスに提供する体制を構築するという。
さらに、この新たな組織がグローバル連携のハブとなり、HMAX by Hitachiの展開を加速することになるとも説明した。
CIセクターに3つのBUを新設し、産業領域における「フィジカルAI」の実装を加速
2つ目のCIセクターの体制刷新では、前述したように、Lumada 3.0の成長を加速する事業体制の強化として、3つのBUを新設する。
日立 執行役専務 CFOの加藤知巳氏は、「CIの中に3つのBUを新設することで、Lumada事業の成長戦略で掲げた注力分野に沿って括り直した。Lumadaにおけるデジタルサービス事業の成長に向けて、HMAXソリューションの投入と拡大を推進するために最適な体制にする」と、新たな組織の狙いを語る。
Lumada 3.0のデジタライズドアセットを強化するために、UPSなどの産業機器事業を集約したインダストリアルプロダクツBUを新設。日立が市場優位を構築できる産業向けプロダクトの開発と拡販に経営資源を集中し、Lumada 3.0の成長を加速するという。
また、フィジカルAIの進化をとらえ、HMAXを産業領域で強化するための新組織として、日立ハイテク、水・環境事業、インダストリアルオートメーション事業を統合したインダストリアルソリューションBUを設置する。フィジカルAIの進化をLumada 3.0のデジタルサービスの事業機会へとつなげることで、すでにモビリティやエナジー領域で導入実績があるHMAXを、産業領域において強化するのが狙いだ。新たにデジタルシステム&サービスセクターに移管する産業向けDX部門と緊密に連携することで、産業分野向けのHMAX Industryの成長を加速させる。
さらに、AI需要の急拡大を背景に成長が続くデータセンターや半導体製造などのミッションクリティカル領域における事業機会をとらえるため、ビルシステム事業のほか、空調事業を持つ日立GLS、フィールドサービス事業を持つ日立パワーソリューションズを含めた日立アーバンソリューション&サービスBUを新設する。AI需要の急拡大を背景に成長が続くデータセンターや、半導体製造などのミッションクリティカル領域での事業機会の獲得を視野に、同BU内のグループ各社が保有するケイパビリティを統合する。
また、CIセクターのCEOには、これまでCOOを務め、事業のデジタル化を牽引してきた執行役専務の網谷憲晴氏が就き、経営をリードする。
加藤CFOは、「網谷氏は、アーバンシステムBUでCIセクター初のHMAXとなったビルファシリティマネジメントのBuilMiraiの開発および市場投入を主導してきた。これまでの経験を生かして、CIセクターにおけるLumada事業戦略を推進することになる。Inspire 2027の目標達成を推進するリーダーとして最適の人事と認識している」と評価する。
経営戦略統括本部の新設とグローバル統制の強化、AX・セキュリティの高度化へ
このほか、日立では、2026年4月1日からの新体制において、コーポレートの中核機能のひとつとして全社戦略企画部門を再編している。
経営戦略統括本部を新設して、経営戦略、渉外、ブランドコミュニケーションの機能を集約するとともに、CFO配下のインベスターリレーションズ(IR)も一体運営することで、インテリジェンスの獲得、全社戦略の策定、計画、実行および経営情報のタイムリーな開示やブランドの強化までを一貫して実行する。これにより、事業環境の変化を成長機会へと転換する戦略立案機能の強化、資本効率を重視したキャピタルアロケーション施策の高度化と事業ポートフォリオ改革のさらなる推進を図るという。
また、グループ全体の渉外活動を統括するChief Government and External Relations Officer(CGRO)を新設し、執行役常務の平井裕秀氏が就任する。日立グループの全事業部門や注力市場であるグローバル6極(米州、EMEA、APAC、インド、中国、日本)との連携により、各国の動向を機動的に経営に反映することで、事業リスクの低減と、One Hitachiでの新たな事業機会の獲得を図る。
さらに、地域戦略担当のすべてのポジションに執行役を配置するほか、すべての地域を統括する地域戦略統括を新設。執行役専務CMOの長谷川雅彦氏が就任する。これにより、グローバル6極での成長戦略の策定と実行力強化、およびリスク管理の高度化を図るという。
加えて、日立グループ内のAX(AIトランスフォーメーション)と、セキュリティの高度化に向けて、藤森聡子氏が執行役常務に昇格するとともに、Chief Digital & Security Officer(CD & SO)に就任。デジタルシステム&サービスセクターとの連携により、日立グループ全体へのAI技術の適用とサイバーセキュリティの向上、GlobalLogicのエンジニアリングリソースを活用したシナジー拡大を加速する。
こうした日立の新たな組織体制は、フィジカルAIによってLumada 3.0の成長を加速させるものになる。
同社では、経営計画「Inspire 2027」を掲げ、ITやOT、プロダクトを同時に持つ特徴と、グループ内に広く展開している「カスタマーゼロ」の実績・特長を生かしながら、フィジカルAIへの取り組みを加速し、Lumada 3.0の成長につなげる考えを示している。
また同社では、「フィジカルAIの進化が、フロントラインワーカー業務の高度化という変革を起こし始める中で、日立グループは、AI技術の進化を企業価値の向上へと直結させる取り組みを加速しなくてはならない」とし、「日立グループが持つ豊富なドメインナレッジと、AIで差別化したLumada 3.0をさらに成長させるため、フィジカルAIを活用し、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群であるHMAX by Hitachiをグローバルに展開する体制を強化している。これにより、『世界トップのフィジカルAIの使い手』を目指す」としている。
「HMAX」のグローバル展開と、過去最高を更新するLumada事業の成長
Lumada 3.0の成長のエンジン役となるのが、HMAXである。
HMAXでは、産業設備や産業機器などの物理的なアセットや、デジタルアセットから収集したデータと、システムの運用および保守を通じて長年にわたって蓄積してきたドメインナレッジを組み合わせるほか、生成AIやAgentic AI、フィジカルAI、Perception AI(認識AI)などの先進的なAI技術によって、新たな価値をもたらすソリューションを提供する。
2024年から提供を開始したモビリティ向けHMAXが第1号であり、この実績を基に、エナジーセクターやCIセクターにも、HMAXを展開しているところだ。
例えば、先行したモビリティ向けHMAXでは、コペンハーゲンメトロなど、欧州を中心に2000編成以上の鉄道に導入。最適な交通システムや自律運転の実現、IoTへの対応を推進することで、保守コストを最大15%削減し、エネルギー消費量を最大15%削減するといった成果が出ている。今後は、よりスマートで最適化された交通システムや自律運転、IoT対応型モビリティの実現を支援することになるという。
また、エナジー向けHMAXでは、送電網の運用や管理にデジタル技術を活用。イタリアのERGでは、監視ソリューションの提供により、現場検査時間を35%削減できた。安全性や信頼性、持続可能性の確保も支援しており、デジタル技術を活用したサービス群によって、問題の発生を未然に予測・防止することで、稼働時間の最大化、資産寿命の延長、さらには性能や効率の最適化を実現することが可能になるとした。
CI向けHMAXでは、ダイキン工業との協業で成果が生まれている。すでに、工場設備故障診断のAIエージェントの試験運用を開始。現場の革新とウェルビーイングの向上に貢献することができている。具体的には、AIエージェントが、10秒以内に90%以上の精度で設備故障の原因と対策を回答することが確認できている。日立では、ビルや工場などにおいて、安全性、生産性および品質向上、環境配慮といった価値を提供することで、フロントラインワーカーの現場の革新と、人々のウェルビーイング向上に貢献できるとしている。
加えて、HMAXによるカスタマーゼロの取り組みも開始している。ビルシステムの施工現場での運用を第3四半期から先行的に開始。映像をリアルタイムに分析し、それを基に、ガイドやアラートを発信するという。また、この実績を基にした産業用電源装置の点検現場や製造現場への導入も視野に入れている。また、三菱ケミカルとの協創では、化学プラントにおいて、AIエージェントによるトラブルシューティングアシストの検証を実施しているとのこと。
今後は、データセンターや金融機関など、ミッションクリティカルなシステム領域へもHMAXの展開を予定しているという。
なお、HMAXに関しては、2026年1月に米国ラスベガスで開催されたCES 2026の会場でグローバルローンチを行い、今後は世界展開を加速する。
日立は、ラスベガスコンベンションセンター北ホールに出展。さらに、CES Foundryセッション「Pioneering Industrial AI Technologies for the Physical World」でも、HMAXのビジョンを紹介した。
CES 2026での発表に合わせて、日立の阿部淳執行役副社長兼DSS統括本部長は、「HMAXは、Lumada 3.0の中核を成すソリューションである。セクターの垣根を越えた『真のOne Hitachi』として、全社の知恵と技術を結集し、これまでにないシナジーを創出する。現場のデータを、革新的なAIで『知』に変えることで、複雑な社会課題の解決を強力に牽引し、次世代の社会インフラを支える具体的な価値を提供する」と述べている。
Lumadaの成長は足元でも力強い。
日立が発表した2025年度第3四半期(2025年10月~12月)連結業績で、Lumadaの売上収益は前年同期比50.5%増の1兆1140億円となり、全社売上収益に占める割合は41%に達した。Lumadaの売上収益の内訳は、デジタルサービスが前年同期比40.1%増の5000億円、デジタライズドアセットが同60.3%増の6140億円となっている。
実は、Lumada事業では、対象事業の洗い出しを実施し2025年度から区分を見直している。具体的には、デジタルサービスに含まれるマネージドサービス事業、ソフトウェア事業と、デジタライズドアセットに含むプロダクトやAIを活用したSI事業などを追加している。そのため、成長率が高くなる状況にある。
だが、加藤CFOは、「仮に、前年度と同じ基準に補正しても、第3四半期のLumada事業の売上収益は、前年同期比で約20%成長している。日立全体の成長率を上回り、成長を牽引している」と、継続的に高い成長を遂げていることを示した。
Lumadaの好調ぶりに支えられ、日立全体の2025年度第3四半期業績は、売上収益、Adjusted EBITA、コアFCFが過去最高を達成。さらに、2025年度通期(2025年4月~2026年3月)の業績見通しを上方修正し、売上収益は10月公表値に比べて2000億円増加の前年比7.3%増の10兆5000億円、Adjusted EBITAは500億円増額の同16.3%増の1兆2600億円、当期純利益は100億円増額の同23.4%増の7600億円としている。
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DSSセクターおよびCIセクターにおける2026年4月1日からの新体制は、日立が得意とするフィジカルAIを強力に推進するための仕掛けだといっていい。それにより、HMAXによる展開をさまざまな領域へと拡大し、日立ならではの価値を提供する場を広げることになる。これがLumada 3.0で目指している勝ちパターンの姿だといえる。
Inspire 2027の2年目となる2026年度の成長戦略において、新たな体制が、フィジカルAI、HMAX、そして、Lumada 3.0を加速するブースターの役割を果たすことになりそうだ。




