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日本マイクロソフト、「働き方改革」や「データ活用」でSMBのDXを支援
2020年度中にはSMBのクラウド利用率を50%へ
2019年12月17日 06:00
日本マイクロソフト株式会社は16日、全国の中堅・中小企業(SMB)やスタートアップ企業に向けた、デジタルトランスフォーメーション(DX)支援に関する施策について発表。2020年度中には、中堅・中小企業のクラウド利用率を50%にまで高める考えを示した。
日本マイクロソフトでは、「働き方改革」「ビジネス課題を解決するデータ活用の変革」「スタートアップ企業の変革」の3点から、中堅・中小企業、スタートアップ企業のDX推進の支援を行うという。
東京商工会議所と連携し中小企業へのIT導入を推進
このうち「働き方改革」への取り組みとしては、東京商工会議所が展開する「はじめてIT活用 1万社プロジェクト」において連携することについて説明した。
同プロジェクトは、ITが未活用、ないし低関心である60~70代の中小企業の経営者をメインターゲットに、東京商工会議所が3年間で1万社に直接アプローチし、ITを「試してみる」「聞いてみる」ことを勧める取り組みだ。「商売や業務での初めてのIT活用を応援するプロジェクト」と位置づけている。
東京商工会議所 理事・事務局長の小林治彦氏は、「東京商工会議所は8万社の中小企業が加盟しているが、調査によると66.4%が深刻な人材不足を感じている一方で、ITを活用している企業の割合は5割にとどまっており、活用するつもりという企業と、今後活用するつもりの企業をあわせても増加していないのが現状。中小企業のIT活用は、いまだに発火点には達していない」と指摘した。
同プロジェクトでは、Office 365の無料試用版を3カ月間提供したり、東京商工会議所が実施する中小企業向けIT活用セミナーやIT体験ブースにおいて、講師の派遣とOffice 365の活用紹介を実施したりするほか、東京商工会議所から中小企業への直接アプローチにおいて、Office 365の活用ノウハウを提供。「日本マイクロソフトは、生産性向上とリモートワークの実現に向けたIT活用支援を行う」という。
日本マイクロソフト 業務執行役員 コーポレートクラウド営業統括本部の三上智子統括本部長は、「東京商工会議所と連携したのは、まずは、東京2020オリンピック・パラリンピックを控える東京での働き方改革が求められているため。オリンピック・パラリンピックの開催期間中に、中小企業がOffice 365の無料試用版などを活用して、オフィスに出社しなくても、資料の作成や編集などの共同作業が効率よく実行できたり、オンライン会議を実施したり、在宅勤務を含むリモートワークを積極的に実行できるような環境づくりを目指す。この成果をもとに、今後、全国の商工会議所にも展開を広げたい」とした。
そのほか日本マイクロソフトでは、働き方改革支援として、サイバー攻撃の可視化を行う「Microsoft 365 セキュリティ診断」、グループチャットツールを体験できる「Microsoft Teams体験ワークショップ」、日本マイクロソフト社員の活用方法を含めて体験できる「Office 365体験ワークショップ」を用意している。
データ活用による企業の変革を支援
「ビジネス課題を解決するデータ活用の変革」では、山口フィナンシャルグループ(YMFG)の取り組みを紹介した。ここでは、ブレインパッドが参加するとともに、日本マイクロソフトとの連携により、山口県、広島県および福岡県北九州地域の中堅・中小企業の活性化に向けて、DX推進を加速することになる。
YMFGは、傘下に山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行を擁している。2019年1月にOffice 365を導入し、社員の生産性を高めることを目的とした働き方改革を開始。2019年7月には、各行の勘定系システムおよび情報系システムの顧客データを集約した「統合データベース」をMicrosoft Azure上に構築したところだ。「複数の銀行データを統合し、パブリッククラウドを活用したデータ分析基盤の構築は、地銀で国内初の取り組みとなる」とする。
また今後は、ブレインパッドのレコメンドエンジン「Rtoaster」を活用して、統合データベースからデータを分析。ユーザーニーズにマッチした商品レコメンドなどをスマホアプリで展開する予定だ。
YMFG IT統括部の高田敏也副部長は、「グループ3行それぞれにグループウェアが存在し、会社組織を横断した情報連携が困難といったように、社内コミュニケーション基盤の弱さが課題だった。またデータを活用したくても、システム部門にデータ抽出を依頼する必要があり、準備に1~2週間必要だった。このため、新たなデータ分析基盤が必要であると考え、統合データベースを構築したが、これにより、勘定系、情報系システムの顧客データを集約し、社員自身で即時に分析できる環境を整備できた」という。
自社のデータ分析の知見やノウハウを蓄積して、このノウハウと「統合データベース」を複合した価値提供で、地域の中堅・中小企業のDXによる活性化を支援するとのことだ。
「ビジネス課題を解決するデータ活用の変革」では、もうひとつ、リンガーハットの事例を紹介した。同社では、全国800店舗を巻き込んだDXを実施し、店舗での受発注業の省力化のほか、フードロス問題に対して成果が上がっていることを示した。
リンガーハット 経営管理グループ 情報システムチーム 部長の是末英一氏は、「店長は発注業務や売り上げ目標設定などに時間が割かれており、目標値も店長の経験をもとにしたものであった。また数年前から、店舗社員、アルバイトは事務作業を一切なくし、本業に集中できるような取り組みも行ってきた。老朽化したシステムのデータウェアハウスのクラウド移行、3年分のデータをもとにマシンラーニングを利用した売り上げ予測、発注の自動計算と適正化、標準化を推進。クラウド移行によってコストを半減する成果が生まれており、予測精度は満足できるレベルに達している」と、自社での適用状況を説明。
さらに、「今後は、ほかの要因を加味したモデルの作成、主力となるちゃんぽん業態に加えて、とんかつ業態である浜勝への対応、在庫入力などの手作業の自動化などフルオートメーションへの対応を図っていく」と、今後の展開を紹介した。
なお日本マイクロソフトでは、この分野において、オンライン学習プログラム「MS Learn」、既存IT環境の診断サービス、Azure活用のWebinarの実施をはじめとしたクラウド環境の構築支援を用意していることも紹介した。
スタートアップ企業と大企業とのマッチングも本格化させたい
最後の「スタートアップ企業の変革」では、技術支援、クラウド無償提供、営業支援、マーケティング支援を行っていることを紹介。さらに、支援をしたスタートアップ企業の例として、煩雑な手書きカルテのデジタル化を支援するきりんカルテ、複雑な配送ルートをAIで最適化するオプティマインドなども紹介された。
また新たな支援策として、「The Connect」と呼ぶプログラムを開始することを発表。「この社会課題解決スタートアッププログラムを通じて、2020年までに100社のスタートアップ企業の支援を目指す。この取り組みを通じて、スタートアップ企業と大企業とのマッチングも本格化させて、日本の社会課題の解決につなげたい」(日本マイクロソフトの三上統括本部長)とした。
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なお、会見で日本マイクロソフトの三上統括本部長は、「大企業のクラウド化はかなり進んでいるが、中堅・中小企業においては他国との差が大きい。9月にこのポジションに就任して以来、約100社の278人の中堅・中小企業の経営者に会い、デジタル化にどこから手をつけていいかわからないといった現状や、セキュリティが心配であるといった声があることがわかった。中堅・中小企業の課題はデジタルで解決できる部分が大きい。これからは、すべての会社がデジタルカンパニーになる。中堅・中小企業のデジタル化の推進が日本の社会全体の成長につながることになる。中堅・中小企業のDX化の支援をしっかりと推進していきたい」と述べた。
中堅・中小企業における全社的な課題では、収益性の向上が59%、人材の採用、育成が54%、売り上げの拡大が48%となっているほか、部門やチームの課題としては、コミュニケーションの活性化が38%、ノウハウ、経験の共有が37%、目標の共有が32%などとなっている。
一方で、マイクロソフトのクラウドを利用している大手企業は92%に達しているのに対して、中堅・中小企業では46%にとどまっている。「東京、大阪、名古屋、福岡はクラウド化が進み始めているが、地方では遅れが見られており、その格差が広がり始めている。2020年度中には、中堅・中小企業のクラウド利用率を50%にまで高めたい」とした。